口唇ヘルペスの症状と診断・治療のポイント

口唇ヘルペスの症状

口唇ヘルペス症状の主要ポイント

前駆症状

唇周囲のピリピリ・チクチクした違和感、ムズムズ感が数分~数時間続く

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急性期症状

赤みと腫れの後、1~3日で水疱が集簇して出現し、ウイルス増殖が活発化

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回復期症状

水疱がかさぶたに変化し、1~2週間で自然治癒へ向かう

口唇ヘルペスの前駆症状とピリピリ感の特徴

口唇ヘルペスの発症には多くの場合、特徴的な前駆症状が現れます。唇やその周囲にピリピリ感、チクチクした痛み、ムズムズ感、ほてりなどの違和感を数分から数時間にわたって感じることが典型的です。再発を繰り返している患者は、この前駆症状によって口唇ヘルペスの発症を予測できるようになります。

参考)口唇ヘルペス


前駆症状の段階では、まだ視診で確認できる病変は出現していませんが、神経が過敏になっているような感覚や漠然とした不快感を訴える患者もいます。人によっては発熱や頭痛、全身の痛みを伴うこともあるため、全身状態の評価も重要です。

参考)口唇ヘルペスと症状|アラセナS(口唇ヘルペス市販再発治療薬)


この前駆症状が出現してから半日程度で赤く腫れ、水疱が形成されます。対処が早ければ早いほどウイルスの増殖を抑えられる可能性が高くなるため、前駆症状の段階で医療機関を受診することが推奨されます。

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口唇ヘルペスの水疱とびらんの進行過程

前駆症状から1~3日後には、かゆみを伴う大小の水疱が複数個出現します。水疱は中央が凹んでいるのが特徴的で、「中心臍窩を伴う水疱」とも表現されます。患部でウイルスが急激に増殖している時期で、1~3日ほど続きます。

参考)『口唇ヘルペス』の症状・治療法【症例画像】|田辺三菱製薬|ヒ…


水疱はやがて破れて、ジュクジュクとした潰瘍(びらん)になります。初感染の場合は比較的症状が強く出る傾向があり、いくつかの水疱が繋がって大きな潰瘍になることもあります。水疱の中の液や潰瘍部分にはウイルスがたくさん含まれており、患部を直接触れたり、その手で粘膜に触れたりすることで他人に感染しやすいため、特に注意が必要な時期です。

参考)口唇ヘルペスの症状と原因-早く治すには?|富田るり子皮膚科ク…


水疱が破れて細菌感染を起こした際には膿が発生することもあります。びらんや潰瘍は数日かけて乾燥し、黄色っぽいかさぶた(痂皮)になり、数日たつとかさぶたは自然に剥がれ落ち、皮膚が再生して治癒します。

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口唇ヘルペスの初感染と再発時の症状の違い

初感染と再発時では症状の重症度に大きな違いがあります。幼少期に初感染した場合は、症状がほとんどないか気づかないほど軽度なことがほとんどです。しかし大人になってから初めて感染すると、通常4~7日後に感染した場所が赤く腫れ、水疱が多数現れます。

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初感染時には、感染部位付近のリンパ節の腫れや痛み、発熱、だるさ、頭痛などの強い症状を伴うこともあり、治まるまでには2~4週間かかることがあります。また、アトピー性皮膚炎の患者が初めて感染した場合も、高熱や全身の倦怠感、身体中に複数の皮疹(カポジ水痘様発疹症)が出現するなどの重い症状が出る場合があります。

参考)口唇ヘルペス (こうしんへるぺす)とは


再発時は既に体内に抗体ができあがっているため、一般的に症状は初感染よりも軽いとされています。再発の場合、しばしば無症状で、初感染時よりも軽いことが多く、唇やその周りに痛みを伴う小さな水ぶくれが数個でき、1~2日後に膿やかさぶたになり、8~10日以内に治ります。

参考)口唇ヘルペス再発のしくみ|アラセナS(口唇ヘルペス市販再発治…

口唇ヘルペスの再発を引き起こす要因

単純ヘルペスウイルス(HSV)は初感染後、症状が治まってもウイルスそのものは排除されず体内に残り続けます。口唇ヘルペスの場合、頭部にある三叉神経節に不活性化した状態で潜伏します。​
発熱、疲労、ストレスなどにより体の抵抗力が落ちると、単純ヘルペスウイルスは活性化し始めます。具体的な再発の引き金としては、精神的ストレスや疲労、睡眠不足、月経前、風邪や発熱、季節の変わり目、唇の日焼け、歯科処置後などが挙げられます。これらはいずれも体力や免疫の低下につながり、その結果としてヘルペスウイルスを抑制しきれず口唇ヘルペスが再発します。

参考)口唇ヘルペスが再発する原因はなんですか? |口唇ヘルペス


紫外線、性交、歯科治療などの物理的刺激や、悪性腫瘍合併を含めた細胞性免疫の低下などで潜伏ウイルスが増殖することも知られています。同じHSVに感染していても、月に数回再発する人と数年に1回しか再発しない人がおり、潜伏しているウイルス量や免疫力、ウイルス株の差によるとの考えもあります。​

口唇ヘルペスの非典型的症状と鑑別診断

典型的な口唇ヘルペスは唇に水疱が出現しますが、鼻の周りや頬、眼の周りにできることもあります。また、同じヘルペスウイルスが原因で口内炎の症状が出る場合もあり、これをヘルペス性歯肉口内炎と呼びます。

参考)口唇ヘルペスではどのような症状がありますか? |口唇ヘルペス


非典型例や他疾患との鑑別が困難な場合は検査による診断が必要となります。特に帯状疱疹との鑑別は重要で、帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスが原因で神経痛が後遺症として残ることがありますが、ヘルペスは単純ヘルペスウイルスが原因で唇など限られた部位に発疹が現れます。

参考)3.単純疱疹の検査・診断法


HSV-1感染の非典型的臨床症状として報告された症例では、62歳女性が左口角部の腫瘤を主訴としており、典型的な水疱形成とは異なる臨床像を示しました。こうした非典型例では、臨床症状だけで確定的な診断は難しいため、ウイルス検査が必要になります。

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口唇ヘルペスの検査方法と診断プロセス

単純ヘルペスは典型例であれば詳細な問診と視診で診断が可能ですが、非典型例や他疾患との鑑別が困難な場合は検査による診断が必要となります。ヘルペスは概ね医師による目視で判別が付くため、実際に検査するケースは非常に少ないです。

参考)ヘルペスの5つの検査方法を徹底解説!検査の流れやかかる時間、…


主な検査方法として、PCR検査は水疱の内容物を分析し、ヘルペスウイルスのDNAを検出します。高精度で特定のウイルスを検出できますが時間を要します。Tzanckテスト(ツァンク法)は水疱の底から採取した細胞を染色し、顕微鏡で観察する方法で、シンプルで迅速ですがヘルペスウイルスの種類は特定できません。

参考)口唇ヘルペス|こばとも皮膚科|栄駅(名古屋市栄区)徒歩2分


抗体検査は血液検査により、ヘルペスウイルスに対する抗体の有無を確認し、比較的短時間でHSVの型まで判定できます。EIA法は感度が高く、IgG・IgM抗体の分別測定も可能なため過去または現在の感染の有無が分かります。

参考)患者さんの唇に症状がでており、単純ヘルペス(HSV)を疑って…


抗原検出キット(デルマクイック)は水疱部を擦過して専用のキットを用いてヘルペス感染の有無を確認する方法で、簡便に行える試験で偽陰性も比較的少なく、発症部位に関わらず皮膚擦過物を適用検体とし、特別な機器を必要とせず5~10分で判定が可能です。

参考)イムノクロマト法を用いた単純ヘルペスウイルスキット「デルマク…

口唇ヘルペスの治療法と抗ウイルス薬の選択

口唇ヘルペスに対しては、感染しているHSVの勢いを抑えるため抗ウイルス薬の内服を考慮します。主な内服薬として、バルトレックス(バラシクロビル)は1回500mg 1日2回内服で5日間投与され、ファムビル(ファムシクロビル)は1回250mg 1日3回内服で5日間投与されます。どちらの薬剤も腎機能に応じた用量調整が必要です。

参考)単純ヘルペスの治療【新しい治療法PITと、再発抑制療法】


何らかの理由で内服が難しい場合は、外用薬(塗り薬)による治療を行うこともあります。ペンシクロビルのクリーム剤は、目覚めている間に2時間毎に塗るもので、口唇ヘルペスが治癒するまでの期間と症状の持続期間を約1日短縮できます。ドコサノール含有の市販薬のクリーム(1日5回塗布)で症状がいくらか和らぐこともあります。

参考)単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 – 16. 感染症 -…


口唇ヘルペスの再発には、アシクロビル、バラシクロビル、またはファムシクロビルを長くて数日間内服する治療法が最も効果的です。ヘルペス脳炎や新生児の感染症などの重症のHSV感染症は、アシクロビルの静脈内投与で治療します。非常にまれですが、ウイルスがアシクロビルに対し耐性をもつようになった場合は、ホスカルネットを静脈内投与します。​
単純ヘルペス角膜炎の患者には、トリフルリジンの点眼薬が処方されることがあり、眼科医による治療の指導が必要です。単純疱疹に対するアシクロビル錠剤の臨床経験についての研究も報告されており、治療効果が確認されています。

参考)Aciclovir錠による単純ヘルペス感染症の治療経験


参考となる情報として、マルホ株式会社の単純疱疹の検査・診断法に関する情報では、検査法による感度や特異度の違いについて詳細に解説されています。
また、MSDマニュアルの単純ヘルペスウイルス感染症のページには、治療薬の詳細な使用方法と副作用についての記載があり、臨床現場での参考になります。
口唇ヘルペスの病態と管理に関する包括的なレビュー論文では、HSV-1による初回感染後の再発性口唇ヘルペスの疫学、病態生成、管理方法について詳細に解説されており、ストレス、発熱環境、紫外線、特定の栄養不足などの心理社会的要因によって再活性化が引き起こされることが報告されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9867007/


口腔内ヘルペスウイルスの臨床徴候とQOLに関する系統的レビューでは、HSV-1とHSV-2の口腔症状と顎顔面領域での臨床的特徴に焦点が当てられており、口腔ヘルペスウイルスは非常に一般的で、患者にとってしばしば衰弱性の感染症であり、口腔の健康に影響を与え、重要な心理的影響を持つことが示されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6563194/