ナウゼリンとプリンペランの違いは?作用機序や副作用、錐体外路症状を比較

ナウゼリンとプリンペランの違い

ナウゼリンとプリンペランの違い早わかり
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脳への影響

ナウゼリンは脳に移行しにくいが、プリンペランは移行しやすいため、副作用の種類と頻度が異なります。

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副作用のリスク

プリンペランは、手の震えや体のこわばりなどの「錐体外路症状」がナウゼリンよりも起こりやすいとされています。

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妊婦への使用

ナウゼリンは妊婦には使用できませんが、プリンペランは医師の判断で使われることがあります。

ナウゼリンの作用機序と血液脳関門の通過性

 

ナウゼリン(一般名:ドンペリドン)とプリンペラン(一般名:メトクロプラミド)は、どちらも悪心・嘔吐といった消化器症状に対して用いられる代表的な薬剤です 。これら二つの薬剤の最も重要な違いを理解する鍵は、「血液脳関門(Blood-Brain Barrier, BBB)」への透過性にあります 。
両剤ともに、消化管の運動を促進し、脳の延髄にある化学受容器引金帯(Chemoreceptor Trigger Zone, CTZ)に存在するドパミンD2受容体を遮断することで制吐作用を発揮します 。ドパミンは胃腸の運動を抑制する働きがあるため、これをブロックすることでアセチルコリンの遊離が促され、胃の蠕動運動が活発になり、内容物の排出が促進されるのです 。

参考)お子さんの吐き気や便秘で困っていませんか?お医者さんが教える…


ここでの決定的な違いは、ナウゼリンが血液脳関門を通過しにくい性質を持つのに対し、プリンペランは容易に通過してしまう点にあります 。血液脳関門は、血液中の物質が脳の組織へ無秩序に移行するのを防ぐためのバリア機構です 。ナウゼリンはこのバリアを通り抜けにくいため、その作用は主に末梢(消化管やCTZなど、BBBの外側にある部位)に限定されます 。一方で、プリンペランは中枢神経系、つまり脳内にも到達し、線条体などのドパミン受容体にも作用を及ぼします 。このBBB透過性の違いが、次に述べる副作用のプロファイル、特に錐体外路症状の発現頻度に大きく関わってきます。

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ナウゼリンとプリンペランの副作用、特に錐体外路症状の比較

ナウゼリンとプリンペランの使い分けを考える上で、副作用プロファイルの違い、とりわけ錐体外路症状(Extrapyramidal Symptoms, EPS)のリスクは極めて重要な比較項目です 。
錐体外路症状とは、ドパミンが関与する運動調節システム(錐体外路)が薬剤によって影響を受けることで生じる、不随意運動を中心とした一連の神経症状のことです。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 急性ジストニア: 頸部や顔面の筋肉が異常に収縮し、首が曲がったり、眼球が上転したりする(眼球回転発作)。
  • アカシジア: 静かに座っていられない、そわそわして絶えず動き回るといった静座不能の状態 。
  • パーキンソニズム: 手の震え(振戦)、筋肉のこわばり(筋固縮)、動作が遅くなる(無動)といったパーキンソン病に似た症状 。
  • 遅発性ジスキネジア: 長期投与後に現れることが多く、口をもぐもぐさせたり、舌を突き出したりするような不随意運動。中止後も持続することがある 。

前述の通り、プリンペランは血液脳関門を通過しやすいため、脳内のドパミン受容体を遮断し、これらの錐体外路症状を引き起こすリスクがナウゼリンに比べて有意に高くなります 。特に小児や若年者、あるいは長期間服用している高齢者(特に女性)では、そのリスクに十分な注意が必要です 。実際、メトクロプラミドによる錐体外路症状は副作用モニターでも報告されています。
一方、ナウゼリンは血液脳関門をほとんど通過しないため、中枢性の副作用である錐体外路症状のリスクは低いとされています 。これが、ナウゼリンが比較的安全に使用できるとされる大きな理由の一つです。ただし、リスクがゼロというわけではなく、添付文書にも稀に錐体外路症状が現れる可能性が記載されており、万が一発現した場合は直ちに投与を中止する必要があります 。

参考)ナウゼリン


この他の副作用として、両剤ともにプロラクチン値の上昇を引き起こす可能性があります 。これは下垂体にあるドパミン受容体を遮断することで、プロラクチンの分泌が促進されるために起こります。結果として、女性では月経異常や乳汁分泌、男性では女性化乳房といった症状が現れることがあります。

副作用に関する参考情報として、以下のリンクが有用です。
メトクロプラミド(プリンペラン)による錐体外路症状について詳細に解説されています。
メトクロプラミドによる 錐体外路症状の治療・予防について

ナウゼリンとプリンペランの臨床での使い分けと妊婦・小児への投与

ナウゼリンとプリンペランの制吐作用自体に大きな差はないため、臨床現場では患者さんの背景(年齢、基礎疾患、妊娠の有無など)や、回避したい副作用に応じて使い分けられています 。
以下の表に、主な使い分けのポイントをまとめました。

患者背景・状況 ナウゼリン(ドンペリドン) プリンペラン(メトクロプラミド) 理由・解説
錐体外路症状のリスクを避けたい場合 ◎ 推奨 △ 慎重投与 ナウゼリンはBBBを通過しにくく、錐体外路症状のリスクが低い

参考)『ナウゼリン』と『プリンペラン』、同じ吐き気止めの違いは?~…

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妊婦 × 禁忌 ○ 有益性投与 ナウゼリンは動物実験で催奇形性が報告されており妊婦には禁忌です youtube​。プリンペランは有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ使用されます ​。
授乳婦 △ 慎重投与 ○ 有益性投与 どちらも母乳中へ移行しますが、プリンペランの方が比較的安全とされています ​。
小児 ○ 推奨(特に1歳以上) △ 慎重投与 プリンペランは小児で錐体外路症状のリスクが高いため、ナウゼリンが選択されることが多いです。ただし、ナウゼリンも乳幼児ではBBBが未熟なため注意が必要です

参考)全日本民医連

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高齢者 ○ 推奨 △ 慎重投与 高齢者は錐体外路症状のリスクが高いため、ナウゼリンがより安全とされます。また、腎機能が低下していることが多いため、用量調節に注意が必要です

参考)消化管運動機能改善薬(ナウゼリン、プリンペランなど) – 日…

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パーキンソン病患者 △ 条件付きで使用可 × 禁忌 ナウゼリンはBBBを通過しにくいため、L-ドパ製剤の副作用対策として例外的に使用されることがあります(後述)。プリンペランは症状を悪化させるため禁忌です

参考)ドパミン不足が原因であるパーキンソン病に、ドパミン遮断薬『ナ…

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このように、錐体外路症状のリスクを特に考慮すべき小児や高齢者、パーキンソン病患者さんに対しては、ナウゼリンが第一選択となることが多いです。一方で、プリンペランは抗がん剤治療による強い吐き気や、妊婦の悪心・嘔吐など、ナウゼリンでは対応できない、あるいは禁忌となる症例で重要な選択肢となります 。

参考)ナウゼリン®︎(ドンペリドン)の特徴|効果・効果発現時間・副…

意外と知らない?ナウゼリンとパーキンソン病治療薬との関係

ナウゼリンとプリンペランの使い分けにおいて、非常に興味深く、専門家でも意外と知らないことがあるのがパーキンソン病患者さんへの投与です。パーキンソン病は、脳内の線条体におけるドパミン不足が原因で発症するため、ドパミン受容体を遮断する両剤は、理論上、病状を悪化させる可能性があるため原則として禁忌とされています。
しかし、この原則には重要な例外が存在します。それが、ナウゼリンの例外的な使用です 。

パーキンソン病の基本的な治療薬であるレボドパ(L-ドパ)製剤は、脳内で不足しているドパミンを補充する薬ですが、服用初期に末梢(消化管)でドパミンに変換されることで、副作用として強い悪心・嘔吐や食欲不振を引き起こすことが少なくありません 。この消化器症状を抑えるために、制吐薬の併用が検討されます。

ここでプリンペランを使用すると、血液脳関門を通過して脳内のドパミン受容体をブロックしてしまい、パーキンソン病の症状そのものを悪化させてしまいます。そのため、プリンペランはパーキンソン病患者さんには絶対禁忌です。
一方で、ナウゼリンは血液脳関門を通過しにくいため、脳内のドパミン神経系にほとんど影響を与えることなく、末梢である消化管のドパミン受容体のみを選択的に遮断できます 。これにより、パーキンソン病の症状を悪化させるリスクを最小限に抑えながら、L-ドパによる消化器症状を効果的に軽減することができるのです。さらに、ナウゼリンは胃の運動を促進するため、L-ドパの胃からの排出を促し、小腸での吸収を安定させる効果も期待できます(delayed on現象の改善) 。

参考)パーキンソン病の薬、飲み方で効果が変わる?知らないと損!


このユニークな特性から、ナウゼリンはパーキンソン病治療における「縁の下の力持ち」として、消化器症状のコントロールに広く用いられています。ただし、1日30mgを超える高用量のナウゼリンは、心室性不整脈突然死のリスクを高める可能性が指摘されているため、漫然とした長期・高用量投与は避けるべきとされています 。

パーキンソン病治療におけるナウゼリンの役割について、以下の文献が参考になります。
ドパミン不足が原因であるパーキンソン病に『ナウゼリン』が使われるのはナゼ?

ナウゼリンと他剤との薬物相互作用における注意点

薬剤を安全かつ効果的に使用するためには、薬物相互作用への理解が不可欠です 。ナウゼリンとプリンペランは、併用する薬剤によってその効果が増強されたり、減弱されたり、あるいは予期せぬ副作用のリスクが高まることがあります。
【ナウゼリン(ドンペリドン)で特に注意すべき相互作用】
ナウゼリンの代謝には、主にチトクロームP450(CYP)の分子種であるCYP3A4が関与しています 。そのため、CYP3A4の働きを強く阻害する薬剤と併用すると、ナウゼリンの血中濃度が大幅に上昇し、致死的な心室性不整脈(QT延長など)のリスクが増大するため、これらの薬剤との併用は禁忌とされています。

参考)医学界新聞プラス [第3回]制吐薬 メトクロプラミド

また、抗コリン作用を持つ薬剤(例:ブチルスコポラミン臭化物)と併用すると、ナウゼリンの消化管運動促進作用が弱まる可能性があります 。

参考)医療用医薬品 : ナウゼリン (相互作用情報)


【プリンペラン(メトクロプラミド)で特に注意すべき相互作用】
プリンペランは、他の中枢神経系に作用する薬剤との併用で、副作用のリスクが増強されることに注意が必要です。

このように、両剤ともに注意すべき薬物相互作用は多岐にわたります。特にナウゼリンとCYP3A4阻害薬の併用禁忌は、臨床上非常に重要なポイントです。薬剤を処方・調剤する際には、必ず患者さんのお薬手帳や併用薬リストを確認し、相互作用のリスクを評価することが求められます。
医薬品の相互作用に関する一般的な情報源として、以下のKEGGデータベースが有用です。
医療用医薬品 : ナウゼリン (相互作用情報)

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