網膜中心静脈閉塞症とレーザー治療
網膜中心静脈閉塞症の原因と症状
網膜中心静脈閉塞症は、網膜の中心を走る静脈が詰まることで発症する眼疾患です。視神経乳頭付近で網膜中心動脈と外側の膜を共有している網膜中心静脈が、加齢による動脈硬化で肥厚した動脈に圧迫され、血流が悪化して血栓が発生します。この病気は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が危険因子となり、動脈硬化を進行させることが主な原因です。
参考)網膜静脈閉塞症|とやま眼科クリニック│眼科全般|阪神尼崎
主な症状は視力低下ですが、動脈閉塞症ほど高度ではないことが多く、飛蚊症が強くなって受診するケースもあります。眼底では広範囲の網膜に出血が起こり、物を見る中心部分である黄斑部に浮腫(むくみ)が出現することが特徴です。片眼性に起こることが多く、網膜の血管から血液や水分が漏れることで網膜出血や網膜浮腫が引き起こされます。黄斑浮腫を生じるとゆがみや視力低下が現れ、早期から視力低下を生じることが多いのが網膜中心静脈閉塞症の特徴です。
参考)疾患から診療科を探す(当院で診療可能な疾患か否かは、事前にお…
網膜中心静脈閉塞症のレーザー治療の目的
レーザー治療(網膜光凝固術)は、網膜中心静脈閉塞症における新生血管の発生を予防し、失明を防ぐことを主な目的とします。網膜の静脈が詰まっている領域は循環状態が悪化し、酸素不足に陥ります。この酸素不足の状態が続くと、眼底出血が起こったり、新生血管が発生して硝子体出血に至るため、そのような事態を防ぐためにレーザー治療が必要になります。
参考)http://ueda-clinic-yamashina.jp/ganka/laser-01.shtml
新生血管は問題の多い血管で、硝子体出血や血管新生緑内障の原因となり、最終的には失明につながる危険性があります。視力に重要な中心部以外の血流が途絶えた虚血網膜を凝固することにより、異常血管の抑制が期待できます。蛍光眼底造影検査で血液の流れが悪い網膜の部分が広範囲にある場合に、レーザー治療が施行されます。
参考)網膜光凝固術の説明
ただし、このレーザー治療は失明予防が目的であり、視力を回復させるものではありません。凝固した部位は光を感じなくなるため、術後は暗く感じたり、手術の影響で網膜中心部に浮腫が生じることで視力低下が起こることもあります。レーザー治療は担当医が必要と判断したときには必ず受けるべき重要な治療で、血管新生を防ぐのに最も永続性のある良い治療法です。
参考)網膜静脈閉塞症|おながファミリー眼科 戸塚区 栄区 本郷台
網膜光凝固術の種類と方法
網膜光凝固術には、目的に応じていくつかの種類があります。まず無灌流領域に対する治療では、血流が悪くなり酸素が不足している部分にレーザーを照射して、酸素の需要を減らしたり供給を増やすことで低酸素状態を改善させます。これにより他の元気な部分が悪化しないようにし、病気の悪化を防止して失明を予防します。この治療は糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に適応されます。
黄斑浮腫に対する治療では、毛細血管瘤や血管自体からの血液成分の漏れに対してレーザーを照射することで、漏れを止めて黄斑のむくみを改善させます。網膜の中心部である黄斑部がむくんでいる場合、レーザーで浮腫を軽減させると視力の回復が期待できます。ただし、凝固した部位はうすい暗点として永久に自覚されるため、原因部位が中心に近い場合は慎重に行う必要があります。
参考)静脈閉塞症・糖尿病網膜症へのレーザー治療|福岡市城南区の岡村…
実際の治療手順は、散瞳剤点眼で瞳孔を拡大した後、麻酔の目薬を点眼し、レーザー用のコンタクトレンズをつけて行います。多少の痛みを伴う場合がありますが、10分から15分で1回の治療は終わります。網膜全体に行う場合は症状に応じて、日を空けて通常数回程度に分けて実施します。レーザー直後は暗く感じて見えにくくなることがありますが、普通は15分程で戻ってきます。当日は特に安静の必要はなく、日常生活に制限はありません。
網膜中心静脈閉塞症の抗VEGF薬治療
網膜中心静脈閉塞症の治療では、抗VEGF薬の硝子体注射が重要な役割を果たします。網膜中心静脈閉塞症が起こると、眼球内の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と呼ばれるタンパク質濃度が上昇します。VEGFが上昇すると、網膜のむくみを引き起こしたり、網膜にもろい血管を形成したりするようになり、結果的にさらに視力を低下させてしまいます。
参考)網膜中心静脈閉塞症の場合、主にどのような治療をしますか? |…
抗VEGF薬の注射治療は、VEGFの働きを抑えることで網膜の浮腫や出血を改善し、視力回復を促します。具体的な方法としては、白目部分に1ヵ所、薬剤を注射するもので、実際に注射している時間は3秒程度です。痛みを軽減させるために極細の針が使用され、開いた穴もすぐに塞がります。
参考)抗VEGF療法(硝子体注射)は古川橋の福本眼科クリニック
抗VEGF薬治療の効果として、黄斑浮腫などに対しては網膜の血管からの血液成分の漏れを抑制し、網膜の浮腫を改善します。網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症などに対しては、網膜の浮腫や新生血管発生の原因となるVEGFの働きを抑制し、それらの病変を改善します。黄斑浮腫の改善には抗VEGF薬による硝子体注射が第一選択となることが多く、患者によっては視力低下の進行を抑えることができる可能性があります。
参考)網膜中心静脈閉塞症は治りますか? |網膜中心静脈閉塞症
網膜中心静脈閉塞症の治療選択と予後
網膜中心静脈閉塞症の治療選択は、病態の進行度や合併症の有無によって異なります。発症早期には血管強化薬や抗血小板薬などを内服して症状の悪化防止を図ります。黄斑浮腫が強く視力低下も高度の場合は、ステロイド薬の眼球後方への注射や硝子体手術を行うこともあります。
レーザー治療は必ずしも早期に必要ではありませんが、担当医が必要と判断したときには必ず受けるべき治療です。レーザー治療代は片目について5~18万円程度で、健康保険が適用されます。硝子体出血や網膜剥離、血管新生緑内障が起こると硝子体手術が必要になります。網膜剥離の場合には手術中に目の中へガスを入れるため、手術後は数日から2週間程度のうつぶせ安静などの姿勢制限が必要となります。
網膜中心静脈閉塞症の根本的な治療はなく、視力が戻らない可能性もありますが、早期治療によって視力の低下を抑えられることはあります。次第に視力が改善する患者がいることも報告されており、治療効果には個人差があります。治療は視力の回復に役立つこともありますが、一部の患者では、ある程度の視力障害が恒久的に残ります。そのため、高血圧、糖尿病、その他の動脈硬化の危険因子をコントロールして閉塞を予防することが望まれます。
参考)網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症 – 20. 眼の病気…
網膜中心静脈閉塞症の予防と生活習慣の管理
網膜中心静脈閉塞症の予防には、生活習慣病の管理が極めて重要です。この病気のきっかけとしては、糖尿病、高血圧、脂質異常症など動脈硬化を進行させる病気が挙げられます。食生活や適度な運動など規則正しい生活習慣を心がけるとともに、これらの病気が指摘されている場合には治療をするのが望ましいでしょう。
参考)網膜中心静脈閉塞症の場合、日常生活で気を付けることはあります…
具体的な予防策として、タバコを控える、アルコールの飲み過ぎをしない、バランスの良い食事を心がける、適度な運動を行うなどの生活習慣改善が大切です。網膜静脈閉塞症は生活習慣病によるものが多いため、健康な生活を送ることが予防につながります。
また、早期発見のために定期的な眼科検診を受けることも重要です。治療が遅れると視力低下や失明の原因となるため、早期発見が何よりも大切になります。眼底検査や蛍光眼底造影(網膜の血液の流れをみる検査)によって閉塞部位や網膜出血、黄斑浮腫の有無を調べることができます。血圧や血糖値などの管理に努めることが、網膜静脈閉塞症の予防につながり、将来的な視力障害のリスクを低減させることができます。
参考)近畿大学医学部眼科教室