急性胆管炎の症状と発熱・黄疸・腹痛の特徴

急性胆管炎の症状

 

急性胆管炎の基本情報
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急性胆管炎とは

胆管内に起きた急性の炎症で、胆汁のうっ滞と細菌感染が主な原因となります。死亡率は約3〜10%とされる緊急性の高い疾患です。

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主な原因

胆石による胆管閉塞が最も多く、その他に腫瘍、先天性の構造異常、寄生虫などが原因となることもあります。

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治療の緊急性

適切な治療がなされないと敗血症に進行し、生命の危険が生じることがあります。早期の抗生剤治療と胆道ドレナージが重要です。

 

急性胆管炎は、胆管内に起きた急性の炎症状態です。胆管は肝臓で作られた胆汁を十二指腸へと運ぶ管で、この管が胆石や腫瘍などによって閉塞し、細菌感染が加わることで発症します。死亡率が約3〜10%とされる緊急性の高い疾患であり、適切な初期対応が重要です。

かつては死亡率が50%以上とも報告されていましたが、診断技術や治療法の進歩により現在は大幅に改善しています。しかし、依然として重症化すると命に関わる可能性がある疾患として注意が必要です。

急性胆管炎の症状:シャルコーの3徴とは

急性胆管炎の典型的な症状として「シャルコーの3徴」が知られています。これは1877年にフランスの医師ジャン=マルタン・シャルコーによって初めて報告された症状の組み合わせです。

シャルコーの3徴とは以下の3つの症状です。

  1. 発熱:多くの場合38℃以上の高熱となり、悪寒(おかん)を伴うことが特徴です。悪寒とは単なる寒気ではなく、歯がガタガタ、体がブルブル震えるほどの強い寒気を指します。
  2. 黄疸:皮膚や白目が黄色くなる症状です。胆汁の成分であるビリルビンが血液中に流出することで起こります。胆汁が腸へ流れなくなるため、便の色が薄くなり、尿の色は濃くなるのも特徴です。
  3. 右上腹部痛:右の肋骨の下あたりに痛みを感じます。痛みの性質は鈍痛から激痛まで様々で、時に右肩や背中に放散することもあります。

これらの症状がすべて揃う場合は急性胆管炎の可能性が高いですが、実際には3つの症状がすべて揃うケースは研究によって15〜72%と報告にばらつきがあり、必ずしもすべての症状が現れるわけではありません。

急性胆管炎の重症度と危険な症状

急性胆管炎は重症度によって治療方針が異なります。東京ガイドラインでは、急性胆管炎を以下の3段階に分類しています。

  • 軽症(Grade I):初期の医学的治療に反応し、症状が改善するもの
  • 中等症(Grade II):臓器障害はないが、初期治療に反応せず症状が改善しないもの
  • 重症(Grade III):少なくとも1つの臓器障害を伴うもの

特に注意すべき危険な症状として「レイノルズの5徴」があります。これはシャルコーの3徴に加えて以下の2つの症状が加わったものです。

  1. 意識障害:混乱、見当識障害、意識レベルの低下など
  2. ショック状態血圧低下、頻脈、呼吸数増加など

レイノルズの5徴が見られる場合は敗血症に進行している可能性が高く、緊急の医療介入が必要です。研究によるとレイノルズの5徴が揃うケースは3.5〜7.7%と比較的まれですが、致命的な状態を示唆するため、早急な対応が求められます。

急性胆管炎の初期症状と見逃しやすいサイン

急性胆管炎は典型的な症状が出る前に、いくつかの初期症状が現れることがあります。これらの症状は他の消化器疾患と似ているため見逃されやすく、注意が必要です。

初期症状として以下のようなものが挙げられます。

  • 腹部の違和感:はっきりとした痛みではなく、不快感や膨満感として感じることがあります
  • 食欲低下:食べる意欲が減退します
  • 吐き気・嘔吐:特に食後に悪化することがあります
  • 全身倦怠感:体がだるく感じる症状です

また、黄疸は徐々に進行するため自覚しにくいことがあります。自分では気づきにくい場合でも、家族や周囲の人が「顔色が黄色い」と指摘することで発見されるケースもあります。特に白目(眼球結膜)の黄染は比較的早期から現れ、気づきやすい症状です。

さらに、高齢者では典型的な症状が現れにくく、発熱や腹痛がはっきりしないまま全身状態が悪化することがあります。高齢者が原因不明の体調不良を訴える場合は、急性胆管炎の可能性も考慮する必要があります。

急性胆管炎と胆石の関係:腹痛パターンの特徴

急性胆管炎の最も一般的な原因は胆石です。胆石が胆管を閉塞することで胆汁のうっ滞が生じ、細菌感染が加わることで胆管炎が発症します。

胆石による急性胆管炎では、特徴的な腹痛のパターンが見られることがあります。それが「胆石発作」あるいは「胆道疝痛(せんつう)」と呼ばれるものです。

胆石発作の特徴。

  • 発作的な痛み:突然始まり、徐々に強くなる痛みが特徴です
  • 食後の増悪:特に脂肪の多い食事の後に起こりやすくなります
  • 持続時間:数分から数時間続くことがあります
  • 放散痛:右肩や背中に痛みが広がることがあります

胆石による閉塞が一時的に解消されると痛みは軽減しますが、完全に閉塞した状態が続くと急性胆管炎へと進行します。この場合、痛みは持続的になり、発熱や黄疸などの他の症状も加わってきます。

また、胆石の大きさや位置によって症状の現れ方が異なります。小さな胆石が胆管に詰まると急性胆管炎を引き起こしやすい一方、大きな胆石は胆嚢管を閉塞して急性胆嚢炎を引き起こすことが多いです。

急性胆管炎の診断方法と検査の重要性

急性胆管炎の診断には、症状の評価に加えて各種検査が重要な役割を果たします。早期診断と適切な治療のために行われる主な検査には以下のようなものがあります。

血液検査

  • 白血球数:感染症の指標として上昇します
  • CRP(C反応性タンパク):炎症の程度を示す指標として上昇します
  • 肝機能検査:AST、ALT、ALP、γ-GTPなどの肝胆道系酵素が上昇します
  • ビリルビン:黄疸の指標として上昇します

画像検査

  • 腹部超音波検査(エコー):最も基本的な検査で、胆管の拡張や胆石の有無を確認できます。非侵襲的で外来でも簡便に行えるメリットがありますが、肥満の方や腸管ガスが多い場合は評価が難しいことがあります。
  • CT検査:胆管の状態や周囲の臓器との関係を詳細に評価できます。造影CTを行うことで、炎症の程度や膿瘍形成の有無なども評価可能です。
  • MRI/MRCP:磁気共鳴胆管膵管造影法とも呼ばれ、胆管や膵管の状態を非侵襲的に詳細に評価できる検査です。小さな胆石や胆管の狭窄部位の同定に優れています。
  • ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影):内視鏡を用いて直接胆管を造影する検査で、診断と同時に治療(胆石除去や胆管ドレナージなど)も行えるメリットがあります。ただし、侵襲的な検査であり、急性膵炎などの合併症のリスクがあります。

これらの検査結果と臨床症状を総合的に評価することで、急性胆管炎の診断と重症度の判定が行われます。特に東京ガイドラインでは、A. 炎症所見、B. 胆管閉塞の所見、C. 臨床症状の3つの要素から診断基準が設定されています。

早期診断は治療成績の向上に直結するため、症状から急性胆管炎が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。

急性胆管炎と黒色食道:知られざる合併症

急性胆管炎の稀ではあるものの重要な合併症として、「黒色食道」または「急性壊死性食道炎」があります。これは食道粘膜が黒色に変色する深刻な病態で、急性胆管炎の重症例に併発することがあります。

黒色食道は、食道粘膜の虚血性変化によって引き起こされると考えられています。急性胆管炎による敗血症性ショックや循環不全が食道への血流を低下させ、粘膜の壊死を引き起こすメカニズムが推測されています。

この合併症の特徴は以下の通りです。

  • 内視鏡所見:食道下部を中心に黒色の粘膜変化が見られます
  • 症状:吐血や嚥下困難、胸痛などを伴うことがあります
  • 予後:基礎疾患である急性胆管炎の重症度に大きく依存します

黒色食道を合併した急性胆管炎の症例報告は比較的少ないですが、重症急性胆管炎の患者で消化管出血や嚥下困難などの症状がある場合には、この合併症の可能性も考慮する必要があります。

重症急性胆管炎に併発し,急性十二指腸粘膜病変を伴った急性壊死性食道炎(黒色食道)の1例

治療としては、基礎疾患である急性胆管炎の適切な管理が最も重要です。胆道ドレナージや抗生剤治療によって胆管炎をコントロールすることで、食道の血流も改善し、粘膜の回復が期待できます。また、プロトンポンプ阻害薬などによる胃酸分泌抑制も補助的治療として行われます。

この合併症は致命的となる可能性もあるため、急性胆管炎の重症例では消化管症状にも注意を払い、必要に応じて上部消化管内視鏡検査を行うことが推奨されます。

急性胆管炎の治療において、このような稀な合併症の可能性も念頭に置いた総合的なアプローチが重要です。

急性胆管炎の治療法と予防のポイント

急性胆管炎の治療は、重症度に応じた段階的なアプローチが取られます。基本的な治療戦略は以下の通りです。

初期治療

  • 絶食・輸液:経口摂取を中止し、適切な輸液で水分・電解質バランスを維持します
  • 抗菌薬治療:胆道系の細菌をカバーする広域スペクトラム抗菌薬が投与されます
  • 鎮痛薬:腹痛のコントロールのために使用されます

胆道ドレナージ

急性胆管炎の根本的な治療として、うっ滞した胆汁を排出するための胆道ドレナージが重要です。主なドレナージ方法には以下のようなものがあります。

  1. 内視鏡的ドレナージ:最も一般的な方法で、内視鏡を用いて十二指腸乳頭から胆管にアプローチします
    • 内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)
    • 内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)
    • 内視鏡的胆管ステント留置術(EBS)
  2. 経皮経肝胆管ドレナージ(PTCD):体表から肝臓を穿刺して胆管にドレナージチューブを留置する方法です
  3. 外科的ドレナージ:内視鏡的・経皮的アプローチが困難な場合や、合併症がある場合に検討されます

原因疾患の治療

急性期を脱した後は、胆管炎の原因となった疾患の治療が必要です。

  • 胆石:内視鏡的結石除去や外科的治療が行われます
  • 悪性腫瘍:胆管癌や膵癌などの場合は、外科的切除や化学療法などが検討されます
  • 良性狭窄:バルーン拡張やステント留置などが行われます

予防のポイント

急性胆管炎の再発予防には以下のような点が重要です。

  • 原因疾患の完全な治療:特に胆石症の場合、残存結石がないようにすることが重要です
  • 定期的な検診:胆石症や胆管狭窄のある患者は定期的な検査が