急性期病院と役割や種類の違いを解説

急性期病院と医療体制

急性期病院の基本情報
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急性期の定義

病気やケガの発症から約14日間の急激に健康が失われた状態

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入院期間の目安

一般的に14日以内が多く、診療報酬加算の限度も14日

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医療体制

24時間体制で重症患者や緊急度の高い患者に対応

急性期病院とは、急性期医療を提供する医療機関のことを指します。急性期とは病気やケガが発症し、急激に健康状態が悪化した時期のことで、一般的には発症後約14日間が目安とされています。この期間は患者の容体が不安定であることが多く、迅速かつ適切な医療介入が必要となります。

急性期病院では、重症患者や緊急度の高い患者に対して24時間体制で医療を提供し、手術や全身管理などの高度な医療サービスを行っています。患者の状態が安定すると、回復期や慢性期の医療機関へ転院するか、自宅へ退院するのが一般的な流れです。

厚生労働省診療報酬制度においても、急性期病院の入院期間は14日以内に設定されていることが多く、効率的な医療提供と病床回転率の向上が求められています。このような制度設計により、急性期病院は常に新たな重症患者を受け入れられる体制を維持しています。

急性期病院の役割と機能分化

急性期病院の主な役割は、緊急性の高い患者に対して迅速かつ適切な医療を提供することです。具体的には以下のような機能を担っています。

  1. 救急医療の提供:24時間体制で救急患者を受け入れ、緊急手術や集中治療を行います
  2. 高度医療の実施:最新の医療技術や設備を用いた専門的治療を提供します
  3. 早期回復の促進:急性期を脱した後の回復に向けた初期リハビリテーションを開始します
  4. 地域医療連携の中核:地域の医療機関と連携し、患者の状態に応じた適切な医療機関への転院調整を行います

医療機能の分化が進む中、急性期病院は医療システムの中で重要な位置を占めています。患者の状態が安定した後は、回復期リハビリテーション病院や慢性期病院、在宅医療へとスムーズに移行できるよう、地域の医療機関との連携体制を構築することも重要な役割となっています。

近年では、地域医療構想に基づく病床機能の再編が進められており、急性期病院においても効率的かつ質の高い医療提供体制の構築が求められています。医療資源の有効活用と患者にとって最適な医療提供を両立させるため、急性期病院の機能分化はさらに進んでいくことが予想されます。

急性期病院の種類と救急医療体制

急性期病院は、提供する救急医療のレベルによって大きく3つに分類されます。それぞれの特徴と役割について詳しく見ていきましょう。

一次救急(初期救急)

  • 比較的軽症な患者を対象とした救急医療
  • 休日夜間急患センターや救急指定を受けている診療所が担当
  • 患者は自家用車やタクシーで来院することが多い
  • 治療後に帰宅できるケースが大半

二次救急

  • 入院や手術が必要な重症患者を対象とした救急医療
  • 24時間365日体制または病院群輪番制で患者を受け入れる
  • 地域の中核病院が担うことが多い
  • 専門的な治療が可能な設備と人員を備えている

三次救急

  • 二次救急では対応できない最重症患者を対象とした救急医療
  • 救命救急センターや高度救命救急センターを有する医療機関
  • 24時間365日、あらゆる重症患者に対応可能
  • 地域医療の「最後の砦」として機能
  • 医師や看護師臨床研修の場としての役割も担う

これらの救急医療体制は、患者の重症度や緊急度に応じて適切な医療を提供するために整備されています。各地域の実情に合わせて、一次から三次までの救急医療機関が連携し、切れ目のない医療提供体制を構築することが重要です。

また、救急病院は消防法によって「救急隊により搬送される傷病者の医療を担当する病院」と規定されており、救急医療に関する知識と経験を持つ医師の常駐や、必要な設備の整備などが要件となっています。

急性期病院と慢性期病院の違い

急性期病院と慢性期病院は、医療機能や患者の状態、入院期間などさまざまな点で異なります。ここでは両者の主な違いを比較してみましょう。

比較項目 急性期病院 慢性期病院
対象患者 重症度・緊急度が高い患者 長期的な医療・療養が必要な患者
入院期間 短期(14日程度が目安) 長期(数週間~数ヶ月以上)
医療内容 手術、集中治療など高度医療 リハビリ、療養管理、緩和ケアなど
看護配置 手厚い(7対1など) 比較的少ない(13対1、15対1など)
医療設備 高度医療機器が充実 生活支援設備が充実
診療報酬 高い(急性期加算あり) 比較的低い

急性期病院では、患者の病態が不安定な状態から治療によりある程度安定した状態に至るまでの医療を提供します。そのため、手術室や集中治療室などの高度な医療設備を備え、医師や看護師の配置も手厚くなっています。一般的に入院患者7名に対して看護師1名が配置される「7対1看護体制」を採用している病院が多いです。

一方、慢性期病院は、急性期を脱した後も継続的な医療やケアが必要な患者を対象としています。リハビリテーションや長期的な療養管理、在宅復帰に向けた支援などが主な役割です。看護配置は急性期病院と比べて少なく、13対1や15対1の体制が一般的です。

両者の違いは医療提供体制の機能分化によるものであり、患者の状態に応じた適切な医療を効率的に提供するために重要な役割分担となっています。

急性期病院での看護師の役割と課題

急性期病院で働く看護師には、高度な専門知識と技術、そして迅速な判断力が求められます。患者の状態が刻々と変化する中で、適切なケアを提供するとともに、医師や他の医療スタッフとの連携も重要な役割です。

急性期看護の主な役割

  1. 患者の状態観察と異常の早期発見
  2. 迅速かつ適切な看護介入
  3. 医師の治療方針に基づく看護ケアの実施
  4. 患者・家族への説明と精神的サポート
  5. 多職種連携によるチーム医療の推進
  6. 退院支援・退院調整の実施

急性期病院の看護師は、多忙な業務の中でさまざまな課題に直面しています。特に近年は高齢化の進展により、認知症を合併した高齢患者の増加が顕著です。研究によると、急性期病院で認知症高齢者をケアする看護師は以下のような困難を感じていることが報告されています。

  • 認知症患者の理解と適切なコミュニケーション方法の模索
  • 安全確保と身体拘束の最小化の両立
  • 急性期治療と認知症ケアの両立
  • 多忙な業務の中での十分な関わりの時間確保
  • 家族との連携や退院支援の複雑さ

また、終末期ケアに関する課題も報告されています。急性期病院では救命と状態の安定を最優先する一方で、終末期患者とその家族に対する心理的サポートや意思決定支援も求められます。限られた時間の中で、患者と家族の思いを十分にくみ取った看護を提供することの難しさが指摘されています。

これらの課題に対応するため、急性期病院では継続的な教育・研修の充実や、専門的知識を持つ認定看護師・専門看護師の活用、多職種連携の強化などの取り組みが進められています。

急性期病院における地域連携と在宅復帰支援

急性期病院では、患者の早期回復と円滑な退院に向けて、入院早期から退院後の生活を見据えた支援が重要です。特に高齢患者や複数の疾患を抱える患者の場合、急性期治療が終了した後も継続的な医療やケアが必要となることが多いため、地域の医療・介護資源との連携が欠かせません。

地域連携の重要性

急性期病院は「かかりつけ医」との連携を推進しています。かかりつけ医とは、日頃から患者の健康状態を把握し、健康管理上のアドバイスなども行う地域の診療所やクリニックの医師のことです。患者の状態が安定すれば、かかりつけ医に診療を引き継ぎ、必要に応じて再び急性期病院での専門的治療を受けるという循環型の医療提供体制の構築が進められています。

退院支援の流れ

  1. 入院時アセスメント:入院早期に患者の身体・精神・社会的状況を評価
  2. 退院支援計画の立案:多職種カンファレンスによる支援方針の決定
  3. 退院調整の実施:必要な社会資源の調整や転院先との連携
  4. 退院前カンファレンス:患者・家族を含めた退院前の最終確認
  5. 退院後フォロー:外来受診時の状況確認や地域連携部門による追跡

地域包括ケアシステムとの連携

急性期病院は地域包括ケアシステムの中で重要な役割を担っています。患者が住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される体制づくりに参画することが求められています。

具体的には、地域の医師会や介護事業者、行政機関などと定期的な連携会議を開催したり、共通の情報共有ツールを活用したりすることで、切れ目のないケアの提供を目指しています。また、退院支援専門の部署を設置し、医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師が中心となって、患者一人ひとりの状況に応じた退院支援を行っています。

このような取り組みにより、患者の早期回復と在宅復帰を促進するとともに、再入院率の低減や医療費の適正化にも貢献しています。

急性期病院の経営課題と今後の展望

急性期病院を取り巻く環境は年々厳しさを増しており、様々な経営課題に直面しています。ここでは、現在の主な課題と今後の展望について考察します。

現在の主な経営課題

  1. 診療報酬改定の影響:急性期病床の適正化を目指す政策により、7対1入院基本料の算定要件が厳格化され、収益構造の見直しが迫られています。
  2. 人材確保と働き方改革:医師の時間外労働規制や看護師不足など、人材確保と労働環境改善の両立が課題となっています。特に地方の急性期病院では深刻な医師不足に悩まされているケースが多いです。
  3. 高齢患者の増加:高齢患者は複数の疾患を抱えていることが多く、また認知症などの合併症により、在院日数の長期化や看護負担の増大につながっています。
  4. 地域医療構想への対応:2025年に向けた地域医療構想の実現に向けて、病床機能の再編や他医療機関との機能分化・連携強化が求められています。

今後の展望と対応策

  1. ICTの活用と業務効率化電子カルテの高度化やAI技術の導入により、医療の質を維持しながら業務効率化を図る取り組みが進んでいます。遠隔医療の活用も地域医療支援の観点から注目されています。
  2. 専門特化と差別化:特定の疾患や治療に特化した専門病院化や、高度な医療技術の導入による差別化戦略が重要になっています。
  3. 地域包括ケアシステムの中核としての機能強化:急性期治療後の患者の受け皿となる回復期・慢性期病院や在宅医療との連携を強化し、地域全体で患者を支える体制づくりが求められています。
  4. 医療の質の可視化:クリニカルインディケーターの公表やアウトカム評価の導入により、医療の質を可視化し、患者からの選択される病院を目指す動きが広がっています。

急性期病院は今後も医療提供体制の中核を担いますが、その役割は従来の「治す医療」から、地域全体の医療・介護を見据えた「支える医療」へと拡大していくことが予想されます。変化する環境に柔軟に対応しながら、質の高い医療を効率的に提供できる体制づくりが求められています。

2025年の医療・介護制度改革を見据え、急性期病院は自院の強みを活かした機能特化や地域連携の強化など、持続可能な経営戦略の構築が不可欠となっています。