眼瞼びらん原因診断治療
眼瞼びらんと眼瞼炎・皮膚炎の関係
眼瞼びらんは、多くの場合「眼瞼炎」や眼瞼皮膚炎の一病態として生じる表在性の皮膚欠損であり、まぶたの掻破や摩擦、慢性炎症が背景に存在することが多い。前部眼瞼炎ではブドウ球菌感染を背景に黄色い滲出物や皮膚びらん、睫毛脱落などがみられ、炎症が遷延すると眼瞼皮膚が肥厚し慢性化しやすい。
アトピー性皮膚炎を有する症例では、眼瞼の紅斑・浮腫・ただれに加え、強い掻痒から持続的なこすりが生じ、眼瞼皮膚が厚く硬くなる過程でびらんや亀裂を伴いやすい。
アトピー性眼瞼炎では、まぶたの炎症だけでなく結膜・角膜病変(アトピー性角結膜炎)を合併しやすく、まばたきや涙液の角膜保護作用が低下することで角膜びらんが併発することがある。眼瞼側のびらんだけでなく、角膜上皮障害の有無を必ず同時に評価することが重要である。
重篤薬疹(多形紅斑、Stevens-Johnson症候群など)では、眼瞼の発赤腫脹や結膜充血とともに水疱・びらんが出現しうるため、びらんを伴う眼瞼炎症例では全身状態と薬剤歴の聴取が不可欠である。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000218908.pdf
眼瞼びらんの原因とリスク因子(点眼薬・コンタクトレンズを含めて)
眼瞼びらんの原因として、アトピー性皮膚炎や接触性皮膚炎(点眼薬、防腐剤、化粧品、クレンジング剤など)、細菌・ウイルス感染、薬疹、自己免疫疾患など多様な因子が挙げられる。長期の点眼薬使用では、有効成分だけでなく塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤やpH調整剤が眼瞼の接触皮膚炎を起こし、びらんに至るケースがある。
点眼薬の副作用としては、眼刺激感、掻痒感、角膜障害(疼痛、見えにくさ、異物感)、眼瞼炎(まぶたのただれ)などが知られており、過量点眼や溢れた液の拭き取り不足でリスクが高まる。点眼後に化粧品やマスクが接触することで薬液が保持され、局所濃度が上昇する状況にも注意が必要である。
コンタクトレンズ装用中の点眼では、防腐剤がレンズに吸着し角膜障害リスクを高めることが指摘されているが、まぶた側にも長時間接触することで眼瞼炎・びらんを助長しうる。特に酸素透過性の低いレンズや長時間装用では、角膜の酸素不足と点眼成分の影響が相まって上皮障害が生じやすく、角膜びらん・眼瞼びらんが同時に出現することもある。
意外なリスク因子として、セルフケア目的の市販点眼薬の多剤併用や、清涼感を求めた頻回点眼が挙げられる。患者が「副作用の少なそうなドライアイ点眼」と認識していても、防腐剤や添加物に対する感作が進行しているケースがあり、原因検索時にはOTC薬を含めた全点眼歴の聴取が重要になる。
眼瞼びらんの症状評価と診断のポイント
眼瞼びらんの臨床像は、紅斑・浮腫・滲出を伴う湿潤面から、痂皮形成を伴う亀裂状のびらんまで幅広い。眼瞼炎の診断では、前部眼瞼炎では睫毛根部の痂皮や皮脂、皮膚びらん、後部眼瞼炎ではマイボーム腺開口部の異常や脂質分泌異常が特徴とされ、これらの所見と眼瞼皮膚傷害の分布をあわせて評価する。
アトピー性皮膚炎関連では、顔面や頸部の皮疹分布、皮膚の乾燥傾向、既往歴(喘息、アレルギー性鼻炎など)を確認し、眼瞼に限局した病変か全身病変の一部かを明確にする必要がある。アトピー性角結膜炎を疑う場合は、結膜の肥厚・充血・乳頭増殖、角膜びらんや点状表層角膜症の有無を細隙灯で丁寧に観察する。
薬剤起因が疑われる場合は、症状出現時期と新規薬剤(全身薬・局所薬)の導入タイミング、投与量変化との関連を時間軸で整理し、可能ならパッチテストや薬剤変更による改善を観察する。重篤薬疹の初期には眼瞼の発赤・腫脹・びらんが先行することもあるため、口腔粘膜や外陰部など他部位の粘膜症状の有無も必ず確認したい。
診断名としては、原疾患に応じて「前部眼瞼炎」「後部眼瞼炎」「アトピー性眼瞼炎」「薬剤性接触皮膚炎」などを用い、眼瞼びらんはその重症度指標として記載する形が臨床的に有用である。眼瞼の局所所見だけでなく、視機能への影響(羞明、視力低下、見えにくさ)を問診し、角膜病変の合併を見逃さないことが求められる。
眼瞼びらん治療とスキンケア・薬剤調整の実際
眼瞼びらんの治療では、まず原因除去と機械的刺激の軽減が基本であり、誘因となる点眼薬や化粧品、防腐剤含有製品の中止・変更を検討する。アトピー性皮膚炎が背景にある場合は、全身管理とあわせて眼瞼への低力価ステロイド外用薬やカルシニューリン阻害薬外用などが選択されるが、眼周囲へのステロイド長期使用による眼圧上昇や白内障リスクにも配慮が必要である。
眼瞼炎を伴う場合は、眼瞼縁の清拭や温罨法を組み合わせ、マイボーム腺機能不全を伴う後部眼瞼炎では脂質分泌の改善も図る。細菌感染が疑われるときは抗菌薬点眼・軟膏を適切に用いる一方で、びらん面へのアルコール含有製品や刺激性洗浄剤は避け、バリア機能を損なわないようにすることが重要である。
点眼薬起因が疑われるケースでは、防腐剤フリー製剤への切り替えや、点眼回数・1回量の見直し、点眼後に余剰薬液を清潔なガーゼで優しく拭き取る指導が有効である。長期に複数の点眼を使用している患者には、併用数の整理や間隔調整に加え、「痛みやかゆみがあれば自己判断で中止せず受診する」という方針を共有しておくと、重篤なびらん進展を防ぎやすい。
スキンケアとしては、眼瞼周囲の洗浄をぬるま湯や低刺激洗浄料で短時間にとどめ、ゴシゴシこすらないよう具体的に説明することが大切である。外用薬の塗布量や順序を絵や写真で示す、メイク・クレンジングの選び方を個別に助言するなど、患者教育を含めた包括的なアプローチが再発予防につながる。
眼瞼びらんの治療指針・注意点(アトピー性皮膚炎と目の合併症解説)
参考)アトピー性皮膚炎と目
眼瞼びらんとチーム医療:看護・薬剤・患者教育の実践的視点(独自)
眼瞼びらんは病名として前面に出にくい一方で、日常生活レベルのQOLに直結し、掻破による増悪サイクルを形成しやすい。診察室での短時間の説明だけでは生活上の行動変容が難しいことが多く、看護師によるセルフケア指導(洗顔方法、こすらない工夫、冷罨法の使い方など)を組み込んだチーム医療が有用である。
薬剤師は処方・OTCを含めた全ての点眼薬と外用薬を一元的に確認し、防腐剤や添加物の重複、複数ブランドの同効薬併用などをチェックする役割を担える。特に「ドラッグストアで自分で買い足した目薬」や「美容目的のアイケア製品」は医師に申告されないことが多く、薬剤師からのフィードバックが眼瞼びらんの原因同定に直結することがある。
また、アトピー性皮膚炎やアレルギー疾患をもつ若年患者では、ゲーム・スマートフォンなどスクリーン使用時間が長く、眼精疲労から無意識の目こすりにつながるケースがある。生活指導の一環として、就寝前のデジタルデトックスや保冷アイマスクの活用など、「こすらずにかゆみ・疲れを紛らわせる具体的代替行動」を提案すると実行に移されやすい。
電子カルテ上で「眼瞼びらん・眼瞼炎既往」をアラートとして可視化し、新規処方時に高濃度防腐剤含有点眼や刺激性外用薬を避ける運用にすることも、チームとしての予防戦略になりうる。びらんが軽快した後も、季節変動や環境変化に応じたフォローアップ計画を立てることで、再燃時の早期受診・早期介入につなげたい。