ミロガバリンとプレガバリンの違い、作用機序と副作用を比較

ミロガバリンとプレガバリンの違い

ミロガバリンとプレガバリンの主な違い
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作用機序の特異性

ミロガバリンは鎮痛に主に寄与するα2δ-1サブユニットへより高い親和性を持ち、副作用に関与するα2δ-2サブユニットへの親和性は低い特徴があります。

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副作用プロファイル

理論上、ミロガバリンはプレガバリンに比べ、めまいや眠気といった中枢神経系の副作用が少ないと期待されています。

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経済性(薬価)

プレガバリンには後発医薬品(ジェネリック)が存在するため、先発品のみのミロガバリンよりも薬剤費を安く抑えることが可能です。

ミロガバリンとプレガバリンの作用機序と効果・効能の違い

 

ミロガバリン(製品名:タリージェ)とプレガバリン(製品名:リリカ)は、どちらも神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う痛みの治療に用いられる薬剤です。 これらは「α2δ(アルファ・ツー・デルタ)リガンド」と総称され、基本的な作用機序は共通しています。 具体的には、痛みの信号を伝達する神経の末端(シナプス前膜)に存在する「電位依存性カルシウムチャネル」のα2δサブユニットに結合します。 この結合により、チャネルからのカルシウムイオン(Ca²⁺)の流入が抑制され、グルタミン酸やサブスタンスPといった興奮性神経伝達物質の過剰な放出が抑えられます。 結果として、過敏になっている神経が鎮まり、痛みが和らぐという仕組みです。

しかし、両剤にはα2δサブユニットへの親和性において重要な違いがあります。 α2δサブユニットにはα2δ-1とα2δ-2というサブタイプが存在します。 α2δ-1は主に後根神経節など痛みの伝達に関わる部位に多く分布し、鎮痛効果の中心的なターゲットと考えられています。 一方、α2δ-2は主に小脳に多く分布し、めまいやふらつきといった中枢神経系の副作用に関与していると推測されています。 ミロガバリンは、このα2δ-1サブユニットに対してプレガバリンよりも高い親和性を持ち、さらに結合後の解離が非常に遅い(解離半減期が長い)という特徴があります。 これにより、持続的で強力な鎮痛効果が期待されます。 対照的に、副作用に関連するα2δ-2への親和性はプレガバリンよりも低く、解離も速やかです。 この選択的な結合プロファイルが、ミロガバリンの「効果と安全性のバランスが良い」とされる理論的根拠となっています。“Mirogabalin: could it be the next generation gabapentin or pregabalin?”という論文でも、このユニークな薬理学的特性が次世代のガバペンチノイドとしての可能性を示唆していると述べられています。

効果・効能に関しては、両剤ともに「末梢性神経障害性疼痛」に適応があります。 ただし、プレガバリンはそれに加えて「線維筋痛症に伴う疼痛」および「中枢性神経障害性疼痛」の適応も持っています。現時点での添付文書上、適応範囲には違いがあるため、対象疾患に応じた使い分けが必要です。

ミロガバリンとプレガバリンの代表的な副作用と発現率の比較

ミロガバリンとプレガバリンで最も注意すべき副作用は、傾眠(眠気)、浮動性めまい、浮腫(むくみ)、体重増加などです。 これらは両剤に共通して見られる副作用であり、特に投与初期や増量時に発現しやすいため、患者への十分な説明と注意喚起が欠かせません。自動車の運転など危険を伴う機械の操作は避けるよう指導することが重要です。

両剤の副作用プロファイルを比較すると、ミロガバリンの方が中枢神経系の副作用(特に眠気やめまい)の発現頻度が低い可能性が示唆されています。 これは前述の通り、ミロガバリンが小脳に多く存在するα2δ-2サブユニットへの親和性が低く、作用が鎮痛に関わるα2δ-1に偏っているためと理論づけられています。 臨床試験や市販後調査のデータを比較すると、その傾向が見られます。

例えば、ある調査ではプレガバリンからミロガバリンへ切り替えた際の副作用について検討されており、傾眠や浮動性めまいが主な中止理由として挙げられています。 しかし、ミロガバリンの承認時の臨床試験では、初期投与量を10mgとし、2週間の漸増期間を設けることで副作用発現率が低下したとの報告もあります。 これは、緩やかな増量が忍容性を高める上で重要であることを示しています。

以下に、主な副作用の発現率に関するデータを表にまとめます。(データは異なる臨床試験や調査からのものであるため、直接的な比較はあくまで参考です)

副作用 ミロガバリン(承認時国内第Ⅲ相長期投与試験) プレガバリン(神経障害性疼痛の特定使用成績調査)
傾眠 15.4% 22.2%
浮動性めまい 10.1% 18.5%
浮腫 6.8% 9.7%
体重増加 データなし 5.1%

また、長期投与における副作用として「体重増加」は特に注意が必要です。 これは食欲増進や代謝の変化が関与していると考えられており、定期的な体重測定と生活習慣指導が望まれます。 いずれの薬剤も、自己判断で急に中断すると、離脱症状(不眠、頭痛、吐き気など)が現れることがあるため、中止する際は医師の指示のもとで徐々に減量する必要があります。

ミロガバリンとプレガバリンの腎機能障害時の投与量設計の違い

ミロガバリンとプレガバリンは、いずれも主に腎臓から未変化体のまま排泄される薬剤です。 そのため、腎機能が低下している患者(特に高齢者)に通常量を投与すると、血中濃度が想定以上に上昇し、副作用のリスクが高まるため、慎重な投与量調節が不可欠です。 両剤ともに、クレアチニンクリアランス(Ccr)または推算糸球体濾過量(eGFR)に基づいて、具体的な用法・用量が添付文書で細かく規定されています。

ミロガバリン(タリージェ)の腎機能障害時の投与量

  • 中等度腎機能障害患者 (30≦Ccr<60mL/min): 初期用量として1回2.5mgを1日2回投与から開始。その後、1回用量として2.5mgずつ1週間以上の間隔をあけて漸増し、維持用量を1回7.5mgの1日2回(15mg/日)とします。
  • 重度腎機能障害患者 (Ccr<30mL/min): 初期用量として1回2.5mgを1日1回投与から開始。その後、1回用量として2.5mgずつ1週間以上の間隔をあけて漸増し、維持用量を1回7.5mgの1日1回(7.5mg/日)とします。
  • 末期腎不全患者(血液透析中): 重度腎機能障害患者と同様の用法・用量で調節します。透析による除去を受けるため、透析実施日は透析後に投与することが望ましいとされています。

プレガバリン(リリカ)の腎機能障害時の投与量

  • 30≦Ccr<60mL/min: 初期用量75mg/日(1日2回分割)から開始し、最大300mg/日まで増量可能。
  • 15≦Ccr<30mL/min: 初期用量25〜50mg/日(1日1回または2回分割)から開始し、最大150mg/日まで増量可能。
  • Ccr<15mL/min: 初期用量25mg/日(1日1回)から開始し、最大75mg/日まで増量可能。
  • 血液透析患者: Ccr<15mL/minの用量に準じ、さらに透析後に25〜100mgの補充投与を行います。

両剤を比較すると、ミロガバリンの方がより低用量からスタートし、漸増期間を長め(1週間以上)に設定しているのが特徴です。 これは、安全性を重視し、忍容性を確認しながら至適用量まで調整するための設計と考えられます。臨床現場では、これらの規定を遵守し、特に治療開始時には患者の腎機能に応じた適切な初期用量を選択することが極めて重要です。南加賀地区版腎機能別薬剤投与量一覧のような院内資料は、腎機能に応じた投与設計を行う上で非常に有用です。

ミロガバリンとプレガバリンの薬価と剤形ラインナップの比較

神経障害性疼痛の治療は長期にわたることが多く、患者の経済的負担も薬剤選択における重要な要素となります。 ミロガバリンとプレガバリンでは、薬価に大きな違いがあります。これは主に後発医薬品(ジェネリック)の有無に起因します。

プレガバリンは先発品「リリカ」の特許が満了しており、多数の製薬会社から後発医薬品が発売されています。 これにより、薬剤費を大幅に抑えることが可能です。一方、ミロガバリン「タリージェ」は比較的新しい薬剤であり、2025年11月現在、後発医薬品は存在しません。そのため、薬剤費は高くなる傾向にあります。

具体的な薬価(2025年11月時点の概算)を比較してみましょう。

薬剤 剤形 先発品薬価 後発品薬価
ミロガバリン(タリージェ) 5mg錠/OD錠 約98円 なし
15mg錠/OD錠 約135円 なし
プレガバリン(リリカ) 25mgカプセル/OD錠 約32円 約11-12円
75mgカプセル/OD錠 約58円 約18円

※薬価は変動するため、最新の情報をご確認ください。

剤形ラインナップについては、両剤とも多様な規格が揃っており、用量調節がしやすいよう工夫されています。ミロガバリンには2.5mg、5mg、10mg、15mgの普通錠とOD錠があります。プレガバリンには25mg、50mg、75mg、150mgのカプセルとOD錠が存在します。 患者の嚥下機能や服薬アドヒアランスを考慮して、OD錠を選択できる点も共通しています。

【独自視点】ミロガバリンの有効性・安全性に関する長期特定使用成績調査の結果

新薬の臨床的価値を評価する上で、承認前の臨床試験(治験)データだけでなく、市販後の実臨床(リアルワールド)における長期的な有効性・安全性のデータは極めて重要です。 ミロガバリン(タリージェ)に関しては、大規模な特定使用成績調査(製造販売後調査)が実施され、その最終集計結果が報告されています。これは、プレガバリンとの比較記事ではあまり深掘りされない、ミロガバリンのプロファイルを知る上で貴重な情報源です。

この調査は、2020年10月から2022年10月にかけて、国内241施設でミロガバリンが投与された末梢性神経障害性疼痛患者1,519例を対象に、最長12ヵ月間追跡したものです。 調査の目的は、長期投与における糖尿病の悪化・発症、視覚障害、低血糖、突然死といった注目すべき有害事象の安全性を評価することでした。

調査結果のポイントは以下の通りです。

  • 新たな安全性の懸念は認められず: 12ヵ月間の長期投与において、治験段階では確認されていなかった新たな安全上の懸念は認められませんでした。
  • 副作用発現割合: 全期間における副作用発現割合は8.16%(124/1,519例)でした。 この数値は、承認時の国内第Ⅲ相臨床試験糖尿病末梢神経障害性疼痛患者対象の長期投与期)における副作用発現割合27.6%と比較して低いものでした。 これは、実臨床下ではより慎重な投与や用量調節が行われている可能性を示唆しています。
  • 主な副作用: 副作用の内訳は、傾眠1.71%(26例)、浮動性めまい1.38%(21例)、浮腫0.99%(15例)など、既知の副作用が中心でした。重篤な副作用は1.12%(17例)に認められました。
  • 中止理由: 投与が中止された859例のうち、有害事象が理由での中止は66例(全体の約4.3%)でした。

この長期特定使用成績調査の結果は、ミロガバリンが実臨床の多様な患者背景においても、管理可能な安全性プロファイルを持つことを裏付けています。特に、治験環境よりも低い副作用発現率は、現場の医療従事者にとって安心材料の一つとなるでしょう。神経障害性疼痛のように慢性的な経過をたどる疾患では、薬剤の長期的な忍容性が治療継続の鍵となります。この調査結果は、ミロガバリンを長期的に使用する際の、患者への説明やリスク・ベネフィット評価において、非常に有用なエビデンスと言えます。

調査の詳細は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトで公開されている情報や、関連学会で発表された報告で確認できます。

ミロガバリン長期投与時の安全性の検討―タリージェ®錠特定使用成績調査(最終集計)の概要―(日本ペインクリニック学会誌に掲載された調査結果の詳細な報告です。)

タリージェ錠 特定使用成績調査(長期)最終集計結果のご報告(第一三共株式会社が医療関係者向けに公開している結果概要です。)

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