脈絡膜瘢痕と
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脈絡膜瘢痕の所見とOCT
脈絡膜瘢痕は、臨床の会話では「陳旧性の傷跡」という意味で使われがちですが、実際には“どの層がどの程度壊れて、どのように治ったか”で視機能への影響が大きく変わります。特に黄斑に近い場合は、瘢痕そのものよりも、その周囲で起こる萎縮や再燃が視力を決めることが少なくありません。
OCTで医療従事者が押さえるべきポイントは、「瘢痕化した病変は境界が比較的はっきり見えることが多い」一方で、「再燃すると境界の明瞭さが落ち、滲出所見が付く」という動的な捉え方です。近視性黄斑部新生血管(MNV)のガイドラインでは、抗VEGF治療後に瘢痕化したMNVがRPEに囲い込まれ、OCT上で高反射のラインで縁取られること、そして再燃でそのラインが不明瞭化しうることが示されています。再燃の変化は強くないこともあるため、過去画像との比較が実務上の要です。
近視性黄斑部新生血管の診療ガイドライン(OCT所見・囲い込み・再燃評価)
また「瘢痕=終わった病変」と決めつけると、治療介入のタイミングを逃しやすくなります。近視性MNVでは、活動性があれば治療が必要であり、活動性判断にはOCTに加えてFA/OCTAが重要とされます。OCTAは血流の有無の評価ができる一方で、瘢痕期/萎縮期でも血流シグナルが残ることがあり、活動性評価には向きにくいという“落とし穴”も整理されています。
臨床での観察ポイントを、脈絡膜瘢痕を見た瞬間の「次の手」に落とし込むと以下です。
- 🔍 OCTで確認:網膜下液、囊胞様黄斑浮腫、SHRM、出血に対応する高反射、RPEラインの連続性。
- 🧭 過去画像と比較:囲い込み(encapsulation)の明瞭さ、滲出の増減、外網膜構造(EZなど)の変化。
- 🗓️ フォロー設計:症状(歪視・中心暗点)の有無が鋭敏な指標になりうるため、患者訴えも合わせて再燃を拾う。
脈絡膜瘢痕と蛍光眼底造影
脈絡膜瘢痕の診療でFA(フルオレセイン蛍光眼底造影)が強いのは、「今、漏れているか」「血管性病変が隠れていないか」を比較的はっきり見せてくれる点です。とくに病的近視で問題になるのが、近視性MNVと単純型黄斑部出血の鑑別です。ガイドラインでは、眼底所見とOCTだけでは鑑別が難しい場合がしばしばあり、FAまたはOCTAでMNVの存在確認が必要とされています。さらに、近視性MNVでは出血があってもその中に過蛍光が示されることが多いのに対し、単純型黄斑部出血では蛍光ブロックとして観察される、という対比が明確に示されています。
近視性黄斑部新生血管の診療ガイドライン(FAでの鑑別の要点)
つまり、同じ「出血+瘢痕っぽい変化」に見えても、FAで“漏れる点があるか”が治療方針を分けます。抗VEGFが必要なMNVなのか、自然吸収を待ちうる単純型黄斑部出血なのかで、患者説明もフォロー間隔もまったく変わるためです。
IA(インドシアニングリーン)については、近視性MNVの同定や活動性評価はFA重視としつつ、lacquer cracks(ラッカークラック)の検出には有用で補助診断に使える、という整理がされています。瘢痕の“原因側(背景の病的近視変化)”を把握する意味では、IAや眼底自発蛍光(FAF)を組み合わせる発想が現実的です。
実務のコツとしては、脈絡膜瘢痕という言葉が出たときほど、次の2点をセットで考えます。
- 🧩 鑑別:血管性(MNV)、炎症性(PIC/MFCなど)、感染性(トキソプラズマ等)。
- 🔥 活動性:漏出(FA)、滲出(OCT)、症状の新規/増悪。
脈絡膜瘢痕と鑑別
脈絡膜瘢痕の背景疾患は多岐にわたり、同じ「瘢痕」に見えても、再発性・両眼性・全身背景でリスクが変わります。医療従事者向けには、少なくとも以下の鑑別ラインを頭の中に置いておくと、見落としが減ります。
- 近視性MNVの瘢痕(Fuchs斑など)
- 炎症性疾患の瘢痕(PIC/MFCなど)
- 感染性網脈絡膜炎の治癒瘢痕(代表:眼トキソプラズマ症)
眼トキソプラズマ症は、後部ぶどう膜炎の一種で再発することがあり、治癒後に「黒色色素沈着を伴う境界鮮明な網脈絡膜萎縮性瘢痕病巣(punched out lesion)」となることが示されています。硝子体混濁が強い場合に“headlight in the fog”と表現される所見が出ること、瘢痕病巣の約3分の1が再発しうること、娘病巣として出てくることなど、瘢痕を“静的な終点”にしない情報がまとまっています。
国立感染症研究所 IASR:眼トキソプラズマ症(瘢痕像・再発・鑑別・治療)
また、免疫不全者では重篤化しやすい点も重要です。瘢痕が“そこにある”こと自体よりも、「免疫背景により活動期が危険な形で出る」可能性を示唆する所見として、電子カルテの既往・薬剤(免疫抑制、ステロイド長期など)とセットで読むのが実務的です(網膜専門外来でなくても役立つ視点です)。
PICについては、近視性MNVガイドライン側でも鑑別対象として言及され、PICは若年近視女性に好発し、後極部に境界明瞭な黄白色病巣を呈し、経過とともに瘢痕になること、脈絡膜厚の変化(炎症で肥厚→治療で菲薄化)が鑑別の助けになる可能性が整理されています。つまり「瘢痕に見える」時点でも、患者背景と画像の“周辺情報”で原因に迫れます。
近視性黄斑部新生血管の診療ガイドライン(PIC/MFCとの鑑別)
脈絡膜瘢痕と治療
脈絡膜瘢痕そのものを“消す治療”は基本的に難しく、治療の主戦場は「活動性の病変を沈静化させ、瘢痕の拡大と周囲萎縮を最小化する」ことになります。医療従事者向けの記事としては、ここを誤解なく書くことが患者説明にも直結します。
近視性MNVでは、OCTやFAで活動性がある場合に治療が必要で、第一選択は抗VEGF薬療法とされます。ガイドラインでは、導入期は1回投与+必要時投与(PRN)を原則とする考え方が提示され、治療反応が良い例では1回で網膜剝離やSHRMが消失することもあると述べられています。一方で、活動性が落ちた後にMNV周囲の黄斑部萎縮が長期視力低下の主因となる点が強調されており、“瘢痕期に入っても終わりではない”というメッセージになります。
近視性黄斑部新生血管の診療ガイドライン(治療選択・長期予後)
感染性(眼トキソプラズマ症)では、抗トキソプラズマ薬が中心で、炎症が非常に強い場合にステロイドを使うことがあるが、抗トキソプラズマ剤を必ず併用し単独で用いてはならない、という注意が明確です。免疫正常者で小病変なら自然消退する報告もある一方、後極部病変は機能障害を残しうるため治療が必要、治療により虫体数を減らして再発時の炎症程度を下げる可能性がある、という臨床判断の材料が提示されています。
国立感染症研究所 IASR:眼トキソプラズマ症(治療の考え方と注意点)
治療の実務で“地味に効く”のは、患者教育と再診設計です。
- 📌 受診タイミング:歪視・中心暗点・急な視力低下は、画像より先に出ることがあるため、自己チェック(片眼ずつ)を指導する。
- 🧾 記録:OCTの代表断面だけでなく、病変部を細かく撮像しないと小型MNVは同定できないことがあるため、撮像範囲・条件をなるべく揃える(施設内の運用ルール化が有効)。
- 🧯 “治療しない”判断の条件:MNVが確認できない症例に抗VEGFは推奨されない、という整理を院内で共有しておくと、過剰治療を防げます。
脈絡膜瘢痕と独自視点
検索上位の解説では「原因」「治療」まではあっても、医療現場のリアルな事故ポイント――つまり“瘢痕という言葉が引き起こす認知バイアス”――まで踏み込んだ記事は多くありません。ここは医療従事者向けの独自視点として、あえて言語化しておく価値があります。
脈絡膜瘢痕というラベルが付いた瞬間、チーム内の思考が「慢性」「陳旧」「経過観察」に寄りやすくなります。しかし実際には、近視性MNVは活動性が低く小型で見逃しやすいことがあり、鑑別に迷う場合はFAを積極的に施行すべき、とガイドラインはかなり踏み込んで書いています。つまり“瘢痕っぽい=もう終わった”という言葉の空気が、検査の省略につながると危険です。
近視性黄斑部新生血管の診療ガイドライン(見逃しやすさ・FA推奨の文脈)
さらに、感染性網脈絡膜炎(トキソプラズマなど)は再発があり、治癒後の瘢痕の近くに娘病巣として出ることがあります。ここでも“瘢痕がある=静か”ではなく、“瘢痕がある=再発の地図がある”と読み替えると、フォローの質が上がります。
国立感染症研究所 IASR:眼トキソプラズマ症(再発と娘病巣)
実際の運用に落とすなら、次のような簡易ルールが有効です(診療科横断で共有しやすい形)。
- ✅ 「瘢痕」+症状あり(歪視・中心暗点・急な視力低下)→ 活動性評価へ(OCT再確認、必要に応じFA/OCTA)。
- ✅ 「瘢痕」+免疫不全/妊娠関連/感染リスク → 感染性・再発性の視点を足す(問診の深掘り、鑑別の優先度調整)。
- ✅ 「瘢痕」+出血 → 単純型黄斑部出血 vs MNVをまず切り分ける(FAでブロックか、ブロック内過蛍光か)。
こうした“言葉の罠”への対策は、ハイエンドな機器よりも安価で、しかも診療安全の効果が高い領域です。脈絡膜瘢痕という一語で思考を止めず、OCT・蛍光眼底造影・背景情報の3点セットで、現在の活動性を毎回アップデートする運用が現実的です。