眼瞼癒着 とは 病態と対応
眼瞼癒着 とは 解剖学的定義と病態生理
眼瞼癒着とは、本来は分離している上下眼瞼あるいは眼瞼と眼球(角膜・結膜)が線維性に癒合し、瞼裂の開大や眼球運動が制限された状態を指す用語である。眼瞼縁同士が閉鎖する「瞼裂癒着」型と、眼瞼結膜が球結膜・角膜に付着する「瞼球癒着」型を臨床的に区別することが多く、視機能予後や手術戦略にも影響するため、診察時に癒着の部位と範囲を丁寧に評価することが重要になる。
眼瞼と角膜の癒着が強い場合、角膜上皮幹細胞疲弊や重度のドライアイ、角膜潰瘍を来しうるため、単なるまぶたの開閉障害ではなく「角結膜疾患」として包括的にマネジメントする視点が求められる。また先天性眼瞼下垂や脂腺癌など、原疾患が眼瞼構造そのものを変形させるケースでは、癒着が進行して初めて紹介されることもあり、眼瞼腫瘤や慢性眼瞼炎症例では早期から癒着の兆候を系統的にチェックしておくことが望ましい。
眼瞼癒着 とは 原因 疾患背景と眼瞼下垂・脂腺癌などとの関連
眼瞼癒着の原因としては、外傷や熱傷などの機械的損傷に加え、新生子眼炎や重度の結膜炎など炎症性疾患による瘢痕形成が古典的に知られている。眼瞼脂腺癌などの悪性腫瘍では、腫瘍浸潤に伴う組織破壊と瘢痕性収縮によって瞼裂全体が癒着し、開眼不能に至る症例も報告されており、高齢者の片側性難治性眼瞼炎では悪性腫瘍の鑑別が必須となる。
一方、加齢性あるいは先天性の眼瞼下垂に対する手術後の瘢痕や、自然癒着法・埋没法二重手術後の線維化が局所的な眼瞼癒着の一因となることがあり、美容医療領域での施術歴聴取は想像以上に重要な情報源になる。特に上眼瞼挙筋と皮膚を意図的に癒着させる自然癒着法では、過度な炎症や感染が介在すると、予定外の強固な癒着や眼瞼変形につながるリスクがあるため、術前から既存の眼瞼下垂や眼表面疾患の評価を行い、適応を慎重に選ぶ必要がある。
眼瞼癒着 とは 臨床症状 診断と画像評価のポイント
典型的な症状は、開眼困難・瞼裂狭小・眼痛・充血・流涙などだが、癒着部位が限局している場合には患者本人が「違和感」程度しか訴えず、他覚的な結膜瘢痕や眼瞼可動域制限から初めて異常に気づくことも少なくない。視機能への影響は、瞼裂遮蔽による視野障害と、角膜混濁や血管侵入による視力低下に大別されるため、矯正視力だけでなく検眼鏡での角結膜所見・視野検査を組み合わせた総合評価が望ましい。
スリットランプでの詳細観察に加え、癒着範囲の定量化や手術計画のためには前眼部OCTや眼瞼エコーが有用であり、とくに角膜上皮幹細胞疲弊症合併例では、角膜上皮の欠損範囲や輪部の構造変化を画像的に把握しておくと術後の予後予測に役立つ。また、眼瞼脂腺癌など腫瘍性病変が疑われるケースでは、MRIや造影CTによる周囲骨・眼窩内への浸潤評価を加えることで、切除範囲と再建方法の選択において過小手術・過大手術のバランスを取る助けとなる。
眼瞼癒着 とは 手術 合併症と再癒着予防の工夫
眼瞼癒着に対する治療の第一選択は外科的癒着解除であり、結膜囊再建術や羊膜移植を併用することで眼表面の再上皮化と結膜嚢の容量確保を図るのが一般的である。しかし羊膜移植を併用した症例でも、再発率が60%を超え複数回の手術を要したとの報告があり、とくに上下結膜嚢の両方に癒着がある症例や若年患者では再癒着リスクが有意に高いとされる。
再癒着予防として、術中にマイトマイシンCを併用する方法があるが、角膜毒性や遷延する上皮欠損のリスクも指摘されており、投与濃度と接触時間の厳密な管理、適応の慎重な選別が必要になる。眼瞼下垂手術や二重形成術に伴う軽度癒着では、早期の眼球運動・瞬目訓練やステロイド点眼による炎症コントロールが有効なことが多く、全てを手術に委ねるのではなく「術後リハビリ」の観点を取り入れた診療フローを構築することが再癒着抑制に寄与しうる。
眼瞼癒着 とは 先天性・動物症例から学ぶ意外な知見
先天性眼瞼下垂の一部では、上眼瞼挙筋やその支配神経の発達異常だけでなく、出生前後の眼瞼・結膜の癒着傾向が関与していると考えられる症例があり、生後早期からの眼瞼変形や斜視・頭位異常を伴う場合には、画像評価とともに眼瞼癒着の有無を意識して診察することが重要である。とくに乳幼児では、視覚発達に対する影響が成人よりも大きいため、癒着解除のタイミングを逃さないことが弱視予防の観点からも鍵となる。
興味深いことに、幼齢猫でしばしばみられる瞼球癒着は、新生子眼炎やウイルス感染(FHV-1など)を契機に眼瞼結膜や瞬膜が角膜に癒着する病態であり、動物医療では抗ウイルス薬とともに外科的癒着解除が行われている。これら獣医領域での知見は、人の重症新生子眼炎後の癒着管理を考える際のモデルともなりうるため、標準治療だけでなく他領域の症例報告にも目を向けることで、眼瞼癒着とは何かをより立体的に理解できる。
眼瞼癒着の診療では、原因疾患の把握と癒着の正確な評価、そして手術と術後管理のバランスが視機能予後を大きく左右する。眼瞼下垂手術や自然癒着法を含む美容的介入が増えるなかで、「眼瞼癒着とは瘢痕性合併症の一形態であり、早期から意識的に予防すべき病態である」という共通認識をチーム内で共有しておきたい。
眼瞼癒着と結膜囊再建術の詳細な術式・予後についての解説