門脈と下大静脈の血行動態とシャント疾患

門脈と下大静脈の解剖学的構造と血行動態

門脈と下大静脈の基本知識
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正常な血行動態

門脈系が肝臓を経由して下大静脈に流れる正常な血液循環

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血管の解剖学的関係

門脈と下大静脈の解剖学的位置関係と機能的連携

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異常な血行動態

シャント疾患による門脈血流の異常な迂回路形成

門脈系の正常な血行動態と肝臓への血流

門脈は消化管、脾臓、膵臓からの静脈血が集まる特別な血管系で、肝臓への血流量の約75%を占めます。上腸間膜静脈、脾静脈、下腸間膜静脈が合流して門脈本幹を形成し、肝臓内で細かく分岐して肝細胞に栄養や代謝物質を供給します。

参考)門脈

門脈血流は肝動脈血流と共に肝細胞を灌流し、肝静脈を経由して下大静脈に流入します。この血行動態により、腸管で吸収された栄養素や膵臓で分泌されたホルモンが効率的に肝臓に運ばれ、解毒や代謝が行われます。

参考)肝臓の血管障害の概要 – 02. 肝胆道疾患 – MSDマニ…

正常な門脈圧は5~10mmHgで、下大静脈圧を4~5mmHg上回る門脈圧較差が維持されています。

参考)門脈圧亢進症 – 02. 肝胆道疾患 – MSDマニュアル …

下大静脈の解剖学的特徴と門脈血流の流出経路

下大静脈は下半身からの静脈血を心臓に運ぶ主要な血管で、第5腰椎の高さで左右の総腸骨静脈が合流して形成されます。肝臓レベルでは複数の肝静脈が流入し、門脈系からの血液を受け取る重要な流出経路となっています。

参考)https://www.kuretake.ac.jp/t_therapeutic/wp-content/themes/kuretake-tokyo/assets/pdf/subject/01_0518_kinoukouzou1_1.pdf

肝部下大静脈は横隔膜のT8レベルの大静脈裂孔を通過し、右房に流入します。この解剖学的位置により、肝静脈や下大静脈に異常が生じると門脈圧に直接影響を与え、門脈圧亢進症の原因となることがあります。youtube

門脈系と下大静脈系の正常な連絡は肝静脈を介してのみ行われるため、この経路に異常が生じると側副血行路の形成が促進されます。

門脈下大静脈シャントの病態生理学的機序

門脈下大静脈シャントは、門脈血が肝臓を経由せずに直接下大静脈に流入する異常な血管交通です。この病態では、本来肝臓で代謝・解毒されるべき物質が直接体循環に流入し、肝機能異常や肺高血圧肝性脳症などの重篤な合併症を引き起こします。

参考)門脈下大静脈シャントに対する腹腔鏡を用いた新しい治療

先天性シャントでは静脈管の閉鎖不全や異常血管の残存が原因となることが多く、後天性では門脈圧亢進症に伴う側副血行路の形成が主な機序となります。シャント血流量が増加すると肝血流量が減少し、肝萎縮や発育不全が生じます。

参考)門脈体循環シャント(門脈体循環短絡症)

シャント血流により下大静脈への血流が増加し、右心系に負荷をかける可能性もあります。特に大量のシャント血流では心機能への影響も考慮する必要があります。

門脈圧亢進症における下大静脈との関係性

門脈圧亢進症は門脈内圧が正常値を超えて上昇した病態で、最も頻度の高い原因は肝硬変です。圧亢進により門脈血流が肝臓を迂回する側副血行路が形成され、最終的に下大静脈に流入する異常な血流経路が発達します。
代表的な側副血行路には左胃静脈から奇静脈系を経由するもの、脾腎静脈短絡、下腸間膜静脈から内腸骨静脈系に至るものがあります。これらの側副血行路は全て最終的に下大静脈系に合流し、門脈血の迂回路として機能します。

参考)門脈圧亢進症– 寿製薬株式会社–

バッド・キアリ症候群では肝静脈や肝部下大静脈の閉塞により門脈圧が上昇し、逆行性に下大静脈への異常な血流が形成される特殊な病態も存在します。

参考)バッド-キアリ症候群 – 02. 肝胆道疾患 – MSDマニ…

門脈下大静脈血管造影による画像診断の意義

門脈下大静脈シャントの確定診断には造影CT検査が最も有効で、異常なシャント血管の位置、形態、血流方向を詳細に描出できます。3D再構築画像により術前計画の立案にも重要な情報を提供します。

参考)門脈体循環シャント – ネオベッツVRセンター

血管造影検査では門脈系の走行異常を最も確定的に診断でき、バルーン閉塞試験により門脈圧上昇の程度を評価してシャント閉鎖術の適応を判断できます。超音波ドプラ検査は非侵襲的な診断法として有用で、血流方向や流速の評価が可能です。

参考)http://www.jsimd.net/pdf/nakamura/K3.pdf

門脈血栓症や下大静脈閉塞症の診断にも造影検査は必須で、これらの病態では肝移植における血行再建術の方針決定に重要な役割を果たします。現在では造影剤を用いたCT angiographyが第一選択の画像診断法となっています。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsph/20/4/20_230/_pdf

肝移植における門脈下大静脈吻合術の技術的工夫

門脈血栓症を合併した肝不全患者に対しては、下大静脈門脈吻合(cavoportal anastomosis)という特殊な血行再建術が行われます。この手術では下大静脈を左右腎静脈合流部より頭側で離断し、その尾側下大静脈と門脈を吻合します。
肝移植における門脈再建では、多くの症例で門脈の硬化・狭小化が問題となるため、上腸間膜静脈と脾静脈の合流部での吻合が推奨されます。グラフト側門脈の長さが不十分な場合には、人工血管を用いた延長術も行われます。

参考)https://www.jsvs.org/jsvs/pdf/19970603/jsvs_1997_0603_0405.pdf

肝静脈再建においては、グラフト側肝静脈を下大静脈に端側吻合する際に、吻合口をできる限り大きくするため下大静脈に斜切開を加える技術的工夫が重要です。複数の肝静脈を共通管として再建する場合もあり、狭窄や血栓形成の予防に配慮します。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/phlebol/17/3/17_17-3-165/_pdf