拒食症症状と吐き気
拒食症の消化器症状と吐き気と胃排出能
拒食症(神経性やせ症)では、低栄養により内臓を支える筋力や胃腸壁の筋肉が落ち、蠕動運動が弱くなり、少量摂取でも食後のもたれ・腹部膨満・便秘・吐き気が起きやすくなります。
この「胃腸の調子が悪いので食べられない→食べないのでやせてさらに胃腸機能が悪化する」という悪循環は、現場でよく遭遇し、吐き気の訴えを“原因”として固定すると介入が遅れやすいポイントです。
検査所見としても、内臓下垂、逆流性食道炎、胃排出能の低下、小腸吸収障害、大腸運動障害などが列挙されており、「吐き気=精神症状」と短絡しない整理が役に立ちます。
臨床的な工夫としては、食物繊維の多い玄米や野菜など“健康的”とされがちな食品が、低栄養状態の胃腸には負担になる場合がある点が意外に見落とされます。
参考)3.摂食障害/拒食症の消化器症状 – 摂食障害の…
食形態を整えると吐き気が軽減し、結果として摂取量が増え、さらに胃腸機能が改善するという好循環に入れることがあります。
「吐き気があるから食べられない」を丁寧に受け止めつつ、病態としては“低栄養が胃腸機能を落として吐き気を作っている”可能性を患者へ説明できると、治療同意の質が上がります。
拒食症の嘔吐と吐き気と排出行動
自己誘発性嘔吐、下剤・利尿薬の乱用は「排出行動」と呼ばれ、神経性やせ症と神経性過食症のどちらでも起こり得ます。
排出行動を繰り返すと、歯の酸蝕や口腔内炎症が増えるだけでなく、胃酸・腸液の喪失によりカリウムが失われ、低カリウム血症を介して不整脈などが起きることがある、と整理されています。
さらに、排出行動は次の過食衝動を誘発しやすく、悪循環を形成する点が臨床支援の核になります。
医療者向けの実務としては、「吐き気があるから吐いている」のか「吐く行動があるから吐き気が増幅している」のかを分けるため、嘔吐のタイミング(食後すぐ/夜間/早朝)、量(少量反復/大量)、誘因(不安・自己嫌悪・怒り)を具体的に聴取します。
参考)嘔吐や下剤乱用
摂食障害全国支援センターでは、過食と排出行動の間の時間をあける工夫(例:まず30分吐かない)や、生活リズム(食事・睡眠・活動)を整えることから始める、といった現実的な介入が示されています。
吐き気を訴える患者ほど「吐くと楽になる」という学習が強化されていることがあるため、身体合併症の説明(電解質・心臓)と、行動の置換(気分転換法の設計)をセットで提示すると安全性が上がります。
拒食症の低カリウム血症と吐き気と不整脈
嘔吐や下痢を繰り返すと低カリウム血症や低ナトリウム血症などの電解質異常が起こり得ることが、一般向けの解説でも明記されています。
救急・内科的観点では、自己誘発性嘔吐や下剤・利尿薬乱用による脱水などを背景に、低カリウム血症が筋力低下、便秘悪化、腸閉塞、不整脈などにつながる、と詳細にまとめられています。
この文脈での吐き気は、単なる胃不調ではなく「便秘・腸管運動低下」「全身衰弱」「代謝性異常の前駆」として現れることがあり、バイタルと採血の優先度を上げるべきサインになります。
臨床で“意外に役立つ”のは、排出行動の確認がつかないケースでも、口腔所見や歯科トラブル、血清カリウム低下、唾液腺由来のアミラーゼ上昇などから嘔吐を疑う導線を作れる点です。
参考)摂食障害のページ
また、低体重の患者では「吐き気=消化器症状」として制吐薬だけに寄ると、隠れた電解質異常や低血糖の見落としが起きやすく、結果として転倒・失神・不整脈リスクを上げます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/4/105_676/_pdf
吐き気が強い患者ほど“水分摂取の偏り(多飲・水だけ)”があり得るため、ナトリウム低下の可能性も含めて、飲水内容と量も具体的に確認します。
拒食症の再栄養と吐き気とrefeeding症候群
低栄養状態に対して急激に栄養補給を行うと、代謝性合併症としてリフィーディング症候群(refeeding syndrome)が起こり得ます。
内科学会誌の総説では、再栄養に伴いインスリンが増加し、水・糖・K(カリウム)・P(リン)・Mg(マグネシウム)が細胞内へ移動することで電解質異常が起こり、特に低リン血症が重篤化(不整脈、心不全、呼吸不全、意識障害など)し得るとされています。
栄養療法開始後24~72時間で血清リンが急低下して発症することがある、とされており、吐き気・倦怠感・食欲低下のような非特異的症状を「よくある胃腸症状」として処理しない姿勢が重要です。
現場の要点は、吐き気がある患者ほど「食べられる時に一気に増やす」判断がされやすい一方で、その“一気”がリフィーディング症候群のトリガーになり得る点です。
導入前から危険因子を把握し、電解質・微量元素・ビタミン(特にB1)補充、少量開始と漸増、導入早期のモニタリングが推奨される、という枠組みをチームで共有すると事故が減ります。
論文としては、内科救急と再栄養の注意点をまとめた総説が実務に直結します(例:鈴木(堀田)眞理「摂食障害の救急治療と再栄養時のrefeeding症候群」)。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/4/105_676/_pdf
拒食症の症状と吐き気の独自視点:上腸間膜動脈症候群
強いやせと内臓脂肪の減少により、上腸間膜動脈の起始角が狭くなって十二指腸が圧迫される「上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)」が、摂食障害の救急で遭遇し得る病態として挙げられています。
この病態では胃排出遅延も重なり、食後にイレウス様となって胆汁性嘔吐が起こり得る、とされており、「拒食症の吐き気」として見過ごすと危険側に振れます。
独自視点として重要なのは、患者が「怖くて食べられない」だけでなく「食べると詰まって吐く」という経験を持っている場合があり、その恐怖が“心理”ではなく“身体経験”として強化されている可能性です。
医療者ができる具体策は、吐き気の性状(胆汁性か、食後すぐか、腹部膨満が強いか)を聞き分け、必要なら腹部画像・電解質・脱水評価に進めることです。
また「内臓下垂によるもたれ」と「通過障害の示唆(胆汁性嘔吐・激しい膨満)」を切り分けると、食事の増量計画も安全に立てやすくなります。
吐き気という一語の背後に、低栄養、排出行動、電解質異常、再栄養合併症、器質的通過障害まで重なるのが拒食症の難しさであり、ここを構造化して説明できること自体が医療安全になります。
有用:排出行動(嘔吐・下剤乱用)の身体影響と具体的対処がまとまっている(低カリウム血症、不整脈、悪循環、生活リズム介入)。
嘔吐や下剤乱用
有用:拒食症(神経性やせ症)の消化器症状(吐き気、便秘、胃排出能低下)と食事上の注意点がまとまっている。
