二重盲検試験とキーオープンの実施手順

二重盲検試験とキーオープン

📋 二重盲検試験におけるキーオープンのポイント
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盲検化の維持

データ固定まで被験者・医師双方がどの薬か知らない状態を保ち、バイアスを排除します

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キーオープンの実施

全データ精査後、キーコード表を公開して薬剤群を特定し統計解析を開始します

緊急時の対応

医療上の緊急事態では、特定症例のみ盲検解除を行い適切な治療を優先します


二重盲検試験は、新薬の有効性と安全性を科学的に検証するために最も信頼性の高い試験方法として、医薬品開発において広く採用されています。この試験では、被験者だけでなく医師や研究者も、どの患者がどの薬剤を投与されているかを知らない状態で実施されるため、心理的な偏り(バイアス)を最小限に抑えることができます。キーオープンとは、試験終了後にこの盲検化を解除し、各被験者に割り当てられた薬剤を明らかにするプロセスを指します。

参考)盲検化って、なあに?(その2)


二重盲検試験においてキーオープンは、データの信頼性を担保する上で極めて重要な工程です。適切なタイミングでキーオープンを実施することで、バイアスのない正確なデータ解析が可能となり、医薬品の真の効果を評価できます。

参考)https://www.cro-japan.com/clinical_trial/phase_2A.htm

二重盲検試験におけるキーオープンの定義と目的

キーオープン(キーブレイク)とは、二重盲検試験において盲検化されていた治療割付情報を公開することを指します。具体的には、各被験者に割り当てられた薬剤が実薬なのかプラセボなのか、あるいはどの用量群なのかを示すキーコード表の封印を解くことです。

参考)盲検化って、なあに?(その1)


この手順の主な目的は、データの固定化後に治療群を特定し、群ごとの統計解析を可能にすることにあります。キーオープン前の段階では、担当医も製薬会社もデータがどの薬剤群に属するのか分からないため、意図的または無意識的なデータ修正によるバイアスを防ぐことができます。

参考)二重盲検法(ダブルブラインド)とは? ヒト臨床試験の基本! …


盲検化の維持により、プラセボ効果や観察者バイアスといった心理的影響を排除し、薬剤の真の効果を客観的に測定できるようになります。二重盲検試験では、被験者が「本物の薬を飲んでいる」と思い込むことによる暗示効果や、医師が特定の群に対してより詳しく観察してしまうといった偏りを防ぐことが可能です。

参考)特有の仕組み(盲検、プラセボ、ランダム化) アーカイブ – …


キーオープンを実施することで初めて、患者は自身が服用した薬剤を知り、医師は処方した薬剤の内容を把握し、製薬会社は全被験者のデータを薬剤群ごとに集計・解析できるようになります。

参考)https://acress-host2.tmd.ac.jp/contents/documents/14_ACReSS_%E6%95%99%E8%82%B2%E8%B3%87%E6%96%99_%E5%89%B2%E4%BB%98%E6%8B%85%E5%BD%93%E8%80%85%E7%B7%A8.pdf

二重盲検試験のデータ固定とキーオープンの実施手順

二重盲検試験におけるキーオープンの実施には、厳密な手順が定められています。まず試験期間中に収集されたデータについて、書き間違いや誤解による誤記載がないか全体的に精査します。この段階では、日付の間違いや勘違いなどの誤記載を修正することができますが、どの薬剤群のデータか分からないため、修正作業自体にバイアスがかかりません。​
データの精査が完了し、もう修正しないことが確定された時点で「データ固定」が行われます。データ固定後にキーコードを知ってからデータを修正すると、バイアスがかかったデータとみなされ、二重盲検比較試験としての信頼性が失われてしまいます。

参考)https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/clinical_research_support/sp_care_reserch/policy/Policy_Placebo_ver1.1.pdf


データ固定後、いよいよキーオープンのステップに移ります。多くの場合、キーオープンは割付担当者と責任医師のダブル認証によって実行されます。電子システムを使用する場合は、両者のID・パスワード入力により二重確認を行い、全症例の割付結果を表示・印刷します。

参考)https://docs.oracle.com/ja/industries/life-sciences/clinical-one/site-information/unblind-subjects-treatment-arm-code-break.html


株式会社ファンペップの解説記事では、キーオープンの具体的な流れとデータ固定の重要性について詳しく説明されています。
キーオープン実施後、データは薬剤群ごとに分類され、統計的な解析が開始されます。この時点で初めて、実薬群とプラセボ群の有効性や安全性を比較し、新薬の効果を科学的に評価することが可能となります。​

二重盲検試験における緊急キーオープンの手順と条件

二重盲検試験では原則として試験終了まで盲検性を維持しますが、被験者に医療上の緊急事態が発生した場合には、例外的に盲検解除(緊急キーオープン)が必要となります。これは、適切な医療処置を速やかに行うためには、投与されている薬剤の種類を特定する必要があるためです。

参考)治験における盲検化の必要性について解説


緊急キーオープンの手順としては、まず施設研究責任者が有害事象の発生を確認し、処置のためにキーオープンが必要と判断した場合、研究代表者に「緊急時の割り付け群開示依頼書」を用いて依頼します。研究代表者が開鍵の必要性を承認すると、割付担当者または非盲検薬剤師が該当症例のキーオープンを実施します。

参考)Viedoc User Guide for Site Use…


GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)第16条第3項では、医療上の緊急時に治験薬を直ちに識別でき、かつ盲検性が破られたことを検知できるようにしておくことが求められています。ただし、緊急キーオープンの実施手順の詳細は規定されておらず、治験責任医師が速やかに医療措置を講じられる体制であれば問題ないとされています。

参考)2013-62 エマージェンシーキーコードの保持者


日本製薬工業協会の見解では、エマージェンシーキーコードの管理者や開鍵判断の手順について解説されています。
重要な点として、緊急キーオープンは特定の症例のみに対して実施され、試験全体の盲検性には影響を与えません。封筒に入れられた個別のキーコードを開封することで、一例だけの盲検化を解除できる仕組みになっています。治験実施計画書によっては、盲検解除後に該当症例が試験から中止される場合もあります。

参考)http://research.hosp.u-fukui.ac.jp/wp-content/uploads/2016/02/nws_17-11.pdf

二重盲検試験のキーオープンとプラセボ対照試験

プラセボ対照二重盲検試験は、現在最も科学的に薬効を証明する方法として認められており、医薬品規制当局も少なくとも1回はこの試験を実施するよう強く推奨しています。この試験デザインでは、実薬(薬効があると期待される薬剤)とプラセボ(外観は同じだが薬理作用のない偽薬)を用意し、無作為化によって被験者を各群に割り当てます。

参考)プラセボにあたった患者さまは治療されていないということなの?…


無作為化(ランダム化)とは、被験者がどちらの群に割り当てられるかを完全に偶然に委ねる手法で、これにより実薬群とプラセボ群が同質な集団となり、正確な比較が可能になります。統計の専門家がコンピューターを用いて割付を行い、その記録を厳重に保持します。

参考)二重盲検試験(にじゅうもうけんしけん)|薬剤師の求人・パート…


プラセボを用いる理由は、プラセボ効果と呼ばれる心理的影響を測定するためです。効果のない物質でも、本物の薬だと思って服用すると3割から6割の人が効果を感じるとされています。二重盲検試験では、実薬群の効果からプラセボ群の効果を差し引くことで、薬剤の真の薬理作用を評価します。​
現在では、倫理的な理由からプラセボの代わりに既存の標準治療薬を対照群として用いる比較試験も増えています。この場合、新薬が標準薬よりも優れているか、あるいは同等の効果があるかを検証することになります。

参考)プラセボ対照試験とは|GCPレター第68号|シミックヘルスケ…


キーオープン実施後、統計処理によって実薬群とプラセボ群(または標準薬群)の成績を比較し、有意差が認められれば薬理作用が証明されたことになります。

参考)プラセボ対照二重遮蔽二群並行試験

二重盲検試験におけるキーオープンの実務的注意点

二重盲検試験の実施において、盲検性の維持は極めて重要であり、キーオープンまで厳格に管理されなければなりません。試験期間が終了しても、キーオープンが実施されるまでは盲検性を保つ必要があります。中止または終了した患者に対しても、試験に単盲検期間があったことなどを知らせるのは、キーオープン後でなければ盲検性が確保できません。​
盲検化されたデータは、常に一般的な試験データとは別に保存する必要があります。適切なデータ管理により、誤って盲検を解除してしまうことや、規制当局による指摘、データの汚染を防ぐことができます。電子システムを使用する場合は、ロールの可視性を慎重に設定し、緊急盲検解除の権限を持つロール以外には割付結果が表示されないようにします。

参考)Viedoc Designer User Guide


意外な事実として、緊急盲検解除の権限を持つロールが盲検化された結果を非表示にする設定を持つ場合、盲検解除後にすべてのロールに対して結果が非表示になってしまうシステム上の問題が報告されています。このような技術的な課題にも注意を払い、システム設定を適切に行うことが重要です。​
国立がん研究センターの緩和治療領域研究ポリシーでは、研究者主導二重盲検試験における割付群開示手順の詳細な事例が紹介されています。
キーオープンの実施者については、通常は治験薬割付責任者、治験責任医師、または専門の業者に依頼することが一般的です。医学専門家がエマージェンシーキーコードを管理し、治験依頼者と協議の上で開鍵を判断する手順も、GCPの規定に抵触しないとされています。ただし、割付内容の機密性を確保するための必要な措置が講じられていることが前提となります。​
二重盲検試験は第Ⅲ相試験で主に実施されますが、第Ⅱ相試験でも用法・用量を検討する目的で行われることがあります。試験デザインによっては、一定期間試験を実施した後に処置群と対照群を入れ替える「クロスオーバー比較試験」を組み合わせる場合もあり、その際もキーオープンのタイミングと手順を事前に明確に定めておく必要があります。​