薬歴の書き方 本
薬歴の書き方 本で学ぶ必須記載と薬歴の役割
薬歴は「患者さんの安全・適正な薬物療法を継続して支えるための記録」であると同時に、保険調剤では調剤報酬請求の根拠にもなる重要な記録です。薬歴を単なる“会話メモ”として書くと、後から見返したときに薬学的判断の筋道が追えず、チーム内の引き継ぎにも弱くなります。
本で学ぶ価値が大きいのは、現場だと先輩ごとに流儀が違い「書けているつもり」のまま年数が過ぎやすいからです。実務書の多くは、症例や添削例を通して「同じ情報でも、薬学的管理として読める形」に変換する訓練をさせてくれます。
まず押さえるべきは、薬歴に“記載すべき事項”があることです。たとえば一般的な解説では、患者の基礎情報、処方・調剤内容、アレルギー歴や副作用歴、併用薬、服薬状況(残薬)、体調変化、相談事項、服薬指導の要点、次回の留意点、記載した薬剤師名など、項目として整理されています。こうした項目は「全部を長文で書く」ことが目的ではなく、必要な情報が漏れなく拾え、第三者が追えることが目的です。
したがって本での学習は、(1)必須の枠組み(何が必要か)→(2)SOAP等の表現技法(どう書くか)→(3)監査・個別指導を意識した整え方(どう残すか)の順で進めると伸びが早いです。
実務で意外と抜けやすいのが「後発医薬品の意向」「手帳活用の有無と、活用しなかった場合の理由」「処方内容に関する照会の内容等」のように、“行為の根拠”や“やらなかった理由”を短く残す視点です。これは忙しいほど省略されやすい一方、後で説明が必要になりやすいポイントでもあります。
また、薬歴は患者さんの変化を追うための“時系列の器”でもあります。前回の課題(Problem)が今回どうなったか、今回の介入で次回何を確認すべきか、の線が見えるだけで、薬歴は「読める記録」に変わります。
参考:電子薬歴の運用管理規程(例)を作る背景と根拠(安全管理ガイドライン・個人情報保護との関係)がわかる
薬歴の書き方 本で押さえるSOAP方式の基本と書き分け
SOAPは「S:主観情報」「O:客観情報」「A:評価」「P:計画」に整理し、問題ごとに記録していく考え方です。型を覚えるだけなら簡単ですが、実務では「SとOの境界」「Aに“感想”を書いてしまう」「Pが次回に繋がらない」などのつまずきが頻発します。ここを埋めるのが、本の強みです。
S(Subjective)で重要なのは、“患者さん(または家族)の言葉”を核に、薬学的管理に必要な粒度で残すことです。例えば「飲みにくい」「眠い気がする」「効いていない気がする」「市販薬も使っている」などは、相互作用・副作用・アドヒアランスに直結する可能性があるため、言い回しも含めて短く残す価値があります。
O(Objective)は、誰が見ても変わらない事実を置く場所です。処方変更、用法用量、検査値、残薬数、手帳情報、指導した内容のうち“事実として確認できる部分”を優先します。ここでのコツは、会話の全文を貼らないこと。あとで読み返す第三者にとって必要なのは、エビデンスとしての事実です。
A(Assessment)は薬歴の心臓部で、「SとOを踏まえ、薬剤師として何を問題と捉え、どう評価したか」を言語化します。ここが薄い薬歴は、見た目がSOAPでも“記録として弱い”扱いになりがちです。Aでは、たとえば「空腹時服用が難しくアドヒアランス低下が疑われる」「眠気訴えは抗ヒスタミン薬の副作用の可能性、運転等のリスク説明が必要」「OTC併用で重複成分の懸念」など、薬学的視点の仮説を短く明確にします。
P(Plan)は次回に繋がる“確認項目”と“実施した介入”のセットで書くと強いです。「指導した」で止めず、「次回:眠気の有無、服用タイミング遵守、残薬数、OTC継続の有無を確認」のように、次の薬剤師が同じ物差しで追える形にします。
本で学ぶときの裏技は、記載例を読むだけでなく「S/Oを入れ替えても意味が通るか」をチェックすることです。SとOが混ざっている薬歴は、読み手が状況把握に余計な認知負荷を払うため、忙しい現場ほど“読まれない薬歴”になります。
さらに、SOAPは“完璧に埋める”ためのものではありません。情報が取れていないのに推測でOに書く、行っていない指導をPに書く、は記録の信用を落とします。取れていないなら「未確認」を明示し、次回の計画に回す方が、医療記録としては誠実です。
薬歴の書き方 本で身につく記載のコツと個別指導の視点
薬歴は「誰が見てもわかりやすい」ことが重要で、抽象的・主観的な表現を避け、数値化できるものは数字で残すと読みやすくなります。たとえば「残薬あり」ではなく「残薬:朝分7錠」など、後で判断に使える形にします。
また、薬歴は蓄積されるため、要点を箇条書きにして視認性を高める工夫が推奨されます。文章が長いほど丁寧に見える一方、検索や引き継ぎでは不利になり、監査や照会の際に必要箇所を素早く示せないことがあります。
個別指導を意識したときに効くのが、「根拠が残る薬歴」です。根拠とは、何を確認し、何を判断し、何を指導・提案したかの繋がりです。たとえば同一処方(Do処方)でも、状況に応じて“特に指導が必要”と判断した場合、その理由の要点を薬剤服用歴等に記載することが求められる、といった考え方が示されています。つまり「同じ薬が出たから同じ文章をコピペ」だと、患者さんの変化を拾えないだけでなく、説明責任の観点でも弱くなり得ます。
よくある落とし穴は次の3つです。
コピペで時系列が崩れ、前回の問題が解決したのか不明になる。
相談内容(S)はあるのに、評価(A)と計画(P)が空欄に近く、介入が見えない。
実施していない確認や指導を、テンプレとして残してしまう(真正性を損ねる)。
対策はシンプルで、「テンプレは“骨格”だけ残し、肉付けは毎回書き換える」ことです。テンプレに残すのは、たとえば“確認項目の見出し”や“定型の注意喚起(車の運転など)”程度にして、患者固有の情報(残薬、体調変化、理解度、生活背景)は毎回更新します。
もう一つのコツは「次回の薬剤師が質問しやすい一文」をPに仕込むことです。例:「次回:胃部不快感が続く場合は、食後服用の遵守状況と併用薬(鎮痛薬・サプリ)を再確認」など。これがあると、薬歴は“記録”から“臨床の連続性”へ進化します。
参考:薬歴の役割、記載事項の整理、SOAP例、電子薬歴の注意点(真正性・見読性・保存性など)がまとまっている

薬歴の書き方 本と電子薬歴と運用管理規程
電子薬歴は検索性・共有性・アラート等の利点があり、紙より効率的に一元管理しやすい一方、個人情報・セキュリティ・運用ルール整備が不可欠です。電子化すると「書くスピード」は上がりますが、「正しく残す仕組み」がないと、誤記載の訂正履歴、アクセス権限、バックアップ、端末管理などが曖昧になりやすい点が盲点です。
そのため、薬局向けには電子薬歴の運用に必要な“運用管理規程(例)”が公開されており、難解になりがちな安全管理ガイドラインを踏まえつつ活用できる形が示されています。
ここで現場が見落としがちなのが、「記載内容」だけでなく「記載のプロセス」も品質に含まれることです。具体的には、
- 誰が記載・修正したか(真正性)
- 必要時に読める状態か(見読性)
- 一定期間、改ざんされず保管できるか(保存性)
といった観点が、電子の記録では特に問われます。
実務的に効く対策を挙げます。
- 🔐 追記・修正ルールを薬局内で統一:誤字は修正、内容変更は追記で理由を残すなど。
- 👥 アカウント共有をしない:記録の真正性が崩れるため、個人ID運用を徹底する。
- 🧩 テンプレの権限管理:誰でも自由にテンプレを変えられると、薬局全体の記載品質が揺れる。
- 💾 バックアップ手順の見える化:障害時に「薬歴が読めない」状態を作らない。
- 📚 定期研修:個人情報と運用ルールの教育は、電子薬歴導入後ほど重要になる。
意外なポイントとして、電子薬歴は“書きやすい設計”ほど情報が散りやすいことがあります。付箋・自由記載・チェックボックスが増えるほど、重要情報がどこにあるかが人によって変わります。そこで「重要情報はSOAPのA/Pに集約する」「残薬はOに数値で固定」「次回確認はPの先頭」など、薬局内ローカルルールを決めると、第三者可読性が一気に上がります。
本で学ぶ際も、電子薬歴の画面を想定して「短く、検索できる語で、構造化して書く」訓練をすると、現場でそのまま再現できます。
薬歴の書き方 本で深掘りする独自視点:薬歴を「臨床推論メモ」にしない技術
検索上位の解説はSOAPの型や必須記載に集中しがちですが、現場で効くのは「臨床推論(A)を強くしつつ、推測を書きすぎない」バランスです。Aを厚くしようとして、未確認情報まで断定すると、記録としての信頼性が下がります。一方で、Aが薄いと、薬剤師が何を考えたのかが残らず、薬学的管理の連続性が切れます。
このジレンマを解くのが、“仮説の書き方”です。
おすすめは、Aを次の3点セットで書く方法です。
- 🧠 問題の定義(何が問題か):例「眠気訴えで日中の活動に支障の可能性」
- 🔎 根拠(S/Oのどれに基づくか):例「S:眠い、O:抗ヒスタミン薬継続」
- 🧭 仮説と安全策(断定せず方向づけ):例「副作用の可能性→運転注意を再説明、症状強ければ受診相談を提案」
この書き方のメリットは、(1)未確認を未確認のまま扱える、(2)次回に検証可能、(3)第三者が判断の道筋を追える、の3点です。薬歴は研究ノートではありませんが、医療現場では「仮説→介入→フォロー」という臨床推論の流れが重要です。
さらに、患者さんの語り(S)を拾いすぎて情報過多になったときは、「薬に関係する語だけ残す」ルールが有効です。たとえば“生活背景”は何でも書くのではなく、服薬継続・相互作用・有害事象・受診行動に繋がるものに絞ります。
もう一つ、意外と知られていない実務の工夫として「次回確認を、患者さんの言葉に寄せて書く」方法があります。Pに「次回:眠気の程度を確認」だけだと抽象的ですが、「次回:『昼に眠くて困る』が続くか、運転や作業への影響を確認」と書くと、次の担当者が同じ問いで再現しやすくなります。これは記録の再現性を上げ、薬局内での問診品質を底上げします。
結果として薬歴が“上手い文章”ではなく、“同僚が助かる道具”になります。薬歴の評価は文章力より、患者安全と業務の連続性にどれだけ寄与するかで決まるため、この視点は新人教育にも相性が良いです。
