ネクローシスとアポトーシスの違いと分子機構

ネクローシスとアポトーシスの分子機構

ネクローシスとアポトーシスの基本概念
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ネクローシス(壊死)

外的刺激による受動的かつ非制御的な細胞死

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アポトーシス

遺伝子プログラムによる能動的で制御された細胞死

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形態学的特徴

細胞膜破裂と膨張 vs クロマチン凝縮と核断片化

ネクローシスの特徴的な分子変化と形態

ネクローシスは有害な外的刺激により誘発される受動的な細胞死であり、細胞が物理的・化学的に損傷したときに引き起こされる偶発的で分子機序のない細胞死として知られています 。細胞膜の選択的透過性が破綻することにより細胞が丸く膨潤し、細胞膜は薄くなります 。このとき核やミトコンドリアなどの細胞小器官も膨潤し、最終的には細胞膜が破裂して細胞の内容物が飛散する特徴を示します 。

参考)アポトーシス(apoptosis)とは?ネクローシスとの違い…

このような形態変化は、感染や損傷等の非生理的状態による細胞死の典型的な特徴であり、制御されていない細胞死として定義されています 。ネクローシスが発生すると細胞内容物の漏出により周囲組織に炎症反応を引き起こし、生体にとって有害な結果をもたらすことが多いとされています 。

参考)https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/apoptosis-and-necrosis-antibodies-pgi.asp?entry_id=36754

アポトーシスのカスパーゼ活性化機構

アポトーシスは遺伝子的にプログラムされた能動的な細胞死であり、カスパーゼと呼ばれるシステインプロテアーゼファミリーによって仲介されます 。カスパーゼカスケードには、ミトコンドリアからの刺激で活性化される内因性経路と、細胞膜表面の受容体からの刺激で活性化される外因性経路が存在します 。

参考)細胞死のメカニズム:アポトーシス

内因性経路では、ミトコンドリアから放出されたシトクロムcがApaf-1と結合してアポプトソームを形成し、イニシエーターカスパーゼであるカスパーゼ-9が活性化されます 。活性化されたカスパーゼ-9は、エフェクターカスパーゼ(カスパーゼ-3、-6、-7)を切断して活性化し、カスケード的な増幅反応を引き起こします 。

参考)カスパーゼ – Wikipedia

外因性経路では、FasリガンドやTNF(tumor necrosis factor)などの死受容体シグナルによりイニシエーターカスパーゼ(カスパーゼ-8、-10)が活性化され、同様にエフェクターカスパーゼを活性化します 。最終的に、エフェクターカスパーゼがアクチンや核マトリックス蛋白を分解するとともに、ICAD(inhibitor of CAD)を分解することによりCAD(caspase activated DNase)を活性化させ、DNAの断片化を生じさせます 。

参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) アポトーシス

アポトーシスにおける形態学的変化とDNA断片化

アポトーシスでは細胞の縮小、核クロマチンの凝縮、細胞の断片化(アポトーシス小体の形成)といった特徴的な形態的変化が認められます 。細胞は四方八方に膨張して突起物を形成する現象(ブレッビング)を示し、細胞質では細胞骨格の破壊が起こります 。
核では特徴的なDNAのヌクレソーム単位での断片化がみられ、この変化は電気泳動上のDNA ladder、あるいは組織切片上でのDNA断片化を検出するTUNEL法(terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP in situ nick end labeling法)などによって検出されます 。このDNA断片化は、アポトーシスの重要な生化学的マーカーとして臨床診断にも利用されています。
やがて細胞も断片化され、複数のアポトーシス小体が形成されます 。最終的に、アポトーシス小体がマクロファージに貪食されることで、細胞は消失し、この過程では炎症反応は起こりません 。

プログラム細胞死の生理的役割と制御機構

プログラム細胞死、特にアポトーシスは生体において形態形成や生体防御など、生命維持に必須の役割を果たしています 。発生過程においては、形態形成における計画的な細胞除去、組織や器官の形成における分化した細胞の調節、不要な組織の除去などの重要な機能を担います 。

参考)プログラム細胞死:その分子機序と発生における生理的な役割 :…

神経系発生過程では大量のアポトーシスが生じ、例えば神経細胞の生存には神経栄養因子の存在が不可欠であることが明らかになっています 。また、c-myc、bcl-2、p53などの癌関連遺伝子がアポトーシスの制御において重要な役割を果たしており、これらの遺伝子産物によりアポトーシス実行蛋白の出現・活性化、アポトーシス抑制蛋白の消失などが起こります 。
したがって、アポトーシスの異常は癌、AIDS、自己免疫疾患など多くの疾患と関連し、循環器疾患においても従来ネクローシスが関与すると考えられてきた心筋梗塞心筋症心筋炎の病態においてアポトーシスが関与することが報告されています 。

新しい細胞死様式:ネクロプトーシスと制御されたネクローシス

近年の研究により、ネクローシスのような細胞破裂型の細胞死でありながら、特定の分子によって制御されている細胞死があることが判明してきました 。このようなネクローシス様のプログラム細胞死には、RIPK3(receptor interacting protein kinase 3)やMLKL(mixed lineage kinase domain-like)に依存するネクロプトーシス(necroptosis)があります 。
ネクロプトーシスは、アポトーシスの実行が阻害された状況で代替的に活性化される制御された細胞死の形態であり、形態学的にはネクローシスに類似しながらも、特定のシグナル伝達経路によって制御されています 。また、細胞死の際に炎症性サイトカインIL-1βを放出するパイロプトーシス(pyroptosis)なども新たに発見され、ホットな研究分野となっています 。

参考)DOJIN NEWS / Review

これらの発見により、従来の「プログラム細胞死とはアポトーシスのことであり、アポトーシス以外は非プログラム細胞死のネクローシス」という概念が見直されており、細胞死の分類と理解がより複雑で精密なものであることが分かってきました 。この新しい知見は、疾患の病態理解や治療戦略の開発において重要な意味を持っています。