抗胸腺細胞グロブリン商品名と種類、適応、使い分けを解説

抗胸腺細胞グロブリンの商品名と種類

ウサギATGは実はウマATGより高額なのに効果が劣る場合がある。

この記事の3つのポイント
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2種類のATG製剤が使い分けられている

ウサギ由来のサイモグロブリンとウマ由来のアトガムがあり、由来動物によって作用強度や適応症が異なります

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再生不良性貧血治療での使用が中心

中等症以上の再生不良性貧血に対してシクロスポリンとの併用が標準治療となっており、約7割の患者に寛解が得られます

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異種蛋白による副作用に注意が必要

アナフィラキシーや血清病などのアレルギー反応が高頻度で発生するため、慎重な観察とステロイド併用が必須です

抗胸腺細胞グロブリンの2つの主要商品名

抗胸腺細胞グロブリン(ATG:Antithymocyte Globulin)は、ヒト胸腺細胞をウサギやウマに免疫することで得られる抗リンパ球抗体です。日本国内で使用可能なATG製剤には、由来動物が異なる2つの商品があります。

ウサギATGは「サイモグロブリン点滴静注用25mg」という商品名でサノフィから販売されています。一般名は抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(rATG)です。薬価は25mg1瓶あたり28,545円に設定されています。この製剤は2008年に日本で承認され、再生不良性貧血のほか造血幹細胞移植や臓器移植後の急性拒絶反応など幅広い適応を持ちます。

ウマATGは「アトガム点滴静注液250mg」という商品名でファイザーから販売されています。一般名は抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン(hATG)です。薬価は250mg5mL1管あたり75,467円となっています。この製剤は2023年5月に薬価収載された比較的新しい薬剤で、適応は中等症以上の再生不良性貧血に限定されています。

国内では長年、ウサギATGのサイモグロブリンしか使用できませんでした。2023年からウマATGのアトガムが使用可能になったことで、医療現場での選択肢が広がっています。

抗胸腺細胞グロブリンの由来動物による違い

ウサギATGとウマATGは、免疫する動物が異なることで、抗体の種類や作用強度に差が生じます。この違いが臨床効果や副作用プロファイルに影響を与えるため、使い分けが重要です。

ウサギATGのサイモグロブリンは、ウマATGと比較して免疫抑制作用が強力とされています。これはウサギ由来の抗体が、より多様なリンパ球表面抗原に結合するためです。強力な免疫抑制効果は、造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GVHD)予防において有用性が確認されています。複数のランダム化比較試験で、末梢血幹細胞移植や非血縁者間移植における慢性GVHD抑制効果が示されました。

一方で、ウマATGのアトガムは、再生不良性貧血の初発治療においてウサギATGより優れた治療成績を示す報告があります。2011年のランダム化試験では、重症再生不良性貧血患者120人を対象にした比較で、ウマATGの方が血液学的寛解率が高いという結果が出ています。

つまり優劣が逆転するということですね。

この理由として、ウマATGの方がT細胞抑制と造血促進のバランスが適切である可能性が指摘されています。

免疫抑制作用が強いということは、必ずしも再生不良性貧血治療において有利とは限りません。ウサギATGは免疫不全が深く遷延するため、感染症リスクや長期的な合併症が増える懸念があります。このため、再生不良性貧血診療の参照ガイドでも、ウマATGとウサギATGの使い分けについて検討が続けられています。

NTT東日本関東病院の血液内科では、ATG療法の詳細な解説と実際の治療プロトコルについて情報提供しています

抗胸腺細胞グロブリンの投与方法と投与期間

ATG製剤の投与方法は、商品により細かい違いがありますが、いずれも緩徐な点滴静注が基本です。投与期間と観察期間を含めると、通常2~3週間の入院が必要になります。

サイモグロブリン(ウサギATG)の再生不良性貧血に対する用法は、体重1kgあたり2.5~3.75mgを1日1回投与します。生理食塩液または5%ブドウ糖注射液500mLで希釈し、6時間以上かけて緩徐に点滴静注することが求められています。

投与期間は5日間です。

推奨用量は2.5mg/kgとされており、この用量で十分な効果が期待できます。

アトガム(ウマATG)の投与量は、体重1kgあたり40mgを1日1回投与します。投与期間は4日間と、サイモグロブリンより1日短く設定されています。こちらも緩徐な点滴静注が必須で、急速投与は重篤な副作用のリスクを高めます。

血管炎のリスクに注意が必要です。ATGには血液細胞以外のさまざまな組織に対する抗体が含まれているため、投与部位の血管炎が発生しやすくなっています。ヨーロッパでは中心静脈から投与するのが一般的ですが、日本では血小板減少症例が多いため、中心静脈確保による出血リスクを考慮して末梢血管からの投与を選択することもあります。血管炎が起こった場合は、別の血管を確保して投与を継続します。

投与後の観察期間も重要です。ATG投与終了後、血清病などの遅発性副作用に注意するため、2~3週間の入院観察が推奨されています。血清病は投与開始5~14日目に発症することが多く、発熱、発疹、関節痛筋肉痛などの症状が8~12日間続きます。発症頻度は50~90%と高いため、この期間の慎重なモニタリングが不可欠です。

抗胸腺細胞グロブリンの適応症と使い分け

ATG製剤の主要な適応症は再生不良性貧血ですが、サイモグロブリンはより広範な適応を持ちます。臨床現場では、疾患や患者背景に応じた使い分けが求められます。

再生不良性貧血治療では、中等症以上(ステージ2b以上)の症例がATG療法の適応となります。輸血を必要とする程度の血球減少があり、造血幹細胞移植の適応とならない40歳以上の患者が主な対象です。ATGとシクロスポリン(CsA)の併用療法により、約7割の患者で寛解が得られることが報告されています。単独療法よりも併用療法の方が有効率が高いというエビデンスが確立されています。

近年では、トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグやロミプロスチム)をATG・CsA併用療法に追加することで、治療効果がさらに向上することが示されています。この3剤併用療法は健康保険でも認められており、初発再生不良性貧血の標準治療の一つとなっています。多くの医療機関では、ATG投与と同時にトロンボポエチン受容体作動薬とシクロスポリンの投与を開始するプロトコルを採用しています。

サイモグロブリンは再生不良性貧血以外にも、造血幹細胞移植の前治療、移植後の急性GVHD治療、さらに腎移植・肝移植・心移植・肺移植・膵移植・小腸移植後の急性拒絶反応治療にも適応があります。特に造血幹細胞移植領域では、GVHD予防を目的とした前処置としての使用が増えています。骨髄破壊的前処置を用いた末梢血幹細胞移植やHLA適合ドナーからの移植において、慢性GVHD抑制効果が第III相試験で証明されています。

一方、アトガムは現時点では再生不良性貧血のみの適応です。ただし、初発再生不良性貧血に対する治療効果では、一部の報告でウサギATGを上回る成績が示されています。将来的に適応拡大の可能性もありますが、現時点では再生不良性貧血治療に特化した選択肢となっています。

再発例に対するATG再投与も可能です。ATG療法で改善した症例の約35%が再発しますが、再投与により初回治療に匹敵する有効率が得られることが知られています。添付文書には同じ動物由来のATG再投与時のショックリスクが記載されていますが、欧米では長年安全に実施されており、日本のガイドラインでも慎重な観察下での再投与が推奨されています。

抗胸腺細胞グロブリンの副作用と管理のポイント

ATGは異種蛋白であるため、アレルギー反応や血清病などの特有の副作用が高頻度で発生します。適切な予防策と迅速な対応が患者の安全確保に不可欠です。

即時型アレルギー反応は、投与開始直後から1~2日目に発生することが多い副作用です。発熱、発疹、気管支痙攣、血圧低下などのアナフィラキシー症状が現れます。これらの症状は副腎皮質ステロイド抗ヒスタミン薬によく反応するため、投与前からステロイドを併用するのが一般的です。現在の標準的なプロトコルでは、プレドニゾロン換算で体重1kg あたり1mgの通常量を短期間投与します。

以前は大量ステロイド療法(5mg/kg)が行われていましたが、効果に差がない一方で大腿骨頭壊死のリスクが21%にも達することが判明しました。通常量投与では大腿骨頭壊死は報告されていません。これは長期的な患者のQOLに大きく影響するため、現在では通常量短期投与が推奨されています。

血清病は50~90%という極めて高い頻度で発生する遅発性副作用です。投与開始5~14日目に発症し、発熱、発疹、関節痛、筋肉痛、リンパ節腫脹、漿膜炎、蛋白尿などの多彩な症状が8~12日間続きます。血清病では補体価の低下が特徴的なので、週1回の補体価測定が病勢モニタリングに有用です。治療には副腎皮質ステロイドの投与が有効で、症状に応じて増量します。

一時的な血球減少も注意が必要な副作用です。ATG投与第1日目直後から白血球減少と血小板減少が見られます。特に血小板減少は致死的出血を引き起こす可能性があるため、投与期間中は予防的な血小板輸血が推奨されています。血小板数を一定レベル以上に維持することで、重篤な出血合併症を回避できます。

不整脈のリスクも見逃せません。徐脈や心室細動などの不整脈がATG投与中に発生することがあります。これはATGに含まれるリンパ球以外に対する抗体による非アレルギー性の反応と考えられており、心電図モニタリングと迅速な対応が求められます。

併用薬による副作用にも注意が必要です。シクロスポリン蛋白同化ステロイドを併用する場合、約3分の1の症例で肝障害が発生します。ウイルス性肝炎や輸血によるヘモクロマトーシスを合併している症例では、肝障害が重篤化するリスクが高まります。定期的な肝機能検査と、必要に応じた投与量調整や休薬判断が重要です。

興味深いことに、ATG投与時にシクロスポリンを併用すると、発熱や血清病の頻度が低下するという報告があります。これは免疫抑制の相乗効果によるものと考えられており、併用療法の利点の一つとなっています。

サイモグロブリンの詳細な添付文書情報(KEGG医薬品データベース)では、副作用の発現頻度や重篤度について包括的な情報が提供されています

抗胸腺細胞グロブリン療法の効果判定と予後

ATG療法の効果発現には時間がかかるため、適切な評価時期の設定と長期的なフォローアップが重要です。治療効果に影響する因子を理解することも、患者選択や治療計画に役立ちます。

効果発現までの期間は、一般的に投与後3~4ヶ月とされています。これは骨髄移植のような即効性のある治療とは大きく異なる特徴です。ATG投与直後には効果が見られないため、患者や家族への事前説明が重要となります。中には1年以上経過してから効果が現れる症例もあり、早期に無効と判断せず、十分な観察期間を設けることが推奨されています。

血球数の完全正常化は稀です。ATG療法による造血機能の回復では、血算(白血球、赤血球、血小板の数)が完全に正常値まで戻ることはまれで、ほとんどの場合ある程度の血球減少が残存します。これはシクロスポリン療法でも同様であり、再生不良性貧血の免疫抑制療法全般に共通する特徴です。輸血不要となり日常生活が支障なく送れるレベルまでの回復を、現実的な治療目標とすることが適切です。

早期治療ほど有効率が高いという重要な知見があります。再生不良性貧血発症から1年以内にATG療法を受ける方が、有効率が明らかに高いことが示されています。これは罹病期間が長い症例では輸血を受ける頻度が高く、輸血による免疫感作が治療効果を低下させるためと考えられています。診断確定後の速やかな治療開始が予後改善につながります。

長期生存率は良好です。的確に治療された場合、約70%の患者が輸血不要となるまで改善し、約90%が長期生存できることが報告されています。これは以前の予後不良な時代と比べて大幅な改善です。ただし、約35%の症例で再発が見られるため、寛解後も定期的なモニタリングが必要です。

再発時の対応策も確立されています。再発例に対するATG再投与は、初回治療に匹敵する有効率が得られることが知られています。同じ動物由来のATG再投与時には即時型アレルギーの頻度が高くなり、血清病がより早期に発症する傾向がありますが、注意深い観察下で安全に実施可能です。日本のガイドラインでも、ATG・CsA併用療法6ヶ月後に改善が見られない成人例や、造血幹細胞移植ドナーのいない再発例では、ATG再投与を推奨しています。

日経メディカルの記事では、2023年に承認されたアトガムの臨床試験データと実臨床での位置づけについて詳しく解説されています