難治性ホジキンリンパ腫の症状と治療方法における最新アプローチ

難治性ホジキンリンパ腫の症状と治療方法

難治性ホジキンリンパ腫の基本情報
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発症頻度

日本では年間約2,000人が罹患する稀ながん。悪性リンパ腫全体の5~10%程度を占める

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好発年齢

20歳代と50~60歳代に二峰性のピークがある

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治療の課題

初回治療で約80%が奏効するが、20%程度は難治性または再発し、新たな治療アプローチが必要

難治性ホジキンリンパ腫の特徴と症状の現れ方

ホジキンリンパ腫は、リンパ細網系から生じた細胞の悪性腫瘍であり、主にリンパ節組織、脾臓、肝臓、および骨髄に浸潤します。日本における年間発症数は約2,000人と推定され、悪性リンパ腫全体の中では比較的稀な疾患です。

最も特徴的な症状は、無痛性のリンパ節腫脹です。特に頸部や鎖骨上のリンパ節に腫れが現れることが多く、これが初発症状となるケースが大半を占めています。また、全身症状として以下のB症状と呼ばれる特徴的な症状が現れることがあります。

  • 原因不明の38℃以上の発熱(ペル・エプスタイン型発熱)
  • 6か月間で体重の10%以上の減少
  • 夜間の大量の寝汗

これらのB症状の有無は、病期診断や予後予測において重要な因子となります。また、進行すると以下のような症状も現れることがあります。

  • 全身の強いかゆみ(そう痒感)
  • 脾腫や肝腫大
  • 疲労感や倦怠感
  • 胸水や腹水の貯留

難治性ホジキンリンパ腫とは、初回治療に対して十分な効果が得られない(難治性)、または一度効果が得られても再び悪化した(再発性)症例を指します。難治性・再発性の場合、上記の症状が再び現れたり、より重篤化したりすることがあります。

特に注意すべき点として、腫瘍量が多い場合や急速に増大する場合には、治療開始後に腫瘍崩壊症候群を発症するリスクがあります。これは腫瘍細胞が急速に破壊されることで、高カリウム血症、高リン血症、高尿酸血症低カルシウム血症などの電解質異常を引き起こす緊急事態です。

難治性ホジキンリンパ腫の診断と病期分類の重要性

難治性ホジキンリンパ腫の診断は、まず初回診断時と同様にリンパ節生検による病理組織学的検査が基本となります。ホジキンリンパ腫の特徴的な所見として、「ホジキン細胞」や「リード・シュテルンベルグ細胞(RS細胞)」の存在が確認されます。

病理組織学的には、ホジキンリンパ腫は大きく以下の2つに分類されます。

  1. 古典的ホジキンリンパ腫(全体の約95%)
    • 結節硬化型
    • 混合細胞型
    • リンパ球豊富型
    • リンパ球減少型
  2. 結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(約5%)

難治性・再発性の評価においては、以下の検査が重要です。

  • FDG-PET/CT検査:治療効果判定の標準的な検査法
  • 造影CT検査:病変の広がりや大きさの評価
  • 骨髄生検:骨髄浸潤の評価
  • 血液検査:LDH、可溶性IL-2受容体などの腫瘍マーカー

病期分類には、アン・アーバー分類が用いられ、Ⅰ期からⅣ期に分類されます。

病期 特徴
Ⅰ期 単一のリンパ節領域または単一の節外臓器・部位に限局
Ⅱ期 横隔膜の同側にある2つ以上のリンパ節領域、または限局性の節外臓器・部位とその所属リンパ節
Ⅲ期 横隔膜の両側にあるリンパ節領域、または限局性の節外臓器・部位とその所属リンパ節
Ⅳ期 1つ以上の節外臓器への広範な浸潤(リンパ節浸潤の有無は問わない)

さらに、B症状の有無によって「A」(症状なし)または「B」(症状あり)と表記します。例えば、「ⅡB期」は横隔膜の同側に2つ以上のリンパ節領域に病変があり、B症状を伴う状態を示します。

難治性ホジキンリンパ腫の評価では、初回治療からの反応性も重要な指標となります。

  • 原発不応(Primary Refractory):初回治療中に進行した、または治療終了後3か月以内に再発
  • 早期再発(Early Relapse):初回治療終了後3~12か月以内に再発
  • 晩期再発(Late Relapse):初回治療終了後12か月以降に再発

これらの分類は治療方針の決定に大きく影響し、特に原発不応や早期再発例は予後不良因子とされています。

難治性ホジキンリンパ腫に対する標準的な救援化学療法

難治性ホジキンリンパ腫に対する治療は、初回治療で用いられた薬剤とは異なる救援化学療法(サルベージ療法)から開始されます。主な救援化学療法レジメンには以下のようなものがあります。

  1. ICE療法:イホスファミド、カルボプラチン、エトポシドの併用
    • 外来治療が可能
    • 奏効率は約60~70%
    • 骨髄抑制が主な副作用
  2. DHAP療法デキサメタゾンシスプラチン、シタラビンの併用
    • 腎機能障害に注意が必要
    • 奏効率は約60%
    • 高用量シタラビンによる神経毒性のリスクあり
  3. ESHAP療法メチルプレドニゾロン、エトポシド、シタラビン、シスプラチンの併用
    • 入院での治療が基本
    • 奏効率は約70%
    • 骨髄抑制が強い
  4. CHASE療法シクロホスファミド、シタラビン、デキサメタゾン、エトポシドの併用
    • 日本で開発されたレジメン
    • 奏効率は約60~70%
    • 比較的忍容性が高い

これらの救援化学療法の選択は、患者の年齢、全身状態、合併症、前治療からの期間などを考慮して決定されます。特に、自家造血幹細胞移植を予定している場合は、幹細胞採取への影響も考慮する必要があります。

最近の研究では、ICE療法にペムブロリズマブを併用する治療法が注目されています。2023年に発表された第Ⅱ相試験では、移植適応のある再発難治性古典的ホジキンリンパ腫患者に対して、ICE療法とペムブロリズマブの併用療法を行ったところ、完全寛解率が86.5%(95% CI 71.2%-95.5%)と高い有効性が示されました。また、2年無増悪生存率は87.2%、全生存率は95.1%と良好な結果が得られています。

救援化学療法後の効果判定には、FDG-PET/CTが用いられ、Deauville score(5段階評価)で治療効果を評価します。スコア1~3は良好な反応、スコア4~5は不良な反応と判断され、その後の治療方針決定に重要な役割を果たします。

難治性ホジキンリンパ腫における造血幹細胞移植の役割と実施時期

難治性ホジキンリンパ腫の治療において、造血幹細胞移植は中心的な役割を担っています。特に65歳以下の患者で、救援化学療法に反応が得られた場合には、自家造血幹細胞移植(ASCT)が標準治療として推奨されています。

自家造血幹細胞移植の実施プロセス

  1. 救援化学療法:移植前に腫瘍量を減少させる目的で実施
  2. 幹細胞採取:G-CSF単独または化学療法との併用で末梢血幹細胞を動員・採取
  3. 前処置:BEAM療法(BCNU、エトポシド、シタラビン、メルファラン)などの大量化学療法
  4. 幹細胞移植:凍結保存していた自己の造血幹細胞を輸注
  5. 支持療法:造血回復までの感染症対策や輸血などの支持療法
  6. 移植後評価:移植後100日前後でFDG-PET/CTによる効果判定

自家造血幹細胞移植の成績は、移植前のPET反応性に大きく依存します。PET陰性例(Deauville score 1-3)では、5年無増悪生存率が約70%と良好ですが、PET陽性例(Deauville score 4-5)では30%程度まで低下します。

移植前のPET陽性例や、自家移植後の再発例に対しては、同種造血幹細胞移植が検討されます。同種移植では、移植片対腫瘍効果(GVL効果)による免疫学的な抗腫瘍効果が期待できますが、移植関連合併症や移植片対宿主病(GVHD)のリスクが高いという課題があります。

近年では、ハプロ一致移植や臍帯血移植など、ドナーソースの多様化により、同種移植の適応が拡大しています。また、強度減弱前処置(RIC)を用いることで、高齢者や合併症を有する患者にも同種移植が実施可能になってきています。

自家造血幹細胞移植後の再発リスクを低減するための維持療法として、ブレンツキシマブ ベドチンの投与が検討されています。AETHERA試験では、自家移植後のブレンツキシマブ ベドチン維持療法により、無増悪生存期間の有意な延長が示されています(5年無増悪生存率:59% vs 41%)。

移植の実施時期については、救援化学療法で部分奏効以上の効果が得られた時点で速やかに移植に進むことが推奨されています。特に、初回治療抵抗性や早期再発例では、救援化学療法への反応が得られた場合、遅滞なく移植に進むことが重要です。

難治性ホジキンリンパ腫に対する新規治療法と免疫療法の進展

難治性ホジキンリンパ腫の治療は近年大きく進歩しており、特に分子標的薬や免疫療法の導入により治療選択肢が拡大しています。これらの新規治療は、従来の化学療法や造血幹細胞移植で効果が得られない患者にも新たな治療機会を提供しています。

1. 抗体薬物複合体(ADC)

ブレンツキシマブ ベドチン(アドセトリス®)は、CD30を標的とする抗体薬物複合体で、難治性ホジキンリンパ腫に対する重要な治療オプションとなっています。ホジキンリンパ腫の特徴的な細胞であるリード・シュテルンベルグ細胞はCD30を高発現しており、この分子を標的とすることで選択的な抗腫瘍効果を発揮します。

再発・難治性ホジキンリンパ腫に対する第II相試験では、全奏効率72%、完全奏効率33%という良好な成績が報告されています。また、自家造血幹細胞移植後の維持療法としても有効性が示されており、再発リスクの高い患者の予後改善に寄与しています。

主な副作用としては、末梢神経障害、好中球減少、疲労感などがあり、特に末梢神経障害は用量制限毒性となることがあります。

2. 免疫チェックポイント阻害薬

ニボルマブ(オプジーボ®)やペムブロリズマブ(キイトルーダ®)などのPD-1阻害薬は、難治性ホジキンリンパ腫に対して顕著な効果を示しています。古典的ホジキンリンパ腫では、9p24.1の遺伝子増幅によりPD-L1/PD-L2の過剰発現が認められ、これが免疫チェックポイント阻害薬の高い有効性の理由と考えられています。

再発・難治性ホジキンリンパ腫に対するニボルマブの第II相試験では、全奏効率87%、完全奏効率17%という優れた成績が報告されています。また、ペムブロリズマブの第II相試験(KEYNOTE-087試験)でも、全奏効率69%、完全奏効率22.4%という結果が得られています。

免疫チェックポイント阻害薬の特徴的な副作用として、免疫関連有害事象(irAE)があります。甲状腺機能障害、肺臓炎、大腸炎、肝機能障害、皮膚障害などが報告されており、早期発見と適切な管理が重要です。

3. 新たな併用療法

最新の研究では、既存の治療法と新規治療法を組み合わせることで、さらなる治療効果の向上が期待されています。例えば、2024年6月にScienceに発表された研究では、JAK阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が、免疫チェックポイント阻害薬単独治療後の再発・難治性ホジキンリンパ腫患者に対して53%の全奏効率を示したことが報告されています。

また、ICE療法とペムブロリズマブの併用療法も注目されており、2023年の報告では完全寛解率86.5%という高い有効性が示されています。この併用療法は、従来の化学療法と免疫療法を組み合わせることで相乗効果を発揮し、自家造血幹細胞移植前の深い寛解導入に寄与する可能性があります。

4. CAR-T細胞療法

抗CD30 CAR-T細胞療法も難治性ホジキンリンパ腫に対する有望な治療法として開発が進んでいます。Texas Children’s Hospitalで実施された第I/II相試験では、中央値7ラインの治療歴を有する難治性患者において、フルダラビンベースのリンパ球枯渇療法後のCAR-T細胞療法で全奏効率72%、完全奏効率59%という優れた成績が報告されています。

CAR-T細胞療法の主な副作用としては、サイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性が知られていますが、この試験ではCRSはすべてグレード1と軽度であり、神経毒性は認められなかったことから、安全性の高い治療法である可能性が示唆されています。

難治性ホジキンリンパ腫患者の長期フォローアップと晩期合併症への対応

難治性ホジキンリンパ腫の治療は、強力な化学療法や放射線療法、造血幹細胞移植など、様々な治療モダリティを組み合わせて行われるため、長期生存者では治療関連晩期合併症のリスクが高まります。患者の生活の質(QOL)を維持するためには、これらの晩期合併症に対する適切なフォローアップと対応が不可欠です。

1. 二次発がん

難治性ホジキンリンパ腫治療後の二次発がんリスクは、一般集団と比較して2~3倍高いとされています。特に以下のがんのリスクが上昇します。

  • 乳がん(特に若年女性の胸部放射線照射後)
  • 肺がん(胸部放射線照射後、喫煙者でリスクさらに上昇)
  • 非ホジキンリンパ腫
  • 骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病(アルキル化剤やエトポシド使用後)
  • 皮膚がん(放射線照射野内)

二次発がんのスクリーニングとして、乳がん検診(マンモグラフィー、MRI)、肺がん検診(低線量CT)、皮膚がん検診などを通常より早期から開始することが推奨されています。また、禁煙指導も重要な予防策です。

2. 心血管合併症

アントラサイクリン系抗がん剤(ドキソルビシン等)や縦隔放射線照射により、以下のような心血管合併症のリスクが上昇します。

  • 心筋症・心不全
  • 冠動脈疾患
  • 弁膜症
  • 不整脈
  • 心膜炎

心機能評価として、定期的な心エコー検査やBNP測定が推奨されます。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの心血管リスク因子の管理も重要です。

3. 内分泌・代謝合併症

頸部放射線照射や大量化学療法、造血幹細胞移植により、以下のような内分泌・代謝合併症が生じることがあります。

  • 甲状腺機能低下症(頸部照射後)
  • 性腺機能不全(アルキル化剤、骨盤照射後)
  • 骨粗鬆症
  • メタボリックシンドローム

甲状腺機能検査、性ホルモン検査、骨密度測定などの定期的なスクリーニングが推奨されます。また、必要に応じてホルモン補充療法や骨粗鬆症治療を行います。

4. 肺合併症

ブレオマイシンや胸部放射線照射により、以下のような肺合併症が生じることがあります。

  • 間質性肺炎・肺線維症
  • 拘束性換気障害
  • 肺高血圧症

呼吸機能検査や胸部CT検査による定期的な評価が重要です。また、喫煙や肺毒性のある薬剤の使用を避けることも推奨されます。

5. 精神心理的問題

難治性ホジキンリンパ腫の診断と治療は、患者に大きな精神的負担をもたらします。特に以下のような問題が生じることがあります。

  • 不安・抑うつ
  • 再発への恐怖(フィアオブリカレンス)
  • 慢性疲労感
  • 認知機能障害(ケモブレイン)
  • 社会的孤立

定期的な精神心理的評価と、必要に応じた心理カウンセリングや精神科的介入が重要です。また、患者会などのサポートグループへの参加も有用です。

長期フォローアップの実際

難治性ホジキンリンパ腫治療後のフォローアップは、以下のようなスケジュールで行われることが多いです。

  • 治療終了後2年間:3~4か月ごとの診察、6か月ごとの画像検査
  • 3~5年目:6か月ごとの診察、年1回の画像検査
  • 5年以降:年1回の診察と晩期合併症のスクリーニング

ただし、個々の患者の再発リスクや合併症リスクに応じて、フォローアップの頻度や内容を調整する必要があります。

また、長期生存者には「サバイバーシップケアプラン」を提供し、受けた治療内容、予想される晩期合併症、推奨されるフォローアップスケジュールなどの情報を共有することが推奨されています。これにより、患者自身が自分の健康管理に積極的に関わることができます。

国立がん研究センターによるリンパ腫の治療に関する詳細情報