慢性疲労症候群の診断基準
慢性疲労症候群の最新診断基準と中核症状
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断基準は、日本医療研究開発機構(AMED)研究班により策定されており、医師が診断に用いる評価期間の50%以上で認められる必要があります 。
参考)慢性疲労症候群の診断基準とは? – コラム|小西統合医療内科
主要な診断要件は以下の通りです。
- 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下 – 病前の職業、学業、社会生活と比較して明らかに新たに発生した状態で、PS(performance status)3以上の状態
- 活動後の強い疲労・倦怠感 – 身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む活動後の症状悪化
- 睡眠障害、熟睡感のない睡眠 – 休息によっても改善しない疲労感の持続
- 認知機能の障害または起立性調節障害のいずれかを伴う
これらの症状が6ヶ月以上持続ないし再発を繰り返すことが診断の前提となります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/33/1/33_40/_pdf
慢性疲労症候群の鑑別診断と除外すべき疾患
ME/CFSの診断において最も重要なのは、類似症状を呈する他の疾患を系統的に除外することです 。確定診断できる特異的検査が存在しないため、除外診断による消去法的アプローチが不可欠となります。
参考)慢性疲労症候群 – 26. その他の話題 – MSDマニュア…
除外すべき主要疾患群:
- 臓器不全 – 肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など
- 内分泌疾患 – 甲状腺機能異常、副腎疾患、糖尿病など
- 膠原病・自己免疫疾患 – 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、線維筋痛症など
- 精神疾患 – うつ病、双極性障害、統合失調症、薬物依存症など
ただし、これらの疾患が治療により病態が改善している場合は、1年間(がん、主な神経系疾患、双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症などは5年間)以上にわたって疲労の原因とは考えられない状態が続いている場合は除外しません 。
慢性疲労症候群診断に必要な最低限の臨床検査
ME/CFSの診断確定には、別表1-1に記載された最低限の検査実施が必須とされています 。これらの検査は鑑別診断のために系統的に実施する必要があります。
必須検査項目:
- 基本検査 – 尿検査(試験紙法)、便潜血反応(ヒトヘモグロビン)
- 血液一般検査 – WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像
- 炎症反応 – CRP、赤沈
- 血液生化学 – TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、血清電解質、血糖
- 特殊検査 – 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体
- 画像検査 – 心電図、胸部単純X線撮影
これらの検査により器質的疾患を除外し、ME/CFS診断の信頼性を高めることができます 。
慢性疲労症候群における症状評価とPS分類
ME/CFSの診断では、PS(Performance Status)による疲労・倦怠の程度評価が重要な役割を果たします 。PS分類は0から9までの10段階で患者の機能レベルを評価し、診断基準ではPS3以上の状態であることが必要とされています。
参考)慢性疲労症候群
PS分類の詳細:
- PS 0-2 – 通常の社会生活可能だが倦怠感あり
- PS 3-4 – 月に数日から週に数日の休息が必要
- PS 5-6 – 軽作業は可能だが週の50%以上休息必要
- PS 7-9 – 通常の社会生活困難、介助が必要な状態
また、小基準として11項目の症状基準と3項目の身体所見基準があり、「症状基準8項目以上」または「症状基準6項目+身体所見基準2項目以上」を満たすことでCFS診断となります 。
症状基準には微熱、咽頭痛、リンパ節腫張、筋力低下、筋肉痛、労作後疲労、頭痛、移動性関節痛、精神神経症状、睡眠障害、急性発症などが含まれます 。
慢性疲労症候群の隠れた病態機序と新たな診断マーカー
近年の研究により、ME/CFSの病態生理について新たな知見が蓄積されています。特に注目すべきは、ヘルペスウイルスの再活性化、抗核抗体の関与、さらには腸内細菌叢の変化が診断マーカーとして期待されていることです 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/57701ea645096724f26ce1cf82eeb3b1abdf5670
新興の診断マーカー:
- ヘルペスウイルス再活性化 – EBV、HHV-6、CMVなどの潜伏ウイルスの再活性化が病態に関与する可能性が示唆されています
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/8762da70f276b00e54993157e0b6be6b2ab67bc2
- 抗核抗体 – ME/CFS患者において特定の抗核抗体パターンが観察される報告があります
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/d8e3880b704b7c632838969a9d6d35b2ca7e06b0
- 腸内微生物叢の変化 – 低存在量微生物の枯渇とベタインなどの血中代謝産物濃度変化がME/CFSの鑑別特徴として注目されています
これらの生物学的マーカーは、将来的にME/CFSの客観的診断法開発に寄与する可能性があります。また、機能的制限指数(Functional Limitation Index: FLI)のような客観的生理学的パラメータも、臨床的疑いを支持する新たなアプローチとして研究が進められています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10672372/
感染後疲労症候群(感染後CFS)として、COVID-19後遺症としてのME/CFS様症状も重要な臨床課題となっており、早期診断・治療介入の重要性が高まっています 。