抗寄生虫薬の一覧と分類・選択指針

抗寄生虫薬の一覧と分類

抗寄生虫薬の分類と主要薬剤
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抗蠕虫薬

線虫、条虫、吸虫に対する薬剤で、メベンダゾール、アルベンダゾール、プラジカンテルが主力

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抗原虫薬

マラリア、トキソプラズマ、アメーバなどに対する薬剤で、メフロキンやメトロニダゾールなど

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作用機序

微小管阻害、エネルギー代謝阻害、神経系障害など多様なメカニズムで寄生虫を死滅させる

抗寄生虫薬の基本分類と対象疾患

抗寄生虫薬は寄生虫の種類に応じて抗蠕虫薬抗原虫薬の二つの主要カテゴリーに分類されます 。抗蠕虫薬は多細胞生物である線虫、条虫、吸虫に対する薬剤で、抗原虫薬は単細胞生物のマラリア原虫、トキソプラズマ原虫、アメーバなどに対する薬剤です 。

参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97%E5%AF%84%E7%94%9F%E8%99%AB%E8%96%AC

線虫に対する主要な薬剤として、パモ酸ピランテル(回虫症、蟯虫症、鉤虫症)、メベンダゾール(鞭虫症、旋毛虫症)、ジエチルカルバマジン(リンパ系糸状虫症)、イベルメクチン(糞線虫症、オンコセルカ症)があります 。条虫に対してはプラジカンテル(有鉤条虫症、マンソン孤虫症)、アルベンダゾール(エキノコックス症、有鉤嚢虫症)が使用されます 。
マラリアに対する薬剤にはプリマキン(三日熱マラリア)、メフロキン(熱帯熱マラリア)、アトバコン/プログアニル合剤などがあり、それぞれ異なる原虫ステージや地域での薬剤耐性に対応しています 。

参考)http://jstm.gr.jp/infection/%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2/

抗寄生虫薬の作用機序と微小管阻害機構

ベンズイミダゾール系薬剤(メベンダゾール、アルベンダゾール)の作用機序は、寄生虫の微小管構成タンパク質であるβ-チューブリンとの結合により、微小管の重合を阻害することです 。この微小管阻害により、グルコースの取り込みや細胞分裂が阻害され、最終的に寄生虫の死滅に至ります 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8255490/

イベルメクチンは線虫の神経・筋細胞に存在するクロライドチャンネルに結合し、細胞膜の透過性を上昇させることで寄生虫を麻痺させて駆虫活性を発現します 。一方、プラジカンテルは条虫や吸虫の細胞膜に作用してカルシウムイオンの透過性を変化させ、筋収縮や脱分極を引き起こします 。

参考)https://www.tokyo.med.or.jp/wp-content/uploads/press_conference/application/pdf/20210309-5.pdf

ジエチルカルバマジン(DEC)は糸状虫のアセチルコリンエステラーゼの拮抗阻害剤として作用し、細胞増殖抑制作用や微小管障害作用も報告されています 。これらの多様な作用機序により、異なる寄生虫種に対して選択的な効果を発揮します 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/149/5/149_214/_pdf

抗寄生虫薬の薬物動態と吸収特性

抗寄生虫薬の薬物動態特性は薬剤選択において重要な要素です。アルベンダゾールは経口吸収率が5%未満と低く、高脂肪食と併用することで吸収が改善されます 。一方、プラジカンテルは75%以上の高い吸収率を示し、炭水化物を多く含む食事により吸収が促進されます 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5895825/

メフロキンは週1回の服用で済むため長期間の旅行に適していますが、旅行の1〜2週間前から服用を開始し、帰国後4週間継続する必要があります 。プリマキンは旅行の1〜2日前から開始でき、帰国後の服用期間も7日間と短いため、短期間の旅行に便利です 。
イベルメクチンの主な副作用として肝障害、好酸球数増加があり、重大な副作用として中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、肝機能障害、黄疸、血小板減少が報告されています 。これらの薬物動態特性と副作用プロファイルを理解することが、適切な薬剤選択と安全な治療に不可欠です。

参考)https://utu-yobo.com/column/40127

抗寄生虫薬の耐性問題と対策

抗寄生虫薬の耐性問題は世界的に重要な課題となっています。ベンズイミダゾール系薬剤(アルベンダゾール、メベンダゾール)は土壌感染性線虫症に対して一般的に安全で効果的ですが、鞭虫(Trichuris trichiura)に対する効果が不十分で、薬剤耐性も脅威となっています 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3111745/

マラリアにおいても、メフロキン耐性やクロロキン耐性の地域が拡大しており、地域ごとの耐性パターンを考慮した薬剤選択が必要です 。熱帯熱マラリアの重症例には、従来のメフロキンに代わり、アルテメテル/ルメファントリン合剤やアトバコン/プログアニル合剤が推奨されています 。

参考)https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/8368-464r02.html

昆虫に対する殺虫剤耐性のメカニズム研究では、ナトリウムチャンネルの変異により、ピレスロイド系殺虫剤への耐性が生じることが明らかになっています 。これらの知見は、新たな抗寄生虫薬の開発や既存薬剤の効果的な使用法の確立に応用されています 。

参考)https://www.mdpi.com/2075-4450/13/8/745/pdf?version=1660826716

抗寄生虫薬の新薬開発と研究動向

抗寄生虫薬の研究開発では、従来薬の限界を克服する新たなアプローチが模索されています。日本の研究では、寄生虫のミトコンドリア呼吸鎖を標的とした薬剤開発が進められており、宿主とは異なる特殊な呼吸鎖構造を利用した選択的な薬剤設計が注目されています 。

参考)https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/8688-469r04.html

メロテルペノイド化合物であるアスコフラノンは、抗寄生虫活性や抗腫瘍活性を持つ有望な化合物として研究が進んでいます 。この化合物の生合成経路が解明され、1Lあたり500mgを超える高収量での選択的生産系の構築に成功しており、工業スケールでの大量生産への道筋が開かれています 。

参考)https://www.riken.jp/press/2019/20190402_1/index.html

天然化合物を基盤とした新薬開発も活発で、Oxytropis lanata由来の2,5-ジフェニルオキサゾール類縁体がマラリア原虫に対して高い活性を示し、特に化合物31と32は高い選択性指数を示しています 。また、既存薬の再配置(drug repositioning)により、メベンダゾールが抗癌剤として注目されており、脳腫瘍治療への応用研究も進行中です 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9862092/