瞼縁肥厚症 眼瞼炎 MGD 病態 診断と治療

瞼縁肥厚症 眼瞼炎 MGD 病態と診療

瞼縁肥厚症の全体像
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病態と関連疾患の整理

瞼縁肥厚症は、慢性眼瞼炎やマイボーム腺機能不全(MGD)と重なりながら進行し、眼瞼縁の発赤・痂皮・皮膚肥厚・睫毛乱生などを伴うことが多い病態です。

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診断のキーポイント

スリットランプでの眼瞼縁の肥厚・不整・血管拡張、マイボーム腺開口部閉塞や濃厚な分泌物の性状確認が、MGD関連の瞼縁肥厚を評価するうえで重要です。

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治療とセルフケア

温罨法・眼瞼清拭・マイボーム腺圧出などの局所ケアとともに、必要に応じて抗菌薬・ステロイド・ドライアイ治療薬を組み合わせ、慢性炎症と瞼縁リモデリングを抑える戦略が求められます。

瞼縁肥厚症 眼瞼炎とマイボーム腺機能不全の病態

瞼縁肥厚症は独立した単一疾患というより、慢性眼瞼炎マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)が長期に持続した結果として、眼瞼縁に構造的変化が生じた状態と理解すると臨床的に整理しやすくなります。 慢性眼瞼縁炎では、眼瞼縁の発赤・痂皮・潰瘍性変化に加え、皮膚肥厚や眼瞼変形をきたし得ることが報告されており、この過程で瞼縁肥厚が進行します。

MGDでは、マイボーム腺開口部の閉塞や分泌物の粘稠化により、瞼縁後方部の炎症と血管拡張、眼瞼縁不整が出現し、長期化すると瞼縁の線維化・瘢痕化が目立つようになります。 こうした慢性炎症と組織リモデリングの結果として、瞼縁が厚ぼったく丸みを帯びて見える「瞼縁肥厚症」の外観が形成され、同時に睫毛乱生や睫毛欠損、眼瞼外反・内反など機能的問題も合併しやすくなります。

参考)Blepharitis – EyeWiki

原因としては、ブドウ球菌などによる感染性眼瞼炎、脂漏性皮膚炎や酒さに伴う眼瞼炎、長期にわたるコンタクトレンズ装用、アイメイクによるマイボーム腺開口部閉塞、加齢・脂質代謝異常など、多因子が関与するとされます。 特に、ドライアイ症状を訴える患者の約8割でMGDが関与するとする報告もあり、ドライアイ外来で出会う「なんとなく赤く厚くなった瞼縁」の背景に、瞼縁肥厚症が潜んでいるケースは想定以上に多いと考えられます。

参考)眼瞼炎 – 17. 眼疾患 – MSDマニュアル プロフェッ…

瞼縁肥厚症 診断のポイントと鑑別

診察ではまず、裸眼およびスリットランプを用いた眼瞼縁の観察が基本であり、前方(皮膚側)と後方(結膜側)双方から肥厚の程度や局在を評価します。 具体的には、瞼縁の幅・丸み・色調、血管拡張の有無、痂皮やフケ様鱗屑、潰瘍や糜爛、瘢痕と眼瞼変形(外反・内反)などをチェックし、瞼縁肥厚が炎症主体か、線維化主体かを推定します。

MGDの関与が疑われる場合には、マイボーム腺開口部の閉塞や「キャッピング」、圧迫による分泌物の性状(透明・さらさらか、練り歯磨き状・黄色濁)、開口部周囲の血管拡張や眼瞼縁不整、粘膜皮膚移行部の前後移動などを系統的に観察することが重要です。 同時に、角膜上皮障害(点状表層角膜症、辺縁部浸潤)、結膜充血、涙液破壊時間(BUT)低下など、ドライアイや二次的角結膜障害の所見をセットで評価すると、病態全体を把握しやすくなります。

参考)マイボーム腺機能不全

鑑別すべき疾患としては、眼瞼皮膚炎(アレルギー・接触皮膚炎)、麦粒腫・霰粒腫、脂漏性皮膚炎、眼瞼腫瘍(脂漏性角化症、基底細胞癌など)、眼瞼浮腫を主体とする全身性疾患(甲状腺眼症など)が挙げられます。 片側性・限局性の硬い肥厚や潰瘍性変化を伴う場合には、悪性腫瘍を念頭に置き、生検などを含む精査を躊躇しないことが、見逃し防止のうえで重要なポイントになります。

参考)疾患から診療科を探す(当院で診療可能な疾患か否かは、事前にお…

瞼縁肥厚症 MGDと眼瞼炎の治療戦略

瞼縁肥厚症の治療は、単独の「肥厚」をターゲットとするより、背景にある眼瞼炎・MGD・ドライアイを包括的にマネジメントするアプローチが実際的です。 基本は、温罨法によるマイボーム腺分泌物の軟化、眼瞼清拭による痂皮・汚れ・メイク残渣の除去、マイボーム腺圧出による古い脂の排出など、物理的ケアを軸とした慢性管理になります。

薬物療法としては、感染性眼瞼炎には局所抗菌薬、炎症が強い場合は短期的なステロイド点眼・軟膏が用いられ、MGDに対しては涙液補充、温罨法に加え、重症例ではテトラサイクリン系経口薬が検討されることがあります。 近年は、MGDに対する専用デバイス(温熱・マイボーム腺マッサージ機器)や、有田式マイボーム腺圧迫鑷子による定期的な圧出など、器械的治療のオプションも報告されており、慢性例の瞼縁肥厚やドライアイ症状の改善に寄与し得るとされています。

瞼縁の線維化や瘢痕化が高度で、眼瞼外反・内反や睫毛乱生により角膜障害を繰り返す場合には、眼瞼形成外科的な介入(睫毛乱生の処置、眼瞼の位置矯正など)が検討されます。 一方で、高齢者や基礎疾患を多く抱える患者では、手術よりも疼痛・異物感のコントロールと視機能の維持を優先し、保守的治療を長期に継続する選択も現実的です。

瞼縁肥厚症 日常ケアと患者指導の工夫

慢性眼瞼炎やMGDに関連する瞼縁肥厚は、外来での処置だけでは改善が不十分であり、患者による日常的なセルフケアが治療成否を大きく左右します。 温罨法は「何度も勧めているのに続かない」典型的なセルフケアですが、具体的な回数・時間(例:1日2回、5〜10分)と、やり方(清潔なタオル・専用ホットマスクなど)を詳細に示すことで、継続率が上がると報告されています。

アイメイク文化の広がりとともに、まつ毛エクステやアイラインの描き方がマイボーム腺開口部閉塞の一因となっていることも見逃せません。 眼科的には「メイクは控えてください」と一言で済ませがちですが、具体的には「まつ毛の生え際より内側にアイラインを引かない」「ウォータープルーフ製品はなるべく避ける」「クレンジング後に綿棒で瞼縁を優しく拭き取る」など、瞼縁を守るメイク・クレンジングのコツを提示すると、患者の納得度が高まりやすくなります。

あまり知られていない視点として、メタボリックシンドロームや脂質異常症、喫煙など全身要因がMGDと関連し、瞼縁肥厚やドライアイの増悪リスクとなる可能性が指摘されています。 眼科外来での短時間の栄養・生活指導は難しいものの、「ドライアイと瞼縁の状態が全身の脂質バランスとも関係し得る」という情報を共有し、かかりつけ内科との連携や禁煙指導につなげることで、眼局所のみならず全身のリスクマネジメントに貢献できる余地があります。

参考)https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0738081X23000846

瞼縁肥厚症 医療従事者が押さえたい意外なポイント

臨床では、瞼縁肥厚を「慢性炎症の後遺症」として受動的に捉えがちですが、実際には周辺の眼瞼・角結膜環境の変化を読み解くことで、全身疾患や生活背景の手がかりになる場合があります。 例えば、左右差の強い瞼縁肥厚や血管拡張に加え、顔面の酒さ様皮疹や鼻部の紅斑を伴う症例では、眼瞼酒さとの関連を疑い、皮膚科との連携を図ることで、眼症状だけを繰り返し治療していた場合よりも再発を抑えられる可能性があります。

もう一つの意外なポイントとして、瞼縁肥厚がある患者の一部では、夜間就寝中の眼瞼閉鎖不全やCPAPマスクによる風の当たり方など、睡眠環境が角結膜乾燥と眼瞼炎の慢性化に関与しているケースがあります。 睡眠時無呼吸症候群治療中の患者や、ドライアイが強いのに昼間のPC作業時間だけでは説明がつかない症例では、「寝るときに目がちゃんと閉じているか」「CPAPマスクや送風口が顔に直接当たっていないか」といった生活上の質問を加えることで、瞼縁肥厚症の増悪因子を拾い上げられる可能性があります。

医療従事者にとっては、瞼縁肥厚そのものを治し切ることが難しい症例も多い一方で、「炎症は鎮静化し、角膜障害を防げている」「これ以上変形を進めない」という治療目標の共有が重要になります。 その際、診察室で撮影した瞼縁写真を時系列で提示し、「赤みは減り、痂皮も少なくなっているが、肥厚は瘢痕として残っている」と視覚的に説明すると、患者の「治っていない」という不満を和らげ、セルフケア継続のモチベーションを高める一助となるでしょう。

参考)https://suzumura-ganka.com/byoki/pdf/130815.pdf

眼瞼炎と瞼縁肥厚、MGD、ドライアイの関係を包括的に整理した日本語の概説として参考になります(病態と診療戦略全般の参考)。

眼瞼炎について|LIME研究会

マイボーム腺機能不全(MGD)の原因・診断・治療や、マイボーム腺圧出の実際が解説されており、瞼縁肥厚症の背景理解に有用です。

マイボーム腺機能不全(MGD)の原因|うえの眼科

慢性眼瞼炎とマイボーム腺機能不全の診断・治療に関する専門的解説で、瞼縁の所見評価や治療オプション検討の参考になります。

眼瞼炎|MSDマニュアル プロフェッショナル版