門脈圧亢進症性胃症 内視鏡
門脈圧亢進症性胃症の内視鏡所見とmosaic pattern
門脈圧亢進症性胃症(PHG)は、門脈圧上昇を背景にした胃粘膜のうっ血性変化で、内視鏡検査によって診断される「gastropathy」であり、基本的に炎症を伴わない点が胃炎(gastritis)と異なります。
内視鏡で最も代表的に遭遇する所見として、mosaic pattern(snake skin appearance)が挙げられ、胃小区境界が白っぽく強調され、赤い粘膜面が斑状に区切られて見えるのが特徴です。
部位としては胃体部〜胃底部に多いとされ、前庭部に主体の所見はPHG以外(例:GAVE)をまず疑う、という地図の持ち方が実務的です。
観察のコツ(所見の取りこぼし防止)
- 体上部〜体中部を「送気しすぎない」条件でも再確認する(過伸展で赤みや浮腫の見え方が変わることがあるため)。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsph/16/1/16_58/_pdf
- 近接で「赤い点」だけを見るのではなく、遠景で胃小区の“面”のパターン(mosaic)を必ず評価する。
- 出血例では「びらんがないのに湧く」ような出血様式があり、視野内の一点に原因を求めすぎない。
門脈圧亢進症性胃症の内視鏡分類(McCormack)
PHGの内視鏡分類で広く用いられているのがMcCormack分類で、軽症(mild)と重症(severe)の二段階に分け、所見を5項目で整理します。
軽症にはfine pink speckling、superficial reddening、snake skin appearance(mosaic pattern)が含まれ、重症にはcherry red spotとdiffuse hemorrhageが含まれます。
「分類がないと議論が散る」領域なので、レポートには“PHG(McCormack分類:mild/severe、根拠所見:SSA/CRS/DH…)”のように、分類名と根拠所見を並記すると、紹介先やカンファで再現性が上がります。
実臨床で起きやすいズレ
- superficial reddeningだけでPHGと断定し、H. pylori胃炎などの類似所見を見落とす。
- cherry red spotを「点状出血=潰瘍性病変の一部」と捉え、PHGの重症所見として評価しない。
- diffuse hemorrhageを“広い胃炎”と記載し、門脈圧背景のびまん性出血として扱わない。
門脈圧亢進症性胃症とGAVEの内視鏡鑑別
門脈圧亢進に伴う胃粘膜障害としてPHGとGAVEはいずれも重要ですが、PHGは胃体部〜胃底部に多いのに対し、GAVEは前庭部にしばしば認められ、両者は臨床像と治療反応が異なるため鑑別が要点になります。
GAVEは「watermelon stomach」と呼ばれるような前庭部の縦走する血管模様が典型で、組織学的にもPHGとは異なる所見(毛細血管拡張に加え、血栓やfibromuscular hyperplasiaなど)が指摘されています。
さらに重要なのは、TIPSがPHGでは有効とされる一方で、GAVEでは効果を認めにくいと報告されており、内視鏡所見を誤ってラベリングすると治療方針が遠回りになります。
鑑別の実務メモ(内視鏡室で迷ったとき)
- 主座が前庭部なら、まずGAVEを第一候補に置く。
- 主座が体部〜底部でmosaic patternが前景にあるなら、PHGを強く疑う。
- 「PHG+GAVEの併存」もゼロではないため、部位ごとに所見を分けて記載する(胃全体を一言でまとめない)。
門脈圧亢進症性胃症の出血と治療(β遮断薬・APC・TIPS)
PHGの治療は、急性または慢性出血への対処が中心で、薬物治療としては門脈圧降下を目的とした非選択的β遮断薬(propranolol)が最も広く用いられ、重症PHGの再出血予防に有効とする報告があります。
急性期の選択肢としては、vasopressinやsomatostatin(オクトレオチド)が胃粘膜血流を低下させて有効とされる一方、作用が一過性で慢性出血には不向きという指摘もあり、出血の時間軸(急性か慢性か)で使い分ける発想が必要です。
内視鏡治療としてはargon plasma coagulation(APC)の有効性が報告されており、びまん性出血に対して「面で焼灼する」戦略が組みやすい一方、根本は門脈圧と背景肝障害の是正である点は変わりません。
治療選択の整理(医療従事者向け)
- 慢性出血(鉄欠乏性貧血が主体)
- まず門脈圧低下(β遮断薬)+背景疾患の最適化を検討。
- 急性出血(吐下血〜循環動態不安定)
- 薬物で門脈圧/粘膜血流を下げつつ、内視鏡でびまん性出血の評価とAPC適応を判断。
- 難治例
門脈圧亢進症性胃症の内視鏡で見落とすH. pyloriと独自視点
PHGは「炎症を伴わない」うっ血性病変ですが、H. pylori感染胃はPHGに類似した所見(うっ血や浮腫など)を呈する場合があり、PHGの診断では除外が重要だと指摘されています。
ここが意外な落とし穴で、所見だけでPHGと断定してしまうと、実際には“感染性胃炎の所見が混ざった状態”をPHGの増悪と誤認し、出血リスク評価や治療強度(β遮断薬増量、APC適応判断など)を過大評価する方向に働きます。
独自視点としては、内視鏡所見を「PHGの所見」か「PHGに似た所見」かに二分するのではなく、①部位(体部優位か前庭部優位か)、②面のパターン(mosaicの一貫性)、③出血様式(湧出性か、限局病変か)を“三点セット”で記録し、後日の比較内視鏡で再現可能な情報に落とすことが、チーム医療の安全側に効きます。
記載テンプレ例(そのままカルテに貼れる形)
- 「胃体上部〜中部:mosaic pattern(SSA)+軽度浮腫。前庭部:特記所見なし。McCormack分類:mild PHG。」
- 「胃体中部:cherry red spot散在、湧出性出血を伴う。McCormack分類:severe PHG。びまん性出血のためAPC適応を検討。」
参考リンク(PHGの分類・病態・治療の体系的解説:McCormack分類、NBI、β遮断薬、APC、TIPSまで)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsph/16/1/16_58/_pdf参考リンク(PHGとGAVEの鑑別・内視鏡分類・頻度・治療:APC、TIPSの反応差の要点)