モガムリズマブ作用機序とCCR4標的
規定投与量では抗腫瘍T細胞も除去される
モガムリズマブのCCR4標的作用機序
モガムリズマブ(商品名:ポテリジオ)は、CCケモカイン受容体4(CCR4)を標的とするヒト化モノクローナル抗体です。CCR4は白血球、特にT細胞の表面に発現しているタンパク質で、免疫細胞の遊走や浸潤に関与しています。成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)では約90%の症例でCCR4が発現しており、この特性を利用した分子標的治療が可能になりました。
モガムリズマブの作用機序の中心は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性です。モガムリズマブがCCR4陽性の腫瘍細胞表面に結合すると、抗体のFc領域がナチュラルキラー(NK)細胞やマクロファージのFc受容体と結合します。この結合を介してNK細胞などのエフェクター細胞が活性化され、標的となる腫瘍細胞を直接攻撃して破壊する仕組みです。
つまり免疫細胞を動員する作用ですね。
協和発酵キリンが開発したPOTELLIGENT®(ポテリジェント)技術により、モガムリズマブは脱フコース化抗体として設計されています。通常の抗体のFc領域に結合する複合型糖鎖から、フコース残基を除去することでFc受容体IIIaに対する親和性が飛躍的に向上します。この糖鎖改変技術により、ADCC活性は通常の抗体と比較して100倍から1000倍にまで増強されることが確認されています。
協和発酵キリンのプレスリリースでモガムリズマブの適応追加と作用機序の詳細が説明されています
モガムリズマブは449個のアミノ酸残基からなるH鎖(γ1鎖)2分子と、219個のアミノ酸残基からなるL鎖(κ鎖)2分子で構成される糖タンパク質です。分子量は約149,000で、遺伝子組換え技術によってチャイニーズハムスター卵巣細胞を用いて産生されます。ヒト化抗体であるため免疫原性が低く抑えられていますが、投与時のインフュージョンリアクションには依然として注意が必要です。
モガムリズマブの脱フコース化とADCC活性増強
モガムリズマブの最大の特徴は、ポテリジェント技術による脱フコース化によるADCC活性の劇的な増強です。抗体のFc領域に結合するN型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンに通常結合しているフコース残基を、遺伝子工学的手法により低減または除去しています。この改変により、NK細胞などのエフェクター細胞が発現するFcγRIIIa受容体への親和性が大幅に向上します。
In vitro試験では、フコース含量を限りなく低下させた抗体のADCC活性は、従来の抗体の100倍以上に増強されることが確認されました。この活性増強は、Fc受容体への結合親和性の向上によるもので、より少ない抗体量でも効率的に腫瘍細胞を攻撃できることを意味します。つまりより低用量でも効果が期待できる可能性があります。
モガムリズマブのADCC活性には、NK細胞の機能状態も大きく関与します。国立がん研究センターなどの研究では、長期生存が得られた患者ではNK細胞が疲弊状態にあり、この結果として抗体依存性細胞傷害活性が低下することで、CCR4を高発現している制御性T細胞が選択的に除去され、抗腫瘍効果を持つセントラルメモリーCD8陽性T細胞が温存されたと報告されています。
補体依存性細胞傷害(CDC)活性についても検討が行われていますが、モガムリズマブは補体制御因子(CD55およびCD59)の中和抗体存在下でもCDC活性を示さなかったという結果が得られています。したがって、モガムリズマブの主要な作用機序はADCC活性であることが確認されています。これはCDC活性が主体の他の抗体医薬とは異なる特徴です。
脱フコース化技術の適用により、モガムリズマブは同じ抗原標的を持つ通常の抗体と比較して、格段に強力な抗腫瘍効果を発揮できます。この技術革新が、難治性血液がんであるATLに対する有効な治療薬の開発を可能にしました。フコース残基除去という糖鎖構造の微細な改変が、薬剤の臨床効果に決定的な影響を与える好例と言えます。
モガムリズマブのATLおよびPTCLへの適応
モガムリズマブは2012年3月に、CCR4陽性の成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)を適応症として日本で初めて承認されました。ATLはヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染によって引き起こされる難治性の血液がんで、特にアグレッシブ型(急性型およびリンパ腫型)では予後が極めて不良です。
2014年3月には、再発または難治性のCCR4陽性の末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)および皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)への適応追加承認を取得しました。さらに2014年12月には、化学療法未治療のCCR4陽性ATLへの適応拡大も承認されています。PTCLは非ホジキンリンパ腫の約10~15%を占める疾患群で、一部の組織型でCCR4が高発現することが知られています。
CCR4陽性ATLに対する標準的な投与方法は、1回量1mg/kgを1週間間隔で8回点滴静注する方式です。再発または難治性のCCR4陽性PTCLおよびCTCLに対しては、1回量1mg/kgを1週間間隔で5回点滴静注し、その後は2週間間隔で点滴静注を継続します。投与回数に制限はありませんが、病勢進行(PD)が確認された場合や認容できない有害事象が発現した場合は投与を中止します。
モガムリズマブの適応判定には、病理組織検体を用いたCCR4タンパク発現検査が重要です。免疫組織化学染色(IHC)により、腫瘍細胞のCCR4発現を確認することで、モガムリズマブの治療効果が期待できる患者を選別できます。CCR4陽性率が高いほど、モガムリズマブによる治療効果が得られやすい傾向があります。
KEGGデータベースでモガムリズマブの効能効果と用法用量の詳細情報が確認できます
ATLの臨床病型は、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4つに分類されます。急性型およびリンパ腫型のアグレッシブATLでは、4年生存率が約17~20%と予後が極めて不良ですが、モガムリズマブの登場により治療選択肢が広がりました。化学療法との併用により、同種造血幹細胞移植への橋渡し療法としても使用されています。
モガムリズマブの制御性T細胞除去効果
モガムリズマブの注目すべき作用として、制御性T細胞(Treg細胞)の選択的除去効果があります。制御性T細胞は免疫応答を抑制する機能を持ち、自己免疫疾患やアレルギーを防ぐ重要な役割を担っていますが、がん免疫においては抗腫瘍免疫応答を抑制してしまうため、がん細胞の増殖を助けてしまいます。
多くのがん患者では、腫瘍組織や末梢血中で制御性T細胞が増加・活性化しており、これががん免疫療法の効果を減弱させる要因となっています。国立がん研究センターの研究グループは、がん組織に浸潤する制御性T細胞にCCR4が高発現していることを発見し、モガムリズマブによる選択的除去の可能性を示しました。これは腫瘍免疫の抑制を解除する新たなアプローチです。
制御性T細胞の中でも、特に免疫抑制活性が高い活性化型制御性T細胞(エフェクターTreg)はCCR4を高発現しています。モガムリズマブ投与により、この活性化型制御性T細胞が優先的に除去されることで、CD8陽性T細胞などのエフェクターT細胞による抗腫瘍免疫応答が活性化される可能性があります。
つまり免疫のブレーキを外す効果ですね。
固形がんを対象とした医師主導臨床試験(第Ia/Ib相試験)では、モガムリズマブ投与により末梢血中の制御性T細胞が効率的に除去されることが確認されました。この試験では進行・再発固形がん患者に対してモガムリズマブを投与し、制御性T細胞の除去効果と臨床効果の関連を詳細に解析しています。制御性T細胞除去は投与後数週間持続することが観察されました。
しかし興味深いことに、制御性T細胞が除去されたにもかかわらず、固形がんに対する抗腫瘍効果は限定的でした。その理由を探るため、免疫モニタリング解析が行われ、重要な発見がもたらされました。モガムリズマブの規定投与量では、制御性T細胞だけでなく、抗腫瘍免疫に重要なセントラルメモリーCD8陽性T細胞も同時に除去されていたのです。これが期待された治療効果が得られなかった主因と考えられています。
モガムリズマブの投与量最適化と固形がん治療への展開
国立がん研究センターと名古屋大学、大阪大学などの共同研究により、モガムリズマブの投与量を最適化することで固形がんに対する新たな免疫療法として活用できる可能性が示されました。この研究は、がん免疫療法における投与量設定の重要性を示す画期的な知見として注目されています。
研究チームは、健康人の末梢血を用いた薬物動態データに基づき、生体内濃度を反映した in vitro 実験を実施しました。その結果、T細胞リンパ腫での臨床用量である10 µg/ml(生体内濃度:1.0 mg/kg相当)では、制御性T細胞とセントラルメモリーCD8陽性T細胞の両方が除去されましたが、1 µg/ml未満(生体内濃度:0.1 mg/kg未満相当)では、制御性T細胞が選択的に除去され、セントラルメモリーCD8陽性T細胞は温存されることが明らかになりました。
この選択性の違いは、CCR4発現レベルの差によるものです。制御性T細胞はCCR4を高発現していますが、セントラルメモリーCD8陽性T細胞のCCR4発現は低レベルです。低用量のモガムリズマブでは、CCR4高発現細胞のみが標的となり、低発現細胞は温存されるという用量依存的な選択性が生じます。これは抗体医薬の投与量調整で治療効果を最適化できる可能性を示しています。
国立がん研究センターのプレスリリースで、モガムリズマブの投与量最適化に関する研究成果の詳細が公開されています
殺細胞性抗がん剤や従来の分子標的薬では、「投与量が多いほど効果が高い」という用量反応関係が一般的です。しかしがん免疫療法では、標的細胞の生体内での頻度や機能の違いにより、必ずしも高用量が最適とは限りません。分子標的薬としての用量はがん免疫療法としては過剰量である可能性があります。
長期生存が得られた患者の解析では、NK細胞が疲弊状態にあったことも明らかになりました。NK細胞の疲弊によりADCC活性が適度に低下したことで、結果的に制御性T細胞の選択的除去とセントラルメモリーCD8陽性T細胞の温存というバランスが実現し、治療効果につながったと考えられます。個体差による治療効果の違いを説明する重要な知見です。
現在、固形がんに対するモガムリズマブの低用量投与の有効性と安全性を評価する大規模臨床試験が計画されています。免疫チェックポイント阻害剤との併用療法なども検討されており、新たながん免疫療法の選択肢として期待されています。分子標的薬として承認された薬剤を、適切な用量設定によりがん免疫療法として再活用する試みは、医療経済的にも意義があります。
モガムリズマブの重篤な副作用と管理
モガムリズマブの重要な副作用として、重度の皮膚障害が報告されています。発売後約5ヵ月間に投与を受けた350~400名の患者において、14件の重篤な皮膚障害が報告され、その中にはスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死融解症(TEN)といった致死的な皮膚障害も含まれていました。発症頻度は約1%程度ですが、生命に関わる重篤な有害事象として厳重な注意が必要です。
これらの重度皮膚障害は、モガムリズマブ投与中だけでなく、投与終了後数週間以降に発現することも報告されています。そのため、投与終了後も継続的な観察が不可欠です。皮膚障害の早期発見と早期対応が予後を大きく左右するため、投与開始時より皮膚科との連携体制を構築し、皮膚症状の変化を注意深くモニタリングする必要があります。
スティーブンス・ジョンソン症候群は、発熱(38℃以上)を伴う口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹および皮膚の紅斑が特徴で、しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を認めます。TENはさらに重症で、全身の広範囲にわたる表皮剥離を呈し、致死率が高い疾患です。これらの症状が疑われた場合は、直ちにモガムリズマブの投与を中止し、適切な全身管理と皮膚科専門医による治療を開始する必要があります。
モガムリズマブの一般的な副作用としては、インフュージョンリアクション(発熱、悪寒、脈拍数増加、吐き気、血圧上昇など)が高頻度で発現します。初回投与時に最も多く、通常は投与後数時間から24時間以内に発現します。抗ヒスタミン薬や解熱鎮痛薬の前投薬、投与速度の調整により、多くの場合管理可能です。
その他の副作用として、疲労、下痢、脱毛症、食欲減退、体重減少、便秘、口内炎、嘔吐、倦怠感、頭痛、浮腫などが報告されています。感染症リスクの増加も重要な副作用で、サイトメガロウイルス感染症、帯状疱疹、肺炎などの日和見感染症の発症に注意が必要です。定期的な血液検査により、白血球減少やリンパ球減少をモニタリングすることが推奨されます。
同種造血幹細胞移植前にモガムリズマブを投与した場合、移植後の移植片対宿主病(GVHD)の発症リスクが増加する可能性が指摘されています。モガムリズマブが正常な制御性T細胞を除去することで、移植後の免疫調節機能が障害され、急性GVHDや慢性GVHDの発症頻度や重症度が増加する懸念があります。移植前のモガムリズマブ使用については、リスクとベネフィットを慎重に評価する必要があります。
移植医との密接な連携が不可欠です。
このように、モガムリズマブは有効性が高い一方で、重篤な副作用のリスクも伴うため、適応患者の慎重な選択、投与中および投与後の綿密なモニタリング、多職種チームによる管理体制の構築が治療成功の鍵となります。