味蕾はどこにある
味蕾が存在する舌の乳頭の種類と位置
舌の表面には「舌乳頭」と呼ばれる小突起が多数存在し、形態や存在部位により4種類に分類されます。味蕾が存在するのは、そのうちの3種類です。
茸状乳頭は舌の前方部に広く点在し、特に舌の先端部での密度が高い乳頭です。マッシュルームのような形をしており、ヒトでは1個あたり1~数個の味蕾が存在します。白い糸状乳頭の間に赤く丸い頭を見せているのが特徴です。
参考)味蕾 – 脳科学辞典
有郭乳頭は舌後方部に存在する大きな乳頭で、ヒトでは7~12個程度が「へ」の字の形に並んでいます。各有郭乳頭の壁面に沿って非常に多くの味蕾が存在し、1個あたり数百~数千個もの味蕾があります。直径2mm前後でドーナツ状の形状をしています。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E5%91%B3%E8%95%BEamp;mobileaction=toggle_view_desktop
葉状乳頭は舌後方の側面に存在し、複数の溝で構成されています。この溝の壁面に沿って多数の味蕾が存在し、1個あたり数十個~1300個程度の味蕾があります。なお、糸状乳頭には味蕾は存在せず、触覚に関連する機能を持っています。
参考)お口の基礎知識~①舌の機能と構造~|ブログ|北24条かやの歯…
味蕾は舌以外のどこに分布しているか
味蕾は舌だけでなく、口腔内の他の部位にも分布しています。軟口蓋は口蓋後方の柔らかい部分であり、ここにも味蕾が点在しています。軟口蓋の味蕾は上喉頭神経により支配されています。
参考)うま味の生理学
さらに、喉頭蓋や咽頭などにも味蕾が存在します。これらの部位にある味蕾も食べ物の味を感知する役割を担っており、舌以外でも味覚を受容できる仕組みになっています。
味蕾の総数は、人種、年齢、栄養状態により変化しますが、成人で約7,500~9,000個といわれています。味細胞は10~12日という短いサイクルで次々と新しい細胞と入れ替わっており、新陳代謝が非常に活発です。
参考)味覚障害の原因と主な症状
味蕾の分布や舌乳頭の詳細な構造について、図解付きで解説されています。味覚のメカニズムを理解するための参考資料です。
味蕾の構造と味細胞の役割
1つの味蕾には約50~150個の味細胞が集合してできています。味蕾は花のつぼみのような形をしており、味を感じる細胞だけでなく、味を感じる細胞が正常に働けるようにサポートする細胞など、様々な細胞が含まれています。
参考)味蕾とは?構造・役割・味覚との関係をわかりやすく解説 – I…
電子顕微鏡観察によると、味蕾にはI型からIV型までの4種類の細胞が存在することが分かっています。I型細胞は味蕾のおよそ50~60%を占めており、味蕾の形態を維持する役割を担います。
参考)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2304/06/news037_2.html
II型細胞は味蕾のおよそ20~30%を占め、味細胞を含んでおり、甘味、うま味、苦味を感じる受容体を持っています。III型細胞は味蕾のおよそ10~20%を占め、酸味に応答する細胞と、一部の塩味に応答する細胞を含んでいます。
IV型細胞は味蕾の基底部に位置しており、前駆細胞として機能します。味細胞の寿命は約10日間と非常に短いため、前駆細胞は素早く次々と分化して欠損した細胞を補完しています。このターンオーバーにより、細胞が置き換わっても「いつもの味」が守られているのです。
参考)研究一直線
味蕾から脳への味覚情報の伝達経路
食べ物が唾液に溶けると、味蕾の中の味細胞にある受容体が活性化し、甘味や塩味、酸味や苦味、うま味をはっきりと区別します。受容体は、正確な味を伝達するために脳にシグナルを送っています。
参考)https://www.womenshealthmag.com/jp/food/g57852/how-often-do-your-taste-buds-change-20190505/
噛み砕かれて唾液と混ぜられた食物が味蕾の微絨毛に接触すると、その刺激が味蕾の中の味細胞をとおして味覚神経細胞に伝わります。味覚情報を伝える神経には複数の種類があります。
舌の前方部にある茸状乳頭味蕾は鼓索神経により支配され、舌体からの刺激は舌神経と顔面神経を通じて伝達されます。舌後方部の有郭乳頭味蕾は舌咽神経により支配され、舌根からの刺激は舌咽神経と迷走神経を通じて伝えられます。
これらの味覚情報は延髄孤束核に集められ、さらに視床を経て大脳味覚野に届けられ、基本味として認識されます。においや辛味、舌ざわり、冷たさや温かさの情報も大脳で統合され、扁桃体や視床下部で処理されることで、食事のおいしさや食欲につながります。
がん情報サイト「味覚障害の原因と主な症状」
味覚受容体から脳への伝達経路について、図解付きで詳しく解説されています。味覚神経の仕組みを理解するための専門的な情報源です。
味蕾の数は加齢でどう変化するか
加齢により味蕾の数が減少することが複数の研究で報告されています。ヒト有郭乳頭中の味蕾の数を調べた論文では、乳児では乳頭あたり240個の味蕾が観察されますが、加齢と共に減少し、高齢者(74~85歳)になると1/3程度にまで減少することが報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/57/1/57_57.1/_pdf
個人差はありますが、高齢者は新生児と比べると3割から5割ほど味蕾が少ないといわれています。50歳を過ぎると、嗅覚と味覚は徐々に低下し始め、年齢が上がるにつれ、味蕾の数も減り、残った味蕾の感覚も鈍くなります。
この変化では、酸味や苦味よりも甘味や塩味を感じ取る能力が低下する傾向がみられます。そのため、高齢者は食事の味を感じにくくなり、味の濃い食事を好むようになると考えられています。
参考)Table: 加齢に関連する注意点-MSDマニュアル家庭版
ただし、一方で加齢により味蕾の数は変化しないという結果も複数報告されており、味覚の低下には味蕾の数だけでなく、唾液の減少や口腔内の乾燥、薬の影響なども関与していることが指摘されています。味蕾のターンオーバーの周期も年齢と大きく関連しており、加齢と共に味覚や嗅覚受容細胞を含め、全ての細胞の再生スピードが低下するため、味蕾の減少が起こります。
味蕾の健康を維持するためのポイント
味蕾の健康を維持するためには、いくつかの生活習慣が重要です。まず、よく噛むことで唾液の分泌が活発になり、味が伝わりやすく、美味しく食べられるようになります。唾液は味物質を溶かして味蕾に届ける重要な役割を果たしているからです。
舌の火傷や食べ過ぎによって味蕾は簡単に壊れてしまいますが、幸いにも味蕾はすぐに再生されます。舌を火傷した後のコーヒーの甘味を数日間感じにくいのは、味蕾が再生中だからです。熱い食べ物や飲み物には注意が必要です。
唾液の減少や口腔内の乾燥も味覚低下の原因の1つです。歳をとるにつれて、噛む力の低下や薬の影響などで唾液が減少します。唾液が減ると食べ物の味が感じにくくなり、味蕾の働きが低下します。口の中の乾燥がひどくなると「ドライマウス」と呼ばれ、歯周病や口臭などさまざまなトラブルの原因になります。
特定の薬を服用したり、化学療法や放射線療法を受けている場合は味蕾が壊れることがありますが、薬や治療を終えると味蕾は再生されます。栄養状態も味蕾の数や機能に影響するため、バランスの取れた食事を心がけることが大切です。
看護roo!「味を感じるのは舌のどの部分?」
味蕾の構造と再生について、看護師向けの正確な医療情報として解説されています。味蕾の数や分布、ターンオーバーの仕組みを理解するのに役立つ資料です。