急性扁桃腺炎の症状と治療方法を医療従事者が解説

急性扁桃腺炎の症状と治療方法

急性扁桃腺炎の診療ポイント
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初期症状の見極め

風邪との鑑別点と重症度スコアリング

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病原体の特定

溶連菌迅速検査と培養検査の使い分け

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治療選択

抗生物質の適切な選択と投与期間

急性扁桃腺炎の初期症状と風邪との鑑別診断

急性扁桃腺炎の初期症状は風邪に類似しており、適切な鑑別診断が重要です。最も特徴的な鑑別点は、喉の痛みの強さ鼻水の有無です。

風邪との主な相違点。

  • 喉の痛みが著明で、唾液を飲み込むのも困難
  • 鼻水や咳はほとんど出ない
  • 38-40℃の高熱が急激に出現
  • 扁桃の発赤・腫脹が顕著

初期症状として以下の症状が現れます。

  • 突然の高熱(38℃以上)
  • 激しい咽頭痛
  • 嚥下困難
  • 全身倦怠感
  • 悪寒戦慄
  • 頭痛・関節痛

特に小児では、脱水症状を来しやすく注意が必要です。水分摂取困難により重症化するリスクが高いため、早期の医療介入が求められます。

日本口腔・咽頭科学会では重症度スコアリングシステムを推奨しており、客観的評価による適切な治療選択が可能となっています。

急性扁桃腺炎の原因菌と病態メカニズム

急性扁桃腺炎の原因は多岐にわたりますが、最も注意すべきはA群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による感染です。

主な病原体。

  • 細菌性:A群β溶連菌、ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌
  • ウイルス性:アデノウイルス、EBウイルス、単純ヘルペスウイルス

溶連菌感染の特徴。

  • 高い病原性を持つ最も危険な細菌の一つ
  • 血症や心内膜炎への進展リスク
  • リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの後遺症
  • 冬季(9月頃から)に流行のピーク
  • 幼児から30歳代までに多発

溶連菌による扁桃炎では、腹痛を合併することがあり、これは風邪との重要な鑑別点となります。また、いちご舌や体幹の発疹といった特徴的な症状も認められます。

感染経路は主に飛沫感染で、家族内感染率が高いことが知られています。抗菌薬投与後24時間以内は感染力が特に強いため、適切な隔離措置が必要です。

急性扁桃腺炎の診断方法と検査の使い分け

急性扁桃腺炎の診断には、臨床症状の評価と適切な検査の組み合わせが重要です。

身体所見のポイント

  • 扁桃の発赤・腫脹
  • 白色の膿栓や白苔の付着
  • 頸部リンパ節の腫脹・圧痛
  • 口蓋垂の浮腫

検査の選択と解釈

  1. 溶連菌迅速検査
    • 15分程度で結果判明
    • 偽陰性率が存在するため注意
    • 陰性でも溶連菌感染を否定できない
  2. 培養検査
    • 結果まで数日要するが確実
    • 迅速検査陰性例では必須
    • 薬剤感受性試験も同時実施可能

重症度評価スケール

日本口腔・咽頭科学会ガイドラインに基づく客観的評価により、軽症・中等症・重症を分類し、治療方針を決定します。

スコアの構成要素。

  • 発熱の程度
  • 扁桃の腫脹度
  • 白苔の範囲
  • 頸部リンパ節腫脹
  • 全身症状の程度

このスコアリングシステムにより、過剰な抗生物質使用を避け、適切な治療強度を選択できます。

急性扁桃腺炎の治療選択と抗生物質の適正使用

急性扁桃腺炎の治療は、原因が細菌性かウイルス性かによって大きく異なります。

細菌性扁桃炎の治療

  1. 第一選択薬ペニシリン系抗生物質
    • アモキシシリン:軽症〜中等症例
    • 投与期間:10日間完全服薬が必須
    • A群β溶連菌に対する標準治療
  2. ペニシリンアレルギー

重症例における点滴治療

ウイルス性扁桃炎の対症療法

治療継続の重要性

症状改善後も処方された抗生物質は必ず完了まで服薬することが重要です。中途半端な治療は以下のリスクを招きます。

  • 細菌の再燃・再発
  • 耐性菌の出現
  • 合併症(リウマチ熱、急性糸球体腎炎)の発症

抗生物質投与後、通常3-4日で症状は改善しますが、体内の細菌完全除去には10日間の治療が必要です。

急性扁桃腺炎の合併症予防と患者教育の重要なポイント

急性扁桃腺炎では、適切な治療を行わない場合に重篤な合併症を来すリスクがあります。特に溶連菌感染では、治療完了後2-3週間経過してから後遺症が出現する可能性があります。

急性期合併症

  • 扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍
  • 深頸部感染
  • 敗血症
  • 急性腎不全

後遺症(2-3週後に出現)

  • リウマチ熱:心臓弁膜症の原因
  • 急性糸球体腎炎:血尿・浮腫・血圧
  • PANDAS:小児の神経精神症状

これらの合併症予防には、適切な抗生物質治療の完遂が不可欠です。治療完了率は85%程度で、15%の患者では菌の残存による再発リスクがあります。

患者・家族への教育ポイント

  1. 服薬指導
    • 症状改善後も処方薬は最後まで服用
    • 定時服薬の重要性
    • 副作用出現時の対応
  2. 感染対策
    • 治療開始後24時間は特に感染力が強い
    • タオルや食器の共用を避ける
    • マスク着用と手洗いの徹底
  3. 生活指導
    • 十分な安静と睡眠
    • 禁酒・禁煙
    • 室内加湿(湿度50-60%維持)
    • 刺激物(辛い食べ物等)の回避
  4. 受診のタイミング
    • 治療後も高熱が続く場合
    • 嚥下困難が悪化する場合
    • 呼吸困難や開口障害の出現

習慣性扁桃炎への対応

年に4回以上の扁桃炎を繰り返す場合や、扁桃周囲膿瘍を形成した場合は、扁桃摘出術の適応を検討します。手術適応の判断には、患者の年齢、職業、合併症の有無などを総合的に評価する必要があります。

現在、溶連菌感染に対するワクチンは存在しないため、日常的な予防策として以下が重要です。

  • 規則正しい生活習慣
  • 適切な栄養摂取
  • ストレス管理
  • 定期的なうがいの習慣化

医療従事者は、これらの知識を基に患者の重症度を適切に評価し、エビデンスに基づいた治療選択を行うことで、合併症を予防し患者の早期回復を図ることができます。

日本口腔・咽頭科学会のガイドラインに基づく標準的診療の実践。

https://www.jsscp.or.jp/

溶連菌感染症の詳細な診断・治療指針。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/sa/strep-pyogenes.html