局所麻酔薬一覧と特性・使用法完全ガイド

局所麻酔薬一覧と分類

局所麻酔薬の基本分類
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エステル型麻酔薬

プロカイン、テトラカインなど血漿エステラーゼで分解される短時間作用型

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アミド型麻酔薬

リドカイン、ブピバカインなど肝臓で代謝される中〜長時間作用型

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特殊型麻酔薬

ジブカインなどキノリン誘導体の長時間作用型麻酔薬

局所麻酔薬は神経細胞膜のナトリウムチャネルを阻害することで麻酔効果を発揮します。化学構造により大きくエステル型とアミド型に分類され、それぞれ異なる特性を持ちます。現在の臨床現場では、安全性と効果の観点からアミド型が主流となっており、エステル型の使用頻度は低下しています。

局所麻酔薬エステル型の特性と用量

エステル型局所麻酔薬は血漿コリンエステラーゼにより即座に分解されるため、短時間作用性が特徴です。主要な薬剤には以下があります。

プロカイン塩酸塩

  • 使用濃度:0.25-1%
  • 作用持続時間:45-60分
  • 最大投与量:1000mg/日
  • 薬価:100円/管(各濃度共通)
  • 商品名:プロカイン塩酸塩注射液(日医工)、プロカニン注(光製薬)、ロカイン注(扶桑薬品工業)

テトラカイン塩酸塩

  • プロカインより約10倍強力な効力
  • 長時間作用性だが神経毒性も強い
  • 主に脊髄くも膜下麻酔で使用
  • 商品名:ジンジカインゲル、ハリケインゲル、ビーゾカイン歯科用ゼリー(いずれも20%)

エステル型はパラアミノ安息香酸関連の代謝産物により、アミド型よりもアレルギー反応を起こす可能性が高いため、使用前の十分な問診が重要です。異常エステラーゼの患者や血清エステラーゼが減少している患者では特に注意が必要です。

局所麻酔薬アミド型の種類と効果

アミド型局所麻酔薬は肝臓で代謝され、中〜長時間の麻酔効果を示します。臨床現場で最も頻繁に使用される薬剤群です。

リドカイン塩酸塩(キシロカイン)

  • 使用濃度:0.5-2%
  • 作用持続時間:60-120分
  • 最大投与量:4mg/kg(通常200mg)
  • 薬価:0.5%(10円/mL)、1%(11円/mL)、2%(15.6円/mL)
  • 適応:硬膜外麻酔、伝達麻酔、浸潤麻酔、表面麻酔

メピバカイン塩酸塩(カルボカイン)

  • 使用濃度:0.5-2%
  • 作用持続時間:90-180分
  • 最大投与量:7mg/kg(通常300mg)
  • 血管収縮薬なしでも比較的長時間作用

ブピバカイン塩酸塩水和物(マーカイン)

  • 使用濃度:0.125-0.5%
  • 作用持続時間:240-480分
  • 最大投与量:2-3mg/kg
  • 薬価:0.125%(12.5円/mL)、0.25%(14.3円/mL)、0.5%(18.8円/mL)
  • 特徴:長時間作用、運動神経への影響が少ない

ロピバカイン塩酸塩(アナペイン)

  • 使用濃度:0.2-1%
  • 最大投与量:3mg/kg
  • 特徴:ブピバカインより心毒性が低い
  • 主に硬膜外麻酔、伝達麻酔で使用

アミド型麻酔薬は肝機能障害のある患者では代謝が遅延し、中毒症状が発現しやすくなるため注意が必要です。

局所麻酔薬の副作用と安全性

局所麻酔薬の副作用は主に以下の3つに分類されます。

1. アレルギー反応 🚨

  • 発生頻度:1%以下
  • エステル型>アミド型でリスクが高い
  • 症状:蕁麻疹、浮腫、アナフィラキシーショック
  • 対策:事前の詳細な問診と皮膚テスト

2. 神経毒性

  • 一過性神経症状:背部痛、感覚異常、根性痛
  • 馬尾症候群:下肢・会陰の知覚運動障害、膀胱直腸障害
  • リドカイン>ブピバカインでリスクが高い

3. 全身毒性(局所麻酔薬中毒)

  • 初期症状:眠気、興奮、眩暈、嘔気・嘔吐
  • 進行症状:振戦、痙攣、意識障害
  • 重篤例:循環破綻、呼吸停止、心停止

重大な副作用の詳細

ショック症状では徐脈、不整脈、血圧低下、呼吸抑制、チアノーゼ、意識障害が生じ、まれに心停止に至ります。肺水腫の初期症状として血圧異常上昇が見られることもあります。

安全使用のためには適切な用量設定と患者監視が不可欠です。血管内注入では更に少ない量で中毒症状が発現するため、吸引確認や分割投与が重要です。

日本麻酔科学会の局所麻酔薬使用ガイドライン

https://anesth.or.jp/files/pdf/local_anesthetic_20190905.pdf

局所麻酔薬の価格比較と経済性

医療経済の観点から局所麻酔薬の価格比較は重要な要素です。以下に主要薬剤の価格をまとめます。

注射用製剤の価格比較(2025年薬価)

薬剤名 濃度 薬価 特徴
プロカイン 0.5-2% 100円/管 エステル型・短時間
リドカイン 0.5% 10円/mLV アミド型・中時間
リドカイン 1% 11円/mLV 最も汎用的
リドカイン 2% 15.6円/mLV 高濃度・短時間処置
ブピバカイン 0.125% 12.5円/mLV 長時間・低濃度
ブピバカイン 0.25% 14.3円/mLV 長時間・中濃度
ブピバカイン 0.5% 18.8円/mLV 長時間・高濃度

外用製剤の価格

  • リドカインテープ18mg:31.6-47.6円/枚
  • キシロカインポンプスプレー8%:27.7円/g
  • 歯科用ゼリー20%:67.9円/g

経済性の考慮点

  1. 手技時間と薬剤コストのバランス
  2. 再投与の必要性(作用時間による)
  3. 副作用対応コスト
  4. 患者満足度と再診率への影響

長時間の処置では初期コストが高くても長時間作用型(ブピバカイン、ロピバカイン)の方が、追加投与や処置中断のリスクを考慮すると経済的な場合があります。

局所麻酔薬選択の実践的アプローチ

臨床現場での適切な局所麻酔薬選択には、以下の統合的アプローチが有効です。

患者要因による選択基準 👤

  • 年齢:高齢者では代謝能低下により用量調整が必要
  • 肝機能:障害がある場合はアミド型の代謝遅延に注意
  • アレルギー歴:エステル型アレルギーの場合はアミド型を選択
  • 妊娠:妊娠末期では麻酔範囲が広がりやすい

手技別最適化戦略

  1. 短時間処置(30分以内)
    • 第一選択:1%リドカイン
    • 理由:迅速な効果発現、コスト効率
  2. 中時間処置(1-2時間)
    • 第一選択:1-2%メピバカイン
    • 理由:血管収縮薬なしでも持続効果
  3. 長時間処置(2時間以上)
    • 第一選択:0.25-0.5%ブピバカイン
    • 理由:長時間作用、術後鎮痛効果

血管収縮薬併用の判断 💉

  • 使用推奨:指、耳、鼻以外の部位
  • 禁忌:末梢循環不全、側副血行路なし部位
  • 効果:作用時間延長、出血減少、最大用量増加

安全性確保のプロトコル

  1. 投与前:詳細な問診、バイタル確認
  2. 投与中:吸引確認、分割投与、患者監視
  3. 投与後:15分間の経過観察、救急処置準備

新しい選択基準:個別化医療の観点

近年注目される薬理遺伝学的要因も考慮に入れた選択が重要です。CYP酵素の遺伝子多型により、アミド型麻酔薬の代謝速度に個人差があることが知られています。将来的には遺伝子検査に基づく個別化麻酔薬選択が可能になる可能性があります。

多職種連携による最適化

麻酔薬選択は医師だけでなく、看護師、薬剤師との連携により最適化されます。看護師による患者の不安レベル評価、薬剤師による相互作用チェック、そして医師による総合判断のチーム医療アプローチが、安全で効果的な局所麻酔を実現します。

局所麻酔薬の適切な選択と使用は、患者の安全性と満足度、医療経済性の全てを向上させる重要な医療技術です。各薬剤の特性を十分理解し、個々の患者と手技に最適化した選択を行うことで、より質の高い医療提供が可能になります。