耳瘻孔と耳の後ろの症状・診断・治療法

耳瘻孔と耳の後ろの関係

📋 この記事で分かること
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耳瘻孔の発生部位

耳前部だけでなく耳の後ろや耳輪部にも発生する可能性があり、部位によって治療難易度が異なります

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感染時の症状と対応

発赤・腫脹・排膿などの炎症症状を正確に評価し、適切な抗生剤治療と外科的処置を選択します

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手術と再発予防

瘻管の完全摘出が再発防止の鍵となり、染色法やブジー法を用いた精密な術式が求められます

耳瘻孔の発生部位と耳の後ろへの影響

先天性耳瘻孔は耳介またはその周辺に位置する瘻孔で、発生部位は耳前部と耳輪前部に多く、合わせて約80%を占めます。しかし、耳輪部、耳垂部、耳後部にできることもあり、特に耳の後ろに発生するケースでは診断が遅れることがあります。

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耳瘻孔は胎児期に耳を形成する組織が複数癒合する過程で、一部の癒合不全が起こることで発生します。東洋人の発生率は3〜10%と比較的高く、家族内発生や遺伝的傾向があると報告されています。通常、瘻管は外耳道方向に向かって1~2cmで盲端となって終わりますが、まれに軟骨を貫くものもあります。

参考)先天性耳瘻孔 – みんなの家庭の医学 WEB版


軟骨を貫通する深い瘻管の場合、傷が耳の後ろにも及ぶことがあり、手術の際には耳介後面を切開するケースもあります。こうした複雑な走行を示す耳瘻孔では、瘻管成分の取り残しによる再発リスクが高まるため、術前の詳細な評価が重要です。

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耳瘻孔の感染症状と耳の後ろの腫脹

耳瘻孔自体は通常無症状ですが、皮下に埋まった管腔構造に垢や皮脂腺分泌液が溜まり、そこに菌が付着すると感染を起こします。感染時の主な症状として、発赤、腫脹、熱感、疼痛、排膿が認められます。

参考)先天性耳瘻孔の治療は古林形成外科上野院|形成外科専門医による…


特筆すべきは、感染が遷延したり繰り返したりすると、自壊して本来の開口部と別の部位に二次性の開口部を作ったり、瘻管が分岐したりする点です。慢性化すると、耳前部や耳後部に膿瘍(不良肉芽)が形成されることがあり、耳の後ろが腫れる原因となります。

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感染の原因菌は主にブドウ球菌であり、経口セフェム系抗菌薬などが選択されます。抗菌薬投与でも改善が認められない場合は、穿刺による排膿、起炎菌の同定を試みることが推奨されます。膿瘍が大きい場合には、局所麻酔をした後に切開し、膿を出す処置が必要です。

参考)先天性耳瘻孔


汗をかきやすい夏場は特に感染リスクが高まるため、患者指導においては清潔を保ちながらも過度に触らないよう注意喚起することが重要です。

参考)先天性耳瘻孔とは?症状・原因・治療・病院の診療科目|病気スコ…

耳瘻孔の診断方法と画像検査

耳瘻孔の診断は、視診や触診による穴の確認と、問診による症状の評価が中心となります。視診では耳の周囲に小さな穴や皮膚のくぼみがあるかを確認し、触診では周囲の炎症状態や分泌液、膿の有無を評価します。

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問診では、これまでの感染歴や両親にも同様の耳瘻孔がないかなど、遺伝的傾向を確認することが診断の補助となります。感染が起こっている場合は、病原体を特定するために分泌物やうみを採取して培養検査を行うことがあります。​
手術を検討する場合には、瘻管の走行を詳しく調べるために画像検査を行います。具体的には、瘻管造影(造影剤を注入してX線撮影)、MRI(瘻管の詳細な構造を確認)、CT(周囲組織との関係を評価)などが用いられます。

参考)先天性耳瘻孔


全身麻酔手術の場合は、術前検査として心電図、エックス線撮影、呼吸機能検査なども行い、血液凝固能も評価します。これらの検査により、瘻管の深さ、走行、軟骨との関係を明確にし、手術計画を立てることができます。​

耳瘻孔の手術方法と耳の後ろへのアプローチ

根治的には手術で瘻管を完全に摘出する必要がありますが、生来無症状の場合は手術の必要はありません。しかし、一度でも感染歴がある場合、今後も感染を繰り返す可能性が高いため、摘出が推奨されます。

参考)先天性耳瘻孔の治療は古林形成外科横浜院|形成外科専門医による…


手術のタイミングとしては、急性期は炎症の広がりによって管がはっきりわからなかったり、感染が悪化したりする可能性があるため、感染が落ち着いて数ヶ月待ってから行うのが原則です。感染消退後1カ月以上の待機を推奨する報告が多く見られます。

参考)Page 6


手術では、細い管(ブジー)や特殊な染色液で瘻管の走行を確認しながら摘出します。瘻孔内部を特殊な液で染色し、液で染まった部位を全て切除することで瘻孔の取り残しを予防します。まれに軟骨を貫くケースでは、軟骨合併切除が必要となることもあります。

参考)耳瘻孔|クリニックひいらぎ皮膚科形成外科|池尻大橋・渋谷・三…


耳の後ろに瘻管が及ぶ複雑な症例では、アプローチ経路の工夫(supra-auricular approach)が報告されており、取り残しなく手術するために全身麻酔が推奨されます。成人の場合は局所麻酔下での摘出も可能ですが、局所麻酔下の摘出に再発率が高かったとの報告もあります。​
術後は抜糸を術後1週間程度で行い、術後3ヶ月までテーピングを続けることで傷の幅が広がるのを防ぎ、色素沈着を予防します。術後は炎症が強いため、半年までは赤みや硬さを認めますが、1年ほどで創部が落ち着きます。​

耳瘻孔手術の再発率とリスク管理

耳瘻孔摘出術後の再発率は0〜42%との報告があり、かなりの幅があります。この再発は、感染の反復や瘻管の複雑な走行により、瘻管成分が取りきれずに残ってしまうためと考えられています。​
いったん感染を生じた耳瘻孔の根治手術は、感染の再発率が有意に高いことが知られています。炎症を繰り返していた症例では瘢痕化していることが多く、瘻孔の下の袋が周囲の組織と一体となっており摘出が困難なことがあります。袋が残ってしまうと術後に再発してしまうため、初回手術での完全摘出が極めて重要です。​
ある報告では、27例29耳の摘出例中25例27耳は再発をみていませんが、1例では3回の摘出術を要したケースもあります。感染を繰り返す耳瘻孔ほど再発リスクは高くなるため、感染歴のある患者には早期の外科的介入を検討すべきです。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/85/1/85_1_1/_pdf


その他の手術リスクとして、出血、皮下出血、感染、傷あと、耳変形、麻酔の副作用などがあります。肥厚性瘢痕やケロイドになることもあり、体質の関与が大きいためリスクをゼロにすることはできません。縫合糸のアレルギー反応が起こり、術後に糸が露出してくることもありますが、露出した糸を抜糸することでほとんどの方は軽快します。

参考)耳瘻孔(耳の前の穴)


再発予防のためには、完全な瘻管摘出、感染の十分な治癒後の手術、経験豊富な術者による手術、適切な術後管理が重要な要因となります。​

耳瘻孔と鰓耳腎症候群の関連

耳瘻孔を有する患者で注意すべき重要な疾患として、鰓耳腎症候群(BOR症候群)があります。BOR症候群は頸瘻・耳瘻孔・外耳奇形などの鰓原性器官の形態異常、難聴、先天性腎尿路異常(CAKUT)を3主徴とする症候群です。​
発生頻度は欧米では約40,000出生に1人程度であり、聴覚障害者の約2%程度とされ、常染色体優性遺伝形式をとる難聴の中ではもっとも多い疾患の一つです。日本における医療受療者数は250人と推定されていますが、実際にはより多くの潜在的な患者がいる可能性があります。​
耳瘻孔以外に形態異常を伴っていないか確認するため、聴力検査を行う場合もあります。特に両側性の耳瘻孔や、家族歴が明確な症例では、BOR症候群の可能性を念頭に置き、腎機能検査や聴力検査を含めた全身評価を行うことが推奨されます。​

このような症候群の存在を知ることで、単なる局所的な疾患としてではなく、全身性の先天異常の一部として耳瘻孔を捉える視点が医療従事者には求められます。早期発見と適切な多職種連携により、患者のQOL向上に貢献できるでしょう。

医療従事者向けの詳細な情報は、日本医科大学武蔵小杉病院形成外科の耳瘻孔解説ページで、先天性耳瘻孔の発生メカニズムや手術の詳細について専門的な知見を得られます。
また、一般向けではありますが信頼性の高い情報源として、済生会の耳瘻孔解説ページも、治療方針や予防について分かりやすくまとめられており、患者指導の参考になります。