メマリーとその効果
メマリーによる神経細胞保護効果のメカニズム
メマリー(メマンチン塩酸塩)は、NMDA受容体拮抗作用という独自の機序により中等度・高度アルツハイマー型認知症患者の認知機能低下を抑制します 。神経細胞において、グルタミン酸は通常、記憶や学習に関わる重要な神経伝達物質として機能しています 。
参考)メマリー(メマンチン)とは
しかし、アルツハイマー型認知症では異常なタンパク質の蓄積により、グルタミン酸が過剰に放出される状態となります 。この過剰なグルタミン酸がNMDA受容体に結合すると、カルシウムイオンが神経細胞内に大量に流入し、最終的に神経細胞死を引き起こしてしまいます 。
参考)認知症の治療薬を学ぶ (2)NMDA受容体拮抗薬 ~シリーズ…
メマリーは、この病的状態における過剰なグルタミン酸放出のみを選択的に抑制し、正常な記憶形成に必要なグルタミン酸のシグナル伝達は阻害しないという絶妙なバランスを保っています 。これにより、神経細胞を保護しながらも、統合失調症や幻覚などの副作用を避けることができる点が特徴的です 。
参考)メマリーの作用機序
メマリーの適用時期と認知症重症度との関係
メマリーは中等度から高度のアルツハイマー型認知症患者に適応が限定されており、軽度の段階では使用されません 。これは、軽度認知症患者にメマリーを投与すると、頭痛などの副作用が高頻度で出現するためです 。
参考)メマリーを使用したら認知症が悪化する?効果や注意点を徹底解説…
認知症の進行段階において、軽度では主にコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトなど)が第一選択となります 。中等度以降では、メマリーの単独投与またはコリンエステラーゼ阻害薬との併用療法が可能となり、相乗効果が期待できます 。
投与開始は通常5mgから始まり、1週間毎に5mgずつ段階的に増量し、最終的に維持量として20mgを1日1回投与します 。この慎重な漸増方法により、副作用の発現を最小限に抑えながら有効性を確保しています 。
参考)医療用医薬品 : メマリー (メマリー錠5mg 他)
メマリーの副作用プロファイルと安全性情報
メマリーの代表的な副作用はめまいで、特に投与開始初期に多く見られます 。このめまいは転倒リスクを高める可能性があるため、高齢者では特に注意が必要です 。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
その他の主要な副作用として以下が報告されています。
- 便秘(発現率3.2%)
参考)302 Found - 血圧上昇(発現率2.3%)
- 頭痛
参考)『メマリーOD錠20mg』薬辞典 - 食欲不振
- 体重減少
重大な副作用として、痙攣(0.3%)、失神、意識消失、精神症状(激越0.2%、攻撃性0.1%、妄想0.1%)、肝機能障害、横紋筋融解症、完全房室ブロックなどが挙げられています 。これらの症状が現れた場合は、速やかに医師への相談が必要です 。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=62587
メマリーは腎臓からそのままの形で排泄されるため、腎機能が低下している患者では半量投与が推奨されます 。半減期が約50時間と長いため、多少の飲み忘れがあっても効果が大きく低下することはありません 。
メマリーとアリセプトの併用による治療効果
メマリーとアリセプト(ドネペジル)は、異なる作用機序を持つため併用が可能です 。アリセプトはアセチルコリンエステラーゼ阻害作用により神経伝達を改善する一方、メマリーはNMDA受容体拮抗作用により神経細胞を保護します 。
参考)認知症の薬物療法-認知症の診断と治療|認知症の語り
この併用療法により、アルツハイマー型認知症の進行抑制において相乗効果が期待できるとされています 。実際の臨床現場では、中等度以降の患者で両剤を組み合わせて使用することが一般的になっています 。
参考)302 Found
併用時の効果判定は通常12週間を目安として行われますが、現在の年齢を超えて認知機能が改善することはないため、症状が変わらない場合でもそれは治療効果があったと判断されます 。メマリーは認知症の中核症状だけでなく、BPSD(認知症の行動・心理症状)に対しても改善効果を示すことが知られています 。
参考)メマンチン(メマリー)の特徴・作用・副作用|川崎市の心療内科…
メマリー独自の薬理学的特性と新たな治療領域
メマリーの薬理学的特性として、膜電位依存的な作用発現が挙げられます 。これは、神経細胞が病的に興奮している状態でのみメマリーが受容体に結合し、正常な神経活動時には受容体から離れるという巧妙なメカニズムです 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/16/4/16_20/_pdf
興味深いことに、メマリーは認知症治療以外の領域でも注目されています。2024年の報告では、統合失調症の陽性症状に対してメマンチンの増強薬としての有効性が示されました 。また、メマンチンの分子構造は酸素分子が付いていないため、肝酵素の影響を受けにくく、薬物相互作用が少ないという利点があります 。
日本では1日1回投与が承認されていますが、海外では1日2回投与が一般的です 。これは、国内で実施された臨床試験において1日1回投与でも十分な効果が確認されたためです 。
服薬のタイミングとして、メマリーの血中濃度が最高となる時間(Tmax)は約6時間後であり、この時間帯に副作用が現れやすいため注意が必要です 。糖尿病患者では認知症発症リスクが高いことが知られており、メマリーによる神経保護作用は特に重要な意味を持ちます 。