眼瞼炎が治らない原因と対策

眼瞼炎が治らない要因

眼瞼炎の難治化の主な要因
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複合的な病態

細菌感染、マイボーム腺機能不全、デモデックス寄生などが同時に関与し、単一の治療では改善しにくい

加齢による慢性化

高齢者では皮脂腺の機能低下や涙液の質的変化により、治療抵抗性が高まる

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原因の見極め不足

細菌性・アレルギー性・寄生虫性など、原因に応じた適切な治療選択が必要

眼瞼炎の複合的な病態による難治化

高齢者の慢性眼瞼炎では、若年者の急性眼瞼炎とは異なり、複数の要因が複雑に絡み合っているケースが多いんです。急性期では細菌感染かアレルギーのいずれか単一の原因で発症することが多く、抗菌薬抗アレルギー薬で短期間に完治することも珍しくありません。

参考)慢性眼瞼炎


しかし慢性眼瞼炎の場合、マイボーム腺機能不全(MGD)、細菌叢の変化、デモデックス寄生、皮膚のバリア機能低下など、複数の病態が同時進行しているため、薬物治療だけでは十分な効果が得られないことがあります。

参考)眼瞼炎 – 17. 眼疾患 – MSDマニュアル プロフェッ…


治療を中止すると短期間で再発を繰り返すのも、この複合的な病態が背景にあるためです。​

眼瞼炎におけるマイボーム腺機能不全の関与

マイボーム腺は眼瞼内に存在し、涙液の蒸発を防ぐ油分を分泌する重要な器官ですよ。加齢に伴い、この油分がラードのように固まってしまい、腺の開口部が詰まることでマイボーム腺機能不全(MGD)が発症します。​
MGDは慢性眼瞼炎と密接に関連しており、実際に慢性眼瞼炎の症例では、ほとんどのケースでMGDが関与していると考えられています。油分の分泌障害により眼表面の環境が悪化し、細菌の増殖や眼瞼炎の場合、主にどのような治療をしますか? |眼瞼炎


温罨法やリッドハイジーン(眼瞼清拭)などの物理的なケアが重要視されるのは、このMGDへの対応が必要だからです。

参考)MGDについて|一般の方|LIME研究会

眼瞼炎治療におけるデモデックス寄生の見逃し

デモデックス(ニキビダニ)は、まつ毛の毛根やマイボーム腺に生息する寄生虫で、眼瞼炎の原因として近年注目されています。通常の細菌性眼瞼炎の治療を行っても改善しない場合、デモデックスの過剰増殖が原因となっている可能性があるんです。

参考)眼瞼炎がなかなか治らない場合は、どのような対策が考えられます…


デモデックス眼瞼炎の特徴として、まつ毛の根元に「カラレット」と呼ばれる特徴的な付着物が見られることがあります。診断には、まつ毛を採取して顕微鏡で観察する方法が用いられますが、通常の診察では見逃されやすいケースもあります。

参考)睫毛に潜むダニ


治療としては、ティーツリーオイル配合のリッドクレンザーやロチラナー点眼液などの抗寄生虫治療が有効です。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11311291/

眼瞼炎における生活習慣と環境要因の影響

眼瞼炎が治らない背景には、日常生活での習慣や環境要因も深く関わっています。アイメイクの落とし残し、コンタクトレンズの長時間使用、目をこする癖などは、眼瞼への刺激となり炎症を悪化させる要因です。

参考)眼瞼炎で薬が効かない場合、どうしたらよいですか? |眼瞼炎


また、パソコンやスマートフォンの長時間使用は瞬目回数を減少させ、マイボーム腺からの油分分泌を妨げることで、症状を慢性化させます。さらに、ストレス、睡眠不足、食生活の乱れなども、眼瞼の炎症を遷延化させる要因となるんです。

参考)目が乾くドライアイ・マイボーム腺機能不全|広島市中区のKAO…


乾燥した環境やエアコンの風が直接顔に当たる状況も、涙液の蒸発を促進し眼瞼炎を悪化させるため、環境調整も治療の一環として重要です。​

眼瞼炎の鑑別診断と見直しの重要性

眼瞼炎が治らない場合、そもそも診断が正確かどうかを再評価する必要があります。眼瞼の持続的な腫脹や炎症を呈する疾患には、接触性皮膚炎、丹毒、血管浮腫、肉芽腫性眼瞼炎、サルコイドーシス、さらには悪性リンパ腫など、様々な鑑別診断が存在するんです。

参考)長期経過をみた肉芽腫性眼瞼炎の1例 (皮膚科の臨床 66巻6…


特に肉芽腫性眼瞼炎は、通常の眼瞼炎治療では改善せず、ステロイド内服などの全身治療が必要となる疾患です。また、薬剤性眼瞼炎も見逃されやすく、点眼薬そのものやその防腐剤に対するアレルギー反応が原因となっているケースもあります。

参考)眼瞼縁炎 (臨床眼科 75巻11号)


治療に反応しない場合は、皮膚科や専門医への紹介を含めた診断の見直しが推奨されます。​

眼瞼炎の難治例に対する治療戦略

難治性眼瞼炎に対しては、従来の外用治療に加えて、全身的なアプローチが必要となることがあります。クラリスロマイシンミノマイシンなどのマクロライド系抗菌薬の長期内服は、抗炎症作用を期待して2週間から1ヶ月程度使用されることがありますよ。​
これらは外用薬では到達しにくい部位に作用し、特にマイボーム腺機能不全を伴う症例では一定の効果が認められています。ただし、耐性菌の問題もあるため、他の治療法で効果が得られない場合に限定して使用することが推奨されます。​
ステロイド点眼や眼軟膏も、炎症が強い場合には短期間使用されますが、長期使用は眼圧上昇や感染症のリスクがあるため注意が必要です。

参考)眼瞼炎は主にどのような薬で治療しますか?副作用はありますか?…

眼瞼炎における温罨法とリッドハイジーンの実践

薬物治療と並行して、患者自身が実践できるセルフケアとして、温罨法とリッドハイジーンが極めて重要です。温罨法は、眼の周辺を温めることでマイボーム腺の詰まりを緩和し、固まった油分を溶かして血流を改善する効果があります。

参考)マイボーム腺機能不全の治療(温罨法)について


具体的な方法としては、市販のホットアイマスク(あずきのチカラなど)を電子レンジで温めて5分程度目元にのせる方法や、温かいタオルを使用する方法があります。温罨法は国際標準治療として効果が認められており、まぶたの温度を適切に上昇させ一定時間保つことが重要です。​
リッドハイジーンは、専用のアイシャンプーやティーツリーオイル配合のクレンザーを使用して、まぶたの縁を清潔に保つ方法で、1日2回の継続的な実施が推奨されます。

参考)顔ダニ(ニキビダニ)の全て:症状・原因・治療法を専門医が解説…


慶應義塾大学の研究では、リッドハイジーンによる自覚症状と他覚所見の改善が確認されており、水だけよりも専用製品を使用した方が効果が高いことが示されています。

参考)まつ毛シリーズ 最終回 – 静岡県島田市の眼科【おおるり眼科…

眼瞼炎の栄養管理と食生活の改善

マイボーム腺から分泌される油分は、食事で摂取する脂質と深く関係しているため、栄養面からのアプローチも治療効果を高める要素となります。特にオメガ3脂肪酸は、涙液の質を改善し、マイボーム腺を健全に保つ効果が期待されているんです。

参考)眼瞼炎:まぶたの炎症の原因


具体的には、サバやイワシ、サケなどの魚類、アマニ油やエゴマ油などに豊富に含まれています。また、ビタミンDも涙液の油分をサポートする栄養素として注目されており、魚類からの摂取が推奨されます。​
ラクトフェリンを含むヨーグルトは、涙液の水分量を増やす効果が報告されており、ドライアイを伴う眼瞼炎には有用です。食生活の欧米化により肉類や加工食品の摂取が増えていますが、魚中心の食事への見直しが眼瞼炎の改善につながる可能性があります。​

眼瞼炎の再発予防とケアの継続

眼瞼炎は慢性疾患であり、症状が改善した後も再発予防のための継続的なケアが不可欠です。多くの患者さんが、症状が軽快すると治療やケアを中断してしまい、短期間で再発を繰り返すというパターンに陥りがちなんです。​
再発予防の最良の方法は、毎日のまぶた洗浄を習慣化し、細菌やバイオフィルム、デモデックスの増殖を防ぐことです。市販のまぶた洗浄剤や処方箋薬を使用した継続的なケアが推奨されます。​
また、定期的な眼科受診により、マイボーム腺の状態を確認し、必要に応じて専門的な処置(マイボーム腺の圧出など)を受けることも重要です。加齢が関係する病態であるため、完全に治癒するというよりは、症状をコントロールしながら生活の質を維持するという視点が大切になります。

参考)眼瞼炎(マイボーム腺機能不全MGD) の原因・症状・治療│大…

日本眼科学会などの専門機関が提供する情報も参考になります。

LIME研究会:眼瞼炎とマイボーム腺機能不全に関する詳細な情報と温罨法の実践方法
川本眼科:慢性眼瞼炎の複合的な要因と長期管理に関する医療従事者向け解説
MSDマニュアル:眼瞼炎の診断と治療に関する包括的な医学情報

眼瞼炎が治らないと悩む患者さんには、原因の多様性を理解し、複合的な治療戦略と継続的なセルフケアの重要性を丁寧に説明することが、治療成功への鍵となります。