クルーゾン症候群の症状
クルーゾン症候群は症候群性頭蓋縫合早期癒合症の代表的疾患であり、FGFR2遺伝子の変異によって引き起こされる先天性疾患です。本症候群の発症頻度は約6万人に1人と報告されており、日本では年間20~30人の発症が予想されています。症状の個人差が極めて大きく、生下時より頭蓋変形を認める症例から成長に伴って症状が出現する症例まで多彩な臨床像を呈することが特徴です。
参考)クルーゾン症候群(指定難病181) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/4672″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/4672amp;#8211; 難病情報…
クルーゾン症候群の頭蓋縫合早期癒合と頭蓋変形
クルーゾン症候群では複数の頭蓋縫合が早期に癒合することで、頭蓋骨の正常な成長が妨げられます。頭蓋には縫合という骨同士の継ぎ目があり、通常は縫合に対して垂直方向に頭蓋骨が成長しますが、本症候群では縫合が早期に閉じてしまうため、頭蓋の成長方向が制限されます。
参考)クルーゾン症候群(症状・原因・治療など)|ドクターズ・ファイ…
その結果、尖頭蓋(塔状頭蓋)やクローバーリーフ頭蓋と呼ばれる特徴的な頭蓋変形が生じます。出生後の乳児期では脳が急激に大きくなり、生後1年で頭囲が1.5倍になるため、この成長に頭蓋骨が対応できないことが様々な症状の原因となります。
クルーゾン症候群の頭蓋内圧亢進症状
頭蓋骨が小さいために脳の大きさに対して頭蓋内のスペースが不足し、頭蓋内圧亢進症状が発生します。具体的には頭痛、吐き気、嘔吐といった症状が出現し、この症状は生後間もなく生じることもありますが、成長とともに現れることが多いとされています。
参考)クルーゾン症候群|疾患情報【おうち病院】 / おうち病院 疾…
頭蓋内圧亢進が進行すると、意識障害、物が二重に見える複視、視神経障害による視力低下や色覚異常などの症状を呈することがあります。また、水頭症や小脳扁桃下垂(キアリ奇形)を合併することもあり、その場合は頭や首の痛み、めまい、誤嚥、歩行障害などの追加症状が生じます。
小児では成長に伴って脳の容積が増大していきますが、頭蓋が十分拡張できないため、早期に適切な治療介入が必要となります。
参考)クルーゾン (Crouzon) 病 概要 – 小児慢性特定疾…
クルーゾン症候群の顔面低形成と眼球突出
クルーゾン症候群では顔面骨が小さくなることで、高度な眼球突出、眼間乖離(左右の目の間が広い)、斜視などの特徴的な顔貌を呈します。中顔面低形成により上顎骨が十分に発育せず、不正咬合(受け口)や高口蓋といった口腔内の異常も認められます。
参考)クルーゾン症候群(指定難病181) href=”https://www.nanbyou.or.jp/entry/4673″ target=”_blank”>https://www.nanbyou.or.jp/entry/4673amp;#8211; 難病情報…
眼球突出は本症候群の最も特徴的な症状の一つであり、眼球を保護する眼窩が浅くなることで眼球が前方に突出します。重症例では眼瞼閉鎖不全により目を完全に閉じることができず、角膜障害のリスクが高まります。
参考)クルーゾン症候群
顔面症状 | 頻度・特徴 |
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眼球突出 | ほぼ全例に認められる特徴的所見 |
斜視 | 眼球突出に伴い高頻度で出現 |
上顎骨低形成 | 中顔面低形成の主要症状 |
不正咬合(受け口) | 上顎骨の成長障害により生じる |
高口蓋・口蓋裂 | 一部の症例で認められる |
クルーゾン症候群の呼吸障害と聴覚障害
上気道閉塞や後鼻孔狭窄・閉塞により、呼吸障害やいびきなどの症状が出現します。中顔面低形成により上気道のスペースが狭くなるため、睡眠時無呼吸症候群のような症状を呈することもあります。この呼吸障害は乳幼児期には特に重篤な問題となり、成長発達に影響を与える可能性があります。
聴覚障害については、本症候群の約55%に難聴を認めるという報告があります。多くは伝音性難聴であり、その程度は軽度から中等度とされています。外耳道狭窄や外耳道閉鎖が原因となることが多く、一部の症例では外耳道の閉鎖により完全な難聴を呈することもあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000101032.pdf
クルーゾン症候群の神経発達への影響
頭蓋内圧亢進が持続すると、脳の発達に影響を及ぼす可能性があります。特に早期に頭蓋内圧亢進症状が出現し、適切な治療が遅れた場合には、精神運動発達遅滞を認めることがあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000157123.docx
頭蓋内圧亢進に伴う行動発達障害の発生病態については、脳機能発達を治療ゴールとした手術概念が提唱されており、早期の外科的介入が重要とされています。適切な時期に頭蓋形成術や頭蓋骨延長術などの手術治療を行うことで、頭蓋内圧を正常化し、脳の発達を促進することが可能です。
発症形態様式の個人差が極めて大きいことが知られており、同じ遺伝子変異を持つ家族内でも症状の重症度が異なることがあります。
参考)https://raredis.nibn.go.jp/malformation/diagnostic_criteria/daiagnostic_criteria_161229_29.pdf
クルーゾン症候群の診断基準と検査所見
クルーゾン症候群の診断は、臨床症状、画像検査、遺伝子検査を組み合わせて行われます。診断基準は「症候性頭蓋縫合早期癒合症(クルーゾン/アペール/ファイファー/アントレー・ビクスラー症候群)に対する治療指針の作成および新規治療法の開発に関する研究」によって策定されています。
画像検査では、頭部CT検査で頭蓋縫合の早期癒合、頭蓋変形、水頭症、キアリ奇形の有無を評価します。三次元CTによる頭蓋骨の再構成画像は、癒合した縫合の部位や頭蓋変形のパターンを詳細に把握するために有用です。
参考)https://assets.cureus.com/uploads/case_report/pdf/248006/20240618-23047-1sp4w6v.pdf
遺伝子検査では、FGFR2遺伝子のIgIIIa/cドメインに変異が集中していることが知られており、約5%の症例ではFGFR3遺伝子の変異を認めます。FGFR3遺伝子変異を伴う症例では黒色表皮症を合併することが特徴です。
検査項目 | 所見 |
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頭部CT検査 | 頭蓋縫合早期癒合、頭蓋変形、水頭症、キアリ奇形 |
三次元CT | 癒合縫合の部位と頭蓋変形パターンの詳細評価 |
遺伝子検査 | FGFR2(主にIgIIIa/cドメイン)またはFGFR3の変異 |
眼科検査 | 眼球突出度、斜視、視力、眼圧の評価 |
聴力検査 | 伝音性難聴の有無と程度の評価 |
診断時には、単純性頭蓋縫合早期癒合症との鑑別が重要です。クルーゾン症候群は症候群性であり、頭蓋縫合早期癒合に加えて顔面骨低形成を伴いますが、基本的には手足の合指・趾症を伴わない点がfaifashoukougunrushindanjikitokensa.html”>ファイファー症候群との鑑別点となります。
参考)頭蓋縫合早期癒合症
クルーゾン症候群の治療と予後
クルーゾン症候群の治療は多診療科によるチーム医療が必要であり、脳神経外科、形成外科、眼科、耳鼻咽喉科、歯科口腔外科などが連携して治療にあたります。治療の主体は外科的治療であり、頭蓋内圧亢進の程度や症状の重症度に応じて手術の必要性と時期を判断します。
参考)37から39までに掲げるもののほか、重度の頭蓋骨縫合早期癒合…
頭蓋変形と頭蓋内圧亢進に対しては、頭蓋形成術や多方向性頭蓋延長術(MCDO法)、頭蓋骨延長法などが行われます。早期に頭蓋内圧亢進と高度変形を呈する症例に対しては、新しい縫合切除術が開発されています。これらの手術は生後数か月から1歳前後に行われることが多く、脳の発達を妨げないために適切なタイミングでの介入が重要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/851938d1b490f413b385d875f14f1424a52504e9
顔面骨の低形成に対しては、LeFort(ルフォー)型骨延長術が行われます。この手術では顔の骨を前方に移動させることで、眼球突出、受け口、上気道狭窄などの症状を改善します。慶應義塾大学病院では独自の骨延長器を使用することで、延長器が髪の毛に隠れて見えず、日常生活に支障なく治療を受けられる方法を開発しています。
手術の絶対適応となるのは、眼瞼閉鎖不全により目を閉じられない場合や、上気道狭窄により呼吸ができない場合です。これらの症状は生命に関わる可能性があるため、緊急的な外科的介入が必要となります。
クルーゾン症候群は常染色体優性遺伝疾患ですが、孤発性に発生することも少なくありません。親に症状がない場合でも突然変異によって発症することがあり、必ずしも遺伝が関与するとは限りません。遺伝カウンセリングでは、FGFR2やFGFR3の遺伝子変異に基づいた正確な情報提供が重要です。
参考)https://www.genetest.jp/documents/tests/insured/K010-18_v7.pdf
適切な時期に外科的治療を行い、多診療科による継続的な管理を行うことで、多くの患者が良好な予後を得ることができます。しかし、症状の複雑性から専門的かつ集学的治療を必要とし、国内外においても適切な治療時期や方法は完全には確立されていないのが現状です。