抗生剤一覧:医療従事者必携の略称と分類ガイド

抗生剤一覧と分類

抗生剤の基本分類
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ペニシリン系

グラム陽性菌に強い抗菌力を持つ基本的な抗生剤

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セフェム系

第1世代から第4世代まで、世代ごとに抗菌スペクトルが異なる

ニューキノロン系

幅広い抗菌スペクトルを持つ合成抗菌薬

抗生剤の略称一覧と覚え方

医療現場では抗生剤を略称で表記することが一般的です。日本化学療法学会が制定した略称は、医療従事者間のコミュニケーションを円滑にする重要なツールとなっています。

主要な抗生剤略称一覧:

  • ペニシリン系
  • ABPC:アンピシリン(静注)
  • AMPC:アモキシシリン(経口)
  • PIPC:ピペラシリン(静注、緑膿菌活性あり)
  • PCG:ベンジルペニシリン(静注)
  • セフェム系
  • CEZ:セファゾリン(第1世代、静注)
  • CTM:セフォチアム(第2世代、静注)
  • CTRX:セフトリアキソン(第3世代、静注)
  • CFPM:セフェピム(第4世代、静注)
  • ニューキノロン系
  • LVFX:レボフロキサシン(静注・経口とも)
  • CPFX:シプロフロキサシン(静注・経口とも)
  • MFLX:モキシフロキサシン(経口)
  • その他重要な略称
  • VCM:バンコマイシン(グリコペプチド系)
  • LZD:リネゾリド(オキサゾリジノン系)
  • DAP:ダプトマイシン(リボペプチド系)

略称を覚える際のコツは、一般名の頭文字を組み合わせたパターンを理解することです。例えば、AMPCは「AMoxicillin」の略で、セフ系薬剤の多くは「C」から始まる略称が付けられています。

抗生剤の分類別効果と特徴

抗生剤は作用機序や抗菌スペクトルによって分類され、それぞれ異なる特徴を持ちます。

ペニシリン系抗生剤:

  • 細胞壁合成阻害により殺菌的に作用
  • グラム陽性菌に強い活性
  • βラクタマーゼ産生菌には効果が限定的
  • アレルギー反応のリスクあり

セフェム系抗生剤の世代別特徴:

  • 第1世代(CEZ、CEX):グラム陽性菌に強い
  • 第2世代(CTM、CMZ):嫌気性菌もカバー
  • 第3世代(CTRX、CAZ):グラム陰性菌に強い
  • 第4世代(CFPM):緑膿菌にも活性

マクロライド系(CAM、AZM、EM):

  • 蛋白合成阻害により静菌的に作用
  • 非定型病原体(マイコプラズマ、クラミジア)に有効
  • 胃腸障害が比較的少ない

ニューキノロン系:

  • DNA合成阻害により殺菌的に作用
  • 広範囲な抗菌スペクトル
  • バイオアベイラビリティが高い薬剤が多い

抗生剤の投与方法と選択基準

抗生剤の効果を最大化するためには、適切な投与方法と選択基準の理解が不可欠です。

投与経路による分類:

  • 静注薬:重篤な感染症、経口摂取困難時
  • 経口薬:軽症から中等症、外来治療
  • 両方可能:症状改善に応じたstep down therapy

選択の基本原則:

  1. 感染部位の特定:臓器レベルと細胞レベルでの病原体分布を考慮
  2. 想定される病原体:患者背景(免疫状態、生活状況)から推定
  3. 抗菌スペクトル:広すぎず狭すぎない適切な範囲
  4. 薬物動態:感染部位への到達性

特殊な考慮事項:

  • 腎機能障害時の用量調整
  • 肝機能障害時の代謝能力
  • 妊娠・授乳期の安全性
  • 小児・高齢者での薬物動態の変化

レスピラトリーキノロン(GRNX、STFX、MFLX)は肺炎球菌、マイコプラズマ、クラミジアへの抗菌活性が増強されており、呼吸器感染症の治療に特に有用です。

抗生剤の使用上の注意点

抗生剤の適正使用は、治療効果の最大化と副作用の最小化を図る上で極めて重要です。

風邪症状への誤用の回避:

風邪の原因の約9割はウイルス感染であり、抗生剤はウイルス感染には効果がありません。大規模な調査では、発症後すぐから抗生剤を投与しても、症状改善までの期間や重症化率に差がないことが確認されています。

抗菌薬無効な病原体:

  • ウイルス(インフルエンザ、ヘルペスなど一部を除く)
  • 真菌(抗真菌薬が必要)
  • 寄生虫(抗寄生虫薬が必要)

バイオアベイラビリティの考慮:

静注・経口ともある薬剤でも、両方が同じ効果を示すわけではありません。経口薬が点滴薬と同等の効果を持つかは、その薬剤のバイオアベイラビリティによって決まります。

主要な副作用と対策:

  • アレルギー反応:特にペニシリン系で注意
  • 消化器症状:下痢、悪心、嘔吐
  • 菌交代現象:正常細菌叢の破綻
  • 腎毒性:アミノグリコシド系で注意

抗生剤耐性と適正使用戦略

抗生剤耐性は世界的な脅威となっており、医療従事者には適正使用の責任があります。

耐性菌出現のメカニズム:

  • βラクタマーゼ産生による薬剤の不活化
  • 薬剤結合部位の変異
  • 薬剤の取り込み阻害
  • 能動的排出の増強

MRSA対策:

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)には、バンコマイシン(VCM)やリネゾリド(LZD)、ダプトマイシン(DAP)が有効です。ただし、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の出現も報告されており、慎重な使用が求められます。

適正使用のガイドライン:

  1. 培養結果に基づく選択:可能な限り起因菌を同定
  2. 適切な投与期間:必要以上の長期投与を避ける
  3. de-escalation therapy:広域から狭域への変更
  4. PK/PD理論の活用:薬物動態・薬力学に基づく投与設計

感染制御チーム(ICT)との連携:

医療関連感染の予防と抗菌薬適正使用推進のため、ICTとの密接な連携が重要です。定期的な抗菌薬使用状況の監視と、耐性菌発生動向の把握が必要となります。

抗生剤の適正使用は、個々の患者への最適な治療提供だけでなく、将来の医療資源保護の観点からも極めて重要な課題です。医療従事者一人ひとりが責任を持って、エビデンスに基づいた抗生剤選択を行うことが求められています。

参考リンク:日本化学療法学会の抗菌薬適正使用指針

http://www.chemotherapy.or.jp/

参考リンク:感染症診療ガイドライン

https://www.kansensho.or.jp/