高血圧治療薬一覧と種類
高血圧は日本人の約3人に1人が抱える国民病とも言える疾患です。適切な治療を行わないと、脳卒中や心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。高血圧治療の基本は生活習慣の改善ですが、それだけでは血圧コントロールが難しい場合に薬物療法が導入されます。
本記事では、医療従事者が知っておくべき高血圧治療薬の種類や特徴、副作用について詳しく解説します。患者さんへの適切な情報提供や治療選択の参考にしていただければ幸いです。
高血圧治療薬のカルシウム拮抗薬の特徴と副作用
カルシウム拮抗薬は、日本で最も多く処方されている高血圧治療薬です。血管平滑筋細胞のカルシウムチャネルを阻害することで、血管を拡張させ血圧を下げる作用があります。
【主な薬剤名】
【効果】
カルシウム拮抗薬は心臓が血液を押し出す力を抑制したり、末梢血管を広げたりして血圧を下げます。特に、アムロジピンなどは臓器への血流を保つ効果も優れているため、他の疾患を合併している患者や高齢者にも第一選択薬として使用されることが多いです。
【副作用】
- 動悸
- 頭痛
- ほてり
- 顔の赤み
- 下肢のむくみ
- 便秘
- 歯肉肥厚(長期服用時)
カルシウム拮抗薬は比較的副作用が少ない薬剤ですが、徐脈(脈拍が遅くなっている状態)がある患者には禁忌となります。また、グレープフルーツジュースとの相互作用に注意が必要で、併用すると血中濃度が上昇し、副作用が強く出ることがあります。
高血圧治療薬のARBとACE阻害薬の効果と使い分け
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)とACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)は、レニン-アンジオテンシン系に作用する降圧剤で、血管拡張作用により血圧を下げます。
【ARBの主な薬剤名】
- ロサルタンカリウム(ニューロタン)
- カンデサルタン(ブロプレス)
- バルサルタン(ディオバン)
- テルミサルタン(ミカルディス)
- アジルサルタン(アジルバ)
【ACE阻害薬の主な薬剤名】
- テモカプリル塩酸塩(エースコール)
- エナラプリルマレイン酸塩(レニベース)
- イミダプリル塩酸塩(タナトリル)
- ペリンドプリルエルブミン(コバシル)
【効果】
ARBとACE阻害薬は血圧降下作用に加えて、以下のような臓器保護効果も期待できます。
- 腎保護効果(蛋白尿の減少、腎機能低下の抑制)
- 心保護効果(心肥大の抑制、心不全の進行抑制)
- 脳卒中リスクの低減
- 糖尿病性腎症の進行抑制
【使い分け】
ARBとACE阻害薬は作用機序が似ていますが、いくつかの違いがあります。
- 副作用プロファイル。
- ACE阻害薬は空咳(からせき)が約10-20%の患者に出現
- ARBは空咳の副作用がほとんどない
- エビデンス。
- ACE阻害薬は長期間の使用実績があり、心血管イベント抑制効果のエビデンスが豊富
- ARBは比較的新しい薬剤だが、副作用が少なく使いやすい
慢性腎臓病診療ガイドラインでも、ARBやACE阻害薬は第一選択薬として推奨されています。特に糖尿病や蛋白尿を伴う高血圧患者には積極的に使用されます。
【副作用】
- 血清カリウム値上昇
- 急性腎障害(腎動脈狭窄がある場合)
- めまい
- 頭痛
- 低血圧
妊婦や授乳中の方には禁忌です。特に妊娠中の使用は胎児の腎機能障害や奇形を引き起こす可能性があるため、厳重な注意が必要です。
高血圧治療薬の利尿薬とβ遮断薬の適応と注意点
利尿薬とβ遮断薬は、カルシウム拮抗薬やARB・ACE阻害薬と並ぶ主要な高血圧治療薬です。それぞれ特徴的な作用機序と適応があります。
【利尿薬の主な薬剤名】
- サイアザイド系:トリクロルメチアジド(フルイトラン)、ヒドロクロロチアジド
- ループ利尿薬:フロセミド(ラシックス)、アゾセミド(ダイアート)
- カリウム保持性利尿薬:スピロノラクトン(アルダクトンA)、エプレレノン(セララ)
【利尿薬の効果と適応】
利尿薬は腎臓でのナトリウム再吸収を抑制し、尿量を増やすことで体内の水分量を減少させ、血圧を下げます。特に以下のような患者に有効です。
- 減塩が難しいケース
- 浮腫(むくみ)がある患者
- 高齢者の収縮期高血圧
- 複数の降圧剤を併用しても血圧コントロールが不十分な場合
【利尿薬の副作用】
- 電解質異常(低カリウム血症、低ナトリウム血症、低マグネシウム血症)
- 高尿酸血症・痛風
- 耐糖能異常
- 脂質代謝異常
- 光線過敏症(サイアザイド系)
【β遮断薬の主な薬剤名】
【β遮断薬の効果と適応】
β遮断薬は交感神経β受容体をブロックし、心拍数や心収縮力を抑制することで血圧を下げます。特に以下のような患者に適しています。
【β遮断薬の副作用】
β遮断薬は突然服用を中止すると、リバウンド現象により急激に血圧が上昇することがあるため、減量しながら徐々に中止する必要があります。また、喘息患者には原則禁忌です。
利尿薬とβ遮断薬は、単剤でも使用されますが、他の降圧剤と併用されることも多く、患者の合併症や状態に応じて適切に選択することが重要です。
高血圧治療薬のα遮断薬とMR拮抗薬の特性と使用場面
α遮断薬とMR拮抗薬は、特定の病態や他の降圧剤で効果不十分な場合に選択される高血圧治療薬です。
【α遮断薬の主な薬剤名】
- ドキサゾシンメシル酸塩(カルデナリン)
- プラゾシン塩酸塩(ミニプレス)
- ウラピジル(エブランチル)
- フェントラミンメシル酸塩(レギチーン)
【α遮断薬の効果と適応】
α遮断薬は交感神経α1受容体をブロックし、末梢血管を拡張させることで血圧を下げます。特に以下のような状況で使用されます。
- 前立腺肥大症を合併する高血圧(排尿障害の改善効果もある)
- 褐色細胞腫に伴う高血圧(特にフェントラミン)
- 他の降圧剤との併用療法
【α遮断薬の副作用】
- 起立性低血圧(特に初回投与時)
- 頭痛
- めまい
- 動悸
- 鼻閉
- 倦怠感
α遮断薬は初回投与時に「初回投与効果」と呼ばれる急激な血圧低下が起こることがあるため、就寝前に少量から開始するなどの注意が必要です。
【MR拮抗薬の主な薬剤名】
- スピロノラクトン(アルダクトンA)
- エプレレノン(セララ)
【MR拮抗薬の効果と適応】
MR拮抗薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)は、アルドステロン受容体をブロックし、腎臓でのナトリウム再吸収を抑制して血圧を下げます。主に以下のような場合に使用されます。
- 原発性アルドステロン症
- 治療抵抗性高血圧
- 心不全を合併する高血圧
- 低カリウム血症を伴う高血圧
【MR拮抗薬の副作用】
MR拮抗薬は腎機能障害患者や高カリウム血症のリスクがある患者(糖尿病、腎不全、ARB/ACE阻害薬併用など)では慎重に使用する必要があります。定期的な血清カリウム値のモニタリングが重要です。
α遮断薬とMR拮抗薬は、単独療法というよりは他の降圧剤で効果不十分な場合の追加薬として使用されることが多いです。患者の合併症や病態に応じて、適切に選択することが求められます。
高血圧治療薬の直接的レニン阻害薬と中枢性交感神経抑制薬の位置づけ
直接的レニン阻害薬と中枢性交感神経抑制薬は、高血圧治療の選択肢として知られていますが、第一選択薬としては使用頻度が低い薬剤です。それぞれの特徴と位置づけについて解説します。
【直接的レニン阻害薬】
直接的レニン阻害薬は、レニン-アンジオテンシン系の最上流に位置するレニンを直接阻害することで降圧作用を発揮します。
主な薬剤名
- アリスキレンフマル酸塩(ラジレス)
効果と適応
直接的レニン阻害薬は、レニンの活性を阻害することでアンジオテンシンⅠ・Ⅱの産生を抑制し、血圧を下げます。主に以下のような場合に検討されます。
- ARBやACE阻害薬を副作用の観点から使用できない患者
- 他の降圧剤で効果不十分な場合の追加薬
副作用
- 顔や唇、のど、舌の腫れ(血管浮腫)
- 息苦しさ
- 飲み込みにくさ
- 下痢
- 高カリウム血症
使用上の注意点
直接的レニン阻害薬は、2012年に実施されたALTITUDE試験で、糖尿病患者におけるARBとの併用で腎機能悪化や高カリウム血症などの有害事象が増加したことから、使用が制限されるようになりました。現在は単剤または利尿薬との併用が主な使用法となっています。
【中枢性交感神経抑制薬】
中枢性交感神経抑制薬は、脳内の交感神経中枢に作用して末梢の交感神経活動を抑制し、血圧を下げます。
主な薬剤名
- メチルドパ(アルドメット)
- クロニジン塩酸塩(カタプレス)
- グアナベンズ酢酸塩(ワイテンス)
効果と適応
中枢性交感神経抑制薬は、中枢神経系に作用して交感神経活動を抑制し、末梢血管抵抗を減少させて血圧を下げます。主に以下のような場合に使用されます。
- 妊娠高血圧症候群(メチルドパ)
- 他の降圧剤が使用できない場合
- 重症高血圧の緊急治療(クロニジン)
副作用
- 眠気
- 口渇
- 倦怠感
- うつ症状
- 肝機能