眼瞼瘢痕病態と瘢痕拘縮の特徴
眼瞼瘢痕は、外傷や眼瞼下垂・重瞼などの手術後に生じる線維性組織で、皮膚の伸展性低下や硬結により眼瞼の可動性が制限される病態を指す。眼瞼は薄い皮膚と豊富な血流により創傷治癒が比較的良好な一方で、わずかな瘢痕でも開瞼障害や閉瞼不全につながりやすい点が他部位と異なる特徴である。瘢痕が垂直方向に収縮すると眼瞼外反や眼瞼内反、逆さまつげを引き起こし、角膜露出や結膜炎、ドライアイの増悪など視機能に直結する合併症を生じうるため、単なる整容上の問題として放置すべきではない。
瘢痕拘縮は張力の強い部位や関節部位に生じやすいが、ガイドラインでは眼瞼・口唇・鼻孔・耳介などの感覚器周囲の瘢痕拘縮は少しの変形でも機能障害を起こしうるため特に注意が必要とされている。眼瞼瘢痕では、瘢痕線の方向が皮膚割線と大きくずれている場合や、眼瞼縁付近での不適切な縫合によって、軽度の肥厚性瘢痕でも瞬目不全や眼瞼裂の変形が目立ちやすい。さらに、眼輪筋の瘢痕性短縮が加わると、単純な皮膚切除だけでは改善しない複合的変形となることがあり、早期から瘢痕の性状と周囲組織のバランスを評価することが重要である。
参考)眼瞼下垂手術後の修正手術 – オキュロフェイシャルクリニック…
眼瞼瘢痕ケロイドと肥厚性瘢痕の違い
一般にまぶたの瘢痕はケロイドになりにくく、多くは肥厚性瘢痕の範疇に入るとされている。ケロイドは創縁を超えて進行性に増大し、周囲の正常皮膚を飲み込むように拡大していくのに対し、肥厚性瘢痕は創縁の範囲内に限局し、時間経過とともに次第に扁平化・軟化しうる点が大きな違いである。眼瞼は皮膚が極めて薄く、真皮も浅層であるため、ケロイドのような過剰なコラーゲン沈着が起こりにくい解剖学的背景があると説明されており、実際に眼瞼の真のケロイド症例は「学術報告レベル」で稀とされている。
しかし、臨床現場では「ケロイド体質」の患者が眼瞼手術に強い不安を抱いていることが少なくない。日本人を含む有色人種はケロイド・肥厚性瘢痕が生じやすいが、それでも胸骨前面や肩など高張力部位と比較して、まぶたは瘢痕が目立ちにくい部位とされている。その一方で、眼瞼瘢痕では盛り上がりよりも線状の引きつれや段差が問題となることが多く、外見上「線状シワ」のように見えても、患者本人は「ケロイドになった」と表現することがある。医療者側は、ケロイドと肥厚性瘢痕・瘢痕拘縮の違いを丁寧に説明し、不必要な不安を軽減しつつ、必要な予防策(テーピング・圧迫・外用剤など)を提案することが求められる。
参考)肥厚性瘢痕 ケロイド|形成外科・リンパ浮腫 LSクリニック …
眼瞼瘢痕保存療法と創傷管理の実際
眼瞼瘢痕の初期対応では、創傷管理の段階から張力軽減と炎症制御を意識することが重要である。創傷治癒ガイドラインでは、瘢痕形成リスクの高い創に対して、早期の適切な縫合、汚染コントロール、必要に応じた人工真皮や皮弁・植皮の活用が推奨されており、顔面の露出部位では特に整容性と機能を両立した修復を目指すべきとされる。眼瞼では小さな欠損であっても「無理な一次縫縮」による張力集中が瘢痕拘縮の温床となるため、欠損の大きさと位置によっては、あえて局所皮弁を用いて張力を分散させる選択肢も念頭に置く必要がある。
保存療法としては、瘢痕成熟期にシリコンシートやテーピングによる圧迫・伸展を行い、局所の張力を和らげることが肥厚性瘢痕・瘢痕拘縮予防に有用とされている。瘢痕の赤みや痒み、硬結が目立つ場合には、トリアムシノロンなどの局所ステロイド注射を少量・分割で注入することで、線維芽細胞の増殖抑制やコラーゲン沈着の抑制を図ることができる。眼瞼は皮膚が薄く萎縮や脂肪萎縮による陥凹のリスクが高いため、ステロイドの濃度と投与量には他部位以上の慎重さが必要であり、経験のある形成外科・眼形成外科での施行が望ましい。瘢痕の隆起が改善し、赤みのみが残存する症例では、Nd:YAGやダイレーザーなど血管ターゲットのレーザー照射が選択肢となるが、現時点で保険適用は限られており、適応とコストを患者と共有した上で選択する必要がある。
日本形成外科学会などのガイドラインに基づく創傷管理や瘢痕治療の推奨内容(保存療法と手術の適応)を詳しく知りたい場合の参考リンク。
急性創傷診療ガイドライン(瘢痕拘縮やZ形成術などの治療指針)
眼瞼瘢痕手術修正とZ形成術・皮弁術のポイント
眼瞼瘢痕による機能障害や顕著な変形がある場合、保存療法のみでは限界があり、Z形成術や皮弁術・植皮術を用いた手術的修正が必要になる。瘢痕拘縮に対するZ形成術は、線状瘢痕の長さを機械的に延長し、張力方向を変えることで拘縮を緩和する伝統的な手技であり、ガイドラインでも瘢痕拘縮の第一選択として有効性が示されている。眼瞼の場合、Z形成の角度や大きさを小ぶりに調整し、睫毛列からの距離や眼裂の形態を意識したデザインとすることで、拘縮解除と整容性を両立させることができる。瘢痕が眼瞼縁近傍に及ぶ場合には、単純な皮膚のみのZ形成ではなく、眼輪筋や瞼板前組織の解離を含めた層別の剥離が必要となることが多い。
二重全切開や眼瞼下垂手術後の瘢痕では、「しっかりとした重瞼ライン」が形成されず、線状の瘢痕として残存している症例が少なくない。このようなケースでは、単に瘢痕組織を切除するだけでなく、伸びてしまった挙筋腱膜やミュラー筋を短縮・前転し、適切な位置で瞼板に固定し直すことで、機能的な開瞼と自然な重瞼ラインを再構築することが重要になる。また、前回切開線より下方の余剰皮膚を追加切除することで、睫毛の覆いかぶさりや三重・四重まぶたを改善できることが報告されている。瘢痕の強い症例では、瘢痕切除後に単純縫縮が困難な場合もあり、その際は局所皮弁や小範囲の全層植皮を組み合わせることで眼瞼裂の形態を保ちつつ欠損を補う必要がある。
参考)形成外科診療ガイドライン 1 2021年版 皮膚疾患/頭頸部…
眼瞼下垂や他院手術後の修正手術における瘢痕剥離と再建の実際症例、切開線デザインの工夫などの参考となるリンク。
眼瞼下垂手術後の修正手術(オキュロフェイシャルクリニック大阪)
眼瞼瘢痕と眼瞼下垂・ドライアイの関連(独自視点)
眼瞼瘢痕はしばしば見た目の問題として語られるが、実際には眼瞼下垂やドライアイと密接に関連しており、患者の自覚症状の聴取が診療上の重要なポイントとなる。瘢痕が上眼瞼の折りたたみを阻害すると、挙筋機能に問題がなくても見かけ上の眼瞼下垂様の所見を呈することがあり、この場合は挙筋短縮よりも瘢痕剥離と皮膚の再配置が有効となる。逆に、挙筋腱膜の前転不足や癒着が瘢痕と組み合わさっているケースでは、単純な瘢痕切除では改善が乏しく、眼形成外科的な詳細な機能評価(挙筋機能テストやフェニレフリンテスト)に基づいた術式選択が求められる。
また、眼瞼瘢痕による軽度の閉瞼不全や瞬目障害は、患者本人が「目が乾く」「コンタクトがしみる」といった訴えで初めて顕在化することがある。ドライアイ診療では角結膜上皮障害や涙液層の評価が中心となるが、眼瞼瘢痕の有無や瞬目の質(閉瞼のスピード・完全性)を観察することで、症状の背景にある構造的問題を見逃さずに済む。特に、美容目的の眼瞼手術歴がある患者では、カルテに「重瞼術のみ」と記載されていても、実際には過度の皮膚切除や深い剥離により眼輪筋や脂肪組織が損傷されていることがあり、わずかな瘢痕でも涙液分布に影響を与えている可能性がある。こうした観点から、眼瞼瘢痕を診る際には、単に瘢痕の形態評価にとどまらず、「瞬目機能」「涙液安定性」「眼瞼下垂の有無」を一体として評価することが、医療従事者に求められる独自の視点と言える。
眼瞼下垂や関連する眼瞼手術の適応・評価法について、ガイドラインレベルで確認したい場合の参考リンク。