涙液分泌過多 流涙症 涙道閉塞 眼瞼内反 原因

涙液分泌過多 流涙症 病態理解

涙液分泌過多を一望する
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病態生理の整理

涙液分泌過多・流涙症を「産生過剰」と「排出障害」に分け、涙道閉塞や眼瞼内反との関連を構造的に把握する。

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診察の着眼点

問診・スリットランプ・涙道評価を組み合わせ、原因を階層的に絞り込む視点を整理する。

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治療と多職種連携

薬物・手術・ケア指導を患者背景に合わせて選択し、多職種でフォローする実践的なポイントを確認する。

涙液分泌過多 流涙症の定義と分類

涙液分泌過多は、涙液の産生増加と排出障害のいずれか、または両者が重なり、患者が「常に目が潤んでいる」「頬を涙が伝う」状態を示す病態の総称として整理すると理解しやすい。

眼科臨床では流涙症という名称が汎用され、結膜弛緩症涙道狭窄・閉塞、反射性流涙を伴うドライアイなどが代表的な基礎疾患として挙げられる。

実務上は、眼表面刺激型(角膜・結膜疾患、睫毛乱生など)と涙道機能低下型(涙点閉鎖、涙小管炎、鼻涙管閉塞など)、混合型に大別して評価を進めると診断アルゴリズムが整理される。

  • 産生過剰:角膜上皮障害、アレルギー性結膜炎、ドライアイに伴う反射性流涙など。
  • 排出障害:加齢性鼻涙管狭窄、先天性鼻涙管閉塞、涙嚢炎など。
  • その他:眼瞼閉鎖不全や外反症に伴うポンプ機能低下など。

涙液分泌過多の背景には、抗がん剤点滴・経口薬や局所点眼薬による鼻涙管狭窄など薬剤性要因も一定数存在し、特に高齢患者や多剤服用患者では問診での確認が重要となる。

参考)涙目(流涙症)の原因は二つ 治療法は?…抗がん剤の副作用で起…

また、顔面神経麻痺や眼瞼部外傷後など、解剖学的変化に起因する涙液排出障害が潜在していることもあり、既往歴の聴取を怠ると見逃しにつながる。

参考)流涙 – 17. 眼疾患 – MSDマニュアル プロフェッシ…


MSDマニュアル プロフェッショナル版「流涙」:病態生理と原因の整理に有用な総説

涙液分泌過多 原因と眼瞼内反・涙道閉塞

涙液分泌過多の原因として、眼瞼内反は頻度が高く、睫毛が角膜・結膜を持続的に擦過することで異物感・疼痛・角膜上皮障害を来し、その反射として流涙が増加する。

高齢者の下眼瞼内反では、組織の弛緩や眼輪筋・支持組織の変性が背景にあり、流涙症が主訴でも詳細診察により眼瞼変形が初めて明らかになるケースも少なくない。

涙道閉塞・狭窄に起因する涙液分泌過多では、涙点からの排出が妨げられるため、少量の基礎分泌でも溢れるような流涙を呈し、しばしば慢性涙嚢炎や眼窩蜂窩織炎へ進展しうる。

加齢性鼻涙管狭窄に加え、抗がん剤・化学療法薬、局所点眼薬(ヨウ化エコチオフェート、アドレナリン、ピロカルピンなど)、放射線治療、サルコイドーシス等の全身性炎症性疾患が涙道狭窄の原因となることが知られている。

  • 眼瞼内反・外反:流涙、眼痛、充血、角膜びらん・角膜炎、ドライアイ症状などを併発。
  • 涙道閉塞:圧痛を伴う涙嚢部腫脹、膿性分泌物、繰り返す結膜炎などが手掛かり。
  • 結膜弛緩症:高齢者で頻度が高く、涙液の貯留と涙道入口部の物理的閉塞を招く。

涙道閉塞に伴う慢性炎症では、涙嚢内に結石様異物が形成されることがあり、Actinomyces属などの不顕性感染が関与していると報告されており、単純な機械的閉塞としてのみ捉えない視点も重要である。

眼瞼内反や外反の術式選択では、局所解剖・眼瞼支持組織の状態・全身状態に応じ、縫縮術や皮膚切除、埋没法など複数の選択肢から患者の生活背景も含めて検討する必要がある。


田村眼科「内反症・外反症の概要・原因と主な治療方法」:眼瞼変形と流涙症状の関係を把握する際の参考

涙液分泌過多 診断プロセスと検査

涙液分泌過多の診断では、まず問診で左右差、発症時期、環境因子(風、寒冷刺激、喫煙環境)、化学物質曝露、薬剤歴、全身疾患歴を系統的に確認し、反射性流涙か機械的排出障害かの見当をつける。

視診では、眼瞼変形(内反・外反)、結膜弛緩、涙嚢部腫脹、皮膚炎、顔面神経麻痺の有無をチェックし、スリットランプで角膜上皮障害、結膜炎所見、睫毛乱生、異物、マイボーム腺機能異常などを詳しく評価する。

検査として、涙液産生の評価にはシルマー試験や蛍光色素を用いたBUT(tear break-up time)が用いられ、ドライアイに伴う反射性流涙の有無を確認する。

排出機能の評価には、蛍光色素消失試験や涙道洗浄、プロービングが用いられ、鼻涙管閉塞か部分狭窄かを判別し、必要に応じて画像検査(CT・MRI・涙嚢造影)で腫瘍性病変や骨折などの構造異常を検索する。

  • 「涙は常にあふれているのか」「寒い時や屋外で増悪するか」といった具体的な問いかけで反射性成分を評価する。
  • 点眼薬歴(緑内障治療薬、縮瞳薬、抗アレルギー薬など)を時系列で確認し、薬剤性狭窄を疑う。
  • 抗がん剤・放射線治療の既往がある場合は、軽微な症状でも早期に涙道検査を行う。

意外なポイントとして、ドライアイ患者の中には「目が乾く」自覚よりも「涙が出て困る」という訴えを前面に出す例があり、流涙症の陰に涙液層の不安定性が隠れていることがあるため、角膜染色スコアやBUT測定を省略しないことが重要である。

また、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など鼻疾患に伴う鼻涙管出口側の狭窄も涙液分泌過多の背景となりうるため、耳鼻咽喉科との連携や必要時の鼻内視鏡評価が診断精度を高める。


読売新聞medic「涙目(流涙症)の原因は二つ」:臨床で想起すべき原因分類と検査の要点

涙液分泌過多 治療・手術とケア指導

涙液分泌過多の治療は、原因に応じた階層的アプローチが基本であり、眼表面炎症やアレルギーが主体の場合には抗アレルギー点眼薬、ステロイド点眼薬、人工涙液などで角結膜の炎症・乾燥を制御し、刺激源そのものを減らす。

ドライアイに伴う反射性流涙では、涙液安定化(ヒアルロン酸製剤、油層補充点眼など)やマイボーム腺機能改善を優先し、単純な「涙を減らす」治療に走らないことが肝要である。

涙道狭窄・閉塞に対しては、涙道洗浄・ブジー・シリコンチューブ留置などの涙道内手技が行われ、再発例や高度閉塞例では涙嚢鼻腔吻合術(DCR)が選択肢となる。

眼瞼内反・外反に伴う流涙では、埋没法や皮膚切除術、縫縮術などにより睫毛の位置関係と涙のポンプ機能を是正することで、点眼治療のみでは改善しない慢性流涙が軽減する。

  • 術前には、患者の希望(審美面、負担許容度)と生活環境(介護度、通院可否)を十分に確認する。
  • 術後ケアでは、涙道内チューブの自己抜去防止指導や感染徴候(発赤・疼痛・膿性分泌)の早期受診を説明する。
  • 長期予後や再発リスクについて、年齢・全身疾患・薬剤継続の有無に応じて具体的に伝える。

意外に見落とされがちなのは、慢性流涙患者の生活の質への影響であり、マスク着用時の曇り、読書時の視界不良、皮膚びらん・湿疹など、軽症に見えても日常生活への支障が大きいケースが多い。

参考)https://yonedaganka.com/blog/ryurui/

医療従事者側が症状を過小評価せず、原因が軽度であっても「我慢すべきもの」ではなく、根拠に基づいた治療とケア指導によりQOLが大きく改善しうることを患者と共有する姿勢が求められる。


米田眼科「涙が止まらない『流涙症』とは?」:治療法とQOLへの影響を説明する際に参考になる一般向け解説

涙液分泌過多 医療従事者の独自視点と多職種連携

涙液分泌過多は眼科単科の問題に留まらず、抗がん剤治療中のがん患者、自己免疫疾患サルコイドーシスを抱える患者、精神科薬や抗アレルギー薬を長期内服している患者など、多診療科にまたがる背景病態と密接に関係している。

特に抗がん剤による鼻涙管狭窄は、治療継続の妨げとなる眼症状として現れることがあり、腫瘍内科・眼科・看護師の三者連携で早期介入することが、治療完遂とQOL維持の両面で重要となる。

多職種連携の観点では、看護師が病棟・外来で把握する「ティッシュを頻回に使用している」「常に目元をぬぐっている」といった行動観察が、医師による専門的評価に先立つサインとなりうる。

薬剤師による処方監査では、涙道狭窄リスクのある薬剤の併用状況や投与期間を把握し、症状出現前から患者への説明と眼科受診提案を行うことで、重症化や手術介入を未然に防げる可能性がある。

  • がん薬物療法説明時に、視覚・流涙症状を含む副作用としてあらかじめ患者に伝え、早期申告を促す。
  • 自己免疫疾患での生物学的製剤免疫抑制薬使用時に、眼症状の変化を定期的に問診する。
  • 在宅・施設では、介護スタッフへ「涙が増えた」「目やにが増えた」際の眼科受診の目安を共有する。

さらに、デジタル機器使用時間の増加や空調環境の変化により、若年層でもドライアイと反射性流涙が増加しており、産業医や学校医と連携した環境調整・VDT作業指導が、将来的な慢性流涙症の予防にもつながる視点として注目される。

医療従事者が涙液分泌過多を単なる局所症状ではなく、患者の全体像と生活背景を映し出すサインとして捉えることで、より早期で質の高い介入が可能になるのではないだろうか。