未熟児網膜症の症状と進行ステージ

未熟児網膜症の症状

この記事の要点
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初期は無症状

網膜血管の異常増殖は眼底検査でのみ確認でき、乳児自身に自覚症状はありません

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5段階の進行ステージ

境界線形成期から網膜全剥離まで、病期に応じた適切な治療介入が必要です

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プラス病変の存在

後極部血管の拡張・蛇行は重症化のサインであり、治療適応を判断する重要な指標となります

未熟児網膜症の初期症状と早期発見

未熟児網膜症は初期段階では乳児に目立った症状が現れないため、医療従事者による慎重な観察が不可欠です。網膜血管は胎齢14週頃より視神経乳頭部から発生を始め、第30週で浅層血管が、第38~40週で深層血管が完成しますが、早産児ではこの発達が不完全なままとなります。在胎週数34週未満、出生体重1800g以下の未熟児に対しては、生後3週目または修正在胎週数29週を目処に初回眼底検査を実施することが推奨されています。

参考)未熟児網膜症(ROP) – 23. 小児の健康上の問題 – …


検査により網膜周辺部に血管が伸びていない無血管領域と、その境界部における異常な血管新生が確認された場合、未熟児網膜症と診断されます。修正30~38週の間に最も進行しやすく、43~45週を超えると自然に停止する傾向があります。定期的な眼底検査を継続することで、病変の進行度を正確に把握し、適切な治療介入のタイミングを見逃さないことが重要です。

参考)近畿大学医学部眼科教室

未熟児網膜症のステージ分類と進行

国際分類では未熟児網膜症をステージ1から5までの5段階に分類しており、各段階で網膜の病変の程度が異なります。ステージ1(網膜内血管新生期)では、周辺部の網膜血管先端部に分岐過多、異常な怒張、蛇行などが出現し、明瞭な無血管領域が存在します。ステージ2(境界線形成期)では、血管領域と無血管領域の境界部に境界線が明瞭に認められ、後極部には血管の蛇行怒張を認める場合があります。

参考)未熟児網膜症 (よくある目の病気 81) | 京橋クリニック…


ステージ3では硝子体中へ血管新生が起こり、いわゆる隆起(ridge)が形成されます。この段階の一部の乳児は介入なしに自然回復することもありますが、異常な血管が網膜を傷つけ視力低下につながる網膜剥離を防ぐため、治療が必要となるケースが増加します。ステージ4では網膜が部分的に剥離し、ステージ5では網膜は完全に剥離してしまいます。2021年の国際分類改訂では、ステージ5がさらに5A(眼底検査で乳頭が見える)と5B(乳頭が見えない)に細分化されました。

参考)未熟児網膜症(ROP) %sep% %sitename%

未熟児網膜症のプラス病とその重要性

未熟児網膜症の重症度評価において、プラス病(plus disease)の有無は治療適応を決定する上で極めて重要な指標となります。プラス病は後極部の静脈拡張や動脈蛇行が網膜の2象限以上に認められる悪化徴候を指し、病勢の活動性が高いことを示しています。プラス病を伴うzone I(視神経乳頭を中心とした最も後極部の領域)のあらゆるステージ、またはzone IIのステージ2~3の症例は、光凝固治療の適応となります。

参考)未熟児網膜症(ROP)について|眼科医ぐちょぽいのオンライン…


プラス病の存在は、網膜血管の異常成長が活発であることを示すため、定期的な眼底検査での慎重な観察が必要です。抗VEGF療法後の再燃判定においても、プラス病の再出現に注目し、ETROP studyの治療基準に準じて追加治療を検討することが推奨されています。蛍光眼底造影検査を実施すると再増殖の兆候をより早期に的確に捉えることができ、最適な時期に網膜光凝固治療を行うことが可能になります。

参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/rop.pdf

未熟児網膜症の外見的症状と異常眼球運動

未熟児網膜症が進行すると、一部の乳児では外見的な変化や異常な眼球運動が観察されることがあります。急速で不規則な眼球運動などの異常な眼球運動を示す場合があり、これは網膜の視覚機能が障害されていることの兆候となります。瞳孔に通常の赤目反射ではなく、白目や濁りが見られる白色瞳孔は重度の網膜症の可能性を示唆します。​
過度の流涙や泣きとは無関係に起こる流涙、光に対する過敏性で明るい光を避けたり照明の急激な変化に強く反応する症状も報告されています。物体を目で追ったり注視したりする能力が低下し、視覚刺激に対する反応が鈍くなることもあります。斜視は目の位置が正しく揃わない状態で、未熟児網膜症の徴候の可能性があるため、両親や介護者、医療提供者はこれらの徴候や症状に注意深くなることが不可欠です。​
国立成育医療研究センター「未熟児網膜症」では、病態や治療について詳しく解説されています。

未熟児網膜症の長期予後と合併症

未熟児網膜症が安定した後も、長期的なフォローアップが必要となります。重症例や治療を受けた症例では、弱視の早期発見と急速に進行する屈折異常の検出のため、乳幼児期(0~6歳)には3~6か月ごとの頻回な経過観察が必要な場合があります。軽症で自然治癒した場合でも、予定より早く産まれた赤ちゃんは近視や乱視といった屈折異常のために視力低下をきたすことが多く、適切な矯正が必要です。

参考)未熟児網膜症:長期的なフォローアップ


未熟児網膜症が安定した後でも、白内障緑内障、網膜剥離を発症することがあり、長期間のケアが不可欠となります。治療後も視力障害、弱視、近視、斜視などの合併症が成長してから現れることがあるため、成長に合わせた定期的な眼科フォローアップが必要です。光凝固治療を受けた症例では、近視性不同視弱視が発症するリスクがあり、両眼の視力差が生じることがあるため、視力予後の追跡が重要です。

参考)未熟児網膜症の場合、日常生活で気を付けることはありますか? …


日本眼科学会「未熟児網膜症に対する抗VEGF療法の手引き(第2版)」では、最新の治療ガイドラインが提供されています。