無脈性心室頻拍と心肺停止の対応と治療

無脈性心室頻拍の特徴と対応

無脈性心室頻拍の重要ポイント
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致命的な不整脈

心室頻拍が持続し、脈拍が触知できない状態

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即時の対応が必要

心肺蘇生とAEDによる電気ショックが重要

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予後改善のカギ

早期発見と適切な処置で生存率向上

無脈性心室頻拍の定義と心電図波形の特徴

無脈性心室頻拍(Pulseless Ventricular Tachycardia: Pulseless VT)は、心室頻拍の一種で、心拍数が通常100回/分以上と非常に速く、かつ脈拍が触知できない状態を指します。この状態は心肺停止(CPA)の一形態であり、緊急の処置が必要となります。

心電図上の特徴としては、以下のようなポイントが挙げられます:

  1. 幅の広いQRS波形(通常0.12秒以上)
  2. 規則的なリズム
  3. P波が見られない、またはQRS波に埋もれている
  4. 心拍数は通常150-250回/分

無脈性心室頻拍の波形は、一見すると通常の心室頻拍と区別がつきにくいため、患者の状態(意識レベル、呼吸、脈拍の有無)を確認することが非常に重要です。

無脈性心室頻拍の原因と危険因子

無脈性心室頻拍の主な原因には以下のようなものがあります:

  1. 虚血性心疾患(特に急性心筋梗塞)
  2. 心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症など)
  3. 電解質異常(特にカリウム、マグネシウムの異常)
  4. 薬物中毒(抗不整脈薬の過剰投与など)
  5. 先天性心疾患
  6. 心臓手術後の合併症

危険因子としては、以下のような要素が挙げられます:

  • 高齢
  • 男性
  • 心疾患の既往
  • 喫煙
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 肥満

これらの危険因子を持つ患者さんに対しては、日頃からの管理と注意深い観察が必要です。

無脈性心室頻拍への即時対応と心肺蘇生法

無脈性心室頻拍を発見した場合、迅速な対応が生存率を大きく左右します。以下の手順に従って対応しましょう:

  1. 意識の確認:患者の反応を確認し、意識がない場合は心肺停止と判断します。
  2. 応援要請:周囲に助けを求め、AEDと救急カートの準備を依頼します。
  3. 心肺蘇生の開始:
    • 胸骨圧迫:1分間に100-120回のペースで、深さ5-6cmの圧迫を行います。
    • 人工呼吸:30回の胸骨圧迫ごとに2回の人工呼吸を行います(訓練を受けている場合)。
  4. AEDの使用:
    • 電源を入れ、音声ガイダンスに従います。
    • パッドを装着し、心電図解析を行います。
    • ショックが必要な場合は、周囲の安全を確認してショックボタンを押します。
  5. 心肺蘇生の継続:ショック後も直ちに胸骨圧迫を再開し、2分間継続します。
  6. 医療チームの到着:救急隊や医療チームが到着したら、状況を報告し、指示に従います。

重要なのは、胸骨圧迫の質を維持することです。疲労により圧迫の質が低下するため、可能であれば2分ごとに交代することが推奨されます。

日本蘇生協議会(JRC)のガイドライン2020では、より詳細な心肺蘇生法のプロトコルが記載されています。

無脈性心室頻拍の薬物療法と電気的除細動

無脈性心室頻拍の治療には、電気的除細動と薬物療法が併用されます。

  1. 電気的除細動:
    • 初回のエネルギー量:150-200J(二相性)または360J(単相性)
    • 除細動後は直ちに胸骨圧迫を再開
    • 2分ごとに心電図を確認し、必要に応じて除細動を繰り返す
  2. 薬物療法:
    • アミオダロン:初回投与300mg、その後150mgを追加投与
    • リドカイン:1-1.5mg/kgを投与、必要に応じて0.5-0.75mg/kgを追加
  3. 原因治療:
    • 電解質異常の是正(特にカリウム、マグネシウム)
    • 虚血性心疾患に対する再灌流療法
    • 中毒に対する解毒治療

薬物療法は、電気的除細動と並行して行われます。アミオダロンは、3回の除細動後も心室細動/無脈性心室頻拍が持続する場合に考慮されます。

日本蘇生協議会(JRC)のガイドライン2020では、薬物療法の詳細なプロトコルが記載されています。

無脈性心室頻拍と心室細動の関連性と移行リスク

無脈性心室頻拍と心室細動は、しばしば密接に関連しています。両者は致死的な不整脈であり、適切な処置がなければ急速に患者の状態を悪化させる可能性があります。

無脈性心室頻拍から心室細動への移行リスク:

  1. 持続時間:無脈性心室頻拍が長く続くほど、心室細動に移行するリスクが高まります。
  2. 心拍数:心拍数が非常に速い場合(例:250回/分以上)、心室細動に移行しやすくなります。
  3. 基礎心疾患:虚血性心疾患や心筋症などの基礎心疾患がある患者では、移行リスクが高くなります。
  4. 電解質異常:特にカリウムやマグネシウムの異常は、心室細動への移行を促進する可能性があります。
  5. 薬物の影響:一部の抗不整脈薬や強心薬は、逆に不整脈を悪化させる可能性があります。

心室細動への移行を防ぐためには、無脈性心室頻拍を早期に発見し、迅速に適切な処置を行うことが重要です。また、基礎心疾患の管理や電解質バランスの維持など、予防的なアプローチも重要となります。

医療従事者は、無脈性心室頻拍と心室細動の波形の違いを理解し、迅速に識別できるようトレーニングを積むことが求められます。また、AEDは両者を自動的に識別し、適切なショックを提供できるため、その使用法に習熟しておくことも重要です。

日本循環器学会の「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」では、心室頻拍と心室細動の詳細な管理方針が記載されています。

以上、無脈性心室頻拍について詳しく解説しました。この致死的な不整脈に対しては、早期発見と適切な処置が生存率向上のカギとなります。医療従事者の皆さんは、日頃からの訓練と知識の更新を心がけ、緊急時に適切に対応できるよう準備しておくことが重要です。患者さんの命を救うため、チーム医療の重要性を常に意識し、迅速かつ的確な判断と行動を心がけましょう。