薬機法零売の最新動向と規制強化

薬機法零売の現状と規制

零売薬局の基本概念
⚖️

法的根拠

処方箋医薬品以外の医療用医薬品を通知のみで規制

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販売条件

やむを得ない場合の例外的販売が認められていた

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規制強化

2025年薬機法改正で原則禁止へ

薬機法における零売の定義と現行制度

零売(れいばい)とは、処方箋なしに処方箋医薬品以外の医療用医薬品を販売することを指します。薬機法第49条では処方箋医薬品の販売について明確に規制していますが、処方箋医薬品以外の医療用医薬品については法律上の明記はありません。

現行制度では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品について「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号)の通知により規制されています。この通知では以下の条件下での販売が認められています。

  • 一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合
  • 必要な受診勧奨を行った上での販売
  • 薬歴管理の実施
  • 販売記録の作成と2年間保存

販売方法についても厳格な規則が設けられており、使用者本人への販売限定、調剤室での保管・分割、添付文書の添付、一般人を対象とした広告の禁止などが定められています。

薬機法改正による零売規制の強化背景

零売薬局の増加に伴い、医療従事者団体からの懸念の声が高まりました。日本眼科医会や薬剤師会等は、処方箋なしでの医療用医薬品販売に対して危機感を表明しています。

これを受けて厚生労働省は「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」という通知を発出し、広告規制の強化を図りました。しかし、零売薬局を取り巻く環境に大きな変化は見られなかったため、より強力な法的措置が検討されることとなりました。

医薬品の販売制度に関する検討会では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について議論が行われ、その結果として零売に関するルールの法制化が決定されました。2025年の薬機法改正により、零売は原則禁止される見込みです。

興味深いことに、零売という概念は古くから薬局間の薬の売買に使われていた言葉であり、薬機法においても本来は認められている販売方法でした。しかし、近年の零売薬局の急増とその運営方法に対する懸念から、規制強化の必要性が議論されるようになったのです。

薬機法零売禁止が医療現場に与える影響

2025年の薬機法改正により零売が原則禁止されることで、医療現場には様々な影響が予想されます。特に新型コロナウイルス感染症の蔓延による受診控えが増加する中、零売という形で医薬品を購入したい患者ニーズが高まっていただけに、その影響は深刻です。

患者への影響として考えられるのは。

  • 軽微な症状での医療機関受診の増加
  • 医療費負担の増大
  • 医療機関の混雑による待ち時間の延長
  • 緊急時の医薬品アクセス困難

薬剤師への影響では。

  • 零売業務に従事していた薬剤師の業務転換
  • 薬剤師の専門性発揮機会の減少
  • 零売薬局の運営モデル変更または閉業

医療制度全体への影響。

  • 医療機関の外来患者数増加による負担増
  • 医療費の増大
  • 薬物療法の継続性への懸念

一方で、改正薬機法では完全禁止ではなく、医師の処方に基づいて服用中の医療用医薬品が手元になく、受診も困難な場合などの例外規定が設けられる予定です。

薬機法零売訴訟の法的争点と今後の展望

零売規制の法制化を前に、薬局運営会社が国を相手取り訴訟を起こしています。この訴訟の核心は、法律ではなく通知によって零売が規制されていることが違憲・違法であるという主張です。

法的争点は以下の通りです。

憲法論的争点 📚

  • 法律による行政の原理(憲法41条)に反するかどうか
  • 通知による人権制約の妥当性
  • 営業の自由に対する制限の合憲性

行政法上の争点 ⚖️

  • 通知の法的拘束力の範囲
  • 行政指導と法的規制の境界
  • 薬機法の解釈と運用の適正性

原告側は「法的根拠なく通達だけで規制されていることは違憲・違法」と主張し、国に対し薬局の地位確認や損害賠償を請求しています。特に注目すべきは、第1回口頭弁論期日まで4か月という異例の長期間を要したことで、原告側弁護士は「改正薬機法施行まで裁判を遅延させる意図があるのではないか」と指摘しています。

この訴訟は、薬事行政における規制手法の妥当性を問う重要な判例となる可能性があります。判決によっては、今後の薬事規制のあり方に大きな影響を与えることが予想されます。

また、零売規制の背景には薬剤排出機構との関連も指摘されています。研究によると、薬剤排出ポンプ(BCRP/ABCG2等)の発現パターンが薬物療法の効果に影響することが明らかになっており、適切な薬物選択には専門的判断が不可欠であることが示されています。

薬機法改正後の零売代替手段と医療従事者の対応策

零売が原則禁止となる中、医療従事者は患者ニーズに応える代替手段を模索する必要があります。特に薬剤師にとっては、従来の零売業務に代わる新たな専門性発揮の場を見つけることが重要です。

代替手段として考えられる方法 💊

  • 健康サポート薬局機能の強化

    改正薬機法では健康増進支援薬局の認定制度が新設される予定です。薬剤師は一般用医薬品の適切な選択支援や健康相談により、患者の医療アクセスを改善できます。

  • オンライン診療との連携強化

    医師によるオンライン診療と薬局での調剤を組み合わせることで、患者の利便性を維持しながら適切な薬物療法を提供できます。

  • 薬歴管理とフォローアップの充実

    処方薬の服薬状況を継続的に管理し、必要に応じて医師との連携を図ることで、薬物療法の質を向上させることができます。

医療従事者の具体的対応策 🏥

薬剤師は以下の点に注力する必要があります。

  • セルフメディケーション支援の専門性向上
  • 一般用医薬品に関する知識のアップデート
  • 患者カウンセリング技術の習得
  • 医師との連携体制構築

医師側では。

  • 軽症患者への適切な対応方針の検討
  • 薬剤師との連携強化
  • オンライン診療の積極活用

また、薬剤の作用機序に関する最新知見も重要です。例えば、抗腫瘍薬イリノテカンの下痢誘発機序や抗アレルギー系薬物の多形核白血球機能への影響など、薬物の副作用機序を理解することで、より安全で効果的な薬物療法の提案が可能になります。

零売禁止により一時的に患者の利便性は低下するかもしれませんが、医療従事者が適切に対応することで、より質の高い医療サービスの提供が期待できます。重要なのは、規制変更を機に医療従事者間の連携を深め、患者中心の医療体制を構築することです。

零売に関する議論は、医療アクセスの改善と安全性確保のバランスをどう取るかという、現代医療が直面する重要な課題を浮き彫りにしています。今後の薬事行政の動向と司法判断の結果に注目が集まります。