MCTDの医療的理解を深める
MCTDの多彩な臨床症状とレイノー現象
混合性結合組織病(MCTD)は、単一の疾患ではなく、全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症(SSc)、多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)といった複数の膠原病の症状が、文字通り「混合」して現れるのが特徴です 。そのため、患者さんによって出現する症状は多岐にわたります 。
MCTDに最も特徴的で、多くの患者さん(80〜90%)に見られる初期症状がレイノー現象です 。これは、寒冷刺激や精神的な緊張によって手足の指先の血管が収縮し、血流が悪くなることで、指の色が白→紫→赤へと変化する現象です 。レイノー現象はMCTDの診断基準の共通所見にも含まれています 。
参考)混合性結合組織病(指定難病52) – 難病情報セ…
その他のMCTDでみられる主な症状には、以下のようなものがあります。
- 指・手の腫れ:ソーセージのように指全体が腫れあがる「ソーセージ様腫脹」は、MCTDに特徴的な所見とされています 。
- 関節炎:約80%の患者さんに見られ、SLEに似た多発関節炎を呈します 。朝のこわばりや、関節の痛み、腫れが主な症状です。
- 筋力低下:多発性筋炎様の症状として、腕や足の筋力低下や筋肉痛が見られることがあります。
- 皮膚症状:SLE様の蝶形紅斑や、強皮症様の皮膚硬化など、様々な皮膚症状が現れる可能性があります。
- 全身症状:発熱、全身倦怠感、リンパ節の腫れなどもよく見られる症状です 。
このように、MCTDは様々な膠原病の症状がモザイク状に重なり合っているため、「オーバーラップ症候群」の一つとして分類されることもあります 。
参考)混合性結合組織病|大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内…
MCTDの診断基準と鑑別診断のポイント
MCTDの診断は、その多彩な症状から、単一の検査だけで確定することは難しく、複数の臨床所見や検査結果を総合的に評価する必要があります 。診断には、厚生労働省の研究班が作成した診断基準が用いられます 。
MCTDの診断基準(2019年改訂版)の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| I. 共通所見 | 1. レイノー現象2. 指または手背の腫脹 |
| II. 免疫学的所見 | 抗U1-RNP抗体陽性 |
| III. 特徴的な臓器所見 | 1. 肺動脈性肺高血圧症2. 無菌性髄膜炎3. 三叉神経障害 |
| IV. 混合所見 | A. 全身性エリテマトーデス(SLE)様所見B. 強皮症(SSc)様所見C. 多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)様所見 |
診断は、以下の組み合わせでなされます。
- Iのうち1つ以上 + II + IVのうち2つのカテゴリー以上にまたがる所見が1つ以上
- Iのうち1つ以上 + II + IIIのうち1つ以上
診断における最大の鍵は、血液検査で検出される抗U1-RNP抗体が陽性であることです 。この自己抗体はMCTDの診断に不可欠な免疫学的所見とされています。
参考)混合性結合組織病(mixed connective tiss…
しかし、他の膠原病でも抗U1-RNP抗体が陽性になることがあるため、鑑別診断が重要になります。特に、SLE、強皮症、多発性筋炎との鑑別が必要です。他の疾患に特異的な自己抗体(例:抗dsDNA抗体、抗Sm抗体など)が陽性の場合は、MCTDの診断はより慎重に行う必要があります 。
MCTDの治療法とステロイド・免疫抑制薬
MCTDの治療は、現れている症状や臓器障害の種類、重症度に応じて決定されます。根本的な治療法はまだ確立されておらず、病気の活動性をコントロールし、症状を緩和することが治療の主目的となります。治療の基本は、他の膠原病と同様に、ステロイドと免疫抑制薬が中心となります 。
主な治療薬
- ステロイド(副腎皮質ホルモン)。
MCTDの多くの症状に対して有効で、治療の第一選択薬となることが多いです 。関節炎、筋炎、漿膜炎(胸膜炎や心膜炎)、発熱などの炎症を抑える効果があります。重症度に応じて投与量が調整されますが、長期使用による副作用(感染症、糖尿病、骨粗しょう症など)には注意が必要です。
- 免疫抑制薬。
ステロイドだけでは効果が不十分な場合や、ステロイドの減量を目指す場合に併用されます 。アザチオプリン(イムラン)、メトトレキサート(リウマトレックス)、シクロホスファミド(エンドキサン)、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)などが用いられます。どの薬剤を選択するかは、標的となる臓器や症状によって異なります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9568491/
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。
関節痛などの軽い症状に対して用いられます。ただし、MCTDでみられる無菌性髄膜炎では、NSAIDsの使用が症状を悪化させる可能性があるため禁忌とされています 。
- 血管拡張薬。
レイノー現象に対して、血流を改善する目的でカルシウム拮抗薬やプロスタグランジン製剤などが使用されます。また、後述する肺動脈性肺高血圧症の治療には、特異的な血管拡張薬が不可欠です 。
治療は、個々の患者さんの病態に合わせてテーラーメイドで行われます。一般的にMCTDはステロイドへの反応性が良好とされていますが、強皮症様の皮膚硬化や肺線維症は治療に難渋することもあります 。
MCTD患者の予後と注意すべき合併症(肺高血圧症)
MCTDはかつて予後良好な疾患と考えられていましたが、長期的な経過観察により、生命予後に影響を及ぼす重篤な合併症が存在することが明らかになってきました 。5年生存率は約94〜97%と比較的高いものの、注意深い経過観察が重要です 。
MCTDの生命予後に最も大きな影響を与える合併症が、肺動脈性肺高血圧症(PAH)です 。これは、心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血圧が異常に高くなる病態で、MCTD患者の4〜10%に合併すると報告されています 。PAHが進行すると、右心不全を引き起こし、生命を脅かす可能性があります 。
参考)混合性結合組織病
肺高血圧症のスクリーニングの重要性
PAHは初期段階では自覚症状が乏しく、労作時の息切れなどの症状が現れたときには、すでに病状が進行していることが多いです 。そのため、MCTDと診断された患者さんには、自覚症状がなくても定期的に心エコー(心臓超音波)検査を行い、PAHを早期に発見することが極めて重要です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089901.pdf
その他の注意すべき合併症には以下のようなものがあります。
- 間質性肺炎:肺が硬くなる肺線維症に進行し、呼吸困難を引き起こすことがあります。
- 無菌性髄膜炎:頭痛、発熱、嘔吐などを伴う髄膜の炎症です 。
参考)混合性結合組織病(指定難病52) – 難病情報セ…
- 三叉神経障害:顔面に激しい痛みが走る症状です 。
- 心筋炎・心膜炎:心臓の筋肉や膜に炎症が起こります。
- 腎障害:SLE様のループス腎炎を合併することがあります。
死因としては、肺高血圧症や心不全といった心肺系の合併症のほか、ステロイドや免疫抑制薬治療に伴う感染症、特に呼吸器感染症が多いと報告されています 。
より詳しいMCTDの診療ガイドラインについては、以下のリンクが参考になります。
混合性結合組織病(MCTD)診療ガイドライン2021 – 難治性疾患政策研究事業 混合性結合組織病分科会による詳細なガイドラインです。
MCTDと自己免疫性甲状腺疾患の意外な関係
MCTDの診療において、見過ごされがちながら臨床的に重要なのが、自己免疫性甲状腺疾患、特に橋本病(慢性甲状腺炎)の合併です。MCTDはそれ自体が自己免疫の異常によって引き起こされる疾患ですが、他の自己免疫疾患を併発しやすい傾向があります。その中でも、橋本病の合併頻度は比較的高く、注意が必要です 。
なぜ合併に注意が必要なのか?
- 症状の重複。
甲状腺機能低下症(橋本病でよく見られる状態)の症状である「倦怠感」「むくみ」「寒がり」「筋力低下」などは、MCTD自体の症状とも非常に似ています。そのため、MCTDの活動性が悪化したのか、それとも甲状腺機能低下症が新たに出現・悪化したのか、症状だけでは区別がつきにくい場合があります。
- 治療への影響。
甲状腺機能の異常は、全身の代謝に影響を与え、MCTDの病状コントロールにも影響を及ぼす可能性があります。見逃された甲状腺機能低下症が、患者さんのQOL(生活の質)を低下させている一因となっていることも少なくありません。
- 診断のヒント。
MCTD患者さんを診察する際には、甲状腺の腫れ(甲状腺腫)の有無を触診で確認することが、合併症の早期発見の第一歩となります。
MCTD診療ガイドライン2021でも、橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患の併発に注意し、定期的に甲状腺機能検査(血液検査でTSH、FT4などを測定)を行うことが推奨されています 。MCTDという複雑な病態を管理する上では、このような一見すると別の領域に見える合併症にも目を配る、包括的な視点が不可欠と言えるでしょう。これは、検索上位にはあまり出てこない、臨床現場で役立つ実践的な知識です。

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