胸郭出口症候群とストレッチ
胸郭出口症候群では、首の付け根から鎖骨、肩にかけて走る神経血管束が圧迫されることで、肩から腕、手指にかけてのしびれや痛みが生じます。この疾患に対するストレッチは、圧迫部位周辺の筋肉の柔軟性を高めることで、神経や血管への刺激を軽減する重要なセルフケアです。
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胸郭出口における神経血管束の圧迫は、主に前斜角筋と中斜角筋の間、鎖骨と第一肋骨の間(肋鎖間隙)、小胸筋の後方という3つの部位で発生します。過去の腕神経叢造影による研究では、圧迫型が18%、牽引型が8%、両者の混合型が74%を占めており、神経束の絞扼部位は肋鎖間隙が75%と最も多く、次いで斜角筋部が30%、烏口突起下が6%と報告されています。
参考)胸郭出口症候群
ストレッチによる改善は一定の効果が期待できますが、正確に狙った筋肉をピンポイントで伸ばす必要があり、適切なフォームで行わないと怪我のリスクもあるため、専門家の指導を受けることが推奨されます。特に神経性症状が90%以上を占めることから、神経への過度な圧迫や伸張を避けながら、筋緊張を除去するアプローチが重要です。
胸郭出口症候群の症状と発生メカニズム
胸郭出口症候群の最も多い症状は、肩から腕、手先にかけてのしびれで、特に上腕・前腕の内側、手の小指・薬指に出やすいことが特徴です。頸部、肩甲骨周辺の痛み、頑固な肩こり、腕の脱力や握力低下、腕が疲れやすいといった症状も起こり得ます。
参考)https://okuno-y-clinic.com/itami_qa/tos.html
神経圧迫型では腕を上げるときに症状が出やすく、神経牽引型では腕を下げて重いものを持ったり、リュックサックを背負うことで症状が出現または悪化します。血管性の胸郭出口症候群では、手や腕の冷たさ、血色不良、浮腫み、腕を挙上すると痛みが出るなどの症状が見られますが、血管性症状は全体の10%未満と少数です。
症状は姿勢によって変動することが多く、ゆっくりした経過で出現するのが一般的です。軽症のうちは特定の動作を行ったときやその後だけ症状が現れるため、診断がつかず適切な対処が行われないまま症状が進行することがよくあります。
参考)胸郭出口症候群 (きょうかくでぐちしょうこうぐん)とは
胸郭出口症候群の原因となる姿勢とリスク要因
なで肩は胸郭出口症候群の主要なリスク要因です。なで肩の場合、肩甲骨が下がるため肩周辺の筋肉が引き伸ばされ、神経や血管が圧迫されやすい状態になります。肩が前に倒れやすく、首から肩にかけての神経や血管が圧迫されやすい状態になってしまうのです。
参考)href=”https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.html” target=”_blank”>https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.htmlamp;#x300C;href=”https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.html” target=”_blank”>https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.htmlamp;#x80F8;href=”https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.html” target=”_blank”>https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.htmlamp;#x90ED;href=”https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.html” target=”_blank”>https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/thoracic_outlet_syndrome.htmlamp;#x51F…
長時間のデスクワークや悪い姿勢も大きな原因となります。デスクワークなどの長時間の座り作業は肩から肩甲骨周辺に負担をかけ、前傾姿勢を続けることで斜角筋が硬直し、神経や血管が圧迫されて発症しやすくなります。猫背や巻き肩といった不良姿勢も筋肉の緊張を招き、胸郭出口症候群を引き起こす原因になります。
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重い荷物の持ち運びや肩への負担も発症リスクを高めます。重たい荷物を持つ習慣のある方は、肩や腕に過度な負荷がかかり、神経や血管にも圧力がかかってリスクが高まります。野球やバレーボール、バドミントン、水泳など、手を頭より高い位置へ持ってくる動きが多いオーバーヘッドスポーツも原因となることが多いです。
参考)胸郭出口症候群|つくばウェルネス整形外科|つくば市大角豆の整…
骨性要因と軟部組織性要因の割合は、骨性要因が30%、軟部組織性要因が70%とされており、頚肋の存在、肋鎖間隙の先天的狭窄、筋肉の異常な厚みなども神経や血管の圧迫の原因となり得ます。
胸郭出口症候群に効果的なストレッチ方法
胸郭出口症候群のストレッチでは、胸鎖関節、鎖骨周りの筋肉、大小胸筋、斜角筋を狙っていくことが重要です。胸鎖関節は鎖骨と胸骨を連結する関節で、ここが硬くなると鎖骨が車軸のような動きができなくなり、胸郭周りの筋肉の動きが悪くなって症状が発生しやすくなります。
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斜角筋ストレッチは、背筋を伸ばして椅子に座り、右手で左側の頭を押さえてゆっくり右に倒し、首の横が伸びるのを感じながら20秒キープし、反対側も同様に行います。このストレッチは斜角筋をほぐし、神経の圧迫を軽減する効果があります。
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小胸筋ストレッチは、壁を使った方法が効果的です。肩甲骨ストレッチとして、両手を後ろで組んで肩甲骨を寄せ、胸を開いて20秒間キープすることで、小胸筋をほぐし胸郭出口の圧迫を軽減できます。小胸筋は直接、血管や神経を圧迫する筋肉であるため、筋緊張を除去するストレッチが重要です。
胸鎖関節のマッサージでは、鎖骨の真下、胸骨の際から指一本分横の位置にある「兪府(ゆふ)」というツボを押さえ、手で胸骨と鎖骨のつなぎ目のところをさするようにマッサージします。慣れてきたら、同部位を押さえた状態で肩を回すとより効果的です。
鎖骨周囲筋のマッサージでは、鎖骨下筋、胸筋群、斜角筋群などをストレッチすることで、筋肉が伸長し血管や神経の通り道にゆとりを作ることをイメージしましょう。ストレッチは筋肉の柔軟性があるお風呂上りに行うとより効果的です。youtube
胸郭出口症候群の診断テストと評価方法
胸郭出口症候群の診断には、問診、理学所見、誘発テストを総合的に判断します。代表的な誘発テストとして、ルーステスト、モーレイテスト、アドソンテスト、ライトテストがあります。
参考)1/30 院内勉強会「胸郭出口症候群の絞扼部位別のリハビリテ…
ルーステストは1人で取り組めるテストで、腕を開いて肩まで挙上し、手が上になるように肘を直角に曲げ、手を握って開く動作を腕を上げたまま繰り返します。この動作を3分間続けて、しびれや痛み、だるさが出現したら陽性と判断します。
参考)【胸郭出口症候群】症状のセルフチェックリストやテスト方法を医…
モーレイテストは、鎖骨上窩の胸鎖乳突筋後縁部に検者の指腹を当て、軽く圧迫を加え、深吸気をさせると深部より前斜角筋が緊張して硬く触れてきます。この前斜角筋の第一肋骨付着部近くを圧迫し、頸部から上肢にかけての自覚症状が再現ないし増悪するかを確認します。
参考)胸郭出口症候群
アドソンテストは、椅子に座って手首で脈拍を確認してもらい、特定の姿勢をとって脈拍の変化を確認します。ライトテストも同様に手首で脈拍を確認しながら行う検査です。
これらのテストで胸郭出口症候群の陽性が疑われた場合、圧迫部位の特定や症状の程度を評価し、適切な治療方針を立てることが重要です。ただし、頸椎疾患やいわゆる頸肩腕症候群、肺尖部疾患においてもこれらのテストが陽性に出ることがあるため、鑑別診断が必要です。
参考)4.胸郭出口症候群の誘発テストの手技と意義 (総合リハビリテ…
胸郭出口症候群の理学療法とリハビリテーション
胸郭出口症候群の治療では、主に保存療法(服薬、リハビリテーション、装具)が中心になります。理学療法は筋肉や神経にかかる負担を軽減するための重要な治療法で、整形外科に通いながら専門の理学療法士による指導を受けて正しい姿勢や動作を学びます。
姿勢を整えたり筋肉を緩めたりすると、神経や血管への圧迫が軽減し痛みの緩和につながります。背中が丸まってしまうような姿勢を矯正したり、前斜角筋、中斜角筋、小胸筋など症状の原因となっている筋肉の緊張をとり血管や神経への刺激を軽減したりします。
参考)胸郭出口症候群について – 岐阜市 – 森整形外科リハビリク…
運動療法に関する系統的レビューでは、胸郭出口症候群に対する運動リハビリテーションの臨床的根拠が検討されています。肩甲骨の運動異常(スキャプラディスキネジア)との関連が指摘されており、反復的な頭上動作と肩甲骨の運動異常が斜角筋、鎖骨下筋、小胸筋の拘縮を招き、慢性的に遠位化・前傾した肩甲骨姿勢を作り出します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9103635/
理学療法評価では原因の特定と効果的治療の選択が重要で、神経は過度に圧迫や伸張を加えられると症状を誘発するため、mobilizationを用いた神経へのアプローチも有効です。外来リハの介入頻度は少ないため、日常でのセルフエクササイズの導入が重要になります。
参考)胸郭出口症候群の患者に対し、mobilization をセル…
筋力強化と再発防止も図るため、長期的な改善が期待できます。生活指導と理学療法は併せて受けることができるため、根本的な解決につながり、今後の予防にもつながる方法です。
胸郭出口症候群における姿勢改善の注意点
胸郭出口症候群の改善のために姿勢の修正は重要ですが、その意識を間違えると症状が悪化する場合があります。姿勢の修正には「1.肩甲骨を寄せる」「2.背筋を伸ばす」「3.胸を張る」の3点のバランスが重要です。
参考)胸郭出口症候群:腕の痺れと姿勢について – 足立慶友整形外科
姿勢を改善しようとして必要以上に肩甲骨を寄せ、かつ下げることを意識し過ぎていると、鎖骨と肋骨の隙間が閉ざされ、間を通る血管や神経が圧迫されてしまい、肋鎖症候群が悪化する場合があります。肩甲骨ではなく、過剰に胸を張ることで姿勢を修正している場合、胸を張る事によって肋骨が持ち上がり、鎖骨に近づき過ぎてしまい、血管や神経が圧迫されて症状が悪化することもあります。
首がストレートネックのような状態で真っすぐになっていると、その中を通る神経も伸ばされた状態となります。そこからさらに背筋を伸ばしてしまうと、神経が過剰に引き伸ばされてしまうため、牽引型の症状が悪化する場合があるため注意が必要です。
座っているときの姿勢も重要で、椅子には深く腰かけ、骨盤を立てるようにして背筋を伸ばして座ることが推奨されます。枕の高さが高すぎると首が圧迫されて胸郭出口症候群が起こりやすくなるため、首が自然なカーブを描いた状態になるような高さが理想です。
姿勢の修正の仕方によっては症状が悪化する場合があるため、専門家に相談することが大切です。デスクワークやスマホの使用時には、首が前に倒れる猫背にならないように注意し、肩へかかる負担を減らすように日頃から心がけましょう。
参考リンクとして、日本整形外科学会の胸郭出口症候群に関する情報が役立ちます。症状や診断基準について詳しく解説されています。
済生会の胸郭出口症候群のページでは、一般の方向けにわかりやすく症状や治療法が説明されています。
慶應義塾大学病院の医療・健康情報サイトKOMPASでは、診断テストの詳細が解説されています。