味覚障害コロナ以外の原因と治療
味覚障害コロナ以外の主要原因と発症メカニズム
味覚障害の原因は多岐にわたり、新型コロナウイルス以外の要因による発症が大部分を占めています 。最も頻度の高い原因は亜鉛不足で、味蕾細胞の新陳代謝に必要な亜鉛が不足すると、味細胞のターンオーバーが延長し、機能低下を引き起こします 。亜鉛不足の次に多いのが薬剤性味覚障害で、降圧薬、精神疾患薬、抗がん剤など200種類以上の薬剤が副作用として味覚障害を引き起こすことが報告されています 。
参考)味覚障害の原因と治療法
薬剤性味覚障害の発症機序は、主に亜鉛キレート作用と唾液分泌抑制によるものです 。抗がん剤では投与早期に味覚障害が出現し、投与終了後に早期回復する傾向があります 。高齢者では薬剤性の割合が若年者の2倍高くなるという報告もあり、複数の薬剤を服用している場合は特に注意が必要です 。
参考)https://zinc-jznt.org/assets/img/bn/dl-file/2-2/2-2-sousetsu-002.pdf
全身疾患による味覚障害も重要な原因の一つで、糖尿病、肝障害、腎機能障害、貧血、甲状腺疾患、顔面神経麻痺、脳梗塞などが味覚障害を引き起こします 。これらの疾患では、味覚を感知する経路のどこかに障害が生じることで症状が現れます 。
参考)味覚障害は病気のサイン コロナ?肝臓や脳の疾患でも – 日本…
味覚障害の薬剤性要因と症状の特徴
薬剤性味覚障害は、服用開始から2~6週間で症状が出現することが多く、「味を感じにくい」「食べ物の味が変わった」「嫌な味がする」などの症状が見られます 。薬剤による味覚障害のメカニズムとして、亜鉛キレート作用により体内の亜鉛が不足する場合と、唾液分泌が抑制されることで味物質の伝達が阻害される場合があります 。
参考)味覚障害の原因と主な症状
特に注意が必要な薬剤には、ACE阻害薬やARBなどの降圧薬、抗生物質、抗真菌薬、ペニシラミン、抗うつ薬、消化性潰瘍治療薬などがあります 。これらの薬剤の中止により症状が改善することが確認されて初めて、薬剤と味覚障害の因果関係が証明されます 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013rbr.pdf
薬剤性味覚障害の診断には、薬剤の使用開始時期と症状出現の時期的関係、薬剤中止による症状改善の確認が重要です 。しかし、病気の治療に必要な薬剤は中止できないことが多く、その場合は外から亜鉛を補充する治療が選択されます 。
参考)味がしない、食欲がない… それは亜鉛不足かも – 日本経済新…
味覚障害の全身疾患による影響と診断
全身疾患による味覚障害は、疾患そのものが味覚経路に与える直接的な影響によって生じます 。糖尿病では神経障害により味覚神経の機能が低下し、肝障害や腎機能障害では体内の代謝異常が味覚に影響を与えます 。貧血、特に鉄欠乏性貧血では、舌炎を伴って味覚障害が発症することがあります 。
脳梗塞や顔面神経麻痺では、味覚を伝達する神経経路に直接的な障害が生じるため、比較的重篤な味覚障害を呈することがあります 。また、甲状腺疾患や内分泌疾患では、ホルモンバランスの異常が味覚機能に影響を与えます 。
診断には電気味覚検査とろ紙ディスク法が用いられ、電気味覚検査では21段階の電流で舌を刺激し、金属味を感じる閾値を測定します 。ろ紙ディスク法では基本4味(甘味、塩味、酸味、苦味)を5段階の濃度で評価し、味質別の詳細な検査が可能です 。血液検査では亜鉛、鉄、銅などの微量元素やビタミンの評価を行い、必要に応じて頭部MRIや内視鏡検査も実施します 。
参考)味覚障害の診断と治療
味覚障害コロナ以外の心因性・特発性要因
心因性味覚障害は、過度のストレスやうつ病が原因となって発症し、味覚障害全体の約35%を占める重要な原因です 。ストレス症状として現れることが多く、診断のサポートとしてSDS(Self-rating Depression Scale)などによるうつレベルの評価が有用とされています 。心身の調整により改善する場合が多いのが特徴です 。
参考)味覚異常の2割は口腔疾患が主因で半数強に亜鉛以外の治療が必要…
特発性味覚障害は原因が特定できないものの、心身の調整で改善する場合が多く、全体の約20%を占めています 。実際には軽度の亜鉛不足や心理的要因が関与していることが推測されますが、明確な原因を特定できない症例群です 。
口腔疾患による味覚障害も重要で、口腔カンジダ症や口腔乾燥症(ドライマウス)などが約20%の症例で主因となります 。ドライマウスでは唾液分泌の低下により口腔内が乾燥し、味蕾の働きが悪くなることで味を正確に感知できなくなります 。加齢に伴う味蕾数の減少も味覚障害の一因となり、高齢者では複合的な要因が関与することが多くなります 。
味覚障害の効果的治療法と改善アプローチ
味覚障害の治療において、亜鉛製剤による治療が最も効果的で、適切な症例選択と治療により約80%の改善率が得られます 。2017年に酢酸亜鉛が「低亜鉛血症」の治療薬として保険適用を取得し、味覚障害診療の拡大が期待されています 。亜鉛補充療法による治癒率は、亜鉛欠乏性で約77%、薬剤性で約60%となっています 。
参考)解説ページ
治療から改善までの期間は原因により異なり、鉄欠乏性21.0週間、亜鉛欠乏性22.7週間、心因性29.3週間、特発性31.8週間、薬剤性43.2週間とされています 。効果は短期間では現れないことが多いため、最低でも3~6カ月間は内服を継続する必要があります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/31/2/31_149/_pdf/-char/ja
亜鉛製剤の効果が得られない場合には、漢方薬、抗不安薬・抗うつ薬、胃腸薬、口腔乾燥に対する対症療法などが効果的な症例もあります 。漢方薬では柴朴湯、小柴胡湯、黄連解毒湯、補中益気湯、白虎加人参湯などが用いられますが、含有する亜鉛は微量のため、漢方薬の効果は亜鉛以外の機序によるものと考えられています 。心因性の場合は心身の調整が重要で、カウンセリングや抗うつ薬などの精神療法的アプローチが有効です 。