人獣共通感染症一覧と予防
人獣共通感染症一覧:日本で注意する主な疾患(ペット中心)
医療現場で遭遇しやすい「人と動物との共通感染症一覧」は、犬猫・小鳥・爬虫類など“身近な動物”を入口に整理すると問診が速くなります。
東京都の一覧にある代表例として、犬猫の咬傷・掻傷に関連するパスツレラ症、猫ひっかき病、カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症が挙げられます。
同じく一覧には、鳥の糞などから吸入で感染し得るオウム病、尿などを介するレプトスピラ症、食品・糞口感染を含むサルモネラ症などが掲載されています。
さらに行政資料では、ペット以外も含めて動物種と主な感染症の対応が整理されており、臨床では「どの動物と、どんな接触があったか」を聞く意義が明確です。
次の表は、医療従事者が外来で“まず当たりを付ける”ための簡易整理です(詳細な診断・届出要否は感染症法や自治体・学会指針に従ってください)。
| 病名(例) | 関係する主な動物 | 主な感染経路 | 外来での一言ポイント |
|---|---|---|---|
| パスツレラ症 | 犬・猫 | 咬傷・掻傷 | 受傷後早期に局所炎症が進み得るので、洗浄+感染兆候の再評価を急ぐ。 |
| 猫ひっかき病 | 猫 | 咬傷・掻傷 | 局所病変+リンパ節腫脹が手掛かりになる。 |
| カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症 | 犬・猫 | 咬傷・掻傷 | まれに敗血症・髄膜炎など重症化するため、基礎疾患と全身状態を重視。 |
| オウム病 | 小鳥 | 糞中病原体の吸入 | 咳が遷延する患者では「鳥の飼育」「糞掃除」「口移し」を必ず確認。 |
| レプトスピラ症 | 犬・ネズミ等 | 尿や汚染水・土壌への接触 | 水辺・田畑・店舗内など曝露場所が手掛かりになる。 |
| サルモネラ症 | 犬猫・小鳥・爬虫類等 | 糞口(食品含む) | 動物の世話後の手洗い不十分、乳幼児の接触歴を確認。 |
| 重症熱性血小板減少症候群(SFTS) | マダニ(+犬猫) | マダニ刺咬、体液接触の報告 | 春〜秋、地域性、血小板減少・消化器症状をセットで疑う。 |
人獣共通感染症一覧:感染経路(咬傷・糞口・吸入・ベクター)で見落としを減らす
動物由来感染症は、直接伝播(咬まれる・ひっかかれる・触れる)と、間接伝播(ベクター媒介、環境媒介、食品媒介)に大別でき、問診の骨格になります。
例えば、咬傷・掻傷はカプノサイトファーガ感染症やパスツレラ症などを想起しやすく、同じ「犬猫との接触」でもリスク評価が変わります。
吸入はオウム病や(鳩の糞が関与し得る)クリプトコックス症などが話題になりやすく、掃除方法(乾燥した糞を舞い上げない)も指導ポイントになります。
一方、糞口・食品媒介はサルモネラ症やE型肝炎など幅が広く、動物接触の有無だけでなく「加熱不十分な肉・レバー」「調理器具の交差汚染」もセットで確認します。
臨床で役立つ“聞き方テンプレ”を、患者に負担をかけない短問で用意しておくと安全です。
- 直近1か月:犬・猫に咬まれた/引っかかれた/傷をなめられた?(日時と部位も)
- 直近2週間:草むら・藪に入った/屋外作業をした/マダニを見た?
- 直近1か月:鳥(インコ・ハト等)の糞掃除をした/乾いた糞が舞う環境にいた?
- 直近1か月:爬虫類(カメ等)を飼い始めた/世話をした子どもがいる?
- 直近1か月:ジビエ、豚・シカ・イノシシ肉やレバーを加熱不十分で摂取?
人獣共通感染症一覧:医療従事者向け重症化の赤旗(SFTS・カプノサイトファーガ等)
“頻度は高くないが外すと危険”な領域として、犬猫関連ではカプノサイトファーガ・カニモルサス感染症があり、国立感染症研究所の報告でも咬傷後に敗血症やDICを伴う症例が記載されています。
行政のハンドブックでも、カプノサイトファーガ感染症は、重症化すると敗血症・髄膜炎・DIC・敗血症性ショックなどに進行し得る点が明記されています。
SFTSは主に感染マダニ刺咬で感染し、西日本で患者報告が多く、春から秋に患者発生が多いとされ、さらに発症した猫や犬の体液から人への感染が報告されている点は医療・獣医療の両現場で重要です。
SFTSについては、発症ネコの検体(血清、唾液、スワブ等)から高コピー数のウイルスRNAが検出され感染性ウイルスが分離されたという報告もあり、動物の体液曝露対策を“念のため”ではなく手順として持つ意義が示唆されます。
外来・救急での実務としては、次の赤旗がある場合、鑑別に人獣共通感染症を強めに残すと事故が減ります。
- 咬創・掻創後なのに、発熱・意識障害・紫斑・循環不全が速い(敗血症/DICを想起)。
- 発熱+消化器症状に加えて血小板減少が目立つ、季節・地域・マダニ曝露が合う(SFTSを想起)。
- “原因不明熱”が続き、動物分娩物・糞尿・鳥糞などの曝露がある(Q熱やオウム病などの吸入/環境曝露も候補)。
人獣共通感染症一覧:予防(手洗い・創処置・加熱・駆虫/防虫)の患者指導テンプレ
厚生労働省の動物由来感染症ハンドブックでは、日常生活での注意として「動物に触れたら手洗い」「糞尿は速やかに処理」「過剰な触れ合いを控える」「生肉は与えない(人も加熱)」などが具体的に示されています。
同資料では、マダニ対策として肌の露出を少なくし虫除け剤を使用すること、動物にもマダニ駆除・防虫薬を使用することが記載され、SFTS等の予防の基本になります。
また爬虫類由来のサルモネラについて、厚生労働省は「カメ等のハ虫類の糞便中のサルモネラの保菌率が50〜90%と報告されている」として注意喚起を行っています。
この“数字で伝わるリスク”は保護者の行動を変えやすく、乳幼児・免疫不全者・高齢者が同居する家庭では特に丁寧な説明が有効です。
患者向けには、長文よりも「受診の目安」と「今日からできること」をセットにすると実装されます。
- 手洗い:動物やケージ・トイレ・飼育水に触れたら石けん+流水で手洗い。
- 咬創:まず石けんと流水で十分洗浄し、腫れ・疼痛増悪、発熱があれば早めに受診。
- 食:肉・内臓は中心まで加熱、生肉給餌や口移しは避ける。
- 虫:草むらは長袖長ズボン+虫除け、ペットのノミ・マダニ予防を継続。
- 清掃:乾いた糞を舞い上げない(鳥糞清掃はマスク・手袋、湿らせて処理)。
人獣共通感染症一覧:独自視点「問診を“動物種×伝播”でコード化」してチームで共有する
検索上位の一般的な一覧は「病名の羅列」になりやすい一方、医療者の実務では“再現性のある聞き方”が成果物になります。
そこで、院内で共有しやすい独自の工夫として、問診を「動物種(犬猫/鳥/爬虫類/げっ歯類/野生/家畜)×伝播(咬傷・接触/吸入/糞口・食品/ベクター/環境)」で2軸コード化し、カルテに短く残す運用が役立ちます。
例えば「犬猫×咬傷」「鳥×吸入」「爬虫類×糞口」「ダニ×ベクター」と書けるだけで、次の担当者が一覧を見なくても鑑別の方向性を共有できます。
この2軸はハンドブックにある伝播経路の整理(直接・間接、ベクター/環境/食品)に沿うため、チーム教育・新人指導にも転用しやすいのが利点です。
運用例(カルテ・電話トリアージ・地域連携で使い回し可能)
- 電話:動物種+曝露様式+発症時期だけ先に聞く(例「猫に咬まれた、昨日、手」)。
- 外来:赤旗(敗血症兆候、血小板減少、呼吸不全など)があれば鑑別を狭めず初動を優先。
- 指導:家庭内の“高リスク同居者”(乳幼児・妊婦・免疫低下・高齢者)を確認して助言を調整。
(参考:ペットに関わる主要な人と動物との共通感染症の一覧表があり、動物・感染経路・症状を同時に確認できる)
(参考:日本での動物由来感染症の考え方、伝播経路の整理、予防のポイント、医療者の届出の枠組みまでまとまっている)
(参考:カメ等の爬虫類のサルモネラ保菌率(50〜90%)など、患者説明に使えるQ&A形式)
(参考:犬・猫咬傷後のカプノサイトファーガ敗血症の症例報告があり、重症化の具体像(DIC等)を掴める)