梨状筋トリガーポイントと症状
梨状筋トリガーポイントの位置と関連痛領域
梨状筋は仙骨と大腿骨大転子を結ぶ深層筋で、トリガーポイントは筋腹からやや外側と正中側に形成されやすい特徴があります。このトリガーポイントは単なる局所の圧痛だけでなく、遠隔部位に痛みを送る関連痛という特有の現象を引き起こします。梨状筋のトリガーポイントには主に2つの好発部位があり、外側1/3部分に形成される①のトリガーポイントは臀部外側から大腿後面に関連痛を放散し、起始部付近の②のトリガーポイントは仙骨周辺・臀部全体・大腿後面の広範囲に痛みを波及させます。
参考)梨状筋のトリガーポイント|トリガーポイント・ネット|トリガー…
関連痛の強さや分布範囲はトリガーポイントの活性化の程度に依存し、重症化すると一次関連痛領域から二次関連痛領域へと痛みが拡大していきます。梨状筋が慢性的に収縮・拘縮した状態になると、周辺の血管や坐骨神経を圧迫し、梨状筋症候群の原因となることが臨床的に確認されています。トリガーポイントからの放散痛パターンは神経学的パターンや内臓からの関連痛とは異なる独自のパターンを示すため、正確な診断には専門的な知識が必要です。
参考)トリガーポイントについて – やまだカイロプラクティック・鍼…
梨状筋症候群と坐骨神経痛の鑑別診断
梨状筋症候群と坐骨神経痛は臀部から下肢にかけての痛みという共通症状を持ちますが、原因と病態が異なるため適切な鑑別が治療成績を左右します。坐骨神経痛は腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの腰椎疾患により坐骨神経が圧迫されて発生し、腰部から足先まで痛みやしびれが放散する特徴があります。一方、梨状筋症候群は骨盤後方の梨状筋が坐骨神経を圧迫することで臀部痛と下肢痛を引き起こし、背部痛を伴わない点が鑑別のポイントとなります。
参考)坐骨神経痛と梨状筋症候群|症状別コラム|広報・動画コンテンツ…
診断には触診による梨状筋部の硬結確認とペイステスト・フライバーグテストなどの誘発試験が有用で、圧迫により痛みが放散する反応が陽性所見となります。画像検査では梨状筋の萎縮や肥大がCT・超音波検査で確認されることがあり、梨状筋症候群を示唆する所見として評価されています。しかし梨状筋症候群の診断は困難な場合が多く、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症との鑑別には解剖学的知識に基づいた慎重な評価が求められます。
坐骨神経ブロックは診断と治療の両面で有用な手段で、神経学的評価と組み合わせることで梨状筋症候群の確定診断に役立つという報告があります。専門医への紹介が推奨されるケースも多く、特に椎間板疾患との鑑別が困難な症例では慎重な対応が必要です。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679435180416
梨状筋トリガーポイントの触診方法と評価
梨状筋は深層筋であるため触診には解剖学的ランドマークを用いた系統的アプローチが必要です。触診手順として、まず大腿骨大転子・尾骨・上後腸骨棘(PSIS)を確認し、これらの骨指標を結んで三角形を作ります。次に尾骨とPSISを結ぶラインから大転子に向かって二等分し、その上方に位置する三角形の領域が梨状筋の存在部位となります。深部の筋肉であるため、大殿筋を弛緩させた状態で深く押圧して触診することが重要です。
参考)梨状筋の起始・停止を理解して触診・作用をマスターしよう。
トリガーポイントの診断では触診により緊張帯内の硬結を確認し、圧迫すると関連痛が遠位部へ放散する反応を評価します。超音波画像検査は客観的な評価手段として注目されており、活動性トリガーポイントと正常筋組織を組織硬度や血流パターンで鑑別できる可能性が示されています。超音波検査では小血管の逆行性血流など高抵抗血管床の存在も確認でき、トリガーポイントの特性評価に有用です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2774893/
触診の信頼性については検者間で一定のばらつきがあることが報告されており、診断基準の標準化が今後の課題となっています。罹患筋の過度の伸張や強い収縮により関連痛が増強することも診断の補助所見として活用されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9872335/
梨状筋トリガーポイントの原因と発生機序
梨状筋は急性・慢性の両方のストレスを受けやすい筋肉で、トリガーポイント形成には複数の要因が関与しています。急性的な原因として、重量物の急激な持ち上げ・下ろし動作や転倒時のとっさの姿勢立て直し、交通事故などによる急激な衝撃が挙げられます。外傷では身体表面が無事でも深部にダメージが入るケースがあり、むち打ち症と同様の機序で梨状筋にも損傷が生じることがあります。
慢性的な原因としては日常生活様式が重要で、長時間の座位姿勢や便座・車の座席・自転車のサドルに座る際に梨状筋が坐骨神経に向かって押されることで症状が悪化します。ランニング中に股関節回旋筋を通る坐骨神経が梨状筋に圧迫される位置関係も発症要因となります。
参考)梨状筋症候群 – 22. 外傷と中毒 – MSDマニュアル …
トリガーポイント形成の病態生理については、筋保護フィードバック機構の破綻により細胞内カルシウムの異常蓄積と持続的なアクチン–ミオシン架橋が生じ、侵害受容系の活性化を経てトリガーポイントが形成されるという新しい仮説が提唱されています。運動神経終板の自発的電気活動もトリガーポイントの特徴的所見で、局所的筋線維収縮や筋痙攣電位を引き起こす原因となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3070691/
梨状筋トリガーポイントの治療と予防戦略
トリガーポイント治療の基本は原因となる筋の同定と適切なアプローチで、関連痛領域のみを治療しても根本的解決にはなりません。保存的治療として消炎鎮痛薬の内服やトリガーポイント注射が選択されますが、効果が不十分な症例も報告されています。トリガーポイント注射は1946年にTravellらにより下肢痛を伴わない梨状筋部付近の痛みに有効であると報告されて以来、臨床的に活用されています。
深部の筋肉にあるトリガーポイントには手技治療では届かないため、ハイボルト治療や鍼治療により直接アプローチする方法が有効です。鍼治療では刺鍼による筋緊張解除を目的とし、特に小臀筋・梨状筋などの深層筋へのアプローチには高度な技術が必要とされます。
セルフケアとしてはテニスボールを用いたトリガーポイント療法が推奨され、マッサージ・指圧の原則を取り入れて筋緊張や筋肉痛を和らげる効果が期待できます。臀部の下にボールを当てて体重をかけ、ゆっくり転がすことで深部の筋肉をほぐすことができます。ストレッチは股関節の屈曲・内転・内旋位で梨状筋を伸張する方法が効果的で、梨状筋と周囲筋の柔軟性を保ち坐骨神経への圧迫を防ぐ予防効果があります。
参考)梨状筋症候群を自分で治す – 札幌市円山公園駅 徒歩1分 腰…
予防には日常生活での姿勢管理と定期的なストレッチが重要で、長時間座位を避け適度に体位変換することが推奨されます。梨状筋症候群は自己判断で間違ったケアをすると症状が悪化・慢性化する可能性があるため、専門医の診察を受けることが重要です。
トリガーポイント研究会による梨状筋トリガーポイントの詳細解説と関連痛パターンの図解
筋膜トリガーポイントの自発的電気活動と疼痛誘発機序に関する科学的レビュー論文(英語)
済生会による梨状筋症候群の症状・診断・治療に関する一般向け医療情報