偽膜性大腸炎の症状と治療方法
偽膜性大腸炎の特徴的症状と病態
偽膜性大腸炎の最も特徴的な症状は、頻回の水様性下痢です。抗生物質投与後数日から2-3週間後に発症することが多く、1日に10回以上の下痢を呈する場合も少なくありません。
主要な症状として以下が挙げられます。
- 下痢症状 🚽
- 水様便から粘液便まで様々
- しばしば血液が混入
- 1日10回以上の頻回な排便
- 腹痛 😣
- 主に下腹部の痙攣性疼痛
- 排便前後で変動する特徴的な痛み
- 重症例では持続的な激痛
- 発熱 🌡️
- 38℃を超える高熱
- 炎症反応に伴う全身症状
- 重症度と相関する傾向
重症例では、低蛋白血症、電解質異常、麻痺性腸閉塞、中毒性巨大結腸症などの合併症を発症する危険性があります。特に高齢者や免疫不全患者では重篤化しやすく、注意深い経過観察が必要です。
内視鏡所見では、大腸粘膜に黄色から緑色の炎症性偽膜が点状に付着する特徴的な所見が認められます。この偽膜は炎症細胞や線維素、壊死組織から構成されており、疾患名の由来となっています。
偽膜性大腸炎の原因と危険因子
偽膜性大腸炎の主要な原因はClostridioides difficile(クロストリディオイデス・ディフィシル)感染です。この細菌は嫌気性芽胞形成菌で、毒素A(エンテロトキシン)と毒素B(サイトトキシン)を産生し、腸管粘膜に炎症と壊死を引き起こします。
発症の危険因子として以下が重要です。
- 抗菌薬使用 💊
- 特にセファロスポリン系、ペニシリン系、キノロン系
- 腸内細菌叢の破綻によるC. difficileの異常増殖
- 投与期間や種類によってリスクが変動
- 患者背景 👴
- 高齢者(65歳以上)
- 長期入院患者
- 重篤な基礎疾患を有する患者
- 医療環境要因 🏥
- 胃酸分泌抑制薬の使用
- 経管栄養の実施
- 免疫抑制状態
興味深いことに、近年の研究ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用が独立した危険因子として注目されています。胃酸分泌の抑制により、通常は胃酸で死滅するC. difficileの芽胞が腸管に到達しやすくなることが発症メカニズムとして考えられています。
また、院内感染対策の観点から、C. difficileは芽胞形成により環境中で長期間生存可能であり、接触感染による医療関連感染の重要な原因菌となっています。
偽膜性大腸炎の診断方法と検査
偽膜性大腸炎の診断には、臨床症状と検査所見を総合的に評価することが重要です。
主要な診断検査。
- 便検査 🔬
- C. difficile毒素検査(酵素免疫測定法)
- 細菌培養(専用培地が必要)
- 迅速診断キットによる毒素検出
- 血液検査 🩸
- 白血球増多(しばしば20,000/μL以上)
- CRP上昇
- 脱水に伴う電解質異常の評価
- 画像診断 📸
- 腹部単純X線:腸管拡張やガス貯留の確認
- CT検査:腸管壁肥厚や腹水の評価
- 重症度判定と合併症の除外に有用
便の迅速検査について注意すべき点は、検査精度の問題から結果が100%正確ではないことです。偽陰性の可能性もあるため、臨床症状や経過から総合的に診断することが重要です。
内視鏡検査は確定診断に有用ですが、重症例では腸管穿孔のリスクがあるため慎重に適応を決定する必要があります。典型的な偽膜所見が認められれば診断確定となりますが、軽症例では偽膜が認められない場合もあります。
最近では、分子生物学的診断(PCR法)による迅速診断も普及しており、高感度・高特異度での診断が可能となっています。
偽膜性大腸炎の標準的治療法
偽膜性大腸炎の治療は、原因抗菌薬の中止と特異的抗菌薬治療が基本となります。
第一選択薬。
- メトロニダゾール(フラジール)💊
- 軽症から中等症に適用
- 用法:250-500mg、1日3回、経口投与
- 治療期間:10-14日間
- 有効率90%以上
- バンコマイシン(塩酸バンコマイシン)💊
- 中等症から重症に適用
- 用法:125-500mg、1日4回、経口投与
- 重症例では500mg、1日4回の高用量投与
- 治療期間:10-14日間
治療選択の指針。
重症度 | 第一選択薬 | 投与量 |
---|---|---|
軽症 | メトロニダゾール | 250mg × 3回/日 |
中等症 | バンコマイシン | 125mg × 4回/日 |
重症 | バンコマイシン | 500mg × 4回/日 |
新規治療薬として注目されているのが。
- フィダキソマイシン(ダフクリア)
- 再発抑制効果が高い
- 腸内細菌叢への影響が少ない
- 再発例や高リスク患者に適用
- ベズロトクスマブ(ジーンプラバ)
- C. difficile毒素Bに対するモノクローナル抗体
- 再発予防目的で使用
- 静脈内投与による受動免疫療法
支持療法も重要な治療要素です。
- 脱水補正と電解質異常の是正
- 栄養状態の維持
- プロバイオティクスの併用(一部のガイドラインで推奨)
重要な注意点として、腸管運動抑制薬(ロペラミドなど)は毒素の排出を妨げ、中毒性巨大結腸症のリスクを高めるため禁忌です。
偽膜性大腸炎の重症例管理と予防戦略
重症偽膜性大腸炎では、内科的治療に加えて外科的介入が必要となる場合があります。
外科的治療の適応。
- 中毒性巨大結腸症
- 結腸径>6cmの拡張
- 腸管壊死や穿孔のリスク
- 大腸亜全摘術を考慮
- 腸管穿孔
- 緊急手術の適応
- 大腸亜全摘術+回腸瘻造設術
- 術後の長期管理が必要
重症度評価指標。
項目 | 重症の目安 |
---|---|
白血球数 | ≥15,000/μL |
血清クレアチニン | ≥1.5mg/dL |
体温 | ≥38.5℃ |
低アルブミン血症 | <2.5g/dL |
院内感染対策は極めて重要です。
- 接触感染予防策の徹底 🧤
- 手袋とガウンの着用
- 個室隔離の実施
- 症状消失後48時間まで継続
- 環境整備 🧽
- 芽胞に有効な消毒薬の使用
- 次亜塩素酸ナトリウムによる環境清拭
- アルコール系消毒薬は芽胞に無効
- 職員教育 👨⚕️
- 標準予防策の遵守
- 手指衛生の徹底
- 適切な抗菌薬使用の教育
抗菌薬適正使用による一次予防。
- 必要最小限の抗菌薬選択
- 治療期間の短縮
- 広域スペクトラム薬の慎重使用
- プロトンポンプ阻害薬の適正使用
再発率は20-30%と高く、初回治療後も継続的な経過観察が必要です。再発例では、フィダキソマイシンやベズロトクスマブなどの新規治療薬の使用を検討します。
興味深い新しいアプローチとして、糞便微生物移植(FMT)が再発性C. difficile感染症に対する治療選択肢として研究されており、腸内細菌叢の再構築による根本的治療法として期待されています。
厚生労働省発行の偽膜性大腸炎対応マニュアル – 診断と治療の詳細なガイドライン
PMDA(医薬品医療機器総合機構)による治療薬情報 – 最新の薬物治療選択肢