抗細菌薬と抗生物質の違い
抗生物質は天然由来だけを指します
抗細菌薬の定義と範囲
抗細菌薬は細菌の増殖を抑制または殺菌する作用を持つ薬剤の総称です。天然由来、合成、半合成を問わず、細菌に対して効果を示すすべての薬剤が含まれます。
この定義には重要なポイントがあります。作用機序や化学構造ではなく、「細菌に効く」という機能で分類されているということですね。
具体的には以下のような薬剤が抗細菌薬に含まれます。
現在の臨床現場で使われている抗細菌薬の約70%は半合成または合成によって作られています。天然物質だけでは治療に必要な薬剤をカバーできないためです。
WHOや日本感染症学会では「antimicrobial agents」「抗微生物薬」という用語を推奨しています。これは細菌だけでなく、真菌やウイルスに効く薬剤も含む、さらに広い概念です。
抗細菌薬が正式な医学用語です。
抗生物質の定義と歴史的背景
抗生物質は微生物が産生する天然の化学物質で、他の微生物の増殖を阻害する作用を持つものを指します。1928年にアレクサンダー・フレミングがペニシリンを発見したことから歴史が始まりました。
どういうことでしょうか?
抗生物質の「抗生」は英語の「antibiotic」の訳語で、「生命に対抗する」という意味を持ちます。当初は微生物が他の微生物と競争するために作り出す天然の武器として理解されていました。
代表的な天然抗生物質には以下があります。
- ペニシリン(青カビ由来、1928年発見)
- ストレプトマイシン(放線菌由来、1943年発見)
- クロラムフェニコール(放線菌由来、1947年発見)
- エリスロマイシン(放線菌由来、1952年発見)
これらは土壌中の微生物が他の微生物との生存競争で優位に立つために進化させた天然物質です。人類はこの自然界の仕組みを医療に応用したということですね。
ただし現在では天然の抗生物質をそのまま使うことは少なくなっています。副作用の軽減や効果の向上のため、化学的に構造を改変した半合成抗生物質が主流になっているためです。
例えばペニシリンGは天然物質ですが、アモキシシリンは半合成で作られた改良版です。胃酸に強く、経口投与できるという利点があります。
つまり天然由来が抗生物質です。
抗細菌薬と抗生物質の使い分け方
医療現場での正しい使い分けを理解することは、正確なコミュニケーションと適切な薬剤選択につながります。特にカルテ記載や処方箋では用語の統一が重要です。
現在の日本の医療界では「抗細菌薬」という用語を使うことが推奨されています。厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き」でも「抗菌薬」または「抗細菌薬」という表記が採用されています。
これは使い分けというより、移行期にあると言えますね。
学術論文や診療ガイドラインでは以下のような表記が標準です。
- 正式名称:抗細菌薬(antibacterial agents)
- 略称:抗菌薬
- 旧称:抗生物質(歴史的文脈でのみ使用)
患者さんへの説明では「抗生物質」という言葉の方が理解されやすい場面もあります。ただし医療従事者間のコミュニケーションでは「抗細菌薬」を使うことで、合成薬も含むという正確な意味を伝えられます。
処方箋システムや電子カルテでは「抗菌薬」「抗細菌薬」という分類名が一般的です。古い文献では「抗生物質」と書かれていても、現代の文脈では「抗細菌薬」と読み替えることが必要です。
AMR(薬剤耐性)対策を進める上でも、用語の統一は重要な意味を持ちます。WHOは2015年から「antimicrobial resistance」という用語を使い、日本語でも「抗微生物薬耐性」という訳語が定着しました。
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き」では抗菌薬・抗細菌薬という用語を正式に採用しています
抗細菌薬が現代の標準用語です。
合成抗菌薬と天然抗生物質の効果の違い
合成抗菌薬と天然抗生物質では薬物動態や作用スペクトルに違いがあります。この違いを理解することで、より適切な薬剤選択が可能になります。
キノロン系は完全な合成抗菌薬の代表例です。1962年に初めて開発されたナリジクス酸から始まり、現在では第4世代まで進化しています。
合成抗菌薬の特徴は以下の通りです。
- 化学構造を自由に設計できる
- 特定の細菌を狙い撃ちできる
- 組織移行性を調整しやすい
- 副作用を予測しやすい
例えばレボフロキサシンは呼吸器への移行性が高く設計されています。肺組織での濃度が血中濃度の2〜5倍になるという特性を持つため、肺炎治療で頻用されています。
一方で天然抗生物質には独特の利点があります。
バンコマイシンは放線菌由来の天然抗生物質で、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)治療の第一選択薬です。1958年の発見以来、60年以上使われていますが、耐性菌の出現率は依然として低いままです。
これは偶然ではありません。
天然抗生物質は微生物が数億年かけて進化させた物質です。複雑な化学構造を持ち、細菌が簡単には耐性を獲得できない仕組みになっています。
ダプトマイシンも放線菌由来の環状リポペプチド抗生物質で、細菌の細胞膜を破壊する独特な作用機序を持ちます。合成では作りにくい複雑な構造のため、今でも発酵法で生産されています。
半合成抗生物質は両者の利点を組み合わせたものです。天然の基本骨格に化学修飾を加えることで、効果や安全性を向上させています。
第3世代セフェム系のセフトリアキソンは、天然由来のセファロスポリンCを改良したものです。1日1回投与で効果が持続し、髄膜炎の治療にも使える優れた薬剤になりました。
つまり両者に一長一短があります。
抗細菌薬処方時の適正使用のポイント
抗細菌薬の不適切な使用は薬剤耐性菌の増加につながります。日本では年間約8000人が薬剤耐性菌感染症で亡くなっているという推計があり、適正使用は喫緊の課題です。
処方前に必ず確認すべきポイントがあります。
感染症の診断根拠を明確にすることが第一です。ウイルス性の上気道炎に抗細菌薬を処方しても効果はなく、むしろ副作用と耐性菌のリスクだけが増えます。
厚生労働省の調査では、急性上気道炎での抗菌薬処方率が約60%という結果が出ています。このうち適応があるのは約10%程度で、半数以上が不要な処方だと考えられています。
具体的な判断基準として以下を確認します。
- 発熱の持続期間(3日以上か)
- 膿性鼻汁や膿性痰の有無
- 白血球数とCRP値
- 細菌感染を示唆する身体所見
これらを総合的に判断することですね。
培養検査を可能な限り行うことも重要です。起因菌が特定できれば、広域スペクトラムから狭域スペクトラムの薬剤に変更する「de-escalation」が可能になります。
投与期間の設定も適正使用の要です。肺炎の場合、解熱後3日間の投与で十分な場合が多く、漫然と7〜10日間処方する必要はありません。
ガイドラインでは以下の投与期間が推奨されています。
ただし重症例や免疫不全患者では延長が必要です。
患者さんへの服薬指導も欠かせません。処方された抗細菌薬は症状が改善しても最後まで飲み切る必要があることを説明します。中途半端に中止すると耐性菌が生き残るリスクがあるためです。
国立感染症研究所の薬剤耐性菌に関する情報では、適正使用の重要性が詳しく解説されています
適正使用がAMR対策の鍵です。
