涙のう周囲炎 症状と治療と合併症リスク

涙のう周囲炎 症状と治療

涙のう周囲炎の全体像
👁️

典型症状と身体所見

流涙・眼脂に続く涙のう部発赤腫脹から、周囲蜂窩織炎へ進展するプロセスを時系列で整理します。

💊

治療戦略と抗菌薬選択

急性期の排膿と全身抗菌薬、慢性期を見据えた涙嚢鼻腔吻合術まで、治療の流れと実務上の注意点を解説します。

⚠️

重症化リスクと見落とし

涙のう周囲蜂窩織炎や髄膜炎など、稀だが重篤な合併症の予兆と、初期診療で見逃しやすいサインを整理します。

涙のう周囲炎 症状と身体所見の特徴

 

涙のう周囲炎は多くの場合、背景に慢性涙嚢炎や鼻涙管閉塞が存在し、流涙眼脂といった比較的軽微な症状を前駆として発症します。 その後、涙嚢部から眼瞼内側にかけての限局した発赤・腫脹・圧痛が出現し、進行すると波動を伴う膿瘍形成や周囲蜂窩織炎へと悪化します。

典型例では、目頭内側の膨隆に加えて、涙嚢部圧迫により涙点から膿性分泌物が逆流することが診断の重要な手がかりとなります。 ただし炎症が高度になると涙嚢が涙小管を圧迫し、逆流所見が消失することがあり、この場合は「膿が出ない=軽症」と誤認しないことが重要です。

・自覚症状としては、疼痛と腫脹に伴う異物感に加えて、視機能自体は比較的保たれることが多く、視力低下のみを訴える症例は他疾患の鑑別が必要になります。

参考)涙嚢炎について

・高齢者や糖尿病患者では、疼痛や発赤が乏しくても深部まで炎症が波及していることがあり、「軽い腫れ」程度の訴えであってもバイタルや全身状態を必ず確認する必要があります。

涙のう周囲炎 原因菌と病態生理

涙のう周囲炎の多くは、鼻涙管閉塞により涙嚢内に停滞した涙液・粘液に細菌感染が加わることで発症し、その炎症が涙嚢外へ波及した状態と整理できます。 鼻涙管閉塞の背景には加齢変化、慢性副鼻腔炎、外傷、鼻科手術後の瘢痕、腫瘍性病変などがあり、眼科だけでなく耳鼻咽喉科領域の病態とも密接に関連します。

原因菌としては、ブドウ球菌属、連鎖球菌属、インフルエンザ菌など、一般的な眼・耳鼻咽喉領域の化膿性炎症でみられる菌種が多いとされます。 しかし近年は基礎疾患や既往抗菌薬使用の影響で、耐性菌や複数菌感染の関与も指摘されており、膿瘍形成例では可能な限り穿刺排膿時の培養提出が望まれます。

参考)涙嚢炎の場合、主にどのような治療をしますか? |涙嚢炎

・慢性涙嚢炎の段階では、涙嚢内粘膜の慢性炎症と粘膜肥厚により、さらに排液不良が助長されるという悪循環が形成され、軽度の感染を繰り返しながら急性増悪の素地が整っていきます。

・涙のう周囲炎を来した症例では、局所の解剖学的狭窄だけでなく、ドライアイ治療薬や点眼ステロイドの長期使用、全身免疫低下など、比較的見落とされやすい慢性炎症増悪因子にも目を向けると再燃予防につながります。

涙のう周囲炎 重症度評価と画像・涙道検査

涙のう周囲炎の初期評価では、局所の視診・触診に加え、全身状態や発熱、白血球数・CRPなどの炎症マーカーを確認し、蜂窩織炎や敗血症のリスクを早期に把握することが重要です。 特に眼窩内への炎症波及が疑われる場合(眼球運動障害、視力低下、眼窩痛の増強など)には、眼窩蜂窩織炎や視神経炎、さらには脳内合併症を念頭に置き、緊急性を評価します。

画像検査としては、眼窩から副鼻腔を含むCTが有用で、涙嚢部の腫大や膿瘍形成、眼窩内脂肪織への炎症波及、副鼻腔炎の合併の有無などを評価できます。 慢性期や炎症軽快後には、涙道通水検査や涙道造影により鼻涙管閉塞の程度と位置を確認し、根治術式選択の判断材料とします。

・涙嚢穿刺による膿の採取は、単に排膿目的にとどまらず、培養・感受性検査を通じて適切な抗菌薬選択に資するという意味で、重症例では積極的に検討されます。

・一見単純な涙嚢炎・涙のう周囲炎に見えても、CTで鼻腔側に腫瘍性病変が見つかることがあり、特に片側性の再発例や血性分泌物を伴う症例では悪性腫瘍の可能性を念頭に置く必要があります。

涙のう周囲炎 治療戦略と抗菌薬選択の実務

涙のう周囲炎の急性期治療は、排膿と抗菌薬投与が基本であり、膿瘍形成が明らかな場合には局所麻酔下で穿刺あるいは切開排膿を行い、同時に涙嚢洗浄を反復することが推奨されます。 皮膚表面の発赤・圧痛が強く、蜂窩織炎を伴う場合には、全身投与可能な抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系など)を早期に導入し、重症度や基礎疾患に応じて入院加療も検討します。

点眼抗菌薬のみでは涙嚢内の感染制御が不十分となることが多く、特に発熱や全身倦怠感を伴う症例では、点眼単独治療は避けるべきです。 一方で、軽症例や炎症が限局している場合には、局所治療と経口抗菌薬の併用により外来でのフォローも可能ですが、症状変化が速い疾患であることを前提に、早期の再診を必ず指示することが望まれます。

・背景に慢性涙嚢炎がある場合、急性期が収まっても鼻涙管閉塞は残存するため、涙嚢鼻腔吻合術(DCR)などの根治術を検討しなければ再発のリスクが高い点が重要です。

参考)涙道閉塞・涙のう炎

・高齢者や糖尿病患者では、皮膚壊死や眼窩内への炎症波及、稀には髄膜炎や海綿静脈洞血栓症といった重篤な合併症が報告されており、ややオーバートリート気味の抗菌薬選択と入院管理が奏功するケースも少なくありません。

参考)涙嚢炎(るいのうえん)

涙のう周囲炎 他疾患との鑑別と意外なピットフォール

涙のう周囲炎と類似の症状を呈する疾患として、麦粒腫(ものもらい)、眼窩蜂窩織炎、涙小管炎、皮膚膿瘍などがあり、とくに一次診療では涙嚢由来かどうかの判断が難しいことがあります。 麦粒腫は通常、眼瞼縁寄りに限局した腫脹を呈し、涙嚢部の圧痛や涙点からの膿逆流はみられないため、目頭内側の膨隆と圧痛の有無が重要な鑑別ポイントになります。

涙小管炎は、涙点近傍の限局した腫脹と圧痛を特徴とし、しばしば硫黄粒様の結石を伴うことがあり、抗菌薬点眼のみでは治癒に至らず手術が必要となる点で涙のう周囲炎と治療方針が異なります。 また、眼窩蜂窩織炎では高熱、眼球運動障害、視力低下、眼球突出などの所見が前景に立つため、涙のう周囲炎に眼窩症状が加わった場合には、眼窩内膿瘍や副鼻腔炎の合併を強く疑うべきです。

参考)涙小管炎|眼科の病気と症状|病気と治療|医療法人真生会 真生…

・意外に見落とされやすいのが、「美容目的の涙袋フィラー注入後」の涙嚢炎・涙のう周囲炎で、ヒアルロン酸などが涙道近傍の解剖を変化させ、排液障害と感染のきっかけになることがあります。

参考)なぜ?「涙袋が腫れる」原因。自然に治る?放置してはいけない目…

・また、繰り返す片側性涙のう周囲炎の背後に、鼻腔内腫瘍や上顎洞癌が存在する報告もあり、単純な感染症と決めつけず、耳鼻咽喉科との連携や画像評価を低い閾値で行うことが、医療訴訟リスクの観点からも重要です。

涙嚢炎と鼻涙管閉塞・周囲炎の病態や治療の基本的な整理に有用

済生会「涙のう炎(涙嚢炎)」の解説ページ

眼窩内・鼻副鼻腔を含めた涙道疾患全般と急性涙嚢炎の合併症の整理に有用

華アイクリニック「涙道疾患」ページ

一般向けだが症状の伝え方や鑑別疾患の説明の仕方を文章化する際に参考になる

千寿製薬「涙嚢炎」一般向け解説

涙くんさよなら