マンノースC 一覧と特性
マンノースCの化学的特性と構造
マンノースは、アルドヘキソースに分類される単糖の一種です。化学式はC6H12O6で、分子量は180.16 g/molとなっています。マンノースの特徴として、グルコースの2位エピマーであることが挙げられますが、グルコースとは大きく性質が異なります。
マンノースには、D-(+)-マンノースとL-(-)-マンノースの2種類が存在し、それぞれのCAS登録番号は[3458-28-4]と[10030-80-5]です。融点は132~133℃で、単体としてはD体が果実や果皮などに自然に含まれています。一方、L体は天然には存在しないことが知られています。
溶液中では、マンノースは主に6員環のマンノピラノース形態で存在し、α-D-マンノピラノース(約67%)とβ-D-マンノピラノース(約33%)の平衡混合物として存在しています。また、5員環のマンノフラノース形態も微量(1%未満)存在します。
マンノースの誘導体としては、アルドン酸であるマンノン酸、ウロン酸であるマンヌロン酸、アルダル酸であるマンナル酸、アルジトールであるマンニトールなどがあります。また、ロブリー・ド・ブリュイン=ファン・エッケンシュタイン転位という平衡反応により、マンノース、グルコース、フルクトースの混合物が得られることも特徴的です。
マンノースCと免疫系の相互作用メカニズム
マンノースは免疫系において重要な役割を果たしています。特に、マンノース結合レクチン(MBL)は自然免疫系の補体経路を活性化する重要な因子です。MBLは別名マンノースまたはマンナン結合タンパク(MBP)とも呼ばれ、コレクチンの一因子として機能します。
MBLは病原体表面に存在するマンノースやN-アセチルグルコサミンなどの糖鎖を認識します。MBLの構造には、システインリッチドメイン、コラーゲン様ドメイン、糖鎖認識ドメインが含まれており、複合体にはMASP(MBL関連セリンプロテアーゼ)と呼ばれるC1r/C1s様セリンプロテアーゼが含まれています。これらのプロテアーゼはC4やC2、C3を分解し、補体系を活性化します。
MBLを介した補体活性化経路は「レクチン経路」と呼ばれ、古典的経路や代替経路とは独立して機能します。この経路は抗体やC1qに依存せず、直接オプソニン作用を示すため、自然免疫系において非常に重要な役割を担っています。
興味深いことに、哺乳類のN型糖鎖にもマンノース修飾は頻繁に見られますが、MBLは外因性のマンノースを特異的に認識できます。これは、病原菌のマンノース修飾が哺乳類のものに比べて密度が高いためと考えられています。C型レクチンのドメインは、マンノースのOH3とOH4に配位したCa2+イオンを好みますが、単一のマンノースとの結合のアフィニティーは非常に低く(Kd値が約1mM)、1:1の反応では免疫反応を引き起こせません。
しかし、MBLは三量体構造をとっており、病原菌表面の多数のマンノース残基と多価的に結合することができます。MBLの糖鎖結合サイト間の距離は約50Åであり、この多価的な結合により、単一のマンノース結合に比べてアフィニティーが約1,000倍向上することが明らかになっています。
マンノースC一覧における受容体の種類と機能
マンノースを認識する受容体は複数存在し、それぞれ異なる機能を持っています。主要なマンノース受容体としては、以下のものが挙げられます。
- マンノース結合レクチン(MBL/MBP)。
- 自然免疫の補体経路を活性化
- 肝細胞で合成され、血清中に存在
- マウスではMBL-AとMBL-Cの2種類が存在(血清中のMBL-C濃度はMBL-Aの約6倍)
- DC-SIGN(Dendritic Cell-Specific ICAM-3 Grabbing Non-integrin)。
- 樹状細胞に発現し、病原体の捕捉に関与
- HIV外被蛋白質gp120の結合タンパク質として機能
- 樹状細胞とTリンパ球の初期接着に重要
- Langerin。
- ランゲルハンス細胞に特異的に発現
- 三量体構造で、結合サイト間の距離は約40Å
- HIVに対する防御機構として機能
- Dectin-2。
- Manα1-2Man構造を認識する特性を持つ
- 他のC型レクチンと異なり、内部のマンノース残基も認識可能
- 長いマンナン型糖鎖の認識に優れている
- マンノース受容体(MR)。
- マクロファージや樹状細胞に発現
- 外来異物の捕捉に関与
- ミコバクテリア由来のマンノース付加リポアラビノマンナン(ManLAM)と結合
これらの受容体は、C型レクチンと呼ばれるタンパク質ファミリーに属しており、糖認識ドメインの構造、分子内に含まれる糖認識ドメインの個数、N末端の向き、細胞質領域のアミノ酸配列などに多様性を示します。また、マクロファージや樹状細胞の特定の亜集団に特異的に発現するものもあり、細胞マーカーとしても利用されています。
マンノースCの医療応用と薬物送達システム
マンノースの特性を活かした医療応用研究が進んでいます。特に注目されているのが、D-マンノースの免疫調節機能と、マンノース受容体を標的とした薬物送達システム(DDS)です。
D-マンノースは、生理学的レベルを超える濃度で投与することで、自己免疫性糖尿病や気道炎症などの免疫病態を抑制する効果があることが動物実験で示されています。具体的には、D-マンノースは制御性T細胞(Treg細胞)の分化を誘導し、その割合を増加させることで免疫抑制効果を発揮します。このメカニズムには、TGF-β活性化の促進が関与しており、インテグリンαvβ8の発現上昇と、脂肪酸酸化の増加により産生される活性酸素種が重要な役割を果たしています。
一方、マンノース受容体を標的としたDDSの開発も進んでいます。肝臓には内皮細胞やクッパー細胞などのマンノース受容体発現細胞が存在し、これらを標的とした薬物送達が可能です。特に注目されているのが、ヒト血清アルブミン(HSA)を利用したDDSです。
HSAは血中に最も豊富に存在する糖鎖を持たない単純タンパク質で、様々な薬物の輸送担体として機能します。研究者たちは、HSAに人工的に糖鎖付加配列を導入し、高マンノース型HSA(Man-HSA)を作製することに成功しています。この方法では、ピキア酵母による発現系を利用し、約12残基のマンノースと2残基のN-アセチルグルコサミンが付加されたMan-HSAを得ています。
マンノース受容体の一つであるDectin-2は、7残基以上のマンノースユニットからなるリガンドを認識することが知られており、このような特性を利用して特定の細胞への薬物送達が可能になります。また、マンノース受容体のヒトとマウス間における相同性は非常に高く(MRC1の場合94.7%、MRC2の場合96.5%)、マウスでの研究成果が臨床応用にも期待できる点も重要です。
マンノースCと病原体認識における最新研究動向
マンノースと関連受容体による病原体認識メカニズムに関する研究は近年急速に進展しています。C型レクチンは病原体認識受容体(PRR)として機能し、様々な病原体の表面に存在する糖鎖パターンを認識します。
特に注目すべき点として、マンノース結合レクチン(MBL)とHIVなどのウイルスとの相互作用があります。HIVは宿主細胞に感染する際、樹状細胞上のDC-SIGNなどのC型レクチンを利用することが知られています。ウイルスはまず末梢の粘膜組織に分布する樹状細胞上のC型レクチンに結合し、この細胞の移動能を利用して二次リンパ器官へ移動・定着した後、Tリンパ球に感染を広げるというモデルが提唱されています。
一方で、ランゲルハンス細胞に発現するlangerinはHIVに対する防御機構として機能することが報告されており、同じC型レクチンでも病原体に対して異なる役割を果たしていることが明らかになっています。
また、真菌感染に対する防御においても、C型レクチンが重要な役割を果たしています。酵母細胞壁に由来するβグルカンの受容体としてdectin-1が同定されており、その細胞質領域にはITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)配列が存在し、単独で、さらにToll-like受容体と共同して活性化シグナルを伝達することができます。dectin-1遺伝子欠損マウスの解析により、この系が真菌に対する感染防御に重要であることが証明されています。
興味深いことに、一部の病原体はこれらの受容体を利用して宿主の免疫応答を抑制することも知られています。例えば、ミコバクテリア由来のマンノース付加リポアラビノマンナン(ManLAM)はDC-SIGNやマンノース受容体と結合し、Toll-like受容体による樹状細胞の成熟化を抑制すると考えられています。
最新の研究では、マンノース受容体を標的とした新しいワクチン開発も進められています。マンノース修飾された抗原は、効率的に抗原提示細胞に取り込まれ、より強力な免疫応答を誘導することが示されています。このアプローチは、感染症や癌に対する新しいワクチン戦略として期待されています。
さらに、マンノースの代謝と免疫応答の関連についても新たな知見が得られています。マンノース代謝の異常は先天性糖鎖合成障害(CDG)と呼ばれる疾患群を引き起こすことが知られていますが、最近の研究では、マンノース代謝が免疫細胞の機能にも影響を与えることが明らかになってきています。特に、T細胞の活性化や分化におけるマンノース代謝の役割が注目されており、免疫疾患の新たな治療標的として期待されています。