胸腔鏡と内視鏡の違い

胸腔鏡と内視鏡の違い

胸腔鏡と内視鏡の基本的な違い
🔬

適用部位の違い

胸腔鏡は胸腔内、内視鏡は消化管や気道に使用

⚕️

手術アプローチの差異

胸腔鏡は体外からの挿入、内視鏡は自然開口部からの挿入

📊

診断精度と治療範囲

それぞれの特徴に応じた診断能力と治療適応の違い

胸腔鏡検査の定義と特徴

胸腔鏡検査は、胸腔内に細い内視鏡を挿入して行う検査・治療法です 。胸腔鏡は直径7mm、長さ約30cmの細長い器具で、胸腔内の病変を直接観察し、必要に応じて組織採取や治療を行います 。

参考)内視鏡検査:気管支鏡と胸腔鏡

胸腔鏡検査には2つの種類があります。

局所麻酔下胸腔鏡検査では、従来の胸水穿刺検査の診断率約60%に対し、約90%の症例で胸水の原因が判明すると報告されています 。これは直接胸腔内を観察できるため、盲目的な検査では診断がつかない場合でも正確な診断が可能になるからです 。

参考)局所麻酔下胸腔鏡|医療法人徳洲会名古屋徳洲会総合病院

内視鏡手術の種類と適応範囲

内視鏡手術は大きく分けて消化管内視鏡手術、気管支内視鏡、そして体腔鏡手術の3つのカテゴリーに分類されます 。

参考)内視鏡手術

消化管内視鏡手術は以下の3つの主要な術式があります。

  • 内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー) – 主に大腸のポリープに対して実施
  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR) – 早期がんや腺腫の切除
  • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) – より精密な病変切除

これらの手術は上部・下部内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ)を用いて行われ、患者の腹部に一切傷をつけることなく、粘膜の一部のみを切除するため術後の後遺症が非常に少ないという利点があります 。
体腔鏡手術としては、腹腔で行うものは腹腔鏡手術、胸部で行うものは胸腔鏡手術と呼び分けられています 。これらは小さな傷からカメラを挿入してモニターに映し出し、従来の開腹・開胸手術と比較して患者の身体的負担を大幅に軽減できる低侵襲手術です 。

参考)鏡視下手術(腹腔鏡・胸腔鏡手術)の現状|富士市立中央病院

胸腔鏡手術の技術発展と歴史

胸腔鏡手術の歴史は1910年頃、肺結核の治療に胸腔鏡が用いられたことにさかのぼります 。最初の光学内視鏡器具の光源は「蝋燭」であり、1806年にドイツの医師により開発されました 。

参考)http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/118/118-4/shimada04.pdf

臨床応用可能な胸腔鏡の導入は20世紀初めに始まり、1910年にスウェーデンの医師が膀胱鏡を用いて結核による胸膜癒着の診断を行ったのが、胸部疾患に対する胸腔鏡手術の始まりでした 。
1970年代には武野がフレキシブル胸腔鏡を開発し、1980年から自然気胸の治療に用いて以来、再び胸腔鏡が治療手段として用いられるようになりました 。しかし当時は自然気胸の治療、肺生検、癌性胸膜炎や結核性胸膜炎の診断などに限られた施設でのみ利用されていました 。
1990年代になって内視鏡とビデオ光学機器が飛躍的に進歩し、現在のような高精度な胸腔鏡手術が可能になりました 。胸腔鏡手術は既に20年以上の歴史があり、機械の進歩とともに技術も向上しています 。

参考)「胸腔鏡」の現状

胸腔鏡検査における麻酔方法の選択基準

胸腔鏡検査では、検査・治療の目的と侵襲度に応じて麻酔方法が選択されます。

局所麻酔下胸腔鏡検査は以下のような特徴があります。

  • 全身麻酔に比べてリスクが少なく、体への負担を軽減できる
  • 全身麻酔をかけることができない患者にも実施可能
  • 検査時間は約60分程度で、人工呼吸器を必要としない

しかし局所麻酔には限界もあります。肺そのものに対しては検査ができず、検査による痛みを完全にはコントロールできません。また、カメラで十分に観察できない可能性があるという問題点も存在します 。

参考)局所麻酔下の胸腔鏡検査:何がわかるの?どんな時に必要?痛みは…

全身麻酔下胸腔鏡手術は、より侵襲的な手術として位置づけられ、肺葉切除や腫瘍摘出などの大きな処置に適用されます 。通常は皮膚3箇所を1cm程度切開し、1箇所からカメラを、他の2箇所からメスや鉗子などの手術具を挿入して処置を行います 。
全身麻酔下では、寝ているような状態で行われるため痛みを感じることはありません。胸腔の中を広く観察することができ、肺を覆っている胸膜から十分な組織を採取することも可能です 。

胸腔鏡と気管支内視鏡の診断的価値比較

呼吸器疾患の診断において、胸腔鏡と気管支内視鏡はそれぞれ異なる役割を担っています。

気管支内視鏡検査は、気管支や肺実質の病変を直接観察し、組織採取を行う検査です。肺がんの診断では第一選択となることが多く、気管支内腔の病変や中枢型肺がんの診断に優れています 。
胸腔鏡検査は、気管支鏡検査で診断がつかないときに行われることがあります 。特に胸膜病変や末梢型肺病変の診断において威力を発揮し、胸膜の悪性疾患および結核性疾患に対する診断精度は95%に達します 。

胸腔鏡検査の適応には以下があります。

  • より侵襲性の低い検査では診断が不確定である場合の滲出性胸水の評価
  • 種々の胸膜病変および肺病変の評価
  • 悪性胸水が再発する患者での胸膜癒着術
  • 膿胸の患者における小房の破壊

両者の使い分けは、病変の部位と性質によって決定されます。中枢型病変では気管支鏡が、末梢型病変や胸膜病変では胸腔鏡がそれぞれ高い診断能力を示します。