クレアチンキナーゼとクレアチニンの違い
クレアチンキナーゼの基準値と役割
クレアチンキナーゼ(CK)は、筋肉の収縮や弛緩に必要なエネルギー代謝に関与する酵素です。CKは、クレアチンリン酸とアデノシン二リン酸(ADP)からクレアチンとアデノシン三リン酸(ATP)を生成する反応を触媒します。つまり、筋肉が活動するときに必要なエネルギーを素早く供給する重要な役割を担っています。
参考)クレアチンキナーゼ(CK) – みんなの家庭の医学 WEB版
CKの基準値は性別によって異なり、男性では62~287 IU/L、女性では45~163 IU/Lとされています。女性の方が男性より筋肉量が少ないため、基準値も低く設定されています。CKは骨格筋、心筋、平滑筋、脳などに多く含まれており、これらの組織が損傷を受けると血液中に漏れ出す性質があります。
参考)クレアチンキナーゼ
激しい運動をした直後や筋肉注射を受けた後には、一時的にCK値が上昇することがあります。そのため、血液検査の前には激しい運動を避けることが推奨されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4871266/
クレアチンキナーゼアイソザイムの種類
CKには3種類のアイソザイム(同位酵素)が存在し、それぞれ異なる臓器に分布しています。CK-MM型は骨格筋に多く存在し、健常者の血中CKの大部分を占めています。CK-MB型は心筋に多く含まれており、心筋梗塞の診断に重要な指標となります。心筋梗塞の発作から3~6時間後に上昇し始めるため、早期診断に有用です。
参考)クレアチンキナーゼ〔CK〕《クレアチンホスホキナーゼ〔CPK…
CK-BB型は脳細胞や平滑筋に多く存在しますが、通常は血中にはほとんど検出されません。脳梗塞や脳出血などの脳疾患では、脳由来のCK-BBが上昇することがありますが、血中総CKへの影響は比較的少ないとされています。また、ミトコンドリア由来のCKや免疫グロブリン結合型のマクロCKなどの異常分画も存在し、これらはアイソザイムの泳動パターンから推測できます。
参考)CKアイソザイム(CPKアイソザイム)|アイソザイム|生化学…
総CK値が高値を示す場合、どのアイソザイムが上昇しているかを調べることで、障害を受けた臓器を特定できます。
参考)CK(クレアチンキナーゼ)[ラボ NO.546(2024.7…
クレアチニンの基準値と腎機能
クレアチニンは、筋肉細胞中のクレアチンが分解されてできる老廃物です。クレアチンは肝臓でアミノ酸のグリシン、アルギニン、S-アデノメチオニンから合成され、筋肉に運ばれてクレアチンリン酸となります。このクレアチンリン酸は筋肉のエネルギー源として利用された後、クレアチニンに変換されます。
参考)クレアチン,クレアチニン (medicina 47巻11号)…
クレアチニンは血液によって筋肉から腎臓に運ばれ、腎臓でろ過されて尿として排出されます。健康な人の血中クレアチニン値は、男性で0.6~1.2 mg/dL程度とされています。血中のクレアチニン濃度は、体内の筋肉量に比例するため、筋肉量の多い人では高く、少ない人では低くなる傾向があります。
参考)クレアチニン(血液)
クレアチニンの血中濃度は糸球体濾過率を反映しているため、腎機能の評価に用いられます。腎臓の機能が低下すると、クレアチニンを十分にろ過できなくなるため、血中のクレアチニン濃度が上昇します。
参考)クレアチニンとは?数値が高いときの原因・症状・治療方法を解説…
クレアチニン検査とeGFRの関係
血清クレアチニン値は、eGFR(推算糸球体濾過量)を算出するために使用されます。eGFRは血清クレアチニン値、年齢、性別から計算される指標で、腎機能をより正確に評価できます。eGFRの値が低いほど腎機能が低下していることを示し、慢性腎臓病の診断や病期分類に用いられます。
参考)教えて!ドクター|クレアチニンやeGFRとは、どのような検査…
ただし、クレアチニンの値は筋肉量の影響を受けるため、eGFRも実際の腎機能を正確に反映していない可能性があります。筋肉量が極端に多い人や少ない人では、クレアチニンの値が本来の腎機能とは異なる値を示すことがあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/5/97_929/_pdf
そのような場合、血液中のシスタチンCという物質を用いたeGFRも参考にすることで、より正確な腎機能の判定が可能になります。シスタチンCは全身の細胞から作られる物質で、筋肉量の影響を受けないため、クレアチニンによるeGFRとシスタチンCによるeGFRの平均値を用いることで、より信頼性の高い腎機能評価ができるとされています。
クレアチンキナーゼとクレアチニンの臨床的意義の違い
クレアチンキナーゼとクレアチニンは、名前が似ているため混同されやすいですが、臨床的な意義は全く異なります。クレアチンキナーゼ(CK)は酵素であり、筋肉や心臓の障害を検出するために測定されます。一方、クレアチニンは代謝産物であり、腎臓の機能を評価するために測定されます。
参考)クレアチニンとクレアチンキナーゼの違いとは?分かりやすく解説…
CKが高値を示す場合は、心筋梗塞、心筋炎、筋ジストロフィー、横紋筋融解症などの筋肉や心臓の疾患が疑われます。特に心筋梗塞では、発症後数時間以内にCK-MBが上昇し始めるため、早期診断の重要な指標となります。また、激しい運動や筋肉注射、外傷などでも一時的に上昇することがあります。
参考)クレアチンキナーゼ
一方、クレアチニンが高値を示す場合は、腎機能の低下が疑われます。慢性腎臓病や急性腎不全などの腎疾患では、腎臓のろ過機能が低下するため、血中クレアチニン値が上昇します。クレアチニン値は腎機能の指標として、透析導入の判断材料の一つにもなっています。
興味深いことに、BUN(尿素窒素)とクレアチニンの比較においても、クレアチニンの方が腎機能の正確な把握に優れているとされています。BUNは食事のタンパク質摂取量や脱水状態などの影響を受けやすいのに対し、クレアチニンは体内で一定の速度で生成され、比較的安定した値を示すためです。
以下の表は、クレアチンキナーゼとクレアチニンの主な違いをまとめたものです。
項目 | クレアチンキナーゼ(CK) | クレアチニン(Cr) |
---|---|---|
物質の種類 | 酵素 | 代謝産物 |
主な役割 | ATPの再生、エネルギー代謝の触媒 | クレアチンの分解産物、老廃物 |
基準値(男性) | 62~287 IU/L | 0.6~1.2 mg/dL |
基準値(女性) | 45~163 IU/L | 0.45~0.75 mg/dL
参考)クレアチニンとは?|血液ガス|ラジオメーター www.acu… |
主な分布 | 骨格筋、心筋、脳 | 血液、尿 |
臨床的意義 | 筋肉・心臓疾患の診断 | 腎機能の評価 |
高値で疑われる疾患 | 心筋梗塞、筋ジストロフィー、横紋筋融解症 | 慢性腎臓病、急性腎不全 |
このように、クレアチンキナーゼとクレアチニンは、検査する目的も評価する臓器も全く異なる検査項目です。健康診断や血液検査の結果を正しく理解するためには、それぞれの違いを把握しておくことが重要です。