網膜色素変性症の症状と進行過程

網膜色素変性症の症状

網膜色素変性症の主要症状
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夜盲(夜間視力低下)

暗い場所での視界が著しく悪化し、暗順応機能が低下します

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視野狭窄(視野欠損)

周辺視野から徐々に見える範囲が狭くなっていきます

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視力低下

進行に伴い中心視力も徐々に低下していきます


網膜色素変性症は遺伝子変異によって網膜の視細胞と色素上皮細胞が広範に変性する疾患で、日本では人口10万人あたり18.7人の患者がいると推定されています。最も特徴的な症状として、夜盲、視野狭窄、視力低下の3つが挙げられますが、これらの症状は進行段階によって現れ方が大きく異なります。

参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=53


網膜には錐体細胞と杆体細胞という2種類の光を感じる細胞があり、杆体細胞は周辺視野や暗い場所での視覚を担当しています。網膜色素変性症では通常、杆体細胞から先に障害されるため、夜盲が初発症状となることが多いんです。

参考)網膜色素変性症には初期症状はありますか? |網膜色素変性症


進行速度には著しい個人差があり、数年で急激に進行する方もいれば、数十年かけてゆっくり進行する方もいます。早い場合は40代で社会的失明状態になることもありますが、60代でも視力が良好な例も存在します。

参考)網膜色素変性症(指定難病90) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/337″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/337amp;#8211; 難病情報セン…

網膜色素変性症の初期症状と夜盲

初期段階で最も多く現れる症状は夜盲です。夜盲とは、夜間や暗い場所での見え方が著しく悪くなったり、明るい環境から急に暗くなった時に目が暗さに慣れるのが通常より遅くなったりする症状を指します。

参考)こんな見え方の場合は網膜色素変性症かも?具体的な症状や原因、…


ただし、現代の生活環境は夜でも明るい場所が多いため、夜盲の症状をほとんど自覚していない患者さんもいます。暗い部屋で電気のスイッチを探すのに時間がかかる、夜道での歩行が不安になる、車の運転時に困難を感じるなどの場面で初めて気づくケースが多いです。

参考)網膜色素変性症の見え方とは?症状の進行と生活への影響をわかり…


一部の患者さんでは、夜盲より先に視力の低下や網膜色素変性症の初期症状について詳しく解説されています(ユビー)

網膜色素変性症の視野狭窄と進行パターン

視野狭窄は網膜色素変性症の重要な症状の一つで、病気の進行に伴って特徴的なパターンで進みます。初期には輪状暗点という、視野の中間部分がリング状に欠ける所見が見られます。​
進行すると求心性視野狭窄という、視野が中心に向かって狭くなっていく症状が現れます。これにより物にぶつかりやすくなったり、物が見えたり消えたりするという症状が出現します。周辺部の島状に残った視野も徐々に消失し、最終的には中心の視野だけが残る状態になります。

参考)網膜色素変性症


視野検査は病気の進行状況を調べる重要な検査で、指定難病の診断基準では中心の残存視野がゴールドマンI-4視標で20度以内の場合を「視野狭窄あり」と定義しています。日常生活では、物を落としたときに見つけにくい、足元の段差につまずく、人にぶつかるなどの困難が増えていきます。​

進行段階 視野の状態 日常生活への影響
初期 輪状暗点(リング状の欠損) 部分的な見えにくさを感じる程度
中期 求心性視野狭窄(周辺から狭くなる) 物にぶつかる、見え隠れする
後期 中心視野のみ残存 歩行困難、移動に大きな支障

網膜色素変性症の視力低下と錐体細胞障害

視力低下は病気がさらに進行した段階で現れる症状です。網膜の中心部の黄斑に集中して存在する錐体細胞は視力や色覚を担っていますが、網膜色素変性症が進行すると、この錐体細胞も障害されます。​
重症度分類では、矯正視力が0.7未満0.2以上をIII度、0.2未満をIV度と定義しており、矯正視力約0.1以下を社会的失明としています。ただし、医学的失明(光覚なし)に至る割合は高くないとされています。​
視力低下の進行速度は個人差が大きく、60代でも中心視野が残り視力良好な例もあります。しかし、視力が保たれていても視野狭窄のため歩行など視野を要する動作が困難となり、生活に支障をきたすケースが多いんです。​
合併症として早期から白内障を併発することがあり、白内障によってさらに視力が下がっている場合には白内障手術を行うことで視機能が改善することもあります。​

網膜色素変性症の後期症状と合併症状

後期になると、色覚異常や光視症、羞明(しゅうめい)などの症状も自覚するようになります。羞明とはまぶしさに過度に敏感になる症状で、屋外ではサングラスや遮光眼鏡が有効です。​
光視症は眼内閃光を知覚する症状で、実際には光がないのに光が見えるように感じます。また、光がちらつく「光幻視」といった症状が出る場合もあります。

参考)GRJ 網膜色素変性症概説


OCT検査(光干渉断層像検査)では、変性部の網膜において視細胞が存在する網膜外層が菲薄化している所見を確認できます。正常な黄斑では網膜外層に明瞭な白い線を複数認めますが、網膜色素変性症では視細胞が変性して消失するため、網膜外層が菲薄化し、複数の白い線も消失します。

参考)網膜色素変性


嚢胞様黄斑浮腫を伴うこともあり、OCTで確認することができます。ただし、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などに伴う黄斑浮腫とは病態が異なるため、抗VEGF薬硝子体内注射などの一般的な治療は効果がなく、現在は有効な治療がありません。​
日本眼科学会による網膜色素変性症の詳細な解説

網膜色素変性症の眼底検査所見と診断基準

眼底検査では、病期によって特徴的な所見が認められます。初期には網膜の色調が乱れることによる「ごま塩状」の眼底変化や、網膜血管が細くなる所見(網膜血管狭小)がみられます。​
中期になると骨小体様色素沈着という特徴的な色素沈着が眼底の周辺部に現れます。これは先端の尖った色素沈着で、網膜色素変性症の診断において重要な所見です。​
後期になると網膜の変性が眼底の中心に広がり、黄斑部だけに正常な眼底の色調が残る状態になります。さらに進行すると黄斑部にも変性が及び、視神経乳頭も萎縮して白くなります(視神経萎縮)。まれに眼底に色素沈着がみられない場合もあります。​
指定難病としての診断基準では、進行性の病変であること、自覚症状のいずれか1つ以上、眼底所見のいずれか2つ以上、網膜電図の異常、炎症性または続発性でないことの全てを満たす必要があります。網膜電図では減弱型、陰性型、消失型のいずれかの異常が認められます。​

検査項目 主な所見 診断上の意義
眼底検査 骨小体様色素沈着、網膜血管狭小 病期判定と診断確定
網膜電図(ERG) 減弱型、陰性型、消失型 診断基準の必須項目
眼底自発蛍光 網膜色素上皮萎縮による過蛍光・低蛍光 障害範囲の明瞭な把握
OCT検査 エリプソイドゾーンの異常、網膜外層菲薄化 視細胞変性の評価

網膜色素変性症の鑑別診断と類似疾患

網膜色素変性症の診断では、類似の症状を呈する他の網膜症を除外することが重要です。鑑別すべき疾患として、梅毒や風疹による網膜症、フェノチアジン系薬剤やクロロキンの薬剤毒性、眼以外のがんに伴う網膜症などがあります。

参考)網膜色素変性 – 17. 眼疾患 – MSDマニュアル プロ…


非進行性の夜盲が認められる眼底白点症(白点状眼底)との鑑別も必要です。眼底白点症では多発する白点が特徴的で、ERGの振幅低下も認めますが、進行性ではない点が網膜色素変性症と異なります。

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/retinitis_pigmentosa.pdf


光視症(眼内閃光の知覚)、中心視の異常、色覚異常、著しく非対称性の眼病変を初発症状とする症例については、網膜色素変性症以外の網膜変性または網膜疾患の可能性があることも考慮すべきです。​
遺伝形式を確定するために必要な場合は、家系員の診察および検査を行うことが推奨されます。日本での遺伝形式の頻度は、常染色体優性17%、常染色体劣性25%、X染色体劣性2%と報告されており、家系内に他に患者がおらず遺伝形式が明らかではない孤発例が多く存在します。​
難病情報センターによる網膜色素変性症の診断基準詳細

網膜色素変性症の最新治療と研究動向

現時点では根本的な治療法は確立されていませんが、遺伝子治療、人工網膜、網膜再生、視細胞保護治療などについて研究が推進されています。

参考)網膜色素変性症(指定難病90) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/196″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/196amp;#8211; 難病情報セン…


RPE65遺伝子の変異による網膜色素変性症に対する遺伝子治療(ボレチゲン ネパルボベク)は、2017年に米国で薬事承認を受け、日本でも2023年に保険適応となりました。この治療は子供のころから発症する重症な網膜色素変性症に対して有効性が報告されています。​
九州大学では神経栄養因子の遺伝子を搭載したレンチウイルスベクターを網膜に注射し、神経栄養因子の視細胞保護作用により視細胞の喪失を防ぐ遺伝子治療の臨床研究が実施されました。これは眼科における遺伝子治療の国内初の試みとなります。

参考)網膜色素変性に対する遺伝子治療 日本初の臨床研究実施について…


人工網膜については日本で安全性と効果を確かめる試験が行われ、臨床応用へと進む可能性が高くなっています。また、網膜色素上皮細胞の萎縮に対してiPS細胞を用いた再生医療の応用も研究されており、将来的には網膜色素変性症にも応用できる可能性があります。​
最新の研究では、キメラロドプシン遺伝子を組み込んだベクターを硝子体内に注射することで、高感度な視覚機能を回復させる新しい遺伝子治療法がマウスで成功したという報告もあります。

参考)網膜色素変性症の新しい遺伝子治療法、マウスで高感度な視覚再生…


症状の進行を遅らせることを期待して、暗順応改善薬(ヘレニエン)、ビタミンA、循環改善薬などの内服を行うことがありますが、効果は証明されていません。ビタミンAを網膜内で利用するのに関連する遺伝子の変異でおこる網膜色素変性症に対して「代替レチノイド」を内服する治療研究も行われており、重い副作用もなく今後の治療応用が期待されています。​
九州大学の遺伝子治療臨床研究の詳細