マクロライド系抗生物質一覧と特徴
日本の肺炎球菌の約80%がマクロライド系に耐性です
マクロライド系抗生物質の基本構造と分類
マクロライド系抗生物質は、大きなラクトン環に糖が結合した特徴的な化学構造を持つ抗菌薬です。このラクトン環を構成する原子数によって、14員環、15員環、16員環の3つに大別されます。
14員環マクロライドには、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシンが含まれます。これらは日本の医療現場で最も頻繁に使用されてきた抗生物質の一つです。エリスロマイシンは1952年にフィリピンの土壌から発見された最初のマクロライド系抗生物質で、その後の開発の基礎となりました。クラリスロマイシン(商品名:クラリス、クラリシッド)はエリスロマイシンの6位水酸基をメチル化することで酸安定性を向上させた改良型です。
つまり14員環が基本形ということですね。
15員環マクロライドの代表はアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)です。14員環マクロライドに窒素原子を1つ加えることで15員環構造となり、組織移行性が大幅に改善されました。この構造変化により、体内での半減期が大幅に延長し、3日間の服用で約7日間の抗菌効果が持続するという独特の薬物動態を示します。
16員環マクロライドには、ジョサマイシン(商品名:ジョサマイ)、ロキタマイシンなどが含まれます。14員環に比べて苦味が少ないという特徴があり、小児への投与においてコンプライアンスの向上が期待できます。
各環構造によって薬物動態特性、組織移行性、代謝経路、そして薬物相互作用のリスクが異なります。特に14員環マクロライドは肝臓の薬物代謝酵素CYP3A4を強く阻害するため、併用薬との相互作用に注意が必要です。15員環のアジスロマイシンはCYP3A4への影響が少なく、薬物相互作用のリスクが低いという利点があります。
マクロライド系抗生物質の主要商品一覧と用法
医療現場で使用される主要なマクロライド系抗生物質を環構造別に整理すると、処方時の判断がスムーズになります。
14員環マクロライド系の代表薬
エリスロマイシン(商品名:エリスロシン)は、通常成人に1回200~400mg(力価)を1日4回経口投与します。ただし胃酸で分解されやすく、消化器症状が出やすいという欠点があります。そのため、現在では改良型のクラリスロマイシンが主流となっています。
クラリスロマイシンは最も処方頻度が高いマクロライド系抗生物質です。
一般感染症では成人に1回200mg(力価)を1日2回、12時間ごとに経口投与します。慢性副鼻腔炎に対するマクロライド少量長期療法では、通常量の半分である1回100mg(力価)を1日2回、3~6か月間継続投与することで、抗菌作用ではなく抗炎症作用・免疫調節作用を期待します。ヘリコバクター・ピロリ除菌では、プロトンポンプ阻害薬、アモキシシリンと併用し、1回400mg(力価)を1日2回7日間投与する三剤併用療法が標準です。
15員環マクロライド系の代表薬
アジスロマイシン(商品名:ジスロマック)は、組織移行性と半減期の長さが最大の特徴です。一般感染症では成人に1回500mg(力価)を1日1回、3日間経口投与します。3日間の服用で約7日間の有効な組織内濃度が維持されるため、服薬アドヒアランスが向上します。尿道炎・子宮頸管炎では1回1000mg(力価)を単回経口投与する治療法もあります。
治療期間が短くて済むのは患者にとって大きなメリットです。
16員環マクロライド系の代表薬
ジョサマイシン(商品名:ジョサマイ)は、通常成人に1回200mg(力価)を1日3~4回経口投与します。16員環マクロライドは14員環に比べて苦味が少ないため、小児の服薬コンプライアンスが良好です。ロキタマイシン(商品名:リカマイシン)も同様に、通常成人に1回100mg(力価)を1日3回経口投与します。
各薬剤の用法用量は感染症の種類、重症度、年齢によって調整が必要です。特にアジスロマイシンは肺炎など重篤な感染症では5日間投与を行い、確実な治療効果を追求するケースもあります。
マクロライド系抗生物質の作用機序と適応菌種
マクロライド系抗生物質は、細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合してタンパク質合成を阻害することで抗菌作用を発揮します。この作用機序により、細菌の増殖を抑える静菌的な効果を示します。
適応菌種としては、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌などのグラム陽性菌に加え、モラクセラ・カタラーリス、インフルエンザ菌などの一部のグラム陰性菌にも有効です。しかし、マクロライド系の最も重要な適応は、細胞壁を持たない非定型病原体に対する抗菌作用です。
非定型病原体への特異的効果
マイコプラズマ・ニューモニエ(マイコプラズマ肺炎の原因菌)、クラミジア・ニューモニエ、クラミジア・トラコマティス、レジオネラ属など、ペニシリン系やセフェム系抗生物質が無効な非定型病原体に対して優れた抗菌力を発揮します。これらの細菌は細胞壁を持たないため、細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗生物質では治療できません。
マクロライド系が非定型肺炎の第一選択薬となる理由がここにあります。
その他、百日咳菌、カンピロバクター、ヘリコバクター・ピロリ、非結核性抗酸菌(特にマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス)などにも適応があります。非結核性抗酸菌症では、クラリスロマイシン1日800mg(力価)を2回に分けて他の抗結核薬と併用する多剤併用療法が標準です。
耐性菌の現状と処方時の注意点
日本ではマクロライド系抗生物質の使用量が多く、耐性菌の増加が深刻な問題となっています。肺炎球菌では約80%がマクロライド系に耐性を持つとされ、インフルエンザ菌に対しても感性率が低下しています。マイコプラズマ肺炎では、日本を含むアジア地域でマクロライド耐性率が約50%に達しているという報告もあります。
耐性菌問題が最も深刻なのは日本を含むアジア地域です。
このため、市中肺炎などの一般的な呼吸器感染症に対して、マクロライド系単独での処方は推奨されなくなってきています。マイコプラズマやクラミジアが明確に診断された場合、または培養結果でマクロライド感性が確認された場合に限定して使用すべきです。耐性菌が疑われる場合は、テトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)やニューキノロン系(レボフロキサシンなど)への切り替えを検討します。
マクロライド系抗生物質の薬物相互作用とCYP3A4阻害
マクロライド系抗生物質、特に14員環のエリスロマイシンとクラリスロマイシンは、肝臓の薬物代謝酵素CYP3A4を強力に阻害します。この酵素阻害により、CYP3A4で代謝される多くの薬剤の血中濃度が上昇し、重篤な副作用を引き起こすリスクが高まります。
禁忌となる併用薬
エリスロマイシンまたはクラリスロマイシンと以下の薬剤の併用は、致死的不整脈(QT延長、心室頻拍、トルサード・ド・ポアント)を引き起こす可能性があるため禁忌です。ピモジド(抗精神病薬)、エルゴタミン製剤(片頭痛治療薬)などがこれに該当します。
併用禁忌薬を見落とすと患者の命に関わります。
併用注意が必要な薬剤
スタチン系高脂血症治療薬(シンバスタチン、アトルバスタチンなど)との併用では、スタチンの血中濃度が上昇し、横紋筋融解症のリスクが増大します。免疫抑制薬のタクロリムスやシクロスポリンとの併用では、これらの薬剤の血中濃度が上昇し、腎障害などの副作用リスクが高まります。
抗凝固薬ワルファリンとの併用では、ワルファリンの代謝が阻害され作用が増強するため、INR値のモニタリング頻度を増やす必要があります。ベンゾジアゼピン系睡眠薬(トリアゾラム、ミダゾラムなど)との併用では、鎮静作用が過度に増強される可能性があります。
カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、経口血糖降下薬など、CYP3A4で代謝される薬剤は非常に多岐にわたります。
クラリスロマイシンのCYP3A4阻害作用は、併用開始後すぐではなく4~10日後に顕著になることが報告されています。また投与中止後も数日間は影響が残るため、この時間的経過を考慮した処方管理が求められます。
相互作用リスクが低いマクロライド系
15員環のアジスロマイシンは、CYP3A4への阻害作用が極めて弱いため、薬物相互作用のリスクが大幅に低減されます。併用薬が多い高齢者や、CYP3A4で代謝される薬剤を服用中の患者には、アジスロマイシンの選択が安全性の観点から推奨されます。
薬物相互作用を回避するならアジスロマイシン一択ということですね。
処方時には電子カルテの相互作用チェック機能を活用し、併用薬の確認を徹底することが医療安全上不可欠です。特に循環器疾患、精神疾患、移植後などで多剤併用している患者では、薬剤師との連携が重要になります。
マクロライド系抗生物質の副作用と使用上の注意
マクロライド系抗生物質は比較的安全性の高い抗菌薬とされていますが、特有の副作用と注意すべきリスクが存在します。
消化器症状
最も頻度が高い副作用は消化器症状です。下痢、軟便、腹痛、悪心、嘔吐などが報告されています。マクロライド系は腸管のモチリン受容体を刺激して消化管運動を促進するため、これらの症状が出やすくなります。特にエリスロマイシンで消化器症状の発現頻度が高く、クラリスロマイシンやアジスロマイシンでは比較的軽減されています。
軽度の下痢であれば治療を継続できますが、激しい水様便や血便を伴う場合は、偽膜性大腸炎の可能性を考慮して投与中止を検討します。
心血管系への影響
QT延長症候群、心室頻拍、トルサード・ド・ポアントなどの重篤な不整脈が報告されています。特に心疾患の既往がある患者、QT延長のある患者、低カリウム血症のある患者では注意が必要です。高齢者では加齢に伴う心機能低下があるため、循環器疾患の有無を事前に確認することが重要です。
心電図異常がある患者には慎重投与が原則です。
肝機能障害
劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、肝不全などの重篤な肝障害が報告されています。AST、ALT、Al-Pなどの肝機能検査値の上昇がみられた場合は、投与中止を検討します。もともと肝機能障害のある患者では、マクロライド系の投与により肝障害が悪化する可能性があるため、定期的な肝機能モニタリングが必要です。
その他の重要な副作用
間質性肺炎、好酸球性肺炎などの肺障害が発現することがあります。発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常、好酸球増多などの症状が現れた場合は、直ちに投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与などの適切な処置を行います。
皮膚症状としては、発疹、蕁麻疹、Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死融解症(TEN)などの重篤な皮膚障害も報告されています。味覚異常、聴力低下、耳鳴りなどの感覚器症状が出現することもあり、特に高用量・長期投与時に注意が必要です。
特殊な患者群への注意
妊婦への投与は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ行います。マクロライド系は比較的安全とされていますが、妊娠初期の投与は慎重に判断します。授乳中の女性では、マクロライド系が母乳中に移行するため、授乳を避けるか投与を避けることを検討します。
小児では体重に応じた用量調整が必要です。
腎機能障害のある患者では、マクロライド系の血中濃度が上昇する可能性があるため、投与量の調整または投与間隔の延長を考慮します。クレアチニンクリアランスが30mL/min未満の重度腎機能障害患者では、特に慎重な投与が求められます。
マクロライド系の特殊な使用法:少量長期療法と抗炎症作用
マクロライド系抗生物質には、抗菌作用とは別に抗炎症作用や免疫調節作用があることが明らかになっており、この特性を活かした特殊な治療法が確立されています。
慢性副鼻腔炎に対する少量長期療法
14員環マクロライド(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン)を通常量の半分の用量で3~6か月間投与する治療法です。クラリスロマイシンでは、通常量200mg1日2回のところを100mg1日2回で投与します。
この治療では抗菌作用ではなく抗炎症作用を期待しています。
マクロライド系は好中球の活性化を抑制し、炎症性サイトカインの産生を減少させ、粘液の過剰分泌を抑制します。また気道上皮細胞の線毛運動を促進し、粘液の排出を助けます。これらの作用により、慢性的に炎症が持続している副鼻腔粘膜の状態が改善されます。
少量長期療法では、通常の抗菌薬投与と異なり、多剤耐性菌の誘導リスクが低いとされています。ただし、この治療法は好中球優位型の慢性副鼻腔炎に有効であり、好酸球性副鼻腔炎では効果が期待できないため、病態の正確な診断が前提となります。
びまん性汎細気管支炎への応用
びまん性汎細気管支炎に対しても、エリスロマイシン少量長期療法が著効することが日本で発見され、世界的に評価されています。これにより予後が劇的に改善し、死亡率が大幅に低下しました。
滲出性中耳炎への適応
小児の滲出性中耳炎に対しても、マクロライド少量長期療法が行われることがあります。中耳腔の炎症を抑制し、貯留液の減少を促すことで、難治性の滲出性中耳炎の改善が期待できます。
少量長期療法は日本発の治療法として国際的に認められています。
長期投与時の注意点
少量とはいえ抗生物質を長期間投与するため、定期的な診察と検査が必要です。肝機能検査、血液検査を適宜実施し、副作用の早期発見に努めます。耐性菌出現のリスクを最小化するため、適応を厳密に判断し、漫然とした投与は避けるべきです。
効果判定は通常2~3か月後に行い、効果が不十分な場合は他の治療法への切り替えを検討します。逆に症状が改善した場合でも、急激な中止は再燃のリスクがあるため、段階的な減量・中止を計画的に行います。
この抗炎症作用を活かした治療法は、マクロライド系抗生物質が単なる抗菌薬ではなく、炎症性疾患の治療薬としても機能することを示す重要な例です。ただし、この治療法は保険適応の範囲や用法用量の規定を十分に理解した上で実施する必要があります。
日本薬理学雑誌のマクロライド系抗菌薬に関する総説(PDF)では、マクロライド系の多面的作用について詳しく解説されています。
厚生労働省の抗微生物薬適正使用の手引き(PDF)では、マクロライド系抗菌薬の適正使用に関する最新のガイドラインが示されています。

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