モラックス・アクセンフェルド結膜炎 症状 診断 治療 予防
モラックス・アクセンフェルド結膜炎の定義と疫学的背景
モラックス・アクセンフェルド結膜炎は、Moraxella lacunataを主な起炎菌とする慢性辺縁性結膜炎で、かつて流行したが現在は抗菌薬の普及と衛生環境の改善により頻度が低下している疾患です。 慢性結膜炎全体の中では稀な位置づけですが、高齢者やアルコール依存、栄養不良、衛生状態不良など社会的背景を伴う患者で散発的に報告が続いており、臨床現場で完全に忘れてよい疾患ではありません。
本症はクラミジア結膜炎やトラコーマなどと同様に慢性結膜炎の鑑別に挙がるべき疾患であり、日本の成書や眼科専門サイトでは「特殊な細菌性濾胞性結膜炎」の一つとして簡潔に記載されていることが多いのが特徴です。 Moraxella属は角膜感染症(Moraxella角膜炎)との関連で言及されることが増えており、結膜炎は「古典的疾患」として教科書的に学ぶ一方、現場では見逃しや診断の遅れが起こりやすい点が意外な落とし穴となります。
モラックス・アクセンフェルド結膜炎の症状と臨床像の特徴
モラックス・アクセンフェルド結膜炎の代表的な症状は、慢性的な結膜充血、軽度から中等度の眼脂(とくに起床時の粘液性~膿性眼脂)、異物感や軽い眼痛であり、急性ウイルス性結膜炎と比べて発症は緩徐で、経過も長期にわたる傾向があります。 上下眼瞼縁に沿った結膜の発赤と肥厚、眼瞼縁の不潔感、しばしばBlepharitis(眼瞼炎)を合併する点が特徴で、角膜近傍の辺縁結膜に限局した炎症が持続することから、「辺縁性結膜炎」と表現されます。
スリットランプ検査では、結膜乳頭・濾胞が混在する慢性炎症パターンを示し、ウイルス性の濾胞性結膜炎に比べ濾胞は目立たないこともあります。 両眼性のことが多いものの、症状は左右差を伴い、長期間にわたって軽快と増悪を繰り返しながら受診を繰り返す「治りきらない結膜炎」として紹介受診されるケースがある点は、一般臨床ではあまり知られていないポイントです。
モラックス・アクセンフェルド結膜炎のリスク因子と病態生理
モラックス・アクセンフェルド結膜炎のリスク因子として、慢性的なアルコール多飲、栄養不良、口腔・全身の衛生状態不良、睡眠不足や全身衰弱などが古典的に挙げられており、社会的脆弱性を背景に発症する「生活背景連動型」の感染症と位置づけられます。 Moraxella属はもともと上気道や皮膚に常在しうる細菌であり、眼瞼縁の清拭不良や涙液分泌低下、ドライアイなどの局所防御能低下が加わることで、眼表面に定着し慢性炎症を惹起すると考えられています。
慢性期には結膜上皮のバリア機能低下とマイクロバイオームの変化が関与するとされ、近年は結膜フローラ研究の中でMoraxella属の増加が一部報告されており、「単一菌による感染症」というより、眼表面環境の破綻のマーカーとして捉える視点も提唱されています。 さらに、糖尿病や免疫抑制状態、長期ステロイド点眼使用など、他の細菌性結膜炎と共通するリスクもあり、眼科だけでなく内科的背景を含めた包括的評価が重要になります。
モラックス・アクセンフェルド結膜炎の診断と鑑別診断のコツ
診断の第一歩は、慢性に経過する結膜充血・眼脂と生活背景の聴取であり、アルコール依存や衛生不良、長期間の市販点眼乱用歴がある場合には、本症を含む慢性細菌性結膜炎を必ず念頭に置く必要があります。 スリットランプで辺縁優位の結膜炎、眼瞼縁炎、しばしば軽度の角膜上皮障害を認めた場合、ウイルス性やアレルギー性単独では説明しづらく、細菌性要素を示唆する所見として重要です。
鑑別としては、流行性角結膜炎や咽頭結膜熱などのウイルス性結膜炎、アレルギー性結膜炎、クラミジア結膜炎、薬物中毒性結膜炎、トラコーマなどが挙げられます。 ウイルス性は急性発症、結膜濾胞優位、耳前リンパ節腫脹、強い流涙といった所見が典型であり、アレルギー性は強い掻痒と季節性・アトピー歴が鍵になります。 一方モラックス・アクセンフェルド結膜炎では、耳前リンパ節腫脹は目立たず、結膜所見は比較的軽度ながら、経過が長く治りきらない点が鑑別のヒントです。
確定診断には結膜擦過物の細菌学的検査が有用で、グラム陰性桿菌~短桿菌としてのMoraxellaが同定されれば診断的価値が高いとされています。 ただし、一般外来では必ずしも培養が行われないことが多く、臨床的診断に基づいて治療的診断(治療反応を確認しながら診断を確定していくアプローチ)が現実的な選択肢となります。
モラックス・アクセンフェルド結膜炎の治療戦略と抗菌薬選択
モラックス・アクセンフェルド結膜炎の治療の基本は、局所抗菌薬点眼と眼瞼縁・結膜の清拭による細菌負荷の軽減であり、一般的な細菌性結膜炎と同様にフルオロキノロン系やアミノグリコシド系、あるいは広域にカバーできる抗生物質点眼が用いられます。 Moraxella属は多くの第一選択抗菌薬に感受性を示すことが多いとされますが、耐性菌の報告もあるため、難治例や重症例では培養・感受性検査に基づく薬剤選択が望ましいとされています。
治療期間は、症状の改善を確認しながら2~3週間程度を目安に十分な期間継続し、自己中断による再発を防ぐことが重要です。 眼瞼縁炎を合併する場合には、まつげの付け根を中心にしたホットタオルや清拭、専用クレンジングの指導が有効で、局所環境を整えることで再発リスクを下げられる点は意外と軽視されがちなポイントです。
ステロイド点眼は炎症コントロール目的で短期間併用されることもありますが、Moraxella角膜炎や他の細菌性角膜炎との鑑別が不十分なまま安易に使用すると、角膜障害を助長する危険があり、使用時は抗菌薬併用と慎重なフォローが必須となります。
モラックス・アクセンフェルド結膜炎の予防と生活指導・多職種連携
予防の観点では、手指衛生と洗顔・洗髪を含めた眼瞼周囲の清潔保持、タオルや枕カバーの共有回避など、一般的な結膜炎対策が基本となりますが、モラックス・アクセンフェルド結膜炎ではとくに「慢性的な眼瞼縁の不潔さ」を是正することが再発予防に直結します。 ドライアイやマイボーム腺機能不全を併発している場合には、涙液補充や温罨法、アイシャンプーなどを組み合わせ、眼表面環境全体を整えるアプローチが有用です。
本症の特徴として、アルコール依存や栄養不良、生活リズムの乱れを背景に持つ患者が少なくないため、眼科単独ではなく内科・精神科・栄養サポートチームとの連携が重要になるケースがあります。 眼科受診をきっかけに生活背景の問題が明らかになることもあり、「なかなか治らない結膜炎」の背後にある社会的要因を評価し、必要に応じて地域包括ケアやソーシャルワーカーへつなぐことは、教科書にはあまり書かれていないが臨床的にはきわめて重要な視点です。
医療従事者向けには、院内感染対策として共用スリットランプやトノメーターの清拭、手指消毒の徹底など、ウイルス性結膜炎と同様の基本対策を続けることが推奨されますが、モラックス・アクセンフェルド結膜炎はパンデミックを起こすタイプではなく、むしろ「個々の患者の生活背景と向き合うべき指標疾患」として位置づけると、ケアの方向性が明確になります。
モラックス・アクセンフェルド結膜炎と慢性濾胞性結膜炎全般の整理に有用な総説的情報です(疾患背景・鑑別の参考)。
感染性結膜炎の一般的な症状・治療・予防整理に有用で、患者説明文書作成時の参考になります(症状・治療・予防の参考)。
結膜炎・細菌性結膜炎全般の整理と抗菌点眼の位置づけを確認するのに役立ちます(治療戦略・生活指導の参考)。