クエン酸回路でATPは何個生成されるか

クエン酸回路でATPは何個生成されるか

この記事のポイント

クエン酸回路のATP生成量

クエン酸回路では1回転でアセチルCoA1分子あたり、直接生成されるATPは1分子(またはGTP1分子)です。

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補酵素の生成

NADH3分子とFADH2が1分子生成され、これらが電子伝達系でATP産生に利用されます。

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細胞呼吸全体でのATP

グルコース1分子から解糖系、クエン酸回路、電子伝達系を経て、合計30~38分子のATPが生成されます。

クエン酸回路で直接生成されるATP数

クエン酸回路(TCAサイクル、クレブス回路とも呼ばれます)は、ミトコンドリアのマトリックスで進行する代謝経路で、エネルギー産生の中心的な役割を果たしています。この回路では、アセチルCoA1分子が完全に酸化される過程で、直接的には1分子のATP(または生化学的にほぼ等価なGTP)が生成されます。

参考)クエン酸回路 – Wikipedia


グルコース1分子は解糖系で2分子のピルビン酸に分解され、それぞれがアセチルCoAに変換されます。したがって、グルコース1分子由来のアセチルCoA2分子がクエン酸回路を2回転することで、合計2分子のATPが直接産生されることになります。

参考)糖質の代謝はどのように行われるの?


クエン酸回路におけるATP生成の反応は、α-ケトグルタル酸からコハク酸が生成される過程で起こります。この基質レベルのリン酸化反応により、エネルギーが直接ATPに変換されるのです。

参考)【高校生物】「クエン酸回路」

クエン酸回路におけるNADHとFADH2の生成

クエン酸回路で生成されるエネルギーの大部分は、ATPという形ではなく、補酵素であるNADHとFADH2という形で蓄えられます。アセチルCoA1分子あたり、クエン酸回路ではNADH3分子FADH2が1分子生成されます。

参考)ビデオ: クエン酸回路の生成物


具体的には、NADHはイソクエン酸からα-ケトグルタル酸、α-ケトグルタル酸からコハク酸、リンゴ酸からオキサロ酢酸という3つの酸化反応段階で生成されます。一方、FADH2はコハク酸からフマル酸への酸化過程で1分子生成されます。

参考)ビデオ: クエン酸回路


グルコース1分子から計算すると、クエン酸回路全体でNADH8分子(正確には6分子がクエン酸回路、2分子がピルビン酸脱炭酸反応由来)とFADH2が2分子生成されます。これらの補酵素は、後述する電子伝達系において大量のATP産生に利用される重要な還元力を持っています。

参考)[3] 電子伝達系[electron transport c…

電子伝達系でのATP生成とクエン酸回路の関係

クエン酸回路で生成されたNADHとFADH2は、ミトコンドリア内膜に存在する電子伝達系(呼吸鎖)に電子を供給します。この電子伝達系こそが、細胞呼吸における最大のATP産生の場となります。

参考)細胞でエネルギーを生み出すための3つの反応|酸素研究所 – …


電子伝達系では、酸化的リン酸化によるATP合成が行われます。NADH1分子からは約2.5~3分子のATPが、FADH2からは約1.5~2分子のATPが生成されます。この差は、NADHが複合体Iから電子を渡すのに対し、FADH2は複合体IIから電子伝達を開始するため、プロトン勾配の形成量が異なることに起因します。

参考)ビデオ: ATP収量


グルコース1分子あたりで計算すると、電子伝達系では最大34分子のATPが産生されます。解糖系で2分子、クエン酸回路で2分子のATPと合わせると、好気呼吸全体では合計30~38分子のATPが生成されることになります。

参考)細胞呼吸 – Wikipedia

代謝段階 生成されるATP 生成される補酵素
解糖系 2分子 NADH 2分子
クエン酸回路(グルコース1分子あたり) 2分子 NADH 8分子、FADH2 2分子
電子伝達系 最大34分子
合計 30~38分子

クエン酸回路の各反応段階とエネルギー産生

クエン酸回路は8つの連続した酵素反応から構成されており、それぞれの段階で異なる代謝中間体が生成されます。反応は、アセチルCoAとオキサロ酢酸が結合してクエン酸(C6化合物)を生成することから始まります。

参考)[2] クエン酸回路[citric acid cycle]


回路の進行過程では、2分子の二酸化炭素が放出され、炭素骨格が段階的に酸化されていきます。この酸化過程で水素原子が補酵素NAD+やFADに渡され、還元型のNADHとFADH2が形成されます。

参考)電子伝達系|栄養と代謝


また、クエン酸回路では3つの水分子が必要とされ、オキサロ酢酸からクエン酸、α-ケトグルタル酸からコハク酸、フマル酸からリンゴ酸という3つの反応段階で水が消費されます。この一連の反応により、回路は継続的に回転し、アセチルCoAさえ供給されれば反応が進んでいきます。

参考)TCA回路|栄養と代謝

クエン酸回路のATP産生数が文献により異なる理由

細胞呼吸全体で生成されるATP数については、教科書や文献によって30分子、32分子、34分子、36分子、38分子など、さまざまな数値が記載されています。この違いは、ATP計算における前提条件の違いに起因します。

参考)https://www.teu.ac.jp/ap_page/koukai/2022_03_3sugawara.pdf


最も大きな要因は、NADHとFADH2からのATP産生効率の見積もり方です。従来の教科書では、NADH1分子あたり3ATP、FADH2あたり2ATPという整数値を用いることが多かったのですが、現在ではNADH1分子あたり2.5ATP、FADH2あたり1.5ATPという、より正確な値が使用されるようになっています。

参考)糖代謝(解糖系・TCA回路・電子伝達系)をわかりやすく


また、解糖系で生成されたNADHをミトコンドリア内に輸送する際のシャトル機構のエネルギーコストも影響します。グリセロールリン酸シャトルとリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルでは輸送効率が異なり、これがATP総数の違いに反映されます。実際の生理条件下では、グルコース1分子あたり約30~32分子のATPが産生されると考えられています。​
看護roo!「糖質の代謝はどのように行われるの?」 – クエン酸回路の詳細な反応メカニズムと各段階でのATP生成について解説されています。
大塚製薬「細胞でエネルギーを生み出すための3つの反応」 – 解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の3段階におけるATP産生の仕組みがわかりやすく説明されています。
JoVE「クエン酸回路の生成物:NADH、FADH2、ATP、CO2」 – クエン酸回路で生成される各種生成物の詳細と、それらが電子伝達系でどのように利用されるかについての参考情報です。